「だあああっ、また駄目だった、振られたぜチクショー!」
「通算14人目お疲れさま。はい、労いのクッキー」
「ありがとよ。いっつも美味いなぁー。お前の作ったクッキーが俺の明日への活力だ。
15人目も頑張るぜ」
「もう当てがある訳?」
「昨日の晩にコンビニ行ったら可愛い子がいたんだ!春休み中にやるぜ今度こそ!」
「うんうん、春は出会いの季節だもんね。別れの時期でもあるけど」
「不吉なこと言うなよ〜。しかし、それしきで挫ける俺ではないぞ。伊達に数はこなしてないからな」
「そう、クッキー作ってあげるから。安心して行っといで」
「これさえあれば玉砕も何も恐れるものはないっ。もう1個もらう」
「全部持って行っていいよ。……ほら、口のまわりに付いてるじゃない」
「あ、払うな、もったいないだろ」
そう言うとあいつは私の指に付いたかけらをぺろりと舐めた。
「お前の作ったもんはぜーんぶ食べてやる。捨てるなんて出来るか」
「はいはい。この私の応援する気持ちを無駄にしないように、気ぃ張ってよ」
「おう!次こそは笑って報告してやるからな、じゃーな」
気取られないように呆れる振りをして、残りのクッキーを押し付ける。
あいつはぶんぶんと手を振って走っていった。
唇が触れた指先がいつまでも熱かった。
「相変わらず自分の行動が振られる原因とは、まぁーーーーったく思っていない訳ね」
「自分で見つけるのが大切でしょ、人から教えてもらったって意味ないもの」
「あんた達を知ってて、恋人じゃなくただの幼馴染みと思う人間は、誰もいないって言うのにねぇ」
「お互い恋人同士なんて思っていないから」
恋人じゃ足りない、もっとずっと大切な相手だから。あいつは。
「いい加減目を覚まさせてやったらどう?このままじゃいつか十番台越えるわよ」
「本人のしたいようにさせるのが一番でしょ」
「そうやって都合のいい女してるから、いつまでもふらふらしてるのよ。
案外遊ばれてるかもよ」
「あはは、そんな甲斐性ないって」
たぶん両親の次に物心ついた時から、あいつを認識してる。
あいつが何を考えてるか、誰を見てるか、たぶん自惚れでも、わかってるつもり。
「本当に盗られたら泣くのはあんたなんだからね。慰めてはあげるけど、そうなったら遅いよ」
「その時は、その時」
「そんだけ信じてるのかも知れないけど、……迷惑な二人よね」
「ごめんね」
あいつが戻ってくる場所は私の隣だから。
迎える私を信じてくれてるから。
今日は帰りに本屋へ寄って、お菓子の本を探そう。春休みだから、結果は早いかもしれない。