私は赤ずきん。  
山の麓の、小さな村に、お父さんとお母さんと、3人で暮らしているの。  
私には、大好きなおばあさんがいるの。  
一人で森の中で住んでいるおばあさんのために、一日に一度、  
いろいろとお手伝いをしに行ってあげているのよ。  
 
いつも焼きたてのパンと瑞々しい果物、それから頼まれていたワインやチーズを持って  
森の中へ入って行くの。  
すると、森に入ったすぐのところで、岩陰からおおかみさんがのっそりと姿を現すのよ。  
おおかみさんはいつもここで、私が来るのを待っているの。  
 
おはよう、おおかみさん。今日も良いお天気ね。  
私が挨拶をすると、おおかみさんはふさふさのしっぽを振り、目を細めて応えてくれる。  
もちろん、おおかみさんはしゃべれないわ。でも、私たちは視線で会話しあうの。  
それに、おおかみさんは人間の言葉が分かるのよ。すごいでしょ?  
 
私たちは一緒に仲良く森の中を歩いて、大きな樫の木の切り株のあるところに来ると、  
少し寄り道をするの。  
道をそれて藪をかいくぐり、森の奥に入っていくと、狼さんがねぐらにしている洞窟が  
あるの。私たちはそこで少しの間、二人きりの時間を楽しむのよ。  
おしゃべりしながら、私がおおかみさんの毛皮を撫でてあげたり、  
おおかみさんが私を舐めてくれたりするの。  
 
私がふさふさの毛皮に指を入れ、くしゃくしゃと掻いてあげると、  
おおかみさんはうっとりとして、とても気持ちよさそうにするわ。  
 
おおかみさんは私を、それはそれは丁寧に舐めてくれるの。  
最初はほっぺたや、首筋を。  
私が白いブラウスのボタンをはずして前をはだけると、柔らかくふくらんだ胸のまるみや、  
その先のピンク色に色づいた尖りを、長い舌を使って舐めるの。  
おおかみさんの舌は、暖かくて柔らかくて、とても気持ちがいいのよ。  
 
うっとりしていると、細長い鼻先がスカートの中に潜り込んでくる。  
おおかみさんは私の白いふとももを舐めて、やがて下着を口で銜えて下ろすと、  
今度はそこも舐めだすの。  
       
脚と脚の間におおかみさんは鼻先を突っ込み、厚みのある長い舌を  
滑らかに動かして、私の敏感な肉のひだを幾度も舐め上げていく。  
あふれ出した蜜をぺちゃぺちゃと音を立てておおかみさんに貪られて、  
私のそこはぐしょぐしょになってしまう。  
 
そのうち私は我慢できなくなって、四つんばいになっておおかみさんを誘ってしまうの。  
私がお願いすると、おおかみさんはのっそりと動いて、  
私の背中に覆いかぶさってくるのよ。  
 
スカートを捲り上げてさらけ出したお尻に、おおかみさんのふさふさの毛が触れて、  
くすぐったいの。  
でも、すぐにそんなことはどうでも良くなってしまう。  
おおかみさんが自分の持っている大きくて、硬くて太いものを、  
私が疼いて仕方がない所に入れてくれるから。  
 
ゆっくりと、おおかみさんのものが私のなかに入ってくる。  
その瞬間、私は唇から、熱い吐息を洩らすのよ。  
だって、おおかみさんは、私の中を、おおかみさんでいっぱいにしてしまうんですもの。  
 
おおかみさんはゆっくりと、でも、だんだんと激しく腰を突き動かしていく。  
背中に覆いかぶさるおおかみさんの荒い息遣いを耳に感じながら、私は耐え切れなくなって、  
甘い喘ぎをあげてしまう。  
とろとろに蕩けているところをおおかみさんの固いので擦られて、気持ちよくて  
気が狂いそう。  
おおかみさんが後ろから強く突き上げるたびに、痺れるような甘い快感が  
体中を駆け巡るのよ。  
 
私はおおかみさんに、人間ではなくてケモノにされてしまうの。  
それも、さかりのついた雌のケモノに。  
 
ああ、おおかみさん、気持ちいいの。  
 
もっと激しく突いて。……お願い、奥まで!!  
 
