六月の某日、市立第三小学校六年三組の教室内では、クラス一番の  
お調子者である新庄幸太郎が、  
「素子、一緒に帰ろうぜ」  
と、近所に住む幼馴染の山下素子に声を掛けた。すると、  
「幸太郎はスケベだから、イヤ」  
と、素子はにべも無く申し出を蹴った。そのつれない返事に、幸太郎は  
苦い顔をする。お断りの理由が、あまりにも辛らつだったからだ。  
「俺のどこがスケベなんだよ!」  
「全部」  
ばたばたと落ち着きの無い幸太郎と、長い髪を揺らしながら微笑む素子  
が言い争いを始めた。とは言え、その内容は短絡的な男の言い分を女が  
軽くいなしているような感が強く、争いというほど荒んではいない。  
「幸太郎、最近あたしをエッチな目で見てない?」  
くくく、と含み笑いを見せつつ、素子が言った。それも、小学生らしからぬ  
艶やかな流し目を付し、僅かに膨らみ始めた胸を大げさに隠すようなポー  
ズで。更には、  
「まあ、最近・・・ここが育ってきましたからね。幸太郎くんの目がいやらしく  
なるのも無理はないかと・・・」  
今さっきまで隠していた胸を、今度は強調させるべく両腕を頭の後ろで組む  
素子。そして背筋を伸ばし、小ぶりな膨らみを幸太郎の鼻っ面に突きつけた。  
 
「お・・・ま・・え・・なあ・・・」  
カタカタと体を揺らし、素子を見据える幸太郎の目に殺気が宿って  
いる。何故、共に帰宅しようと誘っただけで、こうまで侮蔑されなけれ  
ばならないのかと、当たり前の怒気を含んでいた。だが、素子はまる  
で怯む様子も見せず、  
「まあ、一緒に帰って下さいって言うんだったら、帰ってあげない事も  
ないわよ。さあ、あたしのランドセルを持って」  
そう言って、自分の赤いランドセルを幸太郎に向かって放り投げた。  
「さあ、帰ろうか、幸太郎」  
いまだ怒りがくすぶっている幸太郎の肩をぽんと叩き、歩き始める素子。  
そして、その後を幸太郎が追う。  
「なんて奴だ!待て!」  
あまりに身勝手な振る舞いではあったが、奔放な清々しさを感じさせる  
素子の背中を、つかず離れずの間を取り、幸太郎はついていく。ただ、  
手にした赤いランドセルの重みだけが忌々しい。  
「幸太郎、早く来ないと置いて行くよ」  
「ま、待ってくれ」  
軽やかに先を行く素子に急かされ、よたよたと歩く幸太郎は心の中で、  
(あいつ、俺に荷物を持たせたいがために、いちいち食って掛かったん  
だ・・・ちくしょう、してやられた!)  
などと毒づいていたが、今になっては後の祭りである。  
 
 
幸太郎と素子。共に十二歳の誕生日を迎えたばかりの二人は、何を  
するにも一緒だった。家が近く、互いの両親も知己という環境にある  
ので、自分たちが近しい間柄である事に、何の疑いも無い・・・・・ただ、  
これは幸太郎の考え方である。  
(兄妹みたいなもんだ)  
普段から、幸太郎はそう公言して憚らない。それに対し、素子の考えは  
こうだ。  
(姉弟みたいなもの・・かな・・・?)  
どちらも『きょうだい』と読むが、ニュアンスはかなり違っている。しかも、  
十二歳という年齢にあっては、どうしても女の子の方が早熟になる。故に、  
素子は幸太郎を単なる近しい人物とは見ていなかった。  
 
「幸太郎、ちょっと休む?」  
学校を出て十分ほど後、帰途にある公園の前で素子が幸太郎に休息を  
取ろうと提案した。見れば、ランドセルを余計に持たされている為か、幸  
太郎の息が上がっている。  
「そ、そうだな・・・はあ・・はあ・・俺は六年三組一のタフガイだから平気だ  
が、お前は女だから・・・はあ・・・休む方がいいな」  
おおよそ平気とは言いがたい姿だったが、素子の手前、弱気など見せた  
くない幸太郎。それを慮ってか、素子も今ばかりは意地悪を言う気はない  
様子。  
 
