私が彼と出会ってから、もう、4ヶ月程経っただろうか。  
雪が降り積もり、寒かった冬は・・小鳥のさえずりや、植物達の新芽や芽吹きと共に、春に移り変って行く。  
また今日も既に夕方となり、彼とのゆっくりとした、幸せな一日が終わろうとしていた。  
 
彼の為に、料理を作る。  
私なりに、一生懸命作ったのだが、まだあまり上手にはできない。  
今まで私は、あまりロクな物を食べたことが無かったので、味や火加減というものがわからないのだ。  
それでも、彼は私の作った料理を、文句も言わずに食べてくれる。  
「うーん・・・ちょっと、今日のは火が通りきってないかな・・・。でも、シーラ、大分料理、上手くなったな」  
「・・ぅん、ありがとう」  
[シーラ]そう、あの出会った日の夜、名前が無いと言った私に、彼がつけてくれた名前。  
彼によると、ある、高い山に生息する、花の名前だそうだ。  
その花について、私は見た事は無いのだが・・・・・  
「さあ、片付けて、今日はもう身体洗って寝ようぜ」  
私は、彼の提案に静かに頷いた。  
 
その、片付けをしている最中に、その出来事は起こった。  
「?」  
食器を洗っている私は、自分の身体に、軽く、しかし唐突に電気の流れるような感覚を覚えた。  
その時は、まだそれが何なのかさえ、私には判らなかった。  
しかし、洗い物を終えて、私が風呂場で身体を洗っているときには、自分でも身体の変化が明確に判るようになってきた。  
・・体が、お湯の所為ではなく、何故か火照ったように熱い。  
「・・・もしかして」  
発情期・・?  
私はそこまで呟いて、その先を口にする事が出来なかった。  
 
私達は、ニンゲンの女と違って年に数回、一定の時期に[発情期]が訪れる。  
これは彼に教えてもらった事だ。  
しかし本来、私ぐらいの歳になれば[発情期]は起こって当然の筈なのに・・・・  
・・・・まだ、私には[発情期]が起こらなかったのだ。  
ここまで遅いと、流石に個人差と言う次元の問題ではなくなってくる。  
彼は、多分いつか絶対来る筈だと言っていたが、私は今までの自分自身の生活の事もあり、半信半疑だった。  
その内、私はお風呂から上がり、火の入っている暖炉の前で身体を乾かす。  
そろそろ春が来ると言っても、まだまだ夜は寒い。  
少し、身体が落ち着かないが、とりあえず服を身に着ける。  
この服は、彼と一緒に二人で作った物だ。  
水色の、薄手の生地で作られた、可愛いワンピース。  
別に、私は服など身に付けなくても問題はないが、彼と一緒に作るのが嬉しいのだ。  
まだ、一人では上手に作れないのだけれど、教えて貰いながらであれば、私でも、多少マトモな物が作れる様になってきた。  
私は気持ちに整理がつかないまま、彼が先に待っているであろう、ベッドへと向かう。  
 
でも、これは。  
頭は多少納得していなくても、オンナとして身体が理解し始めていた。  
「でも・・・」  
 
出来る事なら、彼と・・・  
でも、彼は、ニンゲン。私はケモノ。  
確かに、彼は、私を受け入れてくれる。  
・・・・でも、この差だけは、どうしようもない。  
そう、思うと、[発情期]など来なければ良かったという思いも、次第に強くなってくる。  
 
「お、出たか。じゃあ、寝るか?」  
身体の変化に戸惑いつつ、私は素直に頷く。  
しかし、彼と共にベッドに入ったは良いが、身体が火照っていて、なかなか寝る事が出来ない。  
 
身体中が、ピリピリとする。  
私は、しばらくベッドの端で、なんとか身体が落ち着くようにと、我慢していた。  
そうしたら、彼がこう私に言ってきた。  
「シーラ?どうした、調子悪いのか?」  
どう答えようか、一瞬戸惑ったが、隠しても余計心配させるだけだと思い、私は思い切って言う事にした。  
「なんだか・・・身体が、熱いの」  
「!」  
彼が、数瞬間を開けてから、驚いた顔で私に尋ねる。  
「もしかして、お前・・・」  
そう言われて、反射的に身体が竦んだ。  
彼に、嫌われるかもしれない。  
それだけは、絶対に嫌だった。  
「お願い・・・私のこと、嫌いに、ならないで」  
半分泣きながら、私はそう、彼に懇願する。  
そうしたら、彼は、  
「誰が嫌いになんかなるかよ。・・・それよりも、良かったな」  
「・・・ぅ」  
彼がそう言った辺りで私は、何故か途端に、必死に押さえていた疼きが押さえられなくなった。  
 
・・駄目元で、彼に言ってみる。  
「あの・・・」  
「何だ?」  
私は、覚悟を決めて、その言葉を口にする。  
 
「私のコト、抱いて、くれま・・・せん・・か?」  
そう言ったら、真面目な顔で彼はこう私に返してきた。  
「・・シーラはそれで、いいのか。俺は、人間なんだぞ」  
 
そんな事、全く問題じゃ無い。  
「うん・・私は、好きだから・・」  
迷うことなく、私はそう答えた。  
彼は、暫く考えていた様だったが、私のほうを向くと、  
「・・・後悔、しないか?」  
「・・・うん」  
 