私はそう叫びながら、何度もいってしまうのよ。  
おおかみさんはそうやって私をさんざん襲った後に、  
白いものをたくさん中に出してくれるの。  
       
その瞬間も私は好きよ。  
私はおおかみさんのものだもの。  
 
おおかみさんを、とてもいとおしく感じてるの。  
 
 
 
まあ、私が悪い狼に騙されているですって?  
狼は、お前のその若くておいしそうな身体だけが目的なんだ、と言うの?  
本当に私のことを大切に思っているのなら、獣の分際で、人間に手を出したりしない  
ですって?  
 
それは違うわ。  
私とおおかみさんがこういう関係になったのは、あることがきっかけになったからなの。  
 
*  
 
五年前、最初に会ったときから、おおかみさんはとても紳士だったわ。  
あれは、初めて一人で森のおばあさんのところにお使いに行く日だった。  
森の中でおおかみさんに会ったの。  
 
おおかみさんはふつうの狼よりも、ふた周りほど身体が大きくて、  
尖った大きな耳をしていて、大きな牙がぎらぎらとしているの。  
大人たちが噂をしている、最近森でうろつきはじめた化け物狼だ! と一目で直感したわ。  
 
そのとき私は恐怖のあまり逃げ出す事もできずに、その場にしゃがみこんで  
泣き出してしまったの。  
もうおしまいだわ。私、食べられてしまうんだわ、ってね。  
 
でも、おおかみさんは襲ってこなかった。  
泣いている私のそばで、倒れてしまっていた籠を鼻先でちょい、と器用に元に戻して、  
涙でぐしょぐしょになった私の頬をぺろりとなめて、小さな声でクゥ、と鳴いたのよ。  
その鳴き声があまりにも可愛くて、私はびっくりして顔を上げたの。  
そうしたら、おおかみさんが「ころがった中身を籠にもどしなよ」と言うような顔で  
私の顔を覗き込んでいたわ。  
       
その瞬間に、私はおおかみさんがちっとも怖くなんかなくなってしまった。  
 
だって、おおかみさんの灰色の目は、温かくて、とても優しそうだったから。  
 
その日から、私たちは友達になったの。  
おおかみさんは、毎日おばあさんのところにお使いに行く私の送り迎えを  
してくれるようになったわ。  
 
お花畑でお花を摘んだり、小鳥さんたちに餌をあげたりしているときも、おおかみさんは  
ずっとそばにいてくれるの。  
森の中には危険が潜んでいて、時々、お腹をすかせた狼や、盗賊なんかが現れるけど、  
おおかみさんはそいつらをみんな追い払ってくれるのよ。  
私はおおかみさんに守られて、安心して大好きなおばあちゃんのところに  
通う事ができたわ。  
 
私がおおかみさんを撫でてあげると、おおかみさんはうれしそうに目を細めるの。  
だけど、おおかみさんが私を、という事は一切無かった。本当よ。  
 
 
 
そんなある日、ひどい事が起こったの。  
村の権力者の息子で、ピーターという男がいるのだけど、  
そいつが市場で買い物をしている私を無理やり馬車に乗せて、さらったの。  
森についたら馬車から引き摺り下ろされて、ピーターは私を犯そうとしたのよ。  
しかもほかに二人も手下を連れて。最低よ!  
 
私は必死で抵抗をしたわ。  
でも、一人に両腕を、もう一人に足を押さえつけられて、  
どうにもできなくなってしまったの。  
 
ピーターはにやにやしながら私の服をびりびりに引き裂いて、露になった胸を掴むと、  
乱暴に揉みしだいて弄んだわ。  
そして、こう言ったの。  
俺の女にしてやるんだから、喜べ。  
       
ピーターは私の下着をナイフで切って、剥ぎ取ってしまった。  
私は必死で脚を閉じようとしたわ。  
でも、三人がかりで無理やり脚をこじ開けられて、みんなで私のそこを覗き込んだのよ。  
いやらしい目つきで。  
 
私は泣いて叫んだわ。  
嫌よ、あんた達なんか……助けて! おおかみさん!!  
 