「芝生に座ろうか。ひんやりして気持ちいいよ」  
素子が幸太郎の手を引き、芝生へといざなう。すると、ようやく人心地  
ついた幸太郎がふーっとため息をつき、  
「疲れた」  
と言うや否や、青い芝の上にばたんと倒れこんだ。  
「大丈夫?幸太郎」  
倒れた幸太郎の顔を、心配そうに覗き込む素子。荷物持ちをさせた事が、  
心の重しになっているらしく、愛らしい顔を不安な面持ちにさせている。  
「なんて事ないさ」  
素子から真っ直ぐに見つめられた幸太郎は、一瞬驚いたような表情を  
見せた後、ぷいと横を向いた。少し身を起こせば唇が触れてしまいそうな  
ほど互いの顔が近づいたため、反射的にそっぽを向いてしまったのだ。  
だが、素子はそれを怒りからくるものと勘違いし、  
「怒らないで」  
と言いつつ、横を向いた幸太郎の顔へ手を遣り、頬を撫でた。  
「お・・・おい、やめろよ」  
「怒っちゃ、やだよ」  
顔を背けないで──まるで、そうとでも言うように素子の目が語っている。  
「怒ってないってば」  
幸太郎が半身を起こそうとした。自分に覆い被さっている少女の瞳が  
濡れている事に気づき、何やら妖しい雰囲気を感じ取ったからだ。  
 
「素子・・・」  
少女の変貌に戸惑う幸太郎。彼は、若年ゆえに女が濡れた瞳で男を誘う  
事を知らない。それでも、今の素子は明らかにおかしいという事が分かる。  
「声を出しちゃだめだよ、幸太郎」  
不意に素子が幸太郎の手を取った。そして、芝生にある植え込みが自分た  
ちを外界から隠してくれている事を確かめた後、その手をゆっくりと乳房へと  
いざなう。  
「あっ!」  
少女の柔らかな膨らみを、手のひらいっぱいに感じ取った瞬間、幸太郎は  
思わず声を漏らしてしまった。その様子を見た素子はくすっと笑って、  
「どう?幸太郎。結構、大きいでしょ?あたし、クラスの中じゃ一番胸が大き  
いんだよ」  
そう言いながら、乳房を覆う幸太郎の手をゆっくりと上下させた。  
「も、素子・・・やめよう・・・だめだよ、こんな事しちゃ」  
ふくらみの感触が手のひらから脳髄へ達し、幸太郎は狼狽する。素子は  
ブラジャーを着けているらしく、手がうごめく度に化繊がひきつるような衣擦  
れの音がした。  
「いいのよ、幸太郎だったら触っても・・・でも、強く揉むと痛いから、優しく・・」  
素子が幸太郎に対峙するように、芝生へ寝転んだ。互いに身を横たえ、視線  
を絡めあった後、二人は静かに唇を寄せていく・・・が、しかし──  
 
「だ、だめだよ、素子。キスすると、赤ちゃん出来ちゃうぞ!」  
唇まであと一センチ・・・という所で、幸太郎が素子を押しのけた。  
「はあ?」  
これ以上無いムードに水を差された素子が、顔をしかめる。すると、  
幸太郎は真摯な眼差しで、素子を諌め始めた。  
「いいか、素子。俺たちは小学生だ。まだ、義務教育中の身で、子供  
を作ってしまったら・・・」  
とつとつと語る幸太郎。どうやら彼は、キスをすると子供が出来てしま  
うと思っているらしい。  
「あのね、幸太郎・・・キスくらいで、子供は出来ないの・・・」  
半ば呆れ顔で、素子は反論しようとした。しかし、幸太郎の狼狽振りは  
尋常ではなく、明らかに性の知識不足を露呈している。  
「子供を背負って、学校に行くわけには行かないだろ?なあ、素子、理  
性を取り戻すんだ。何といっても、俺たちは小学生・・・」  
顔を真っ赤にして、しどろもどろになりながらも懸命に説得を試みる  
幸太郎。だが、それも無理ない事だった。小学校高学年になると、女子  
は初潮などに対する知識を含め、性教育を学ぶ時間が割り当てられる。  
ところが、男子はその間グラウンドに放り出され、球技などに嵩じるよう  
策されるのだ。結果、十二歳だったら圧倒的に女子のほうが早熟となる。  
 
