これは、ある夫婦の一日だ。  
 
「あなた、早く行かないと遅刻しちゃいますよ」  
「わかってる」  
あなた、と呼ばれた男はスーツ姿に着替え、いつものように朝飯を手早くかきこみ「あなた!」いつものように女に怒られた。  
「毎日言ってるじゃないですか!よく噛んで食べなきゃ駄目って!」  
 
彼女は―とある事情と本人の趣味で―生活リズムやら食事にうるさい。特に夫に対しては。  
夫である男がこういったお叱りを受けるのも、もう日常の事だ。  
 
「悪いな、今は遅れそうだからさ…ご馳走さん!」そんな日常のお小言を聞きつつ、叱られた本人は朝食を終える。  
「そんじゃ行ってくる!」男はバタバタと急ぎ足で家を出て行き、彼の妻は玄関先で、夫を見送った。  
 
彼女は仕事に出て行った男が見えなくなると、家の中に戻って朝食の片付けを始めた。いつもはぶつくさもらす食べ方の汚さも、  
今はさほど気にならない様子である。  
片付けの最中に、予定を思い出していく。もっとも、思い出すまでもなく、今日は彼女が待ち焦がれていた日であった。  
「ふふ、あの人が帰ってくるのが、楽しみ…♪」彼女は、人が見たならばぞくっとするような、妖しい笑みを浮かべた。  
 
この日は彼女にとって、命に関わる大事な日であった。しかしその表情に、緊迫感は無い。  
夫はきっと、今日が何の日であるか覚えているだろうし、この私のためにすぐ帰ってきてくれるだろう。  
私はそんな、とても愛おしい彼を、快感に浸してあげられる。しばらく動けなくなるくらいに、激しい快感に。  
表面上は上機嫌でニコニコしている彼女。その心中にあるのは、命を失うかもしれない、という事に対する恐怖などではなく  
生涯のパートナーに対する深い信頼と、夫に対するさらに深い愛情と。…男に対する、底なしの欲情であった。  
 
 
 
仕事を終え、彼は足早に家路を辿っていく。  
果たして妻の信頼が裏切られる事は無く、男は「大事な日」を覚えていた。  
この日だけは、何があっても早く仕事を切り上げなければならない。妻のため、自分のために。  
実際のところ、彼にとってもこの日は少し楽しみではあったのだが、しかし「妻が死んでしまうかもしれない」という  
危機感や焦燥感、そしてそんな日を楽しみにするという罪悪感は、  
男の期待やら劣情やらを、心の隅に追いやるだけの大きさを持っていた。  
 
家のドアの前に着き、インターホンを鳴らす。家にいるはずの、彼の妻の返事を待つ。  
ほぼ毎日やっている事だが、今日は重みが違う。  
男にとっては、返事が返ってくるまでの間は―例え二、三秒だったとしても―焦りや不安が増すには十分な時間であった。  
 
『はーい♪』  
そんな彼の鬱々とした感情を吹き飛ばす、機嫌のよさそうな声が聞こえる。  
「今帰ったよ」  
『わかりました、ちょっと待っててくださいね』いつもと変わらぬ会話。男はそこに安堵を覚えた。  
 
少し経って、ドアが開いた。そこには朝と…姿は少し変わっていたが、服装は同じの、妻がいた。  
「おかえりなさい」…非人間的な部分が、夫の帰りを迎えた彼女の、体のあちこちに現れている。  
耳はとがった形になり、その少し上からは湾曲して丸まった角が生え、背中からは大きな羽、臀部からはツルツルとした尾。  
「ああ、ただいま」男はそんな異形の妻に驚く気配はない。何のコスプレだ?などと疑う事もない。  
目の前の女はコスプレをしているのではなく、むしろ、本当の姿をしているのだと知っているから。  
彼女が人間ではなく、人の精を吸い取って生きると言われる種族―「サキュバス」であることを知っているから。  
 
この日は、男の妻が命を保つために、十日に一度の―サキュバスとしての―食事を行う日であった。  
彼女は、人間と同じ食事をする事で人間の形を保ち、定期的に男の精気を吸う事によって、サキュバスとしての魔力と魂を保っているのだ。  
健康に対してうるさいのも、男が不健康だと精の出が悪い、というのが「一つの」理由であった。  
 
