夜の闇に飲まれかけた儚い光を放つ夜景を見つつ、残業からの帰宅途中に買ったビールを一人空しく呑んでいる時。  
玄関のドアが「コンコン」と寂しげに叩かれた。チャイムあるのに。  
こんな夜遅くに誰がこんな平凡なるアパート住一般会社人のもとを訪れるのだろうか、と思いつつ  
愛想返事を適当にしつつ、変哲のない玄関扉に掛けたチェーンを外して外の様子を覗き込む。  
 
するといかにもロリ風味なおにゃのこが立ってました。全裸   ではなく古風な黄色と黒の縞々模様、虎柄の衣服を着けて。  
そういや今日は二月三日(午前1時ほど)、節分の日。もうこれは鬼のおにゃのこだと確信していいでしょうね、ええ。  
 
豆、もしくはそれに値するものは家にあっただろうかと、部分特化した記憶の中を模索していると、女の子が話しかけてきた。  
「あ、あの・・・」  
「期待しているのかどうかは知らないけど、残念ながら豆を用意する気なんて頭の隅にさえ無かったよ」  
「いいいいいいや、嫌ああぁぁっ!! 豆投げないでくださいぃぃっ!!」  
豆という言葉に反応したのだろう、女の子は全速力で扉から2,3メートル離れた。  
う〜ん、豆が好きな鬼もいた気がしたんだけどなぁ・・・・・・  
「あ、あの・・・、豆、な、投げるんですかぁ・・・?」  
「ん、豆は残念ながら無かったと思うよ。まあ、こんな寒い夜空の下、女の子が一人孤独にしているのを放っておくのは外道だし、  
 入って来たらどうだい?特に出せるものは無いけど、僕に用事でもあるんだろう?」  
「・・・あ、・・・はい・・・」  
女の子は少し安心したように肩を下ろし、部屋の中へ入ってこようとする。  
 
「ん、桃ならあったかも」「ひやああああああぁぁぁぁぁっ!!」  
 
それにしても歓声がうるさい。隣近所の人が起きて玄関外を覗き込む前に、僕は女の子を部屋に入れた。  
 
部屋の中に入ると、女の子はテーブルの上に置いてあったものを目を輝かせて見つめた。否、素早く近づき両手でまさにハンティングした。  
「あった〜〜っ!」  
「こらこら、人の部屋に入ってすぐさまなにを手に取るか」  
つまみとして一緒に置いていた缶詰の桃とピスタチオには目もくれず、まるでそれが百年求め続けた秘酒であるかのように  
女の子はそれを、高々と、恭しく、両手で持ち上げて百円特売ビールを持ち上げた。  
「第一、未成年でも豆嫌いの子はお酒呑んでいいなんて法律はないし、目の前で女の子が酒呑むのを見過ごす気はないぞ」  
すると女の子は口を尖らせ(両手でビールを抱いたまま)不満そうに言った。  
「豆が嫌いなんじゃありませんー、鬼なんですぅー」  
ああなるほど、鬼だから人間の法律は適用されないのか・・・って、  
「いや子どもであることには関係ないですし、しかもそのビール僕のなんですよ?」なんか敬語になっちまった。  
「だからぁー、私は鬼なんですぅー。頼むゆずってくださいぃー」  
「いいや これだけはいくらつまれてもゆずらないね」  
すると、女の子は睨みながら、  
「ならば殺してでも奪い取るぅー」  
と言って(ビールぶん投げて)暴れそうになったので速攻で振り上げた腕を掴む。  
「とりあえず、理由でも教えてくれるかな? さもなければお酒を持たせておくことさえ躊躇われるからね」  
 
とりあえず理由を聞いてみた。  
「実はこのお酒が我が家に伝わる御神酒だったのです!!」  
さてと。ビール呑むか。  
「あああ、飲まないでくださいぃぃぃっ!! 我が家の大切な御神酒があああっ!!」  
「あからさまな嘘をつかない。僕はさっきから既に飲んでいたし、第一これはそこらの販売機で買ったビールだし」  
「うぅ・・・」  
今度は上目遣いで泣き落とし作戦に出たようだが、そんなものロリ属性がついてない僕には効かないね!  
さて、本当の理由を聞かせてもらおうか。どうせたいしたことないだろうし。  
 
「・・・えっと、鬼の一族はみんな酒好きで、節分の日には人間の俗世の酒を貰いに行っていいきまりなんですぅ・・・  
 一応、私は子どもなので、甘酒しか飲めないんですが・・・」  
なるほど。でも・・・なぜ甘酒ではなくビールを?  
「人間の方って、甘酒が出回るのは三月のひなまつりの時がピークじゃないですかぁ。  
 でも、私たちは節分の時以外は些細な用事では俗世には来られないので・・・  
 ただ、鬼の方にも甘酒を蓄えている方がいて、俗世のお酒とかを持っていったら交換してくれるんですぅ。  
 だから、ビールを持っていけば交換してくれるかなぁ、って・・・」  
なるほどなるほど。やれば六行以内に説明できるじゃないか。  
だがしかし・・・  
「タダでやるのも、なぁ・・・」  
「ダメ、ですかぁ・・・?」  
あげるのは駄目ではない。でも、ビールは残り1本。酔いも回っていないし、どうせなら飲んでいたいんだが・・・  
かといって変わりにこの子の体をくれ、なんて言い出すロリコンでもない。  
「そうだなぁ・・・」  
上目遣いでじっと見つめてくる女の子。  
 
・・・! 一つ思いついた。  
「そういやさ、鬼のお酒って人間も飲めるのかな?」  
「・・・え? うーんと・・・多分、飲めると思いますぅ。最低でもアルコール40%くらいですがぁ」  
うお、それはなかなかきついですね。でも、飲んでみたい好奇心はある。人間の世界では売っていない酒だしね。  
「じゃあさ、こうしよう。  
 
 君にこのビール・・・だけじゃ少ないかもしれないから、どっかでお酒を買ってあげる。  
 その代わりだけど、数日後くらいにその鬼の飲むようなお酒を持ってきて欲しいんだ。  
 貸しを返す用事・・・はあまり些細なことだろう?  
 それに、君は数日後に少し多めに持ってきたら・・・どうだい?」  
 
鬼の女の子の顔がパァッと明るくなったように見えた。  
 
 
 
 
 
二月四日、朝。  
 
淡い黄金色の朝日が窓から差し込んでくる。そうだ、今日は平日だけど休みだ。あー久しぶりの休みだ。ぐうたら生活万歳。  
最近は酒を飲むことくらいでしかストレス解消法が無い今、あの子がこの部屋に訪れた日が待ち遠しい。  
さて、今日の昼夜あたりにでも来るんじゃないかな? そう思いつつ朝飯でも作ろうか、と布団からもぞもぞ抜け出そうとしたとき―――  
 
 
コンコン。「お酒、持って来ましたよー」  
 

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