「お前の気持ちは嬉しいけど・・キスは、まだ早いよ・・・」  
がっしりと素子の肩を掴み、持論を唱える幸太郎。それに対し、素子  
は当然の如く呆れ顔。  
「じゃあ、どうするのよ・・・あたしは、ひっこみがつかないじゃないの!」  
キスをお預けにされた素子が食ってかかった。女に恥をかかす気か!  
とでも言わんばかりに幸太郎へ迫り、睨みつけるのだ。  
「責任を取れ!」  
「いや、そう言われても・・・」  
詰め寄る素子に、逃げる幸太郎。この場合、どうやっても男の分が悪い。  
まして、性的な事象を知る者と知らない者では、上位と下位の差は歴然  
としてしまう。  
「胸、揉んだくせに・・・男って、いつもそうなのよね。やる事だけやって、  
逃げちゃうのよ・・・まさか、幸太郎がそんな男とは知りませんでしたけど」  
長い髪をさっと手で漉き、頭を振る素子。まるで、亭主に逃げられかけた  
恐妻のようだ。  
「いや、面目ない・・・」  
そんな素子の前で、ぽりぽりと頭を掻く幸太郎の情けなさときたら、見る  
も哀れという他ない。彼は僅か十二歳という年齢で、女の尻に敷かれる  
という憂き目に遭う羽目となった。もっとも、この場合は女のしたたかさに  
翻弄されているだけなのだが。  
 
「明日、クラスで言いふらしてやる!幸太郎があたしの胸を揉んだ  
って。きっと、話題になるわよ。鬼畜、乳揉み男とかって」  
人差し指をぴんっと伸ばし、幸太郎の鼻を突付く素子。自分から誘って  
おいて、身勝手にもほどがあるのだが、こんな時、女は本当に自侭にな  
れる。と言うか、それこそが女の本性と言っていい。  
「いや、それだけは勘弁してくれ」  
ぱんっと両手を合わせ、素子を拝む幸太郎。別に、彼が悪い訳ではない  
のだが、すっかり気圧されて小さくなっている所が哀れである。  
「だって、胸・・・揉んでるし〜・・・あ〜あ、幸太郎くんの手の跡がついて  
るんじゃないかしら?ホラ、ここ覗き込んでごらん」  
いよいよ調子に乗った素子が、着ているTシャツの丸首部分をきゅっと引  
っ張り、胸元を覗いて見ろと促した。そして、言われるがままに幸太郎が  
顔を近づけていくと・・・  
「キャー!エッチ!やっぱり、幸太郎はエッチな人だ。ウフフ」  
素子はすっと体を翻し、胸元を覗きこもうとした幸太郎を煙に巻く。目を  
細め、頬を緩める有り様は、もう成人女性のそれと何ら変わらない。早熟  
だけではなく、自然と女の術を身に着けているのだ。  
「今日から幸太郎には、鬼畜、乳揉み男!の他にも、エロ魔人という称号  
も与えられます。アハハ、間違いなく、女子全員から無視されるわね」  
「そんな・・・どうすりゃいいんだよ」  
素子の謀略で、切羽詰った幸太郎は頭を抱えた。小学六年にして、その  
ような不名誉極まるあだ名をつけられてはかなわない。  
 
「そうねえ・・・とりあえずは、うちに寄って貰いましょうか」  
にやりと口元を歪めながら、素子は言う。そうして、幸太郎は全く成す術  
なく、素子の家へ行く事となった。無論、ランドセルは持たされたままで。  
 
「今、誰もいないから」  
帰宅するなり、素子は家人の不在を告げた。  
「おじさんたち、遅いのか?」  
「うん。いつも午前様」  
共働きの両親を持ち、一人っ子である素子がその寂しさを良く口にする  
事は、幸太郎も今までに何度も経験している。だから、冒頭のようにいつ  
も帰途を共にしようと誘うのだが、今日はそれが裏目に出ていた。  
「そこに座って、幸太郎」  
「うん」  
自室に幸太郎を招いてすぐ、素子はカーテンを引き、部屋を薄暗くした。  
夕暮れが近づいているせいもあり、遮光された室内は当然のように闇に  
近くなる。  
「素子、電気を・・・」  
点けようか──と幸太郎が言おうとした時、僅か向こうで衣擦れのような  
音が響いた。それに伴い、闇の中に白い何かが浮かび上がりもする。  
「ん?」  
目を凝らした幸太郎。もぞもぞと蠢く白い何か──それは、素子だった。  
それも、衣服を脱ぎ、今や下着姿となった艶姿の素子である。  
 