「さっそく夕食にしましょう、それからお風呂…ね?」  
一般的な応答とは違う、かなり強引な発言。いつもなら、「俺の選択は無しかい」と捻くれもするところであるが、  
「おう、わかった」  
今日は、素直に従う事に、男は決めていた。  
 
夫婦は共に上機嫌で、家の中へと入っていく。  
 
 
 
「もう!そんなに早く食べちゃ駄目なんですってば。もうちょっとゆっくり、落ち着いてよく噛んで!」  
「わかったよ…まったくお前は、こういう時でも厳しいな」  
かちゃかちゃと、向かい合った夫婦は「人間の」食事を進めていく。食卓の上に乗った料理は、  
妙に濃い目の、いかにも精のつきそうなものが多い。  
「野菜残しちゃ駄目ですよ」  
「あんまり好きじゃないんだけどなぁ、野菜」  
「好き嫌いしない!栄養をバランスよく摂らなきゃ、元気な精子は出来ないんですよ!?」  
「そっちかい!?俺の健康は!?」  
「そんなのは大前提、言うまでもありません!…さ、食べて食べて!」  
「…へーい」  
まるで子供かのように叱られても、男は妻に対して頭が上がらない。  
彼女のこういった厳しいぐらいの栄養管理が、彼にとっては常に良い方向に運ばれているから…というのもあるし、  
その妥協の無さが―勿論彼女のためでもあるだろうが―夫に対する愛情の、一つの現れであることを知っていたからだ。  
 
「ごちそうさまでした」食事の終わった彼女が、礼儀良く手を合わせると、  
「ごちそうさん」夫もまた食事を終え、軽く拝むようにして、食物に感謝をささげた。  
夫婦の、「人間としての」食事は終わった。次は妻が、「サキュバスとして」軽く、食事を摂る番だ。  
 
「それじゃ、食後のデザートを…」彼女は素早くテーブルの下に潜り込むと、男のズボンを脱がし始めた。  
男は嫌がる様子もない。多少赤面してはいるものの、妻に全てを委ねているようだ。  
そして、あっという間にパンツが脱がされ、彼のモノが姿を現したのを見るや、女はうっとりとした表情を浮かべた。  
「今日も美味しそう、こんなに大きくなって…♪」彼女は軽く舌なめずりをし、両手でやさしくモノを包むと、  
これまた優しく、そして滑らかにしごいていく。男はそれに反応して、思わず声を出してしまう。肉棒もさらなる反応を示す。  
 
「ふふ…いただきます」  
女は、愛しい男のモノに対して拝むような動作をすると、亀頭に口を近づけ舐め始めた。  
まずは先端から。チロチロと少しづつ、舌の先で軽く舐めていく。男の興奮によって、早くも尿道口に滲んできていた  
透明の液体も、ほじくるようにして舌先で掬い取っていく。勿論それは、さらなる「先走り」を呼ぶ結果となった。  
「う…!」快感のあまり、夫の口から漏れる声も、妻にしてみれば料理の出来具合を判断する合図だ。  
「気持ちいいみたいですね…♪」彼女は優しく、妖しく微笑み、  
「もうこんなに、我慢汁、出しちゃってますもんね…」亀頭に流れていた液体を舐めあげた。  
今度は丹念に、モノ全体を舐めていく。さきほどまでとは違い、しっかりと舌を這わせて、  
じっくりと味わうように。舐め残しがないかと確認するかのように、丁寧に。  
 
「うあ…あああ…!」妻のテクニックと―ほんのわずかな―魔力によって、凄まじい快感を味わっている夫は、我慢し切れるはずもなく声が出る。  
「ふふ…♪」愛する夫のそんな様子を見て、嬉しそうな笑みを浮かべた女は、  
「もうそろそろみたいですね…それじゃ、美味しい精液、たくさん飲ませてもらいます♪」  
 
「あー…ん」淫らに口を開き、男のモノを根元まで咥え込んだ。  
 
「うあっ…あああっ!」  
口内で舌がまるで生き物のように蠢き、先端部を舐め尽くす。温かさと、ヌメヌメと舌が這い回る感触が  
男に更なる快感をもたらす。その一方で、先走りを強烈に吸い上げられる。  
さらには激しいピストン運動。  
「んふ…ふ…♪」楽しそうに、淫らにそれらを行う妻の顔、声、息遣い。漂ってくる、甘い香り。  
男は味覚以外の全ての感覚において、興奮を誘われ快感を味わい、そして耐え切れずとうとう  
「あ…ああっ!!」妻の口内へと射精した。  
 
