「なぁ、みー」  
 とんとんとんとんとん……包丁がまな板にぶつかる音が響いている。  
「ゆーちゃん、なに?」  
「あのさー」  
「うん」  
「俺たち、料理上手くなったよなぁ……」  
「そうだね、最初の頃が懐かしいねー」  
 思わずしみじみ二人で言う。台所で並んで料理をする俺達。話しながらもお互い手は止めない。  
『あの日』から数週間。休日に、また俺とみーは朝から一緒に過ごしていた。今は、昼ごはんを作っている最中。  
「焦がしたりなんて当たり前、塩やら砂糖の量を間違える」  
「調味料間違えたり、配分考えないで作って食べ切れなかったり、ね」  
「あったなぁー……」  
 それでも互いに作りあったり、味見し合ったりして徐々に腕を上げて――互いの好みも把握するほどに更に作って、  
今度は二人で作るようになって。  
「えへ」  
 溢れちゃった、そんな感じの笑い声。俺はニンジンを切っている。半月切り、と  
「何笑ってんだよ」  
 みーはあの日以来、ますます甘ったれになった気がする。  
「だって――」  
 みーがこっちを向いて目を細める。みーはタマネギをくし形に切る。  
 
「今まで、ゆーちゃんと色々あったなぁー、って、思って」  
「……ああ」  
 脳裏を色々な風景や情景を映し出す。本当に、色々あった。前にアルバムで話した出来事。まだ話しきれて  
いない出来事。まだまだ一杯ある。  
「ね、ゆーちゃん」  
「ん?」  
「これからも続くかな、こうゆうこと」  
 こうゆうこと。  
 みーが指した、こうゆうこと、とは、この料理を作るという行為だけではなく、二人でいる時間を指しているのか、  
と思った。  
 互いに手を止めない。みーが沸騰した湯の中に適当な大きさに切って、水にさらしたジャカイモとタマネギを  
入れていた。肉ジャガを作るらしい。  
 実際、いつまで続けれるのだろう?  
 少し考える……さっぱりわからない。色々な事柄で続けれなくなるのかもしれない。可能性だけならそんなの  
いくらでもあるんだろう。だけど、だけど――なんだろう。  
「駄目だ、思い付かない。」  
 思わず言葉が出ていた  
「何が?」  
「こうゆうこと、が終わった時をさっぱり想像できない」  
 
 なんでだろうな、と呟く。何回考えても無理だった。どうやっても俺はみーと一緒にいるようにしか思い浮かばない  
「いっしょ、だね」  
 くつくつという沸騰したお湯の泡が弾ける音が響く。  
「あたしも、ゆーちゃんのいない時なんて想像できない」  
「そか」  
「うん」  
 無言。  
 冷蔵庫から豚の細切れを取り出した。みーはにこにこしながらジャガイモとタマネギの入った鍋を見詰めている。  
「何笑ってんだよ」  
「…………」  
 みーは答えない。けど、顔はまだほどけたままだ。  
「答えろよー」  
「やーだ。えへへ」  
 身をよじるふりをするみー。鍋の火を弱めて調味料を投入するのも忘れない。  
 実は、みーが初めて作ったのはこの肉じゃがだ。作った理由は……なんだったかな。  
 そうだ、思い出した。テレビのコマーシャルだかドラマだったかで、肉じゃがで男をオトす、とか説明してたのを  
見て、つくりたいー、とか言い出したのだ。「ゆーちゃん、かくご!」とか言ってたなぁ。  
 よせばいいのに、誰の助けも借りずに本だけを見て作り――苦い経験になっちゃったんだよな。  
「あ、ゆーちゃん何笑ってるの?」  
「ん、ああ、いや、ちょっとな」  
 
「なーんか、あたしの変なこと思い出してそうな笑いだったけど」  
「違うって」  
 本当に、幼馴染はカンが良い。なーんて今更な事実にびっくりする。  
 みーが俺の胸をトンと叩く。お返しに俺はみーの頭を軽くぽんぽんと叩いてやった。  
 ふざけて叩き合って、笑いあって、ふざけて、また笑って――  
「ね、ゆーちゃん」  
 笑いをこぼすみー。  
「んー?」  
「こうしていられるのって、いいね」」  
「ああ、そうだな」  
 言って、また沈黙が広がる。でも、やっぱり顔は笑っている。  
 それを見て、俺も何故か笑いが込み上げてしまった。この前、思ったことを唐突に思い出した。  
『本当に幼馴染ってだけだろうか、俺――』  
 あの日あの時から形容しがたい気持ちが胸にこびり付いていた。俺は一体、何をどうしたいんだろう、って。  
俺はみーとどうしたいのか。  
 突然、気付いた。  
 こうゆうことなんだ。  
「ずっと、続いたらいいのにな、こうゆう事が」  
 びっくりしたようにみーが俺の顔を見た。俺は言葉を続けた。  
 
「俺はずっと続けたい」  
 まぁ、と俺は一言付け足した。  
「みーが先に嫌になるかもしれないけど」  
「あ、ひどーい、ゆーちゃん」  
 みーは手を振り上げて、怒ったような仕草を見せて。  
「あたしは、絶対に嫌になんてならないよ。ゆーちゃんの方こそが先に嫌になるかもしれないじゃない」  
「ばーか、俺が嫌になるもんか。さっきも言っただろ。こうゆう事、が終わる時が想像なんてできない、って」  
「ゆーちゃん、何言ってるの」  
 そう言いながらみーが鍋に豚肉を入れる。ちらと見えたみーの横顔が赤くなっている気がした。  
「それじゃ、プロポーズだよ?」  
「……プロポーズ?」  
 プロポーズか……そうか。そうだな。  
 俺はさっき気付いたことに確信を抱いた。そうか、俺は――  
「今気付いた。そうだな、プロポーズかもな、これ」  
「……否定しないの?」  
「なんで否定しなきゃいけないんだ。俺は嘘は言うが冗談は付かないってこと知ってるだろ」  
「ゆーちゃんが嘘を言わない〜? えー、嘘ばっかり」  
「ばっか、俺以上に正直な人間なんて早々お目にかかれないっての」  
「それだったら世の中、みーんな正直者になっちゃうと思うけど」  
「何だとコラァ」  
 
 俺は怒った風に声を荒げるが、顔は笑っているだろう。みー笑顔だ。そのままふざけあっているとみーが  
料理を完成させた。肉じゃが、味噌汁、ご飯。昼飯なので品数は少ない。いただきます、といって食べ始め、  
しばらくしてみーが口を開いた。  
「ね、ゆーちゃん」  
「ん?」  
俺はご飯を頬張りながら応じる。  
「あたしね」  
 みーが恥ずかしそうにして俯いた。  
「ゆーちゃんが嫌になるなんてことないけど……良いの?」  
「そうでなきゃ、俺が困る」  
 言った後で、とんでもなく恥ずかしいことを言った事に気付いた。照れ隠しにご飯をかき込んだ。  
「みー、おかわり」  
 茶碗を出すと、みーがたんまりとついでくれる。ほにゃっとした幸せそうな笑顔。  
「なーににやにやしてんだ」  
「ゆーちゃんこそ顔崩れてるよ」  
「ばっか、嬉しいのに真顔でいられるわけないだろ」  
「へへ、いっしょだね」  
「ああ、いっしょだ」  
 俺とみーは笑い合って、体を乗り出してキスを交わした。  
 
 ……俺はみーと暮らす日常をずっと続けたかったんだ。  
 

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