龍之介は白雪の肌の美しい綺麗な少年であった  
大きく開かれた目の慟哭は漆黒のように美しく、  
見るものを魅了した。髪はサラッとしたショートで、  
前髪は目に掛かるほど長く、一見すると、ボーイッシュな女の子のような容姿であった。  
 
年は14歳。声変わりもまだなのか、男子にしては、やや高く  
凛とした声をしている。  
背は小柄な方で、男子の平均よりも低く、女子よりも背が低いこともあり  
ますます男には見えず、女子に間違われることも多々あった。  
 
その可愛らしい容姿から、クラスでの人気は高そうに思えるが、  
性格は内向的で大人しかったため、クラスメイトからからかわれ易い存在であった。  
 
 
そんな龍之介のそばには友人の圭太がいた。  
積極的にかばうほどおせっかいではないが、クラスメイトが龍之介を  
いじめのターゲットに暴走することがないのは、彼という防波堤のおかげではある。  
 
圭太は中学から龍之介と同じ学校に通っているが、小学校高学年から  
親にむりやり行かされた塾が一緒であり、クラスの中では最も長い付き合いになる。  
中学校からは野球部に所属し、さっぱりとした丸刈りに浅黒い肌、  
筋肉質で引き締まりつつも年相応にしなやかな体つきをしている。  
龍之介よりは上背があるが、スポーツマンの精悍さよりも、  
まだやんちゃな少年といった面ざしだ。  
 
自分とは全く違う人種に、龍之介はある種の憧れを抱いていた。  
塾の補習で彼に勉強を教えたことは子供らしい親近感を持たせ、  
ともすれば接点の少ない圭太を龍之介は近しく感じていた。  
 
圭太にしてみれば、「勉強教えてくれるいい奴」と言いながら  
大人しすぎる彼は弟分のようでもあり、保護欲を刺激されるのだった。  
 
 
龍之介に執拗にちょっかい出す女子生徒がいた。  
岸本千恵という龍之介と同じクラスの生徒だ。  
 
「りゅう子〜 あんた本当におちんちん付いてるの?絶対ないでしょ〜  
ほら、見せてみなよ!あたしがお前が男か確かめてやるよ!」  
 
千恵は龍之介のズボンを脱がそうとする。  
 
「やだ、止めてよ。何するんだよ!やだよ〜」  
龍之介は必死に抵抗する。  
 
「おい!何してるんだよ!」  
圭太である。  
女子に苛められる龍之介を助けるのは  
いつも彼であった。  
 
「ふん!なによ!きっもちわるいの〜 あんたホモなんじゃないの?」  
ややつり目の目をさらにつり上げて、千恵は不機嫌そうに言った。  
 
「岸本さん、僕は男だよ!こんどこんなことしたら許さないからね!」  
蒸気した顔で、キッと千恵を睨む龍之介  
 
「あら?偉く強気じゃない?りゅうくぅん。さっきまでは、女の子のように震えてたのに。  
あはっ。圭太が来たからから? でもりゅうくん知ってるかな?圭太は来月、あらや2中に転校なの。  
可哀想〜 今度またじっくり遊ぼうね。りゅうく・ん・ あはっ」  
 
小気味良く笑いながら、千恵は龍之介たちを残して去っていった。  
 
「圭太・・・岸本さんの言ったこと・・・本当なの?」  
「ごめん・・・親父の仕事の関係で。突然転校が決まったんだ。岸本は俺の親父の会社の社長だから知ってたんだ・・・」  
「そう・・・」  
龍之介の表情に不安の色が浮かんだ  
 
圭太は翌月、宣言どおり、他校へと転校していった。  
 
圭太が転校して一ヶ月、龍之介のクラスに新しい転校生がやってきた。  
名前は阿部高和、真夏だと言うのに上下にツナギを着た変な奴だ。  
 
「俺の名は阿部高和。のんけでも喰っちまう少し変わった男だが、みんなヨロシクな。」  
 
「うほっ、いい男!」  
龍之介は彼が自分の隣の席に座るなりそう思った。  
圭太もそれなりにいい男だったが、阿部の全体から醸し出すアダルトな雰囲気は龍之介の心を深く魅了した。  
 
「ダメだ、今は授業中じゃないか。でも少しくらいなら阿部さんとお話しても・・・」  
そう思い隣の席に座る阿部に話しかけようとした時!!  
 