 
二人とも、服を脱ぐ。  
ベッドの中で、身体を寄せ合って、一緒に抱き合う。  
 
・・・・暖かい、彼の身体。  
私は、それだけで幸せな気持ちになれる。  
少しの間、彼と見詰め合っていたら、彼が私の頭を抱えるようにして、私にキスをしてきた。  
その行動に、ちょっと、戸惑ったけれど彼に私は全てを委ねることにする。  
長い長いキスの後、一旦口を離すと、再びキスをする。  
今度は彼は、私の舌に舌を絡ませてきた。  
目を瞑って、唯彼に身を任せる。  
名残惜しかったが、彼がゆっくりと口を離す。  
二人の唾液が、幾筋かの糸を引く。  
とても、不安だけど・・・・・でも、とても嬉しい。  
彼の手が、肩から胸、お腹、そしてその下へと、ゆっくりと撫で降りてくる。  
私は、彼の手で身体中を撫で回されるのが、少しくすぐったくて、なにより、恥ずかしかった。  
その内、彼の手が私の「アノ」場所へと辿り着く。  
少し、怖くなって体が強張る。  
すると彼は、緊張している私の頬に、優しくキスをしてきてくれた。  
不思議な事に、たったそれだけで、私の緊張は大分和らいだ。  
 
軽く、私の敏感な部分を擦る様に、彼が手を動かす。  
「・・・ん、ふ・・・ぁ」  
初めての、感覚。  
頭がポーッとして、何も考えられなくなるような感覚。  
「んっ!・・・あ・・・ぅ・・あん・・・・・」  
だんだんそれが・・・・その感覚が酷くなっていく。  
彼の手が、徐々に激しく動く様になってくる。  
・・・・私、おかしく、なっちゃいそう。  
そんな事をぼんやりと考えた直後、頭が真っ白になった様に、一際凄い快感が私を襲った。  
「!?・・・・ひゃあッ!ひゃぅ・・・・・ふっ・・・ぅ・・・・」  
身体が軽く跳ね、力が入らなくなる。  
「大丈夫か?初めてだったから強すぎたかもしれねぇ」  
「・・・・ふぁ・・・・・ううん、大丈夫、だった。・・・・・それに凄く、気持ち、よかった」  
 
「・・・・・もう、俺も我慢できないな・・・」  
彼はそう言った後、  
「シーラ、いきなりだけど、俺も我慢できないし、もう行く。もしかしたら・・・・いや、多分、これからする事はきっと痛いと思う。もし、辛かったら我慢しないでちゃんと言えよ?」  
と真剣な顔で私に伝えた。  
「・・・・うん、わかった・・・・」  
彼の手が、閉じていた私の両脚を徐々に開いてゆく。  
彼がその大きな身体を両脚の間に埋めるような格好になる。  
私の「あの」部分に何か硬くて、そして熱いものが触れる。  
「俺の背中に手、回しとけ。じゃあ、行くぞ」  
彼が腰を引き、体重をかけて勢いよく身体を沈める。  
「・・・・あ・・・が・・・・っく、ぅ・・・あぁ」  
・・・・・いきなりの激痛。  
私の「あの」部分が、裂けたかの様に痛い。  
思わずツメを立てて彼の背中にしがみつく。  
でも彼が、私の中にいる。  
凄く、痛かった。だけど、それだけで幸せだった。  
 
「おい、大丈夫か?すげえ痛かったか?」  
彼が心配そうに私に尋ねる。  
「・・・・・痛い、でも、大丈・・・・夫」  
涙が勝手に滲んでくる。それでも、相手が彼だから、笑って言える。  
そして、さっき私がツメを立ててしまった彼の背中が気になった。  
私達のツメは、人間の物より大分鋭い。多分、切り傷になってしまっただろう。  
「・・・っ・・・それよ・・り、背中・・・・大丈・・・夫?」  
そう言ったら彼は、  
「これぐらいどうって事無いさ。それより、お前の方がずっと痛かったんだろう?」  
そう言って、私の涙を指で拭ってくれる。  
「少し、このまま止めるぞ」  
二人で繋がったまま、長いのか短いのか全く解らない時間が過ぎてゆく。  
「少しは、落ち着いたか?」  
「・・・・・っ・・・・う・ん・・・・・」  
本当はまだかなり痛い。でも彼に心配をかけたくはない。  
「ゆっくり、動くぞ・・・・痛かったら言えよ?」  
その言葉に、私は何も言わずに頷く。  
 
彼はゆっくりと動きながら、私の耳を甘噛みする。  
彼の手は、私の胸を愛撫している。  
・・・少しでも、私の痛みが和らぐようにと。  
 
最初の内は、とにかく痛くって、何も考える事も、感じる事もできなかった。  
でも、しばらく彼にされるがままになっていると、その内、頭から背中を通ってシッポにかけて電気が流れるような感覚が時折感じられるようになってきた。  
続けられる内に、だんだんと痛みがなくなり、それと入れ替わりに、快感が背中を駆けるようになってきた。  
 
