目を覚ますと、視界一杯に白い柔肌が広がった。しかも、ちょうどパジャマの開いた胸元  
から覗いている部位の。寝起きという以外の理由で下半身に血が流れていく。信二郎はま  
だすぅすぅと寝息を立てる碧から少し離れた。  
 こんなにぴったりくっついて、よく夢精しなかったものだ。やはり寝る前に一発抜いておい  
たのがよかったか。  
 時計を見ると、八時半。いつもなら学校に行っていなければならない時間だが、それでも  
のんびりできるのが冬休みの特権だ。  
「ん……」  
 信二郎が動いたせいか、碧がゆっくり瞼を開けた。  
「あ、起こし――」  
「きゃあぁぁあああっ!?」  
 突然の悲鳴である。それもご近所さんが怒り出すか110番してもおかしくないほどの。  
「ちょ、ちょっとお姉ちゃん?」  
「うわ! シンジロだ!」  
 碧は「怖い人かと思った〜」と胸を撫で下ろした。ついでに信二郎も外が騒がしくならない  
ので胸を撫で下ろした。  
「びっくりさせないでよぉ。わたしそういうの弱いんだから」  
「おどろいたのはこっちだよ……」  
「あー! しかもミスった〜。『もう朝だよ、起きて起きて』ってやりたかったのに。なんでシン  
ジロが先に起きちゃうかな」  
「……」  
 聞いちゃいないな、と寝グセのついた頭をガシガシ掻いた。碧はそんな信二郎を尻目に、  
ベッドから下りると早速(何が楽しいのか)にこやかに飛び跳ね始めた。  
「朝はーお姉ちゃんのーモーニングサービスだぞーっ、と」  
 鼻歌混じりにパジャマに手をかける。信二郎は高速で明後日のほうを向いた。昨日から  
思っていたが、どうも碧は思春期真っ只中の少年に対する配慮に欠けている。  
「顔洗って、髪整えて、朝ご飯の準備だ!」  
 無駄に元気よく碧が部屋を飛び出して行ってから、信二郎はいそいそと着替え始めた。  
 碧と入れ違いに洗面所に入り、顔を洗って、手櫛で大雑把に寝グセを整える。  
 キッチンでは、碧が一昔前の歌を熱唱していた。  
「いーざすーすめーやーキッチーン。めっざすーはじゃーがいもー!」  
 何をするにも楽しそうだな、とつくづく思う。冬の朝に台所仕事なんて面白いものでもな  
いだろうに。信二郎はキッチンから聞こえてくる歌声を耳に、テーブルについた。  
「あ、シンジロ、朝ご飯オムライスでいい?」  
「……え?」  
 なん……だと……オムライス? じゃあ、あの歌は一体?  
「あれ、苦手だった?」  
「いやいや、全然いいよ」  
 深く考えるのはやめよう。考えたら負けだ。  
「ほいほい。好き嫌いしないってのはいいことだよ」  
 少しして、特盛りのオムライスが運ばれてきた。正直、朝からそんなに食欲が出ないのだ  
が……  
「はい。どーぞ!」  
 食べないわけには、いくまい。  
 
 
 胃がパンパンだ。  
 朝食の片付けを済ませると、碧は携帯で時刻を見て、  
「シンジロ。わたしちょっと出かけてくるね。友達に荷物運ぶの頼んでたんだ」  
 と言った。信二郎は「ついていこうか?」と言ったが、碧は首を横に振った。  
「いいよいいよ。駅で待ち合わせてるから、道わかるし」  
 本心を言えば、碧の友達というのが気になったのだが……信二郎は「そう」とおとなしく留  
守番していることにした。  
 
