「ただいまあ」  
ご主人様が帰ってきた。  
ひらりとスカートを揺らし、玄関を上がり二階の自分の部屋へそのまま駆け上がる。  
最近のご主人様は、ぼくに冷たい。  
ぼくが大喜びで尻尾を振って、イヌ語で『おかえりなさいっ!』って言っても  
ご主人様は「うん。ポチただいま」か、さっきの様に無視。  
ぼくがちっちゃい頃は「ポチー!もう早く学校から帰りたかったよお!」って言って  
頭をなでてくれたのに、最近頭をなでてくれるのはお母さんぐらいだよ。  
 
再び、ご主人様がお散歩セットを持ってやってきた。でも、なんだかすこし不機嫌そう。  
「もー、ママったらポチの散歩をわたしに押し付けて」  
お散歩だって!嬉しいなあ。でも、ご主人様が嫌そうなのだ。ちぇっ、テンション下がるなあ。  
 
いつものお散歩コースを歩く。  
見慣れた風景、見慣れたご近所さん。角の後藤さんが「おや、しのぶちゃん。お久しぶりね」って言う。  
ぼくも、ご主人様と散歩に行くのはお久しぶり。いつもの公園にご主人様と来るのも、お久しぶり。  
 
公園はいつもどおり桜が咲いていて、うるさいガキンチョどもが走り回っている。  
ぼくは嬉しくなって、ダッシュしようとするがご主人様が必死に紐を引っ張る。  
お願いだから、走らせてよお。ぼくも、人間の言葉が欲しい。  
 
 
「リュ、リュウくん!」  
突然、ご主人様の裏返った声が聞こえた。  
「あれ、小鳥遊さん?この近所?」  
「は、はい!そうです!イヌの散歩で…」  
「へえ、この子の散歩なんだ」  
「は、はい!えっとお、名前はポチです!ア、アイヌ犬っていう種類で…」  
こんなに、しどろもどろで上がっているご主人様は見たことがない。  
 
どうやら、ご主人様はあのニンゲンのオスに興味があるらしい。  
あんなに、きらきらとした目をしたご主人様を見たのは、今年になって初めてだ。  
ちくしょう、あんなニンゲンのオスなんて、どこがいいんだ。尻尾も振れないくせに。  
 
ご主人様は、嬉しそうに顔を真っ赤にしている。  
「ポチと散歩してよかったあ」  
ぼくは、あんなゲス野郎の愛のエンジェル役かよ。そこんところ誤解して欲しくないな、ご主人様。  
「また、ポチと散歩にいこうね」  
ぼくは、ただご主人様と散歩がしたいだけなの。  
なのに、ご主人様ったらぼくの事をへんな方向で誉める。  
ちぇっ、なんだか面白くないなあ。  
 
 
ある晩の事。  
ぼくは、夜の番をしている。もともと番犬に、と言ってこの家にやってきたのだ。  
ここで活躍しないと、ぼくの居場所がなくなる。  
風呂場に明かりが灯り、ふんふんふんと鼻歌が聴こえてくる。ご主人様がお風呂に入っている。  
 
『ぼくがニンゲンだったらなあ。一緒にご主人様とお風呂に入ってワンワンしたいなあ』  
と、そんな事を考えていると、門から怪しいニンゲンのオスが庭に入ってきた。  
この間のニンゲンとは違う種類。真夜中なのにサングラスを掛けて、チョビ髭を生やしている。  
そいつは、こともあろうに風呂場に向かっていくじゃないか。さては、ぼくを差し置いて  
ご主人様とワンワンするつもりだな。  
ぼくは、思いっきりそいつに向かって走ると、ぼくを繋ぐ鎖がピーンと張る。  
『後もう少しなのに!』  
そいつまであと10cm。ぼくは必死に飛び掛ると、スポンと鎖を繋ぐ杭が抜ける。  
兎のようにぼくはジャンプし、そいつの足にガブッと噛み付く。  
「アーッ!!」  
そいつは一目散にランナウェイした。ざまあ見ろ。  
 
「わんわんわんわん!!!!」  
ぼくの雄叫びだ。  
ふふふ、ご主人様。守って見せましたよ。この小さな騎士の働きを受けて止めてくださいませ。  
と、勝利の余韻に浸っていると、ご主人様の声が聞こえた。  
「ポチ!うるさいよ!」  
ガラっと風呂場の窓が開き、ぼくに向かってお湯が飛んできた。  
ぼくはただの濡れた細いイヌになってしまった。ひどいや。ご主人様。  
 
 
時計の針がてっぺんを廻った頃、ぼくの体が突然熱くなった。  
「ううう、うわん!あー熱いよお!」  
え?なに、今の?  
ぼくは、ニンゲン語を喋った?  
びっくりしたぼくは、立ち上がろうとする。  
いてて、イヌ小屋の天井に頭をぶつけたよ。っていうか二本足で立ってる!  
体はちょっとふさふさが残ってるが、どうやらニンゲンみたいになってるぞ。  
もしかして、さっきのチョビ髭野郎の血を少し舐めたから、それが元でニンゲンみたいになったのかな。  
 
