昨日の話をするためには、まずは去年の話からしなければならない  
そう、あれは去年の2月3日の話・・・  
 
 
「ふっ〜寒いなぁ〜」  
会社帰りに夕飯を買おうとコンビニによると、陳列棚の弁当の横に“それ”があった  
一本だけ売れ残った恵方巻  
これを見るまでは、その日が節分であるという事も忘れていた  
どうせこのまま誰も買わないのだろうと思い、もったいなさもあってか買って帰ることにした  
コンビニを出て少し歩くと、家までのまっすぐな道に出る  
高架下のこの一直線の道は人通りも少なく、いつもなら肉まんを咥えて歩いているがその日は違った  
袋からさっき買ったばかりの太巻きを取り出すと、ガブリとかぶり付いく  
行儀はよろしくないが、太巻きを咥えながらまっすぐな道を歩いているとある事を思い出した  
“太巻きは恵方を向いて無言で全てを食べなければならない”というルール  
あいにく方位磁石を持ち歩いているわけではないので方角は分からないが、とりあえず最低限のルールは守ろうと思った  
わずかに電灯の照らす長い道のりを太巻きを咥えて歩く男というのは、傍から見たら可笑しいだろうが、  
気にすることなく食べ歩きを続ける  
‘モグモグモグモグ’  
(はぁ、今年こそは彼女イナイ暦の更新をストップできますように・・・)  
太巻きを食べながらそんな事を願ったのが悪かったのか、天は俺の願いを迷惑な形でかなえる事になる  
ふと前を見ると、いくつか先の電灯の下に人影が見えた  
(・・・まずいな)  
何がまずいかって?そりゃぁ太巻きをほおばるマヌケ面をご近所さんに見られるのは色々とまずいだろう  
だが、もう一度人影の方を見るとある事に気が付く  
(あの人、動いてないな)  
その人影は明かりの下でこちらを見ているように思えたが立ち尽くしたまま動く気配が無く  
これはチャンスと思い、遭遇する前に食べきろうと口の動きを早める  
‘モグモグ・・・ゴクリ’  
そうこうしているうちに、太巻きを全て食べ終える事に成功した  
これで今年の俺も安泰だという思いと、目の前の人に見られなかった安心感にホッと胸をなでおろす  
「あれ、いないな」  
さっきまで電灯の下に立っていたはずの人影が見えない  
左右を見渡してもその姿は確認できず、気が付かぬうちに立去ったのかと安心して前を向きなおすと  
目の前にいた  
「何年ぶりの呼び出しやろ、精一杯かわいがったるわ♪」  
視界に移るのは美しい女性の姿と、その女性が繰り出した拳  
‘メキョ’  
その拳は俺の顔面にクリーンヒットし、意識はどこか遠くへ飛んでいった・・・  
 
「うっ・・・む・・・」  
気が付くと、視界には見慣れた天井があった。ここは自分の部屋だ  
唯一違いがあるとすれば、自分が素っ裸になっていて、さらにその上に素っ裸の女が乗っているくらい  
「だっだれっ・・・ムガッ」  
その正体を問いただそうと開いた俺の口は謎の女性によって塞がれ、進入した舌が縦横無尽に動き回る  
反撃しようにも、ベッドに寝かされた状態で体を動かす事ができない  
手も足も出ないとは、こういう状況のことを言うのだろう  
自分の舌を押し出して抵抗を試みるが、逆にその舌を絡め取られてしまい、  
その快感によって恐怖で硬くなっていた表情がだんだんと柔らぐ  
動かない身体を動かそうと体中に入れていた力も抜け、されるがままになっていた  
その女性は体中の力が抜けたのを確認すると、ゆっくりと口を離した  
「へへっ、人間との口付けなんて何年ぶりやろなぁ」  
ペロリと舌なめずりをしながら歓喜の声を上げる女性の姿をよくみると、  
女性的な可愛い顔と大きな胸の膨らみに対し、体中の引き締められた筋肉が異様な雰囲気をかもし出す  
さらに特徴的なのが、おでこの上部から突き出た2本の突起で・・・  
「まさかっ、おっ鬼ぃ〜!?」  
「うむっ、正解や」  
普段ならコスプレ程度にしか考えないだろうが、時期が節分と言う事もあって真っ先に言葉が出た  
なぜ自分が鬼に襲われなければならないのか理解できず、再び恐怖に襲われ顔を引きつらせる  
鬼といえば昔から人を襲い、攫い、食べる存在としか聞いた事がない  
「くっ来るなぁ〜俺なんて食ってもうまくないぞぉ〜」  
恐怖におののく俺を、彼女は不思議そうに見つめて言う  
「何言うてるんや?あたいはお前に呼ばれたからきたんやないか」  
「そんなっ、俺は太巻きを食べて歩いていただけで、お前なんかを呼んだ覚えは・・・」  
そう言うと、鬼の女は俺の顔に指を刺しながら得意げに言った  
「それや、あたいはお兄さんがやった“逆恵方”に呼ばれたんやで」  
「・・・はぁ?」  
その後、彼女は自分の出てきた理由について説明してくれた  
 
『逆恵方』  
それは、恵方巻と同時に裏の世界で古くから伝えられる風習のひとつ  
七福神のいると言われる恵方と180度逆を向いて無言で太巻きを食べながら色情にまみれた事を考えると  
その人の元に鬼(女限定)がやってくるというなんとも胡散臭い風習である  
 