すると、ものすごい勢いで大きな塊が飛び出してきて、ピーターに激突したの。  
 
その勢いで他の二人も弾き飛ばされて、私は一瞬にして自由になれたわ。  
その塊はおおかみさんだった。  
おおかみさんが、ピーターの肩に噛み付いていたの。  
 
ピーターはナイフを振り回したわ。  
それが何度もおおかみさんを傷つけていたけど、  
おおかみさんがピーターの腕に噛み付いて、そのナイフを払い落とした。  
 
唸り声と悲鳴とが交じり合い、ピーターとおおかみさんは地面を  
ごろごろと転げまわったわ。  
おおかみさんはいつもの優しいおおかみさんじゃなかった。  
灰色の毛は逆立ち、牙をむいて何度も激しい唸り声をあげて敵に襲い掛かる。  
険しい顔つきの、怖くて恐ろしい、一頭の大きな雄の狼だった。  
 
おおかみさんの姿は、怒り狂っているという言葉がぴったりだった。  
手下の男達もナイフをもっておおかみさんをやっつけようとしたけど、  
おおかみさんには敵わなかった。  
 
三人が逃げ出して、私はおおかみさんにかけ寄ろうとしたわ。  
でも、おおかみさんはそんな私に、来るな! と吠えたのよ。  
 
身体を低くして、牙を見せるおおかみさん。  
まだ、ものすごく興奮しているみたいだった。  
 
何度も近寄るなと威嚇されるように唸られて怖かったけど、  
私はおおかみさんの言うことを聞かなかった。  
          
だって、おおかみさんは三人に勝ったけど、同時にナイフでたくさん身体を  
傷つけられていたもの。  
大きくて立派だった耳も、左耳が根元からざっくりと切り落とされて、  
そこから流れた血が顔を汚して、喉元までもを赤く染めていたわ。  
 
怒られてもいい、噛みつかれても構わない、と思ったわ。  
早くおおかみさんの気持ちを宥めて、傷の手当てもしてあげなくちゃ……。  
 
そう思って狼さんに手を触れた時だった。  
突然、おおかみさんは私を地面に押したおしたの。  
倒れた私の身体の上に、おおかみさんが乱暴に乗ってきたわ。  
 
あまりに突然の出来事で、何が起ころうとしているのかわからなかった。  
でも、おおかみさんの目に射抜かれて、私は身動きが取れなくなってしまった。  
おおかみさんの瞳は普段の優しい灰色じゃなくて、さっき男達が振り回したナイフのように  
鋭くて、ぎらぎらと光っていた。  
 
おおかみさんが私にはじめて見せた、本能を剥き出しにした狼の目。  
その目をおおかみさんは私に向けていたの。  
 
おおかみさんが私のお尻に腰を擦り付ける。  
何か硬いものが肌に当たって、私は尋常じゃない気配に息を飲んだわ。  
 
しばらくぎこちなく身体を揺すって、探るようにしていた。  
はぁっ、はぁっ、と生暖かい獣の息が、絶えず首に吹きかかる。  
狙いが定まると、おおかみさんは私の背中に体重をかけながら、自分のものを  
私の中に埋め込んできたわ。  
 
身体が壊れてしまうかと思った。  
熱いものが、痛みを伴って、強引に私の中を貫いていくの。  
 
おおかみさんははじめから力強い腰使いで動き始めたわ。  
出し入れされて喘ぐ私の肩を、おおかみさんがなんども甘噛みしてくる。  
        
頭の中が朦朧とする。  
私じゃおおかみさんを止めることができないんだわ。  
 
でも、そう思いながら、私は心の中に存在する確かな気持ちに気がついたの。  
背後から激しく突き上げられながら、  
私はいつのまにか、おおかみさん、おおかみさんとうわごとを言っていたわ。  
 
───あぁ。  
いいのよ、おおかみさん。  
おおかみさんになら、私、どんなことをされてもいいんだって、今わかったの。  
 
 
 
すべてが終わった後、おおかみさんはしまった、という顔をしていたわ。  
その目は、いつものおおかみさんの目に戻っていた。  
私の身体から離れると、そばに座って、申し訳なさそうにうなだれてしまったの。  
 
私はおおかみさんに手を伸ばした。  
おおかみさんは私の手が毛皮に触れると、びくっと身をすくませたわ。  
まるで、罰を受ける前のこどものように。  
だから、私はおおかみさんを抱き締めたの。そして、こう告げたわ。  
 