女は射精後もペニスを咥えたまま離そうとしない。それどころか、ますます強く吸い上げる。  
そしてようやく口を離したかと思えば、恍惚とした表情でクチュクチュと精液を味わい、こくこくと飲み干していく。  
「ん…ふふふ、デザート、ご馳走様でした♪」陰茎と唇に残った精液を舐め取りながら、そう言う妻の顔は。  
男のモノが状態を維持する、いや、さらに硬度を増すには、十分過ぎるものだった。  
 
「もっと硬くなっちゃいましたね?」愛しそうにモノに頬ずりしながら、妻が悪戯っぽく言う。  
「…そ…そうなのか…ぐっ…」その頬ずりにすら快感を覚えながら、夫はなんとか返事をする。  
 
「あら、汗かいちゃってます」  
「あ…そういえば…気づかなかった」  
「このまま放っておいたら、体が冷えちゃいますね…下半身丸出しですし」  
「なら履かせてくれよ、ズボンとパンツ…」最も、いきり立ったモノのせいで、まともに履けたものではないだろうが。  
「…いえ、もっと良い方法があります。お風呂に入ってゆっくり体を温めて、清潔にしましょう」  
「あー、風呂、出来てるんだっけ…じゃぁ、入るか?」  
「ええ、そうしましょ♪」  
 
ほぼ一方的なリードによるものではあるが、お互い意見の一致した夫婦は、風呂に共に入る事にした。  
男の怒張は放置状態であったが…それについて、心配する二人では無かった。何故なら…  
 
「しっかり全身、洗ってあげますからね、勿論、ここも」  
「…頼むから、今はさするのはやめてくれ…」  
 
おそらく先程以上の事を、これから行うのだと夫は予想し、妻は決めていたからである。  
 
「気持ちいいか?」  
「ええ、とても…ん…」  
「よし、今度は羽いくぞ…よ、よっと」  
「あふ…ん…ふうぅ」  
「その反応、素か?…そうじゃないならやめてほしいんだが…」  
「勿論、自然に出た声ですよ?ん…んふうっ♪」  
 
実際、ゴシゴシと体を洗っているだけなのだが、彼女は度々軽い嬌声をあげる。  
いつもならばそれほど気にする事もない、からかっているとしか思えないような甘い声と反応。  
だが、依然下腹部に、血液が集中している現在の男の状態では、どうしても意識がいってしまう。  
ただでさえ放置された状態で、しかもこのような艶かしい声を聞かされたとあっては、彼の中では少々生殺しに近いものがあった。  
 
「…そんじゃ流すぞ、熱かったら言ってくれ?」そうして男が、妻の体に湯をかけて、泡を洗い流していく。  
「ん…んうううう…はぁぁぁぁぁぁ♪」女は、冷たい水をかけられているわけでもないのに、ピクピクと体を震わせる。  
「…今のは演技だろ、間違いなく」男は思わず苦笑が漏れる。  
「あれ、バレちゃいました?…でも、気持ちよかったのはホントですよ」わざとらしくきょとんとした彼女は、悪びれず微笑んだ。  
 
体の隅々まで洗い流された女は、背中側にいた夫に体ごと向き直った。  
「…それじゃ、今度は貴方の番♪」彼女は手にボディーソープを出し、泡を立てると、  
男の体に、撫でるようにして塗りつけていく。だが、「…手だけだと、ちょっと時間かかっちゃいますね」  
彼女としては焦らしに焦らして、その間の男の様子を存分に楽しみたい、そんな気持ちもあったが、しかしここは浴室。  
長きに渡ると熱でのぼせたり、最悪の場合脱水症状におちいるかもしれないと考えると、手早くやってしまいたい。  
両立を考え、彼女は、自分の体を有効利用する事にした。  
 