 
 小一時間ほどして、エンジン音がした。高野家の玄関の前で止まる。  
「ったくよー。ボクをこき使うなよな」  
「いいじゃない。車あるんだし」  
 碧の声ともうひとつ――言っていた友達だろう――声がする。  
「シンジロ! 開けて」  
 碧の声で玄関を開ける。ダンボールを持った碧と、その後ろでタバコを吹かしている人が  
いた。線が細く、顔立ちも中性的な人だ。信二郎と目が合うと、軽く頭を下げてタバコをくわ  
えた。二人の微妙な表情に気がついたか、碧がその人の背中を軽く叩いた。  
「この子大学の友達でね。水野アキラっていうの」  
 アキラは、しかめ面で碧を押しのけた。「ども」とぶっきらぼうに言う。  
「ごめんね。無愛想なの」  
 アキラに睨まれて、碧は肩をすくめた。  
「じゃあ、ボクもう帰るから。兄弟仲良くね」  
 アキラはそう言うとタバコに火を点けて、乗ってきた自動車に乗ってあっという間に行って  
しまった。信二郎はしばらく車の過ぎ去った方を見つめていたが、碧に呼ばれて家の中に  
入った。  
 
 
「マンガとかDVDとか、貸すついでに預かってもらってたんがけど……」  
 碧が何か言っているが、信二郎ははほとんど聞いていなかった。  
 友達って男の人だったんだ、もしかして彼氏? ――そう訊いてみたいが、聞きたくない。  
 大学生に恋人が居たって何も不思議じゃない。第一、信二郎はつい昨日碧と顔をあわせ  
たばかりなのだ。碧の器量だって悪くないし、恋人くらい普通に……  
「シンジロさん? 聞いてる?」  
 碧に軽く額を小突かれて、信二郎は沈んでいく思考を中断させた。  
「どうしたの? 元気無い?」  
「なんでもないよ」  
 碧の優しさも、今は胸に刺さるようだった。同じ優しさをあのアキラにも見せているのだろ  
うか、と。  
「シンジロ……」  
 心配そうに信二郎の顔を覗き込んでくる碧の肩を掴んだ。見た目以上に細い肩だった。  
 
「え? なに?」  
 ぎゅっと掴んで、掴んで……どうするつもりだ?  
 信二郎自身にもわからない。これからどうする何をする?  
「シンジロ、怖いよ……」  
 碧がついに怯えた声を上げた。唇まで真っ青で小刻みに震えている。  
「……」  
 すうっと力が抜けていく。信二郎は碧の肩を離して、ソファに座り込んだ。両手で頭を抱  
える。一体何をしてるんだ。  
「ごめん……」  
 謝って済むものじゃあない。最悪だ。最低だ。  
 力なく項垂れて呟く信二郎の首に、細っこい腕が回された。  
「反省してる?」  
 信二郎は少しの間迷ったが、ゆっくりと頷いた。首に回された手の力が強くなった。  
 
「わかった。じゃあ許す!」  
「え……?」  
 信二郎が顔を上げると、碧は青ざめた唇で弧を描いてぎこちなく笑って見せた。  
「許すよ。わたし、お姉ちゃんだもん」  
 信二郎はまた頭を抱えた。なまじ罵詈雑言浴びせられるよりも応える。  
「ごめん。ごめんお姉ちゃん」  
「うん」  
「本当に……なんて言えばいいか……」  
「うん」  
 
 碧が信二郎を抱く手に、また少し力を込めた。  
「いいんだって。わたしも悪かったんだから。シンジロも男の子だもんね。一緒にお風呂入  
ろうとか、一緒に寝ようとか言っちゃって……ごめんね」  
 信二郎は抱き締めてくる手を握った。  
「なんで、お姉ちゃんはそう……」  
「だから、『お姉ちゃんだから』だよ」  
 やっぱり碧は、とんでもないアホだ。顔青くするほど怖かったたくせに――信二郎は彼女  
の手を強く握って泣いた。  
「泣かないでよ」  
 そればかりは、無理な話だった。碧は信二郎が泣き止まないのを見ると、ソファを回り込  
んでその隣に座ってきた。泣き顔を抱き寄せられて、胸の中へ。優しく髪を撫でられると、  
ますます泣けてきた。  
 
