年度末を迎えて慌ただしいさなか、新年度には新しいメイドを雇いいれようかと  
深い仲のメイドに相談してみた。  
 「みんな、それなりに忙しいようだし。 一人か二人新しい人を雇おうかと思うのだが、どうだろうか?」  
 「あら、旦那様。 私たちのお世話に行き届かないところがございましたか?  
  申し訳ございません、みなに申し伝えておきます」  
 
発現が不用意だったか? いらぬ誤解を招いたようだ。  
ウチのみんなは実に良くやってくれている。 不意の来客や知人、友人を招いたパーティでも手抜かりは無い。  
少ない人数でも、私に恥をかかせぬよう細かなところまで気を配ってくれている。  
誤解されたまま話を伝えられてはみんなに申し訳ない。  
 「いやいや、ウチの娘達は良くやってくれているよ。 でも、そのかわり休む暇も無いだろう?  
  キミにしても、昨年は一日も休んでいないじゃないか。 たまの連休だって他の娘に休ませているし。  
  私がシフトを組んでも気がついたら後ろに立っているし」  
 「だって……」  
 
いつもはハッキリものを言う女性が口ごもる。 耳まで赤くして。 まるで少女のように。  
 「ん?」  
 「だって、私の目の届かないところで旦那様と他の娘を二人っきりにはできませんわ」  
 「な、なにを……」  
 「私だって、旦那様と関係を持つまでに何年掛かったかお分かりですか?  
  やっと、やっと結ばれたっていうのに……」  
 「いや、なあ、まあ、その……」  
 「それを……新しい娘を雇うだなんて。 あんまりですっ。  
  出来ることなら、いま当家にいる他の娘たちですら追い出して旦那様と二人っきりで暮らしたいというのにっ」  
 「それは、それで問題があるでしょうに」  
 「だから、我慢しているのですよ。 旦那様に悪い虫が着かない様に見守りつつ、旦那様のお世話をする。  
  それが、私の幸せなんです」  
 
言い切られてしまった。 しまった、これ以上言う言葉が無い。  
こういうときは  
 「しかし、キミの体が心配だ。 体調を崩してもキミは無理をするつもりだろう」  
 「ご心配なく。 私、こう見えても丈夫にできていますから。 それに、私の体の心配をなさるのであれば  
  毎晩、確かめてくださいまし。 隅から隅までじっくりとごらん下さい。 きっと、旦那様にご心配をかけることはありませんから」  
 「う〜ん」  
 「まだ、信じていただけませんか? かしこまりました。 これから浴室と寝室の準備をしてまいります。  
  旦那様が納得されるまで、私の体をお調べくださいませ」  
 「おいおい、ちょっと。 お〜い」  
 
行っちまった。 まったく、昼間からナニをさせるつもりだ。  
嬉しそうに走りやがって。  
さて、ドリンクはどこだっけ?  
 

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