「電気点けたら、エロ帝王のあだ名が追加されるわよ」  
闇の中に浮かんだ素子の半裸姿を見た幸太郎は、言葉を失った。  
純白のジュニア用下着の上下が、カーテンの隙間から差し込んで  
いる僅かな光できらめいている。そして素子は足音も立てず、ベッド  
の縁へ腰掛けている幸太郎の傍らへ寄り添っていった。  
「も、素子・・・何を・・」  
ひきつったような笑顔で、ひたりと寄り添ってくる素子に尋ねる幸太  
郎。気がつけば、彼の太ももには少女の手がそっと置かれている。  
「男子ってさあ・・・性教育の授業・・・無いんだよねえ・・可哀想に」  
素子が片足を幸太郎の膝上へ預けながら、首へ手を回した。傍から  
見れば、蛇が獲物に巻きつくような絵柄である。  
「だから、キスしただけで赤ちゃんが出来ちゃうと思ってたんだ・・・  
ウフフ・・・幸太郎ってば、可愛いね」  
「ああ・・・や、やめろ・・素子」  
幸太郎の首筋に唇を這わせつつ、素子は手を艶かしく這わせた。  
そして、むずがる幸太郎の股間の前で指を走らせると、  
「仕方が無いから、あたしが教えてあげるよ・・・赤ちゃんの作り方」  
そう言って、ズボンのジッパーを優しく下ろしたのである・・・・・  
 
「これが、幸太郎君のオチンチンですか。へえ〜・・・」  
ベッドへ幸太郎を寝かせ、パンツの中から男根を取り出した素子は、  
してやったりの笑顔を見せていた。半剥けになった男根に指を絡め、  
きつい性臭をものともせず、余った包皮を悪戯に剥きつけようとする。  
「素子・・・やめてくれ・・」  
幼馴染が少女から女へと変わっていく様を見せつけられた幸太郎は、  
今にも泣き出しかねない状況だった。異性の指に性器を弄られると  
いう事は何とも情けなく、また罪悪感を伴わせるからだ。しかし素子は、  
「幸太郎だって、あたしの胸揉んだでしょ・・・これで、おあいこよ」  
と、やめる気は無さそう。更には、  
「幸太郎も触っていいよ・・・胸も、お尻も」  
そう言って、彼と同じくベッドへと身を投げる有り様だった。  
 
「あのね、幸太郎。オチンチンから出る精子・・・ってやつをね、女の子の  
中に入れると、赤ちゃんが出来るんだって。知ってた?」  
薄暗い部屋の中で、幸太郎の股間に顔を埋めながらそんな事を言う  
素子。指はしっかりと男根の根元を包み、先走った淫汁にまみれている。  
「し、知らない」  
「だろうね。女子が性教育の授業やってる時、男子は外でサッカーやって  
たもんね。知る訳ないか」  
予想通りだった幸太郎の答えに満足げな素子。そして、男根を指で弄り  
つつ、更にはこう呟いた。  
 
「あたし、幸太郎の赤ちゃん産んであげる」  
素子は決意めいた眼差しで、指の中で暴れ始めた男根へ唇を寄せ  
ていく。そして、目を瞑ったかと思った瞬間、  
「ふ・・・ん」  
と鼻を鳴らし、幸太郎の半剥け男根をすっぽりと咥えてしまった。  
「ああ!」  
異性の口内に男根を埋めた衝撃で、仰け反る幸太郎。温かなその  
場所は、少年が始めて知る官能の地であった。  
「んん・・・ん」  
ずずっと唇をすぼめ、男根を貪る素子。そうして、二度、三度と頭を  
振った後、男根から唇を離し、  
「クラスの女子たちから聞いたんだけど、こうやって精子を出すらし  
いよ。ふふ・・・」  
と、したり顔でのたまった。  
「でも、本当に赤ちゃんが出来たら・・・どうするんだよ?」  
気勢を上げる素子とは反対に、幸太郎は不安で押しつぶされそうだ  
った。性に疎い身ゆえに、素子よりも理性が働いているらしい。  
「その時は、一緒に育てましょう。ふふふ、幸太郎とあたしの赤ちゃん  
だったら、絶対可愛いよ」  
幸太郎の思いとは裏腹に、素子は今の状況を楽しんでいた。この幼  
馴染が自分の手中にある事が、当たり前に嬉しかったからである。  
 
「だから、早く精子出して。あたし、全部飲むから」  
男根を擦り続けながら、目を輝かせる素子。どこで仕入れた知識なの  
か、彼女は精飲によって子が成されると思っているらしい。  
「素子・・・そうまで・・・俺の事を」  
幸太郎も事ここに至っては、逃げようとは思わなくなっていた。彼も、男  
根を擦っているこの幼馴染が嫌いな訳ではない。そこへ、素子はとどめ  
の一言を放つ。  
「うん・・・だって・・・好きだから」  
うつむき、頬を真っ赤にして言った。今、ようやく長年にわたって燻らせて  
いた想いを、素子は告げる事が出来たのである。そして、幸太郎もそれに  
応えるべく呟いた。  
「俺も・・・好きだよ。素子」  
「本当?嬉しい!」  
相思相愛と相成り、ぱあっと割れんばかりの笑顔となった素子。そうなれ  
ば、男根を擦る指先にも力が入る。少女は再び唇を男根へ寄せ、愛を紡ぐ  
ためにその身を捧げていこうとした。  
「精子が出る時って、おしっこしたくなるような感じらしいから、間違えて我  
慢しちゃだめよ」  
それだけ言うと、素子はぱくりと男根を咥え込む。そして、闇は更に深まり、  
二人の行為を覆い隠していった。  
 