突如、視界がぐにゃりと歪んだ。  
周囲から全ての音が消える。  
龍之介は、何が起こったのかさっぱりわからなかった。  
ただ、頬に当たった生暖かい液体、それが目の前の肉塊――  
「かつて、阿部さんだったモノ」から噴出しているという事実だけを認識して。  
「うわああああああぁぁっ!!!」  
壊れたような自分の悲鳴だけが教室に響き渡った。  
誰も、この惨劇を前に声一つあげない。  
否、声を上げないのではない、誰一人として微動だにしないのだ。  
教壇で黒板に数式を書き込む教師、熱心にノートをとる女生徒、退屈そうに窓の外を眺めている友人。  
そして、惨劇の中心にいる阿部さんでさえ、うめき声一つ上げないまま、離れてしまった胴体と首を机の上に投げ出している。  
まるで、漫画に出てくる時間停止の魔法みたいに……。  
「ほう、動ける人間がいましたか」  
突如、自分以外の声が聞こえた。  
声のした方向に目を向ける。龍之介の頭上、天井だ。  
そこには、白衣を着た痩せぎすの男が、まるでヤモリのように貼り付いていた。  
手には鋭利なメスのようなものを握っており、刃先からはポタポタと血が滴っている。  
隣の席の阿部さんを見る。濁った瞳、もう何も映すことのない双眸が龍之介を見つめている。  
彼の血が、白いツナギの服を徐々に赤く染めていた。  
再び、天井の男を見る。男は手に握ったメスにしゅるっ、と舌を這わせた。  
顔面にはニタニタとした笑みを浮かべ、龍之介を見下ろしている。  
もう間違いない、この白衣の男が、阿部さんを殺した。  
そして次は、自分――  
「しゃあっ!!」  
奇声を上げて男が降ってくる。龍之介は死を覚悟し、目を閉じた。  
――そして、ものすごい勢いで吹っ飛ばされた。  
「あぎゅっ!」  
蛙が潰されたような、間抜けな声が喉から出る。クラスメイト数人を巻き込んで、周囲の机ごと壁にぶつかったらしい。  
しかしおかしい。何故龍之介は切り刻まれることなく、こうして吹っ飛んだのか?  
いや、それ以前に、何故まだ自分は生きている?  
恐る恐る目を開ける。机や椅子、未だ固まったままのクラスメイトが散乱した教室の奥。  
さっきまで龍之介が座っていた場所に、ナース服に身を包んだ、黒髪の少女が立っていた――  
 
 
「あっははは。何だよ〜それ?小説か?もろモーホじゃん。奈美ってそういうの好きだよね」  
「千恵だって、ボーイズビーの漫画とか読んでるでしょ〜 りゅうくんって可愛いからイタズラしたくなっちょうのよね」  
 
そう答えたのは、千恵の中の良い友達の一人である、桜奈美という少女だ。  
千恵や龍之介と同じクラスメイトである。  
友達といっても、悪仲間という感じで、非行仲間みたいなものである。  
警察沙汰にこそならなかったが、それに近い事件も起こしている。  
 
千恵と奈美を中心に、女子生徒が5〜6人、きゃっきゃっ騒ぎあっている。  
一見、無邪気に見えるが、このグループは札付きの非行グループで、  
同学年の少女に、強制援交をさせているなどということも囁かれている。  
他の女子生徒達は、彼女のグループに目を付けられないように、大人しく  
目立たないようにしている。  
 
男子生徒でも彼女を恐れているくらいだ。  
また千恵は、全国に系列病院がある、大病院の岸総合病院の院長の孫娘である。  
学校にも多額の寄付をしているので、教師でさえも、彼女を持て余していた。  
もちろん積極的に注意や指導もできないというのが現状であった。  
 
 
 