 
 たっぷり十分かけて、信二郎は泣き止んだ。  
「落ち着いた?」  
「……顔洗ってくる」  
 冷たい水で顔を洗う。こんなことでも、けっこうすっきりするものだ。リビングに戻ると、碧  
は信二郎以上にけろりとした顔になっていた。我ながら情けない、と思う。  
 どうしたものか迷ったが、彼女の隣に座った。  
「謝って済むもんじゃないと思うけど、本当にごめん」  
「もういいって。……怖いのはいやだけど、わたしのこと好きでいてくれること自体は嬉しいし」  
 碧は一旦言葉を切り、信二郎に身を寄せて耳元で囁いた。  
「好き、だよね?」  
 言葉にするやいなや不安げに上目使いで見つめてきた。  
「っ……好き、だよ」  
 こんな顔を見せられて、どこの誰が本心を隠せよう。  
 碧はぱっと笑顔を輝かせて、「ありがとう。嬉しい」と再び抱きついてきた。  
 そして両手を信二郎の顔へ。そっと挟み込んで、自らの顔を近付けてきた。  
 唇と唇が、軽く触れ合った。  
 
 唇が離れる。碧は、笑っていた。だが、いつもの笑顔とは違う。  
 たとえるなら、太陽と月。いつもの笑顔はきらきら輝く太陽だ。そして今は怪しく輝く月だ。  
 女の笑顔はこうも変わるものなのか――信二郎は生唾を飲み込んだ。  
 碧は耳元に、さっき重ねた唇を寄せて囁いた。  
「ね、シンジロ。わたしとエッチしたい?」  
 答えを言う前に、ソファに押し倒された。  
 あっという間に股間のチャックを下ろされ、中のペニスを取り出された。  
「これがシンジロの……いい感じじゃない。生意気ー」  
 碧は顔を寄せてキスをせがんできた。請われるままに唇を重ねる。  
 碧の舌が、唇を割って入ってきた。さっきとは違う、強欲に相手を求めるキスだった。  
「んっ、んっ、んん……」  
 信二郎の口内を隅々まで舐め回してくる。  
 息の続く限り信二郎を堪能すると、唇を離して碧は満足げに微笑んだ。  
 息つく間もなく、今度はシャツを巻くし上げられる。  
 碧は露になった乳首にキスをして、もう片方は指先で刺激する。  
「お、姉ちゃん」  
 信二郎の反応を楽しむように、碧は舌先で乳首を転がす。  
 空いた手が、とうとう硬くそそり立った一物を掴んだ。  
「うっ……」  
 ぴくん、と腰が動いてしまう。碧はゆっくり、ゆっくり手を上下させながら、唇は乳首から腹、へそ  
と信二郎の体を唾液まみれにしながら段々下っていく。  
「ふふ、いただきます」  
 碧の唇がついにペニスの先端を捉えた。  
「う、あっ」  
 体中に電撃を流されたようだった。  
 清純そうな容姿と裏原に、碧の舌使いは淫隈な上に容赦ない。  
 亀頭、サオ、袋までザラザラの舌が這い回る。  
「かわいいよ、シンジロ。大好き」  
 慈しむように囁いて、碧はペニス全体をくわえ込んだ。  
 ジュルジュルと音を立てて信二郎を味わう碧。  
 さらに空いた手で袋を転がしてきた。  
「お姉ちゃん、もうダメだ!」  
 しかし碧は信二郎の腰を掴み、さらに激しくしゃぶりつく。  
 ジュポ、ジュポ、ジュポ、ジュポ……  
「お姉ちゃんっ!」  
 信二郎は碧の頭を掴み、妄想の中でそうしたように、実の姉の口内に勢いよく射精した。  
「んっ……む……」  
 碧は一瞬苦しげに顔を歪めたが、コクリと喉を鳴らして信二郎がぶちまけた白濁液を飲み込んだ。  
 ペニスから口を離した碧は、『月の笑顔』で言う。  
「大好きだよ、シンジロ」  
 

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