「おい…おい、小鬼(さき)小鬼、起きろよ。」
俺は押入で寝ている居候の鬼に言った。
「ん…和也(かずや)?悪りィ…あと5分…」
そう言って再び、布団にもぐる鬼。
コイツがそう言って起きた試しはない。従って俺はケータイを取り出し
電話を掛ける振りをしてこう言った。
「………はぁ…桃太郎さんですか?ウチに鬼の女の子が―――」
モモタロウ…という言葉に小鬼の耳がピクッと反応する。
「ええ…はい……ああ、そうですか。ありがとうございます。おい、小鬼ぃ、
桃太郎さん達が後5分で着くって」
「う、う、う、うおおおおおおッ!」
小鬼は布団を跳ね上げ、悲壮な声で叫んだ。
『続・鬼とチョコレート』
俺の名前は広瀬 和也。大学の2年生だ。
一応の目標は新聞記者になることだ。
一流の記者になって大スクープをすっぱ抜いてみせる。
と言うか…鬼の娘がホームスティしてるってこと自体が大スクープなんだが、
今はそれどころではない。
「ど、ど、ど、どっかっらでも来やがれ桃太郎!お、俺は怖くなんかねぇぞ!
ご、ご、ご先祖様のか、か、仇ぃぃ~」
どこに置いてあったのか、新聞紙をまるめて…金棒の代わりだろうか?
半裸な鬼の娘、小鬼がぶるぶると震え、キョロキョロと警戒している。
「桃太郎なんて来ねーよ。ウソウソ、そうしねぇとお前起きないだろ?
それより、お前さ……パンツ見えてるんだけど?」
「え…なっ…ひゃああああっ!」
コイツを居候として認めて、はや2週間。何か…もう、こういうのにも慣れた。
場所がないんで押し入れを小鬼の寝室として、食事は元々自炊していた俺が引き続き
担当。小鬼は掃除、洗濯、食器洗いを担当させている。
家を守る…という名目で来ているだけに家事はなかなかできる小鬼。
食事も用意してやるぜ…と、一度とさせてみたが、あんまりに酷いので丁重にお断りした。
そりゃあ…血のしたたる牛の生の内蔵を皿もりで出されれば断りたくもなる。
「パンツまで虎柄かよ。まぁ、いいから…ほれ、味噌汁。」
小鬼の前に米飯と味噌汁に鮭の塩焼きにコンビニで買ったハムサラダを置いてやる。
「み、み、見たな!」
タンクトップ姿にパンツな小鬼が涙目になりながら、キッ睨んでくる。
最初は、怖い、殺される…と平身低頭していたが、最近は適当に流している。
いわゆる“慣れ”なんだろう。
「別に。それより早く食え。俺は今日、帰り遅いから。飯はいらない。」
ぶすっとして着替えた子鬼が言った。
「ん……何だ和也、何か予定でもあんのか?」
「……大学の集まりだよ。それよりバイトは見つかったのか?」
「ああ。バッチリだぜ!…っとバイト先からメールが来た。」
小鬼の紅ケータイがヘヴィでメタルな着メロと共に鳴った。
「……鬼がケータイ…」
初めて見た時、俺も驚いた。が…銀行に口座もあるらしい。まぁ
仕送りがあるのだから当然なんだろうケド。
しかもちゃんと二人分の電気、ガス、水道+家賃…一体、どうやって調べたんだか…
「最近の鬼はモバイルなの。時代に適応してねぇーと生き残れないだろ?」
「はいはい……それで、どんなバイトなんだ?」
「ふふ~ん、気になるのか?」
そりゃー角生えた女の子がバイトするんだ、気にもなる。
つーか、どうやって面接合格したんだよ?
「見ろ、これが俺のバイトだー!」
と大げさに掲げた小鬼のケータイディスプレイのメールにはこう書かれていた。
『身体が寂しいの。はやくあなたの肉棒ぶちこんで…レモンハウス』
「お、お、お前っ!ひ、人前でそ、そんな堂々と…」
よっしゃーみたいな感じでガッツポーズしている小鬼に俺は言った。
「あ…なんだ?……って何だよ、このメールは!?」
首をかしげた小鬼がケータイを見て驚いた。
「俺が聞きたいわ!ここでバイトすんのかオマエは!」
「するワケねーだろ!こりゃあ、どっかから来たエロメールだ!
本物はコッチ!」
『サキちゃんへ
今日の欠員のコが急に変更になったので申し訳ないけど、
14:00から入れるパヨ?
店長より』
「ヘイヘイヘイ…何だ、この文末に付けられてる『パヨ』って」
「何だよ、そこの店。皆、語尾に『ニャ』だか『にょ』だか付けてたぞ?
たまに『はきゅ~ん』とか言ってたな。」
「…そこ喫茶店?」
「おお、すげぇな。何で知ってるんだよ!?和也、まさかお前、神通力が使え――――」
「ねーよ。そんなトコのバイトなんてやめとけ。」
「えーなんでだよ。『らむちゃん』とかいう鬼もいたのに~」
……頭が痛い。確かに十分、予想できる範囲だった。もともとそういう属性を持った奴が
経営している店だ。小鬼の角なんかも全然、気にならないだろう。むしろ歓迎しているかも
しれない。
不安だ…不安すぎる。でも今日の大学の集まりは合コン。俺の狙っている先輩だって
来る。クソ…今日こそコクって落とそうとしたのに…どうするよ俺…。
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