そんなことはさておき、ふと良い事を思いついた。  
このまま、ご主人様の元に行ってガッと襲いこんでやろう。そして、ご主人様とワンワンするんだ。  
ぼくもオスの端くれ。ご主人様もきっと喜んで興奮してくれるはずだ。  
ふふふ、ぼくとワンワンする方が、ニンゲンのオスとするよりずっともっと気持ちいいと思うよ。  
ご主人様も「ポチ、今まで構ってやれなくてごめんね」ってくる。  
ぼくも嬉しい。反省したご主人様も帰ってくる。万々歳だ。  
 
さっそく、作戦開始。  
ここの家は、合鍵をぼくの小屋の中に入れてある。誰もいないときに帰ってきたときに入れる様に。  
鍵のはずし方ぐらいは、いつも見ているので簡単だ。  
こっそり家の中に入る。お父さんやお母さんに見つかったら、うるさいからなあ。  
音を立てずに、こっそり廊下を歩く。確か、二階にご主人様の部屋があったっけ。  
ちっちゃい頃、よく連れて行ってもらったんだけど「イヌは抱き癖が付くと困る」って  
外で暮らすようになったんだ。  
 
足音を立てずに、ご主人様の部屋の扉に近づく。こんなときに肉球が役立つなんてな。  
とうとう、やってきたぞ。どきどきしながら扉をゆっくり開くと、  
パジャマ姿のご主人様が、床にクッションを敷いてその上で何かしている。  
「あん…、あん…。リュウくん、だめよ…まだ16じゃないの…」  
リュウくんって、もしかして、あのご主人様が夢中になっているあのニンゲンのオス?  
はあ?家に帰ってまで、あのオスの事を考えてるなんて、不肖ポチ、黙っちゃいられませんぞ。  
なんだ?あれ。よく見ると、ご主人様のプリチーなお尻が半分露になってるじゃないの。  
そのピーチのようなお尻は、ご主人様の鳴き声に合わせてゆっくり動いている。  
なんだか、ぼくもたまらなくなってきたぞ。  
 
気付かれないように部屋に入り、ゆっくりご主人様に近づき、  
後ろから口を押さえるように、ばっと抱きしめる。  
 
「うぐぐぐ!!誰!?」  
ふあああ。ご主人様の甘い髪の香りがぼくのビンカンな鼻をくすぐってくる。  
いつまでもこうしていたいなあ、と思っていると、ぼくは思いっきり  
ご主人様の肘鉄を食らい、吹っ飛んでしまった。  
 
「あんた、誰よ?」  
半裸で股間を隠しながら、涙目のご主人様。早く気付いてくれよ。  
「この首輪…見たことありません?」  
「ポチ?ポチなの?」  
「そうだよ、ぼくはポチ。ご主人様をこれから襲ってあげます」  
ふふふ。これからご主人様とワンワン出来ると思うと、わくわくするなあ。  
 
すると、ご主人様。  
「はあ?今から襲おうとするヤツが『これから襲ってあげます』?ばっかじゃないの?」  
「え…でも、ご主人様の…あの…」  
「ポチって、結構女の子みたいな顔してるんだね。ほら!座りなさい」  
「あの…ぼく…これから襲って…」  
「お・す・わ・り!!」  
ぼくは、ニンゲンのよくする正座でおすわりをした。なんだか、おかしなことになってきたぞ…。  
 
「ダメイヌが飼い主に楯突こうなんて、ポチさ。何考えてるの?」  
「はあ」  
ご主人様は甘い果実のような香りを発しながら、ぼくを責め立てる。  
下半身が裸のご主人様。うっすらと茂ったヒミツのところからは、何だかイヤらしいにおいがしてくる。  
ぼくは、気がおかしくなりそうだ。  
でも、なんだかこの感じって、新鮮で気持ちいいんだよなあ。ほかに味わった事がないぞ。  
なんだろう、ぼくは怒られているはずなのに『もっともっと』て思うのは、ぼくがヘンになってしまっ…  
 
ちゅっ! むにゅっ!むにゅう!  
 
なんだ?いきなりご主人様がぼくの口に…ああ、これ以上は言い表せない感覚。  
「生意気言うこの口に、お仕置きしてあげたよ」  
口を人差し指で擦りながらご主人様、相変わらずへへへと笑っている。  
 
「わたしが教え込んであげるから、ほら、ころんって転がりなさい」  
と、ご主人様が放心状態のぼくを軽く後ろに突き飛ばす。  
「へへへ。さすが『いぬっころ』だけあって、ころころ転がるね」  
何ていうのかな、コレ。「M字開脚」って言うのかな。  
その格好になったぼくに、ご主人様はぼくの両脚を広げようとする。  
ぼくは咄嗟に、ふさふさした尻尾をくるっとおなかの方に回し、ぼくのワンワンしたところを隠した。  
 
「ご主人様…なんだか勃ってきちゃったんですが…」  
「ほーら、尻尾で隠さない!」  
ぼくの必死の抵抗も空しく、ご主人様の甘噛みが襲ってきた。  
尻尾を噛まれると、力が抜けてくる。  
「こんなにピンピンして…。でも、リュウくんのとどっちが大きいのかなあ」  
 
ぴちゃ…じゅりゅっ!  
…じゅるっ!じゅるっ!  
 
