ほう、貴方はどちらから?
にちゃん?はぁ、まあ、世間は広うございます。そんな名前の国もございましょうか。
私?私はホレ、見ての通りの唯の爺です。多少長生きをしている故に、少々物知りなだけの。
まま、よろしければお茶でも。一服がてら、この爺の昔話におつき合い下さらんか。
……この辺りもねぇ。やれ維新やらその前だと江戸の殿様が色々騒いだ為に、その度に名前が変わってしまっているようですが。
昔はねえ、「加瀬」と「中森」という土地だったのでございますよ。
殿様?はぁ、無論いらっしゃいましたが。我らにとっては、貴方様が知るような「国」を治められていた殿様はついぞ知りませぬ。
我らにとって、「殿様」にあたるお方、それはやはり……
中森の土地を昔から治めていたのが誰であったかはもはや誰も覚えていない。
唯、今の統治をする、「簸川(ひかわ)」はおよそ最悪の領主であろう。
元が蛮族上がりであり、取り立ても治世もおよそ最悪。領民は常に生きるギリギリのラインまでを搾取された。
それでもここに住む人間は、豊かな土地に恵まれどうにか生きて行けた。
領民は口癖のように言った。「加瀬の殿様にこちらもお願いできんかのう……」と。
隣の土地を治める、加瀬の殿様こと加瀬一族は名君の誉れも高い。
代々加瀬の土地を治めて来ただけのことはあるが、更により領民のことを気遣い、簸川の屋敷を十とするならば加瀬の屋敷は二か三といった慎ましやかな生活であった。
加瀬の土地は中森の土地と比べ、地質も落ちれば便も悪い。それでも加瀬の土地は、領民と領主が一体となって頑張り続け、改良を重ね中森に追いつけ追い越せの勢いであった。
「楓、早く早くー!!」
幼さをまだ若干残した声が秋の豊かな田畑に響く。
「伊織様、慌てずとも逃げはしませぬ」
落ち着いて返したその人間は、楓といった。
女でありながら男子の着物を纏い、槍を担ぎ歩く。加瀬の人間ならばもはや彼女を知らぬ者はない。加瀬の若き次期当主、伊織を幼い日から擁護して来た、加瀬の家では珍しい武人である。
楓は幼い日に加瀬に拾われて以来、己にできる事で何とか恩を返そうとしてきた。
自分には槍の才能があった。学問や歌は出来なかった。
その日より、楓は加瀬の武人となった。我流ながら日々の鍛錬がモノを言い、いまやその腕前を聞きつけてやってくる者も少なくない。そして返り討ちだ。
「楓は強いのう!!」
そう目を輝かせる伊織は、逆に武の才能が無かった。学問に優れ、様々な知識を得るのを喜びとしていた。
「伊織様と楓様の中身を入れ替えられたら一番なのじゃ」とは加瀬の住民の口癖であった。
「えぇい、つまらぬッ!!」
中森の当主、簸川光治は猪口を投げ捨てた。日も高い内からその顔は赤く、息は酒くさい。彼は隣の土地のすべてが気にいらなかった。
領主を慕う領民。領民に媚びる領主。女人でありながら武にうつつを抜かす家臣。武を納めぬ次期当主。
中森に無く、加瀬にあるものは全て気に喰わぬ。中森に有り、加瀬に無いモノはこれ全て中森当主たる自分の手柄である。
「……酒だ、酒を持ってこいッ!!」
怒鳴る彼の瞳には狂気が走っていた。
「……これでございますか」
伊織に引っ張られて楓が辿り着いたのは、村はずれの山。そこには野狐の親子が伊織に近づき、そして甘えていた。
「ほら楓、楓も撫でてごらんよ」
「は、はぁ……」
実は先ほどから楓はかなりどぎまぎしていた。目の前のつぶらな瞳で首を傾げる子狐は実に愛らしく、楓の心を揺さぶる。
