寂れた商店街のはずれにあるこれまた寂れたコーヒーショップの昼下がり。
さっきまでカウンターにいたはずの近所の八百屋のおじさんがいつの間にか消えていた。
なんというミステリー! 意外に身近にトワイライトゾーン!! ……なわけはなく、単に居
眠りこいてただけなのはついてた頬杖ががくっときて目覚めたことからも明らかだ。
そのわりに久しぶりの顔が眼前に迫っているのは一体どういうことなのか? 困惑しつつも
まばたき数度。消えない。幻ではないらしい。驚いてはいてもつい出てしまう欠伸はとめられない。
「ふわぁふ〜〜〜」
相手はがくりと肩を落としぼそりといった。
「ったく、お前なぁ〜、目ぇあけたまま寝るなよ」
ほっとけ人の勝手だ。とりあえず商売物のコーヒーで眠気覚ましをはかろうと立ち上がる。
「をぃ、こら、無視すんな」
そういった声に幾ばくかの焦りが含まれているのは気付かないふり。
「ドチラサマデシタッケ?」
振り向いていいかえすと途端に怯んだ顔になる。ビバ、積年の刷込効果! しかし相手はすぐに
「タカシサマデスヨ」といいかえす。
……ちっ、年々立ち直りが早くなりやがる。
「何の用?」
確かあんたとは喧嘩してそれっきりだったような気がするんですけど?
と、目の前にぐいと雑誌が突きつけられた。ご丁寧にもとあるページを広げて指し示されたのは
某週刊少年誌のまんが賞発表コーナー。佳作の項にひっそりとささやかに、気の利いたペンネー
ムでもなんでもない“タカシサマ”の本名が印刷されていた。
「ふーん」
二杯分のコーヒーをいれるために背を向けると、タカシがいう。
「それだけかよ、他に何かいうことあるだろっ?!」
「わーすごーいー」
振り向きもせずに棒読み。
「くそっ!」
タカシは雑誌をカウンターに放り投げると振り向いた私に向かって涙目でいいはなつ。
「いつか絶対、お前にすごいっていわせてやるからなっ、絶対にいわせるからなっ! 覚えてろよっ、
その時になってから褒めたって遅いんだからなっ!!」
走り去ろうとしてけっつまづく、その後ろ姿に声をかけたがタカシは奇声を発していってしまった。
「別に置いて行かなくてもいいのに」
雑誌を取り上げるとカウンターの下の戸棚に放り込む。そこには既に同じ雑誌が山積みになって
いるのはここだけの秘密。