私は、おおかみさんのことが好き。  
私たちはこれからもずっと一緒よ。  
 
私がそういうと、おおかみさんは私に身体をすり寄せて、涙を流したわ。  
おおかみだって泣くのよ。本当なんだから。  
 
*  
 
もっとたくさん愛し合いたいけど、そろそろ行かなくちゃ。  
洞窟の中。敷き詰めた草の上で寝そべりながら、私はそう言って  
おおかみさんの頭を撫でた。  
 
左の耳が無いのは、昔あんな事があったからよ。  
他にも、おおかみさんの身体にはたくさんの傷があるの。  
私はそれをすべて知っているわ。だって、私が治してあげているんですもの。  
       
洞窟から出て、再び森の中の道を歩いていると、突然、視界の端に  
何かが動いたのに気がついた。  
生い茂る木々の向こうに見え隠れした、何か。  
おばあちゃんの家のほうから、村のほうへと走り去っていく……  
 
あれは、ピーターだわ。  
 
そう思ったとき、鼻をひくつかせたおおかみさんが突然低く唸りだし、  
必死で私に背中に乗れ、と訴えだした。  
 
何かあったの?  
 
まさか……  
 
嫌な胸騒ぎがした。  
私がおおかみさんの背中に乗ると、おおかみさんは猛然と走り出した。  
おばあさんの小屋に向かって。  
 
ああ、おばあさん、何事も起こっていませんように!  
 
おおかみさんは小屋の前で私を振り落とすと、そのまま扉を突き破り、  
中に飛び込んでいった。  
中から、けたたましい犬の鳴き声があがったわ。  
 
おばあさん!  
 
私も立ち上がって、急いで小屋に駆け込んだ。  
小屋の中には、大きな猟犬がいた。2頭。  
 
わたしが目にした時には、おおかみさんが黒い犬を前足で押さえつけて、  
喉に喰らいついているところだった。  
その犬がぐったりとすると、今度はベッドの上にいたもう一頭にも襲い掛かっていく。  
 
二頭の大きな獣がベッドから大きな音を立てて転がり落ちる。  
次の瞬間、犬の悲鳴が上がり、すぐに静かになった。  
       
私はおばあさんのベッドに走りよったわ。  
ああ、なんてひどい!  
おばあさんにはたくさんの噛み傷があって、体中が血に染まっていた。  
 
おばあさん、しっかりして、目を開けて! と言っても、  
おばあさんはかすかに目を開けただけで、声も出せないみたいだった。  
犬を倒したおおかみさんが心配そうにベッドを覗き込んだとき、  
突然、背後で誰かの声がしたわ。  
 
振り返ると、開け放たれた扉のところに、村で一番体の大きい木こりが立っていた。  
その後ろに、何人もの村の男達。  
さらにその後ろから再びさっきの声がした。  
 
赤ずきんのばあさんを襲ったのは、その人食い狼だ! 殺しちまえ!!  
 
男達が入り込んで、私たちはあっという間に引き離されてしまったわ。  
おおかみさんは網で捕らえられ、男達に丸太で何度も殴りつけられた。  
 
やめて! やめて! おおかみさんは人食い狼なんかじゃないわっ  
おばあさんを襲ったのは、おおかみさんじゃない!!  
 
私は手を掴んでいた男の手を振り解くと、ぐったりと床に倒れているおおかみさんに  
駆け寄って、その身体に覆いかぶさったわ。  
 
ピーターが私たちを見下ろして、せせら笑った。  
 
何を言っているんだ。  
お前、狼とやりまくって頭がいかれちまったのか?  
その真っ赤な血のついた口を見てみろ、それが証拠さ  
 
違うわ! おおかみさんはおばあさんを守るために、その犬達を噛んだの。  
おばあさんを襲ったのは、あなたの犬じゃないの!  
ピーター、私見たわ。  
あなたが森の中を、慌てて逃げ帰っていくところを!  
 
私がそう叫ぶと、ピーターは顔を真っ赤にして、目を吊り上げた。  
       
彼は私を足で蹴り、こう言い放ったわ。  
 
この女、人間より狼のほうがいいなんて言っているんだぜ。  
こいつは淫乱な、気狂い魔女だ!  
こいつも人食い狼と一緒に殺しちまえっ。  
 
木こりは私を見て躊躇っていたけど、村の権力者の息子の、さあ早く!という  
がなり声に斧を振り上げた。  
 
私はおおかみさんを強く抱き締めた。  
おおかみさんはもう首を持ち上げる力も残っていないようだった。  
灰色の優しい目が、心配そうに私を見ている。  
 
その目は、離れるんだ、と告げていたけど、私は首を横に振って  
おおかみさんに微笑みかけたわ。  
 
おおかみさんを離したりはしない。  
ごめんね、おおかみさん。  
私、守ってもらってばかりで、あなたのこと一度も守ってあげられなかった。  
でも、死ぬときは二人一緒よ。  
おおかみさんのいない世界なんて、私には何の意味も無いもの。  
 