「で、どうするの?千恵。いつ、りゅうくんを剥いちゃうの?」  
 
「圭太もいなくなったし、慌てることないよ。いつでもあたしらが思った時に  
 龍之介をまっぱにできるんだから。」  
「でも、あたしは早くりゅうくんのおちんちんを見たいのー」  
「も〜奈美はホントスケベなんだから。龍之介には、特別なステージを  
用意してあげてるの。このあたしにあんな生意気な口を聞いたんだから。  
ジワジワと追い詰めて、たっぷりと恥をかかせてあげるわ。男の子に生まれたことを後悔するくらいにね〜ふふんっ」  
 
千恵の目にサディスティックな色が浮かんだ。  
 
「あーまた何か悪いことたくらんでるんでしょ?なになに〜 教えなさいよ〜」  
じれったさを隠し切れずに、奈美は千恵に答えを即す  
 
「あはっ。今度、身体検査があるでしょ?あれ、うちのパパの系列病院からお医者さんが来るんだ〜  
で、ね、その時に・・・」  
 
千恵は声をひそめて、仲間達に自分の考えている計画を話した。  
 
「わーえぐっ!そんなことされちゃうの〜りゅうくん可哀想〜」  
 
すっとんきょな声を上げる奈美  
満足そうに微笑む千恵  
ケラケラと楽しそうに少女達の談笑は続いた。  
龍之介に暗雲が垂れ込もうとしていることを、彼はまだ知らない。  
 
 
 
「千恵ちゃん、大きくなったわね。すっかり綺麗になっちゃって」  
「あー由希先生〜、先生も相変わらず色っぽいよ」  
「も〜大人をからかっちゃだめよ。ふふっ。千恵ちゃんおっぱい大きくなったんじゃない?  
 後で検査で見せて貰うのが楽しみね」  
「や〜ん、先生のエッチー」  
 
友達のように千恵と談笑してるのは、健康診断にこの中学に遣って来た医者である。  
名を白羽由希子という。  
千恵の祖父が経営する岸総合病院のドクターで、千恵とは幼い頃から  
懇意にしている。  
由希子は、まだ32歳の若さながら優秀な医者で、一流国立医大を現役で卒業し  
女性ながら外科医で、男顔負けにメスを振るっている。  
肌は白く、肩までのびた美しい黒髪を後ろで結わえている。  
切れ長の細い目はやや冷たい印象を与えるが、多くの男性を魅了するであろう美しさだ。  
その細くて長い白い指先が、メスを握り、臓器を切り刻む姿はとても想像できない。  
雌の螳螂とでもいうのだろうか?そんな怪しい魅力を備えた女医である。  
 
 
しかし何故そんな優秀な医者が、それも外科医が、中学校の健康診断ごときに訪れたのだろうか?  
そう。千恵が呼び寄せたのである。  
 
「ふふっ。千恵ちゃんが私に診察されたいから呼んだんじゃないの?」  
「も〜違うよ。そうじゃないの。由希先生に頼みたいことがあるの」  
 
千恵は龍之介のことを話した。そして彼女が計画している陰湿なたくらみを  
 
「あっはは。なぁ〜に。その男の子にそんなに恨みがあるの?だめよ〜同級生は仲良くしなくちゃ」  
「そんなこといって、先生も可愛い男の子好きでしょ?千恵知ってるよ。先生の趣味♪」  
「あっはは。しょうがない子ねぇ。あなたには敵わないわ。  
いいわ。その子を私が診察してあげる。でも男の子を診察するのは男の先生の仕事なのよ」  
「そこを何とかならないの?先生。」  
「そうね。最初に男の子から診察して、次が女子の番になるのよ。彼が遅れてきたらどうなるかしら?うふふ」  
「なるほど。さっすが、由希先生。あったまいい〜。まかせて。龍之介を診察に間に合わないようにするから」  
 
龍之介は、美しい2匹の雌の糸の中に絡めとられようとしていた。  
無垢な彼は残酷な美しい女医のメスに切り刻まれようとしている、まだ性の目覚めもない肉体、純真な心を。  
 

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