 
「・・・つまりあれか、俺は君の言う逆恵方向きに太巻きを食べ歩きしていたわけで」  
「そうっ、その通りやっ!」  
何たる偶然か、俺の帰り道は彼女の言う逆恵方を向いていたわけである  
毎日歩いている道の方角なんて気に留めたことは一度も無かったが、それならばと俺は彼女に言った  
「帰ってください」  
「なんやて!?」  
「俺が呼んだんなら今回の呼び出しはキャンセルと言う事で、どうぞお帰りください」  
最初は俺の言葉にあっけに取られたようだが、途中で彼女の態度が変わる  
明るい表情が曇り、目を細めると恐ろしい瞳が震える俺を睨んでいた  
そして、その恐ろしい瞳をゆっくり近づけ、鼻と鼻が触れ合う寸前でじっと睨み続ける  
(くっ喰われる!?)  
自分の人生の終わりを覚悟したその時、鬼女があることに気が付き怪しい笑みを見せる  
何があったのか理解できずに困惑していたが、その理由はすぐに分かった  
「くくっ、何だかんだと言っても、こっちの方は正直やなぁ〜」  
‘ガシッ’  
「ひっ」  
そう、女性とここまで接近した経験のない俺はのイチモツは、あろうことか勃起しており、  
それに気が付いた鬼女は、よりにもよってそれをガッチリと握りこんできたのである  
指を巧みに使いゆっくりと絞り上げ、塞き止められた血によってさらに硬度が増す  
「あっ、ちょっと・・・やめっ」  
「やめて・・・ほしいんか?」  
「っ・・・・」  
「こうして欲しくて、あたいをよんだんやろ?」  
ピタッと指の動きを止め、俺にイジワルな質問を投げかける  
ニヤニヤと勝ち誇った笑みを浮かべると、鬼女の腕の手でイチモツが刺激を欲しがってビクつく  
何を言う事もできずに彼女の顔を覗き見ると、その口の端が釣りあがるところだった  
「かわいい顔して、‘やめて〜’なんて・・・そんな減らず口たたけんようにしたるわ」  
 
再び舌なめずりをすると一旦止めた指の動きを再開すると、今度は指の動きに合わせて腕を上下させた  
激しい快感によって分泌された我慢汁が潤滑剤となり、さらに激しく腕を動かす  
ヌメッた液体によって増幅された快感に耐えることのできなかった俺は・・・  
‘ドクッドクッ’  
「ありゃ?」  
鬼女に見つめられたまま手コキだけで射精してしまい、その手を精液でべっとりと汚したのである  
鬼女はというと、体勢を起こして手にこびりついた精液を見た後、不思議そうに視線を俺の顔に移す  
そして、あまり触れて欲しくない事実に気が付いてしまった  
「ちょ、ちょっと、いくらなんでも早すぎやで・・・もしやあんた、その歳で童貞か?」  
図星を指されて悲しみに暮れる俺を尻目に彼女の瞳は爛爛と輝き、やる気を増していた  
「久々に呼び出されて童貞が食えるなんて、あたいは幸せもんやぁ〜」  
手に付いた精液を舐め取ると、一回射精したにもかかわらず堅さを保った俺のイチモツに腰をあてがい  
「あんたの童貞、責任を持ってあたいがもらったる」  
‘ジュプ’  
一気に腰を落とした  
「はぁ〜ん」  
アソコを締め付け、腰を上下させてペニスを貪る  
初めて受ける快感に俺はあっというまに絶頂を向かえ、彼女の中に精を捧げる・・・はずなのだが  
しばらくすると彼女の方に焦りが見え始めた  
「なぜやっ、こんなにしてるのに、童貞の癖になんでイかへんのや!」  
彼女は気が付いていなかったようだが、締め付けが激しいせいでイキたくてもイけないのである  
「童貞を相手にして満足させられへんかったら、鬼の沽券に関わるんやっ!」  
スイマセン、十二分に満足しているんですが言葉が出ないんです  
「あたいがこんなに気合入れてるのにイかせられへんなんてぇ!認めへん!」  
スイマセン、あなたが気合を入れてアソコをきつく締め付けるせいで出せないんです  
「・・・・」  
あいにく反撃する余裕は無く、そのまま気が遠くなるまで彼女に犯された  
 
「・・・はぁ、去年は大変だった」  
こうして思い出に耽りながら寝床に付くと、枕元からボソボソと囁く声が聞こえてくる  
「今年の恵方は南南東〜、今年の恵方は南南東〜」  
五月蝿い声に布団を被り、耳をふさいで聞こえないフリをする  
「今年の恵方は南南東〜」  
「だぁ~っ!五月蝿いなぁ、眠れないじゃないか!」  
だが、無視しきれなくなって布団から飛び起きると、声の主を叱りつけた  
枕元では、例の鬼がテヘッと笑顔で誤魔化している  
そう、彼女はあの一日で去ることはなかった  
行為を終えた後、彼女は意識を取り戻した俺との契約を望んできたのである  
「鬼として、童貞の人間一人満足させられんかったなんて一族の恥や!これじゃぁ実家に帰られへん!」  
・・・結局俺をイかせられなかったらしい  
彼女が与えるのは家事から夜伽までを含めた生活の支援、対して俺は体と精を提供する事  
とりあえずは洗剤1年分と野球観戦のチケット付きで半年契約し、以後も契約更新中  
おかげで洗剤には苦労していないが、体力的にはかなりきつい  
だが、1年に1回節分のときに“逆恵方”をしないとこれ以上の契約更新が出来ないらしく  
ここ数日は毎晩のように枕元で今年の恵方をささやき続けている  
意外と可愛らしいところもあるもんだ  
「ほら、太巻きが食べにくいんならロールケーキとかでもええで?」  
契約を更新させようと、太巻きとロールケーキを片手に詰め寄る彼女を横目に再び布団に潜り込んだ  
それを見て鬼女は悲しそうな顔をするが・・・・  
‘パクッ’  
彼女との契約は当分続きそうだ  
 
〜終〜  
 

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