「ああ・・・本当におしっこがしたくなってきた・・・」  
男根を咥えてもらってすぐに、幸太郎が情けない声を漏らした。腰を  
僅かに浮かせ、尿意にも似た射精の予兆を感じ取っているらしい。  
「ん・・・んふ・・」  
それを聞いた素子が、上目遣いに幸太郎を見遣った。その眼差しに  
放精を乞う健気な心根が窺える。勘違いとはいえ、そうする事で子を  
成せるという思いを含んだ、真摯な表情であった。  
「ああ、何か出るッ!」  
幸太郎は腰を浮かせ、肛門を締める動作によって初射精を試みた。  
男根が小用以外にも使い道がある事を知る貴重な一瞬を、少年は  
幼馴染の口中で確かめる事が出来たのである。  
「ふうッん・・・あん・・ん・・」  
男根が吼えたその刹那、素子は舌の先でほろ苦い味を感じ取った。  
次いで、生臭い男液の匂いが鼻を突く──幸太郎の精液は恐ろしく  
粘度に優れ、また放出された量も多かった。しかし、素子はそれらを  
ごくごくと飲み下していく。  
(これで、幸太郎との赤ちゃんが出来るんだ!)  
無邪気と言えば無邪気。しかし、反面女の業のような物さえ感じる  
精飲という行為──素子はこれで愛の結晶が生まれると信じ、放た  
れる男液の全てを飲み干した。  
 
「ふーっ・・・」  
あらかた精液を飲み終えた所で、素子は唇の端を指で拭き、口唇愛撫  
の名残汁さえもこぼそうとはしなかった。その傍らで、放精を終えたばか  
りの幸太郎が心配そうに幼馴染を見つめている。  
「大丈夫か?素子」  
「平気よ。精子、全部飲んじゃった」  
幸太郎に案じられると、素子はぺろりと舌を出し、微笑んだ。邪気の無い、  
少女の笑顔である。それは、とても精飲行為をしたようには見えないごく  
普通の十二歳の微笑みだった。  
「赤ちゃん・・・出来るかな?」  
「さあ・・・でも、出来たらいいな」  
へへっと鼻を鳴らす素子と、頭を掻きつつ答える幸太郎。そうして二人は  
自然に抱き合い、ベッドの上でもつれ合う。今しがたまで行っていた事は、  
淫蕩な物であるという自覚があっても、何故か不思議なくらいに笑いが  
止まらない幸太郎と素子──  
「あはは!精子が出たときの、幸太郎の顔ったらなかったわ」  
「よく言うぜ。精子を飲んでる時の素子の顔だって、見ものだった」  
互いの思いが通じた嬉しさと、照れくささが入り混じった空間。恥ずかしい  
けれど気持ちいい。そんな空気が二人を包んでいる。そして、しばらく時  
が流れた後、不意に七時を知らせる時報が鳴った。  
 
「もう七時か。そう言えば腹が減ったよ」  
幸太郎が言うと、  
「あたしは満腹よ。だって、誰かさんの精液をたくさん飲んだからね」  
素子はちょっぴり眉をしかめて答えた。勿論、責めている訳ではなく、  
おふざけ混じりで言っているのだ。言うまでも無く、幸太郎もそれは  
理解している。と、その時、  
「そう言えば、キスじゃ子供は出来ないんだったな」  
向かい合う素子の肩をそっと抱き、幸太郎はキスを求めた。愛を知れ  
ば、自然と欲する当たり前の行動である。無論、素子は拒まない。  
「ええ、だから、いっぱいキスして」  
幸太郎の背へ手を回し、自らも唇を寄せ目を閉じる素子。こうして、まだ  
幼いながらも二人は愛を紡ぎ、幼馴染から少しだけ成長した姿となる。  
もっとも、幸太郎、素子共に望んでいる、子を成すという偉業が果たされ  
るのは、まだまだ先の話ではあるのだが・・・・・  
 
 
おしまい  

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