──ああ、神様。  
私は祈り、おおかみさんの胴体を抱きかかえた。  
──願わくば、死した後二人の魂が決して裂かれる事がありませんように。  
 
 
 
その時、不思議な事がおこったの。  
 
おおかみさんの身体が、真っ白く光りはじめた。  
その光は、だんだんと強くなって、やがて細かな光の粒が  
たくさんおおかみさんの身体から飛び散って、辺りに降り注いでいった。  
その光があまりにもまぶしくて、やがて、目を開けていられなくなったわ。  
 
私はおおかみさんをしっかりと抱き締めたまま、目をつぶった。  
       
誰一人、目を開けていられなくなるほどの強い光が、  
おおかみさんの身体を包んでいく────  
 
 
 
光がだんだん収まって、私は名前を呼ばれて目を開けたわ。  
私がしがみついていたのは、おおかみさんじゃなかった。  
 
見たことも無い若い男の人が、私の腕の中にいたの。  
その人は、うれしそうに私を見て、微笑んでいた。  
私は無意識に呟いていたわ。  
 
おおかみさん…、と。  
 
その見知らぬ人が、おおかみさんだと、私はすぐに分かったわ。  
私をみつめる優しい灰色の瞳は、間違いなくおおかみさんのものだったもの。  
そして、その人の左耳は、私を守った時のままに欠けていた。  
 
不思議な光は、他にも奇跡を起こしていたわ。  
おばあさんは身体の傷が癒えて、ベッドから身体を起こしたの。  
そして、こう言ったわ。  
私を襲ったのは、ピーターが連れてきた2頭の犬だよ、って。  
 
村人達の視線がいっせいにピーターに注がれる。  
誰もが冷たい目で彼を見たわ。  
 
ピーターはいくつかの捨て台詞をはいて、あわててその場から立ち去っていった。  
二人の手下を引き連れて。  
 
もう、誰も私たちを責める者はいなかった。  
 
       
 
*  
 
おおかみさんは、貿易商を営む、都の商人だったの。  
ところが、あまりにもお金儲けに夢中になりすぎて、人の心さえもお金で操れると  
思い込む人間になってしまって、港からの荷を都に運んでいる途中に、  
森の妖精の怒りを買い、狼の姿に変えられてしまっていたのですって。  
 
呪いを解くには、おそろしい獣の姿をしたおおかみさんに、命に代えてでも愛を  
捧げてくれる女性の強い思いが必要だったのだと、おおかみさんは話してくれたわ。  
 
 
 
おおかみさんは服を着て、髪を整え、靴を履くと立派な青年になったわ。  
私の両親に挨拶をして、私は村を出て、おおかみさんの家に一緒に行く事になったの。  
 
都のおおかみさんのお家では、商売を切り盛りしていたおおかみさんのお父様を  
はじめとして、たくさんの人が私たちを温かく迎えてくれたわ。  
みんなはやさしいおおかみさんを見て、彼は人が変わったようだ、と驚いていたわ。  
 
それから月日がたって、今ではおおかみさんは若旦那様と呼ばれて、  
私は若奥様、なんて呼ばれているのよ。  
二人で澄ました顔をして、着飾ってパーティーに出る事もあるの。  
でも、私たち、中身はおおかみと赤ずきんのままで、あのころからちっとも  
変わっていないのにね、とこっそりと笑いあっているのよ。  
 
そんなわけで、幸せに暮らしている私たちなのだけど、  
誰にも言えない秘密がひとつだけあるの。  
 
それは、おおかみさんはあまりにも興奮しすぎると、今でも狼の姿に変わってしまう、  
ということ。  
 
といっても、ベッドの上で愛し合っている時しかそうならないし、  
それを見ているのは私だけだから、別にいいんだけど。  
 
でも、若旦那様の寝室のベッドの上で、若奥様が狼にのしかかられて襲われているなんて、  
とてもじゃないけど、人には知られちゃまずいわよね。  
 
だから、この話は秘密ね。  
 
 
 
 
(赤ずきんの告白 おしまい)  
 
 

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