彼女の背中の、コウモリのような羽…だったはずのそれが、今は何故か、末端部分に羽毛が生えている。  
そして、尻のすこし上から生えた尾。ツルツルとしたそれは、黒く長い。根元から離れる程に、細くなっている。  
女はそれらに軽くソープをつけると、彼の足に乗り体を密着させると同時に、男の体に這わせた。  
「う、あっ…!」羽は背中へ。そして尻尾は、男の下、尻の方へと。  
女に包み込まれるような形になった男は、全身を襲う感覚にうめく。  
 
「んん…気持ちいいですか?」  
さわさわとした感触が背中を伝う。包み込むように広がった羽が、男を愛撫しているのだ。  
一方、風呂イスの座面に開いた穴から、男の体と座面の間に尻尾が潜り込み、スリスリと動く。「穴」の付近を刺激する。  
そして、女の豊かな乳房と手と体とが、届く範囲にまんべんなく、ソープを塗りつけていく。優しく、そしてしっかりと。  
全身を撫で回されているくすぐったさと快感に、  
「うあっ…あっ!」悲鳴のような声を上げる男。そんな夫を彼女はとても楽しそうに、愛しそうに見つめていた。  
 
不意に、今まで触れられていなかった部分…股間に、彼女の手が伸びる。そしてそのまま、モノをさすりはじめた。  
「ここもキレイにしないといけませんよね♪」快感の連続に、先走りを垂れ流しているペニスを、  
彼女はまんべんなく手でさすり、扱き、袋の部分を揉み、残さず「洗い」つくす。…すでに、ぎりぎりまで高められていたために、  
脈動が早い。もうそろそろ、であろう事を察知した彼女は、妖艶な笑みを浮かべ、  
「いっぱい出して、中までスッキリしましょうね…」夫の耳元で囁きかけると、扱く速さを上げてゆく。  
 
積み上げられた快楽に加え、スピードこそ速いものの決して乱暴でなく、急所も的確に攻めてくる、手によるモノへの愛撫で…  
男は止めを刺され、ひときわ大きな声を上げながら絶頂を迎えた。  
 
胸から腹部にかけて飛び散った、今だ白濁の濃い液体を、女は指ですくい、うっとりとした表情で弄ぶ。  
「ふふ…美味しそうですね、まだこんなに濃い…」そして、それを体へと塗りつける。  
体にかかった精液は、ソープと分離して、スウっと吸い込まれるように消えていく。  
その様子をみつめる男は、荒い息を上げ、少々意識をもうろうとさせながらも、更なる興奮の高まりを感じていた。  
女は密着した体を離し、自身と夫の体をシャワーで流していく。丁寧に。  
 
浴室から出て、互いに―もっとも、男の方は動作が緩慢だったので、結局ほとんど女一人で―体を拭きながら、  
夫婦は、期待とそれに伴う興奮で、胸が高鳴るのを感じていた。  
「とっても、温まりましたね♪」  
「…あ、ああ」  
「体から熱が逃げない内に、ベッドに入っちゃいましょう?」  
「…ああ」  
 
男は軽い脱力感と疲労、今だ残る快楽の余韻、そして湧き上がる興奮と少しの切迫感で、ほとんど思考が働かなくなっていた。  
一刻も早くベッドへ行きたい。ベッドに行って、妻と…。そんな思いばかりが頭を駆け巡る。そんな夫の心を  
察したのか、あるいは文字通り読んだのか。彼女は妖しく微笑ながら、夫に囁く。  
「…さ、行きましょう、貴方…もっと、温まりに…ね」  
そうして大きな、血液が通った体温のある羽根で自身と、夫の体を包み込み、そのまま寝室へと向かうのだった。  
 
寝室に着くと、女は早速、男をあおむけにベッドへと押し倒した。羽根から解き放たれ全裸を晒す夫に、妻が跨る。  
まだかまだかと様々な意味において待ち焦がれる男を、「活きのいいエサ」を前にして、しかし女はそれを敢えて  
無視し、男の体をみつめる。男の頬に手を当て、そのまま首筋へともっていき、そして胸、脇、腹と続いていく。  
「ううーん…お腹にちょっと、ゼイ肉がつきすぎてますねえ」そう言う女の顔は、少し不満げだ。  
「…そりゃ、あれだけ濃い物食べさせられたら…」  
「それもそうですかね…これくらいなら、運動で消費できるかな…?」余った肉を軽く指で引っ張りながら、女は思案する。  
「な、なぁ…」  
 