「くううん!」  
ご、ご主人様!なにやってるんすか!  
ぼくの脚と脚の間で、ご主人様の頭がゆっくり上下している。  
ああ、なんだか感じた事のない感触が、手でもなく足でもなく、口でもないところでしているぞ。  
 
ちゅぱっ!…じゅるるる!  
 
思わず、ぼくの手がグーになる。イヌミミの後ろが熱くなってきた。  
「まったく、いやらしい子だね、ポチは」  
ご主人様の頭がだんだん激しく上下しているのが見える。  
「ふう、透明なジュースでベトベトになちゃったよ」  
右手で恥ずかしそうに口をぬぐうご主人様は、なんだかいやらしく見えた。  
 
「ほらっ、今度は後ろからいじめてあげるから」  
ぼくの右手を引っ張り、くるっと半回転するとご主人様はぼくを後ろから羽交い絞め。  
 
「ポチはいいなあ。尻尾があって。ほら、その尻尾でわたしを気持ちよくさせなさいね」  
えっとお、こうかな。ぼくはふさふさした尻尾を小刻みに動かし、ご主人様のおなかをくすぐる。  
 
それに対するご褒美なのか、ご主人様は後ろからぼくのイヌミミをアムアムと甘噛みする。  
さらに、左手はふともも、右手はぼくのワンワンを軽く握ってごしごしっとしている。  
 
「はあ、はあ、ごしゅじんしゃま…きもちいいれすか…?」  
「こら!動きを止めるんじゃないの!」  
ご主人様がきつくイヌミミを噛む。  
ぼくのワンワンがご主人様の手の中に包まれて、ぼくは我慢が出来なくなってくる。  
こんなこと、一度もされた事ないな。  
 
「じゃあ、そろそろおあずけはおしまいかな?」  
ぐったりとぼくは仰向けに寝転んでしまったぼく。ご主人様は、パジャマの下を脱いで半裸になっている。  
「ポチにニンゲンだけのいい事を教えてあげる。こんなこといぬっころに出来ないでしょ?」  
と、ぼくのおなかの上にご主人様がのっかって来た  
ぼくのワンワンは、ご主人様の白い太ももにきゅっと挟まれて、鳴き声上げそう。  
ご主人様は、唾を太ももとぼくのワンワンの間にたらーりと垂らし  
「これはね、素股っていうんだよ。ポチもひとつ、おりこうさんになったね」  
と言いながら、ワンワンを優しくすり合わせる。  
 
ぼくは、既にガマンの限界は過ぎている。というか、始めの計画ではぼくがご主人様に  
襲い掛かるって寸法だったのに、どうしてご主人様から襲われてるんだろう。  
しかも、これが快感なのがぼくにも不思議だ。  
それでも、ご主人様は『素股』を続ける。  
 
「あん…。ポチ、気持ちいい?」  
今まで聴いたことのない、甘えた声がぼくの耳に届く。ご主人様も、メスなんだ。  
 
ぴゅっ!!  
 
 
突然、ぼくのワンワンからどろりとした液が飛び出した。  
 
「…ポチ、早すぎるよ…」  
「…ごめんなさい…」  
どろどろになったご主人様の太ももとパジャマの上が見える。  
 
「これからポチは、わたしの言う事をちゃんと聞くんだよ!」  
「…わん」  
 
 
お日様が昇り、町の人々が起き出す頃。  
カーテンから入り込む日差しが眩しい。スズメも朝をお知らせしている。  
ぼくは、ご主人様の部屋にいた。しかし、体は四本足の元のぼくになっていた。  
そばでは、ご主人様が制服に着替えている。セミロングの髪の毛を結ぼうとして、  
大きな鏡の前に立っているご主人様。ツインテールの後姿は見慣れた姿だなあ。  
 
「あっ。いけない、ヘアゴムが…」  
ご主人様の声で、ぼくが振り向く。  
うっすら目を開けると、かがんで机の下に落としたヘアゴムを拾おうとしているご主人様。  
よつんばになって、お尻をぼくのほうに向けている。  
すると、ご主人様が急にぼくの方に振り向き  
「ポチ!わたしの白いパンツ見たね!またお仕置きしてあげようかな?」  
 
あれで、ご主人様が振り向いてくれるようになったから、一応成功なんだろうな。  
それはさておき、ぼくは、お仕置きが大好きになってしまった。  
もっと、お仕置きしてくれたらいいのに。って、間違ってるのかな、イヌとして。  
でも、ご主人様が喜んでくれるのなら、これはこれでいいのかな。  
 
 
おしまい。  
 
 

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