「・・・ハッ・・・・ふぁ・・・・んっ・・・・」  
意思とは別に、私の口からは甘い声が漏れるようになってきた。  
「・・・・気持ち、良くなってきたか?」  
「・・・・んッ・・・・う・・・ん・・・・・ふぁっ!・・」  
返事をしようとしたら、快感で身体が軽く跳ねた。  
彼が動きを早めるにつれて、徐々に頭の中に、白いもやが広がって行く様な感覚を覚える。  
押し寄せてくる快感に、だんだんと、何も考えられなくなってくる。  
今私が考えられる事は、彼と一緒になる事のできた幸せ。  
唯、その事だけだった。  
そして彼が、こう言った。  
 
「・・・もう、俺も・・・・限界」  
「・・・ハッ・・・・・ひぁ・・・?」  
彼は顔をしかめて、そして、  
「・・・・・・出すぞ・・・・いいか?」  
「・・・・ふぁ・・・・、大・・・丈夫・・・」  
回らない頭を、なんとか動かして返事をする。  
その返事を合図に、彼が一段と動きを早める。  
そして、一段と深く彼が突き入れてきた瞬間、  
「く、あっ」  
「・・・・・・ひぁああ、ぁう・・・・・あっ・・・・・・何、熱・・・ぃ・・・・・!」  
 
彼の呻き声と共に、私の中に火傷しそうな程熱く感じる何かが、勢いよく放たれた。  
快感で、反射的に彼の身体に抱きつく。  
 
そのまま頭が真っ白になり、そこで、私の意識は途絶えた。  
 
「・・おい、シーラ、大丈夫か?」  
「・・・?」  
彼が私に心配そうに尋ねてくる。  
翌朝、私が気がついた時には、もう既に太陽が昇っていた。  
・・・どうやら、あの後私はそのまま眠ってしまったようだった。  
「・・うん・・凄く、気持ち・・・良かった」  
微笑みながら・・・と言っても、ちゃんと微笑めたかどうかは判らないが・・・、私は彼にそう言った。  
彼は、何も言わずに私の事を抱きしめてくれたのだった。  
 
 
二人で身体を洗い、朝食にする。  
朝食の後、彼が用事があるので街に出かけてくる、と言った。  
この間言っていた、仕事が出来上がったのだろう。  
彼の仕事は、何かの記録をつける事らしい。  
私には、その仕事の事はよく解らないが・・・・  
私は彼を見送ろうと家の外に出る。  
「気をつけて、行ってきてね」  
そう言ったら、彼が唐突に、  
「なあ、シーラ。ちょっと左手出して」  
・・・・・・・・?左手?  
「・・・・・?」  
仕方なく、意味は判らなかったが彼の前に左手を差し出す。  
ぎゅ。  
「・・・ひゃっ!?」  
唐突に指を握られた。そしたら彼は、  
「ありがとな、じゃあ、行ってくるぞ」  
そう言って、彼は外へと出掛けて行った。  
 
私は何時も、一人の間は勉強したり、家事の練習をしたりしている。  
今日もまた、そう言う事をしていたら何時の間にか、もう夜も近い夕方になっていた。  
外から、彼の足音が聞こえてきた。  
私は、片耳しか聞こえないが、それでも人間よりはよく聞こえる。  
「・・・・お〜ぃ、ただいま」  
「おかえりなさい!」  
ドアを開け、私が駆け寄ろうとすると、彼は  
「シーラ、家の中入って、ちょっと、目、瞑ってくれるかな?」  
「・・・・?」  
行きといい、今といい、彼は一体何をしたいのだろうか。  
それでも私は、仕方なく目を瞑る。  
 
「そしたら、少しの間でいいから、左手出して」  
彼がそう言うので、左手を目を瞑ったまま彼の前に差し出す。  
 
薬指に、何かを通された。  
「・・・・俺からの、プレゼント、受け取って、もらえるか?」  
彼の少しだけ、緊張した声。  
そして、瞑っていた目を開くと・・・  
左手の薬指に、美しく澄んだ小さなサファイアのついた、細い指輪が通されていた。  
「これって・・!?」  
もしかして・・  
最初、信じられなかったその先を、彼が言ってくれた。  
「・・・・・・俺と、結婚、してくれるか?」  
 
凄く、嬉しかった。でも・・・・  
 
「でも・・・・私は」  
ケモノだから・・・・。そこから先を、彼は私に、言わせなかった。  
 
強く抱きしめられて、  
「そんなの、関係無いじゃないか。・・・・それとも、俺が嫌いか?」  
 
「ううん・・ううん、違うの」  
「なら、いいのか?」  
 
「うん!」  
 
そのまま彼に抱き寄せられ、長い長いキスをされた。  
溢れてくる涙で、何も見えない。でも、悲しかったり、辛かったりする涙では、なかった。  
 
 
         嬉しい、涙。幸せな、涙。  
 
          私は、幸せ・・・だよ。  
 
〜「シアワセ」完〜  
 

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