「なんですか?…ふふ…♪」声をかけられた女は、男をみつめると小首を傾げ、あくまで優しく微笑みながら問う。  
「最後まで言ってくださらなきゃ、わかりませんよ?」  
男には当然分かっている、嘘であると。そもそも彼女は心を読む事ができるはず。  
焦らす、というのはある程度の時間が要る。それはすなわち、多少伸びたとはいえ、タイムリミットが刻々と近づくという事。  
それでもなお、こういった行動を取るのは、サキュバスとしての本能なのだろう。男たちを、彼ら自身の欲情に屈服させるという事は、  
男の精を吸い取る彼女らにとって「獲物を仕留めた」という事に等しい。…女には、もう一つ別の意味合いもあったが。  
「…お前と、したい…」  
「ん?何ですか?」  
「お前と、したい!これでいいだろ!」  
「…ふふ、そうですか。ええ、いいですよ♪」女は、とても嬉しそうな笑顔を見せた。  
わざわざ―敢えて―心を読まなくとも、彼女は知っている。男の返事が欲情だけから生まれたものではない、という事を。  
 
実際、女が夫と初めて出会った時、不幸にも―幸運にも―襲われた彼は決して、最後まで自分からの意思を示さなかった。  
心の中は九割九分、淫欲に満たされていたのに。散々抵抗され、終いには唾を吐かれ、彼女は怒るよりもむしろ興味が湧いた。  
何故この男はこんなに強情なのだろうと。それが残り一分の、  
理不尽に対する強い意志によるものだと分かったのは、すったもんだの末、結婚した後の事であった。  
 
その男が、こうやって彼女の期待通りに、行為を願っている。それは、大半は劣情のせいであるかもしれないが、  
しかし、それだけではない。それだけならば意志の強硬さを増すのがオチであり、男は硬く口を閉ざしただろう。  
それほどの、融通の利かない強情な夫がこうして行為を願うのは、つまるところ、もう時間の無い妻の身を案じての事である。  
 
―夫は、私を愛してくれている。そして私は、それが嬉しい。私もまた、彼を愛している―  
これらの単純な事実を、先程のやりとりで確認した女は、男の唇に自分の唇を重ねた。  
 
軽いキスの後、唇を離した女は、腰を浮かせると淫らな笑みを浮かべ、  
「…今日もここで、気持ちよくしてあげますね…」自らの秘所に手を伸ばし、男に見せ付ける。  
濃いピンク色の女性器が、愛液を滴らせている。まるで、美味な料理を目の前にして我慢しきれず、よだれを垂らすかのごとく。  
…彼女の種族を考えれば、それは例えでなく、実際その通りであるかもしれない。まさしく彼女は―男も望むところであったが―  
これから夫を「食べる」のだ。サキュバスとしての本能と、雌としての欲求と、女としての愛情に突き動かされて。  
…そして女は、男のいきり立ったペニスの上に移動すると、  
「…それじゃ、たくさん、搾ってあげます♪」下の口と、ペニスの先をくっつけ、  
 
そのまま、少しづつ、中へと飲み込んでいった。  
 
「うおっ、あ、うあああああーー!」飲み込みが深くなるにつれて、男のあげた声は、じょじょに大きさを増していく。  
ほんのわずか入っただけでも、その締め付けと絡みつきは凄まじい。それをじょじょに、ゆっくりと段階を上げて味わわされる。  
女曰く、「一気に入れたら気持ちよすぎて心臓に悪い」という事だそうだが、男にはこれも相当心臓に悪いとしか思えなかった。  
それほどの快感。男は、耐え切れなかったのか、入れ切った直後に射精した。  
 
「ん…ふう、…一杯来てますよ、貴方♪」射精した直後の男の顔を見つめながら、女は微笑んだ。  
馬鹿にした風でもなく、むしろ嬉しげに。そして、今だ射精の感覚に痺れている男に、  
「それじゃぁ…ゆっくりと動いて、慣らしてあげますからね」さらなる追い打ちを予告した。  
 