「で、では……」
武人たる自分が、そこらの女人のように騒いではならぬ。そう戒め、おそるおそる楓は狐の頭を撫でる。と、狐は擦り寄り、頭を押しつけるように甘えて来た。
「あ……」
「わぁ、やっぱり楓は気に入ってもらえたんだ。美人だし」
「い、伊織様!!」
真っ赤になって楓は伊織を見る。
「何?だって僕は昔っから言ってるじゃない、楓は美人だって」
「お、お戯れを……」
「戯れじゃ無いってば……あ、楓、どこ行くのさ!!」
顔と言わず全身を真っ赤に染め、楓は槍を担いで歩き出してしまった。
楓は己の身体を知っている。筋肉は固く、世の女人たちの様に柔らかくは無い。乳房は無駄に育ってしまい、世の理想とされているよりははるかに大きい。下品ですらある、と楓は思う。
そんな自分を美人だ美人だと言う伊織。ならぬ恋、秘める想いだが、楓は伊織を慕っていた。自分は一家臣。伊織様が幼い日より守り役を仰せつかったのみ。決して、……。
「お呼びでしょうか、殿」
時は猪の刻を回った。楓は加瀬当主、京三の前に伏していた。
「うむ、すまぬな、斯様な時間に」
「いえ。して、用向きは」
楓はぴしりと姿勢を正す。殿がこの時間に呼ぶ等、何事であろうかと。
「ふむ。まあ、その……お主、伊織をどう思う?」
「は」
突然の言葉に楓は間抜けな声を出してしまっていた。
「ど、どうと申されますと」
「うむ、いや、そのな……」
「敵襲ーーッッ!!」
絶叫が夜の帳を引き裂いた。
「ククク、良い格好よなァ、加瀬の?」
加瀬京三、その妻美久、息子伊織、そして楓。四人は高手小手に縛り上げられ、簸川の足元に座らされていた。突然の夜襲に加え、加瀬の家は武人も少なく、増して家は壁すらもボロボロ。
族上がりの簸川に歯がたつわけも無かった。
「ぐ……、何故だ簸川殿、何故このような……」
「あぁん?」
呻いた京三に対し、簸川はにやりと笑い、
「退屈だったから」
と答えた。
「な、た、退屈!?」
「血も最近は見ていなかったしなぁ、それにアンタの土地もイイ感じに育ってきたようだ。俺のモノにしてやるのにちょうど良いくらいにはな」
野卑そのものの口調で簸川は京三を嬲る。
「げ、外道がッ!!」
京三の妻、美久の叫びに簸川は眉をいったんしかめ、そしてニヤリと笑った。
「おい、あんた立場ってモンを理解してるのか?あんまり俺を怒らせないほうが良いぜ?」
「黙れ族がッ、恥を知れッ!!」
怯む事無く叫んだ美久に、簸川は蹴りをぶち込んだ。
「かはぁっ!!」
「キャンキャンうるせえ雌犬だな」
「ま、待たれよ簸川殿!!妻には手をッ」
「うるせえッ!!」
次の瞬間。二人は簸川の部下により、腹を貫かれていた。
「と、殿ーッ!!」
楓の絶叫。それに対し、加瀬は
「伊織を……頼むぞ」
そう言い、最後ににやりと笑い、そして絶命した。
「き、貴様……!!」
楓は簸川を睨みつける。
「おぉ怖ゃ怖や。だが貴様にはやってもらう事があるのだよ」
簸川はおどけたようにそう笑い、伊織を部下に命じて引っ張り、そしてその首筋に刀を突きつけさせた。
「な、き、貴様ッ!!」
「安心しろ、殺しはせんよ……お前次第だがな」
下卑た笑いに、楓はすっと嫌な空気を感じた。
「んッ、んむッ、ふッ、ん……あッ、んむッ……」
ぺちゃぺちゃと鳴る舌。鼻をつく匂い。それらに涙を浮かべながらも楓は耐え、簸川の肉棒を咥えさせられていた。
縄を解かれ、楓は簸川にこう命じられた。伊織の命惜しくば、その身を以て我を満足させよと。
