広大な荒地の真ん中に大きめの水場があった。
他に何があるわけでもないこの場所に、月に一度忽然と街が現れる。
満月の前後の数日間だけ、無数の商人達の天幕でひしめくのだった。
皆ここに各々品物を持ち寄っては、別な品物を仕入れ各地へと散って行く。
この市場に並べられた商品は様々だったが、行き交う者の姿もまた様々だった。
猫の瞳を持つものや蝙蝠の翼を持つもの、斑の毛皮や鱗に覆われたもの。
種々雑多な種族が通り過ぎるが、商人や客達の中にまともな人の姿はない。
しかし彼らの中にヒトは居ない代わりに、商品のひとつとしてヒトが並べられていた。
がっしりとした体格の若者も売られているが、さほど売れているようには見えない。
魔物である彼らからみれば、所詮ヒトは非力で脆弱な生き物なのだ。
雑用をさせる程度ならともかく、労働力としてはあまり期待されていなかった。
その逆に女性の方は違う使い道で需要が高く、常に人気の商品だった。
一頭の老いたコボルトが店を開いていた。
既に毛皮も褪せた灰色になっており、かなりみすぼらしくなっている。
動きも鈍くなっているようだが、その落ち窪んだ目の奥だけはギラギラと光っていた。
彼が扱っている商品は若い娘達であり、全員裸に革帯で後ろ手に縛りあげられていた。
既にもう数人は売れたようで、残りのもう6人ばかりが店先に立たされていた。
そこに驢馬に似た魔物が、好色な笑みを浮かべて近よって来た。
驢馬頭は一人の娘の身体に舐めるような視線を送った。
「おい、爺さん。このメスはいくらだね」
「あぁそいつは600…ただし、まだ調教しとらんぞ」
太い指が嫌がる娘の口を抉じ開け、虫歯がないか確認をした。
「ちょい高めだな。何かあちこち傷もあるみたいだぞ」
「軽い打ち身や擦り傷はあるが、捕まえたばかりのは大抵そんなものだ。
だが乳はでかいし、尻もどっしり安産型…値段の分の価値はある。
それに開通したてで、アソコの締まりは保障するぞ」
老コボルトは娘の股間に手を伸ばし、ぷっくりと膨らんだ大陰唇を拡げて見せた。
「さては爺さん味見したな?(笑)」
「そりゃ商人たるもの、売り物の品質は確かめとかんとな」
「爺さんのガキが仕込んであるってオチはないよな?」
「ないない…薬が効いてるあと10日やそこらは、いくら種つけようとしても孕まんぞ」
「それじゃ買う前に俺も試していいかね?」
「あぁ、いいぞ。ただし前金で50な」
既に驢馬頭の股間は膨らんで、今にも下帯が解けそうになっていた。
そんな鼻息の荒い客に返ってきたのは、商人らしい、したたかな言葉だった。
「金とるのかよ。しかもボッタクリだろ、それ?」
「何も無理に試してくれとは言わん。
お前さんのご立派なモノを突っ込まれたら、どんな新品もガバガバになりそうだ。
それにもし買うことが決まったらその分割り引いてやるぞ」
「このごうつくばりが(笑)…ほらよ」
「…ひぃ、ふぅ、みぃ、よぅ…毎度あり…って、おいおい商売の邪魔だよ。
そんな所でおっ始めないで、そっちの天幕の中でしてくれや」
驢馬頭は娘の赤い髪をつかむと、近くの小さな天幕の中へと引きずり込んだ。
すぐに娘の叫ぶ声とそれに続く嗚咽、そして雄の唸り声が辺りに響いた。
分厚いとはいえ、布切れ一枚でその音が遮れるわけもない。
近くに寄れば中での行為の音までが、グチュグチュとはっきりと聞こえた。
店先に残された娘達は、その痛々しい悲鳴に自分達の行く末を重ねて身をすくませた。
「そこのミノタウロスの旦那、メスは要らんかね?若くて活きの良い、取れたてピチピチ…」
老コボルトは更に大きめの声で客引きを続けたが、天幕から漏れる音は隠しようもない。
しかし行き交う魔物達は、何事もないかのように平然とその傍を通り過ぎていく。
ここはそういう場所であった。