「ん、ふ、ふっ♪」彼女自身も少々感じながら、少しづつ、前後左右に、円を描くように動く。  
「うおっ…あっ…ああっ!」男は動かない、いや、動けないが正確であるだろう。  
膣口でしっかりと締め付けられたペニスが、中で温かく包まれる。それだけでなく、無数のヒダがペニスに絡み、膣内の  
収縮とともに、ぎちゅぎちゅと締めてくる。そして前後左右の円移動によって、それは不規則なリズムをつくり、  
男に凄まじい快感を与えていた。彼は短い間隔で、精を膣内に放っていく。しかし、  
一向にモノが衰える気配はない。むしろ、硬度を増し、また射精の間隔も少しづつ長くなっていく。  
 
「ふううぅ…そろそろ…んん…慣れてきましたね」五回も出しただろうころに、女が声をかけてくる。  
その顔は赤みがさし、彼女もまた感じている事を示していた。ゆっくりと男の体に倒れこむようにして、  
そのまま夫の頭に手を回し、顔を近づけ、唇を奪う。  
自身の舌を、夫の口内へと進入させ、夫の舌と絡ませあう。そしてあらゆる部分に、舌を這わせ、蠢かせる。  
女の甘い香りは、男の鼻腔から体内へと入り込み、温かく感じるような、甘い気分に浸らせる。  
男は、多少慣れてきたとはいえ、今だ続く激烈な快感と、キスによるとろけるような気分の中で、六回目を放った。  
 
それを感じ取ったのか、女は一瞬ぶるっと体を震わせると、唇を離す。  
つーっと、一筋の唾液が糸を引く。彼女はそれを指で拭うと、微笑み、そして夫に囁いた。  
「貴方も慣れてきたし……私も、もっと気持ちよくなっていいですか?」  
男は快楽によってまともな声を出せず、ガクガクと頭を振って、肯定の意を示す。  
「ふふ…ありがとうございます」女は嬉しそうに微笑み、夫に礼をする。  
「それじゃ、もっと…激しくさせてもらいますね…」そして、夫ですらゾッとするような、淫靡で、凄艶な表情を浮かべた。  
 
「…!あっ、あああああ゛ーー!!」男は、声にならない快感の悲鳴をあげる。  
その原因は…上から抱きついたような形の妻が、先程とは比べ物にならないほどに、激しく腰を動かし始めたからだ。  
快感も比にならない。男は連続して射精していく。もはや一回ずつに分けて数えるのが不可能なほどに。  
「あんっ、あっ、あっ、…ああっ!」膣内へ精液が出される感触と、ゴリゴリと中をこすられる快感。  
そして悶える夫の声と顔。感じる体温。女はそれらによって、サキュバスとしての「狩猟」本能と、オスに対する獣欲、  
男に対する愛情を刺激され、ますます興奮し、さらに腰の動きを速めていく。そして快感を増していく。  
 
今だ絶叫を続ける男の唇を、再び奪う。それはもはや甘さなどない、貪るような激しい接吻。  
「んんっ、ふっ、んっ!」ひたすらに男の舌と自身の舌を、口内で絡み合わせ、互いに味わう、味わわせる。  
「…ぶはっ!!…うあああっ、うああああぁぁ…んむぅっ!」  
「ぷ…はっ!はっ…はっ…おいしいっ…はぁ、貴方っ…んっ…」そしてまた再び、舌を絡み合わせる。  
快感の波はいよいよ大きくなり、女の「昇天」は近づく。  
 
「…あああ…っ!…ああぁぁーーーっ!」  
多少の時間がたち、女淫魔はとうとう、ひときわ大きな喘ぎ声と共に絶頂を迎えた。  
 
女が大きく痙攣し、体を反り返らせる。と同時に膣内が収縮し、男のモノに、今までで最大級の強烈な  
締め付けと絡みと快感が襲い、彼もまた盛大に精を放ったのだった。  
 
女が、そのまま男の体に倒れこむ。息は荒く、心臓の鼓動も激しい。体も火照っている。  
「ねぇ…貴方…」彼女は発情しきった雌の表情を浮かべて、交わった雄に話しかける。返事は無い。  
…見れば、男は失神していた。精を吸い取られた事による疲労と脱力感で、そのまま眠ってしまったようだ。静かに寝息を立てている。  
 
そんな男の顔を見て気を抜かれ、心安らかになった女は、静かに「繋がり」を外す。起こさないように、締め付けをほぼ0にして。  
男のモノは、抜けた瞬間、ヘナリと倒れた。もはや、一滴とて出そうにない。  
彼女は次に、そっと男の頭を抱え、その口に自らの乳房を咥えさせた。慎重に、優しく、起こさないように。  
 
