交番で日誌を書いていた犬野巡査のもとに迷子が連れてこられた。
親とはぐれた寂しさからだろう、黒目がちの大きな瞳からぼろぼろ涙をこぼして泣きじゃくっている。
「ねえ君、名前は?ママはどこにいるの?」
「ふぇっ、うぇぇぇぇん・・・」
何を聞いてもこの調子。
泣いてばかりで会話にならない。
困ってしまった犬野は「こっちにおいで」宿直室へ少女を招いた。
殺風景な交番より、こちらのほうが落ち着くだろうとの配慮からだ。
やましい気持ちはない。
お菓子を出しても泣き止まない。
涙を拭って、ふわふわの柔らかい髪の毛を撫でてあげても、いつまでも泣き止まない。
困った犬野は「安心させるため」そう自分に言い聞かせて少女を抱き締めた。
宿直室の窓からカラスと雀が首を傾げて見ている。
犬野は困っていた。
この鳴き声の可愛い少女を家に帰してあげないと・・・。
昼下がりの交番で二人は声を殺して鳴いている。