全身を羞恥と怒りに震わせながらも、楓には選択などできよう筈も無かった。
「ははは、男の陽物を咥え込むなど、遊女でもなかなかせぬぞ、この淫乱な雌犬め!!」
「んッ、……き、貴様……」
「オラ、誰が休んで良いっつった!!」
「んッ、んーッ!!」
強引に頭を押さえつけられ、楓の口内を簸川の肉棒が犯し回る。
「んッ、ふむぅッ、んんッ、んんんッ!!」
「くゥ、……出すぞッ!!」
「んッ、んんんんんッ!!」
頭を押さえつけられたまま、口の中を簸川の白濁が襲った。
「げえっ、げほゥっ……」
涙をうかべえずく楓を暫くにやにやと簸川は見ていたが、またしても楓の頭を掴むと無理矢理立ち上がらせた。そして着衣をいきなり破る。
「や、いやぁッ」
「可愛らしい声も出せるんじゃねえか……やっぱりな、なんだこの馬鹿でかい乳は」
「うぁあぅッ!!」
乳首を捻られ、楓は呻く。
「へへ、次はこの胸を使え……そうだ、そうやって挟むんだよ」
全身を羞恥に震わせながらも、楓は簸川の一物をその豊かな谷間に納めた。
「おら何してる……お前が俺を気持ちよくするんだよ。イイのか?あぁん?」
「ま、待ってくれ、今、今するからッ」
悲鳴混じりに楓はぎこちなく乳房を動かし、簸川自身を愛撫する。
「おほっ、そうよ。オラ舌も使え……くうッ、た、たまんねえな……」
「う、くッ……」
涙を浮かべながらも、楓は従わざるを得なかった。こんな無様で下品な姿を、主の仇にさらす。それでも、視界の片隅に今は亡き主人の骸。蘇る「伊織を頼む」という言葉。
刀をつき付けられ、青ざめながらも唇を噛み締め耐える伊織。その二つが楓を動かしていた。
「くゥあ、イクぞ!!」
再び迸る大量の白濁が、楓の顔面と胸を汚した。
「……へへ、じゃあそろそろ下のお口といこうか……」
わかっては、いた。
覚悟も、していた。
だが、改めてソレを言われ、楓の身体はびくりとこわばる。
「あン?……手前、もしかして、男を知らねぇのか?」
挑発的な簸川の言葉は。だが、真実だ。
「は、はは!!初物かよ!?そいつはひろいも……」
「楓ッ!!」
突然、伊織が鋭く声を上げた。
「あン?何だ手前……」
「楓、今までご苦労であった……不甲斐無い我を許せッ!!」
そう言うと、伊織は舌を噛み切ったのである。
「い、伊織さまぁぁッッ!?」
楓は絶叫し、簸川を突き飛ばし伊織に抱きついた。
「い、伊織様、何故、何故この様な……ッ」
楓の涙混じりの叫びに、伊織はにっ、と笑い、そして喋る事がもう適わぬのを知り、楓の手に文字をなぞり。
事切れた。
「ちッ、ガキが……」
簸川が立ち上がり、吐き捨てた瞬間。
「おおおおおおおおお!!ひぃィかぁぁぁァわあぁぁぁぁぁァァっ!!」
楓は絶叫し、獣のごとく傍らの槍を手に襲いかかった……
……それからはもう、地獄でございますよ。血煙が上がる中、貫かれようと切られようと楓様は槍を振るい、ついには簸川の屋敷の民を皆殺しにしてしまわれたそうです。
話を聞いて領民や大殿様が向かいましてな、簸川の屋敷につきまして、そこで見たモノは、血と肉、そして……
愛し気に伊織さまを抱き、全身を刻まれながらも優しく微笑み事切れた、楓様のお姿だったそうです。
はて、もうこんなに時が過ぎてしまいましたな。
ああ、もう行かれますか。そうですな、これ以上この爺めの話に付き合わせるは酷でありましょうし。
いえいえ。また、よろしければ旅の途中、お暇ならお寄り下さいませ。爺はここにおりますでな。
では、また。
御加護のあらん事を。