淫猥な行為ではあるのだが、しかし女の表情は優しく慈愛に満ちており、先程までの飢えた獣のような、欲の色は欠片も無い。  
 
一方、咥えさせられた男はといえば、無意識下でもそれを吸い上げている。…やがて、乳首の先からほんの少しづつ  
トロリとした液体が出始める。男はそれを、こくこくと飲み干してゆく。すると、一瞬前までは少し青い状態だった肌の色が  
赤みを取り戻し始めた。  
母乳のようなものは、魔力によって体内で精製された、精気を帯びた栄養素の豊富な液体。  
彼女はこうして、交わった後には毎回、男に栄養を補給している。翌日に、男が―気だるさを伴いながらも―動けるのは、  
これによるところが大きい。…精製により、元々、半月分以上は補充されていた魔力と精気が  
十二〜三日ぶんまで減ってしまうというのは、男に対しての守秘事項であった。この一連の行為そのものも。  
 
女は補給を止め、男の頭をそっと枕の上に降ろす。  
(…今はやすらかな寝顔だけれど、私がこんな行為をしていると知ったら、きっとこの人は赤鬼のような顔で怒るのだろう)  
それを考え苦笑しながら、男とそれに寄り添う自身の体に、足先からへその辺りまで毛布をかける。  
そして、自身の―全面に黒い羽を生やした―大きな羽根を広げ、夫の体にかぶせる。血の通った羽毛の温かさが、男の体を覆った。  
(けれども、その怒る理由はきっと、私の命に関わるから、なんだろう。そして、そんな貴方だからこそ…)  
 
 
(…おやすみなさい、貴方…)  
そうして彼女も、愛する男の上でゆっくりと、眠りに落ちたのだった。                   
 
 
「はいはい、起きて起きてー!!」  
「うう〜ん…ん〜…」  
「おーきーなーさーいー!!」  
「…うっせえなぁ!もう!」  
 
男は、激しく気だるさを感じながら目を覚ます。見れば、ベッドの傍に立った―非人間的な部分の無い―妻が、  
すでに服を着て、男の体を揺すっている。元々寝起きが悪い上、無理やり起こされた形なために、彼が女に向けた表情は苛立ちに満ちていた。  
眼をこすりながら、荒い語調で返事をする。  
 
「せっかくの休みなんだしよぉ、寝かせろよ!」  
「ダメですよ、早寝早起きは大切です!それにあんまり寝すぎるのは、逆に体に悪いんですよ!」  
「いいよ、一日くらい…」そういって男は、毛布の中に潜り込む。  
「ダーメーでーすってばー!」対して毛布を引っ張り、怠惰な夫を引きずり出そうとする妻。  
しばらくのあいだ小競り合いは続き、結局、男の強情っぷりに女が根負けする形となった。  
 
「ま〜ったくもう…九時には起きてきてくださいね!」  
呆れた表情でそう言い、そのまま寝室から出て行こうとする彼女に対し、男はうめくような返事をして、  
「…なぁ」急に呼びかけた。  
「はい?」女は振り返る。男が毛布から顔を出し、心配そうな顔をして、彼女の方を見ている。  
「元気、いっぱいになったか?」  
 
彼女は笑顔を見せ、そして  
「ええ、一月先まで持ちそうなくらいですよ♪」ガッツポーズまで決め、力が有り余っているかのような姿を見せる。  
「そっか」それに対し男も、安堵の笑顔を見せると、またそっぽを向いて毛布の中に潜り込んだ。  
 
寝室から、女は出て行く。穏やかな表情を浮かべながら。心中にあるのは…嬉しさと暖かさと幸福感と、  
それらの根源であり、またそれらによってますます深くなる、夫への愛情、ただそれらのみであった。  
 
(もう…いけない、この前もそうだったじゃない…)  
彼女はハッとすると、難しい顔をして少し悩んだ後、  
(…でも、いいか♪今日はゆっくり寝かせてあげましょうっと。食事は、持って行けばいいんだし)  
そう決めて、自身は朝食の用意をするため、軽い足取りでキッチンへと向かった。  
 
こうして、またこの夫婦の生活は、続いていくのであった。  
 

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