ある初夏の休日。  
その日、1人の女性が付き合って間もない彼氏を自分の部屋に呼んだ。  
「どうぞ、入って?」  
「ありがとう。おじゃましま〜す。」  
この家に、このカップルの他には誰もいない。  
ただ、窓から入った風がカーテンを優しく揺らしているだけである。  
「…座ろっか。」  
彼女が言った。  
「うん…、そうだね。」  
彼氏が答えた。  
2人は、彼女のベッドの上に腰掛けた。  
しかし、2人は何も話す事が出来なかった。うつむいたまま、微動だにしない。  
まだ、異性と付き合うという事に、お互い慣れていないのだろう。  
かすかに聞こえる電車の走る音と、窓辺に飾ってある風鈴の鳴る音だけが、部屋に響く。  
 
「あのさ…。」  
突然彼氏が口を開いた。  
「本当に、俺なんかと付き合っていていいの?」  
「えっ…、どういう事?」  
彼女は、その発言にびっくりして聞き返した。  
すると彼氏は、悲しそうな目をしながら言った。  
「だって、お前はウチの大学で凄いモテるじゃないか。そんなお前が、こんな地味で目立たない俺と付き合っていて楽しいのかな、って思ったんだ。お前と一緒にいると、いつもみんな俺がお前の引き立て役だと思うらしいし…。」  
彼女は、笑顔でこう言った。  
「そんな事無いわ。私は、あなたと一緒にいられて幸せよ。もし周りからどんなに思われていようが、私はあなたの彼女だって事が嬉しいんだから!!」  
「本当に?それを聞いて安心したよ。」  
彼氏の表情に、笑顔が戻った。  
すると突然彼氏は、彼女の左手に自分の右手をそっと乗せた。  
そして彼女の顔を、真剣な表情でジッと見つめた。  
「何?どうしたの?」  
「…好きなんだ、お前の事が。」  
 
「キャ…。」  
―パサッ。  
気が付くと、彼氏は彼女をベッドの上に軽く押し倒していた。  
そして再び、彼氏は彼女の顔を見つめる。  
彼女は、頬を少し赤らめながら、視線をそらす。  
―チュッ。  
彼氏は、彼女の額に自分の唇を軽く押し付ける。  
「あっ…///」  
突然の出来事に、彼女は身体を少しピクンと痙攣させながら、いつもより高い声を出してしまった。  
同時に、彼女の頬の赤みが増した。  
「や…だ…///」  
「…じっとしてて。」  
彼氏はそう言うと、今度は頬、首筋、鎖骨の辺りに口付けをした。  
―チュッ…。チュッ…。  
「お前の肌、凄い綺麗…。」  
そう言いながら、純白のワンピースの襟元からこぼれる彼女の柔肌を指先で撫でた。  
そして今度は、彼女の肩に唇を押し当てた。  
「やだぁ、何か怖いよ…。」  
そんな彼女の言葉など聞こえていないのか、彼氏は彼女の肌にひたすらキスを続ける。  
どれほどの時間が経ったのだろう、顔を上げると彼女の瞳から一筋の涙が頬を伝っていた。  
「…ごめんな、今日のお前が今までで1番綺麗だったんだ。」  
彼氏は、そよ風で軽くなびいている彼女の長く柔らかな髪をサラリと撫でながら言った。  
彼女は、頬を赤らめたまま何も言わなかった。  
 
「本当にごめんね。いきなり押し倒した上に、こんな事しちゃって。」  
彼氏は、彼女の流した涙を指でそっと拭った。  
「いいのよ。でも突然の事で、びっくりしちゃった。」  
彼女は「クスッ」と笑いながら、言った。  
「ねぇ、ちょっと来て?」  
そう言うと彼女は、彼氏の肩を抱き寄せた。  
―チュッ。  
そして、彼氏の唇を自分の唇で優しく塞いだ。  
今度は、彼氏の頬に赤みが刺した。  
「………///」  
「あの時のあなた、ちょっと怖かった。でもどうしてかしら、今は嬉しいっていう気持ちの方が大きいの。」  
2人は笑い合った。  
―ギュッ。  
彼氏は彼女の身体を抱きしめながら言った。  
「…俺達ずっと一緒にいような。」  
「うん!!」  
彼女は彼氏を抱き返しながら、笑顔で答えた。  
2人は気付いていたのだろうか。  
初夏の眩しい太陽の光が、2人を優しく包んでいた事を。  
まるで、2人を祝福してくれているかの様に…。  
 
―END  
 

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