2月29日。吹く風はまだまだ冷たいが、ほんの少し春の香りがする。  
 
振り返ると少し薄汚れた、しかし今となっては愛着のある校舎が視界に入る。  
暫く見納めかな。  
 
今日僕は高校を卒業した。  
 
 
家に帰ると物凄い事になっていた。  
「ひっくひっく……あ、ひっく…おがえり、なざひ…ひっく」  
姉さんが大泣きしていた。  
「姉さん…なんで姉さんが泣くのさ。しかも式の序盤から泣いてたでしょ」  
「ひっく…ひっく…だ、だっでぇ…ひっく」  
 
帰って一番。うがいでも手洗いでもなく、姉さん用に濡れタオルを用意する。  
あまり周りにはいないだろうね。  
 
 
「落ち着いた?」  
「うん…」  
姉さんの目は真っ赤だが、口調は平常に戻ったみたいだ。  
「そんなに感慨深かった?」  
「当たり前じゃない!小さい頃から『お姉ちゃーん』って懐いてくれた  
可愛い弟が立派になって……(ボソボソ)」  
語尾が聞き取れなかったが、感動してくれたらしい。  
「きっと空の向こうの父さん母さんも喜んでくれてるわ」  
そうだろうとは思いたいけど、四国にいる両親をそんな表現しないでほしい。  
「式が始まってそんな事を考えてたら、涙が止まらなくなって…」  
そう言うと、姉さんは再び涙を目に溜めてぐずりだした。  
やれやれだ。  
 
「…ごめんね」  
「仕方ないさ。姉さん泣き虫だからね」  
「むーっ。馬鹿にしたぁ!!」  
泣いたカラスがなんとやら。  
「ごめんごめん。馬鹿にした訳じゃ」  
「だめ!罰を与えます!」  
罰ね…想像はつくけど。  
「明日の日曜はお姉ちゃんに付き合う事!!」  
そう言ってにっこり笑う姉さん。僕は高校を卒業したが、この姉さんからは  
一生卒業できないな。  
心の中でそっと溜め息を吐きながら、同時に姉さんの笑顔に安堵していた。  
 
やっぱり姉さんには笑顔が一番だと。  
 

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