“はむっ”  
(あれ?)  
 
“はむはむはみはみ”  
(んなっ、コレもだめなんかい!)  
 
 結局、真鬼の悩みは特に意味を成さなかったようだ。  
修平の舌を挟み込んだ真鬼の歯は、やさしく甘噛みすする結果となっただけで、  
その行為は、あたかも修平の舌を吸い取る行為になっていた。  
 
「はむっ、ふっ、俺の舌を吸っちゃって、お前もすっかりその気だな」  
(はうっ、ちゃうのにっ、あたいは、こんな事したいわけじゃないのにぃ)  
 
 修平の命を奪わずに済んだ安堵に満たされると同時に、万策尽きた真鬼の体からは、  
残りわずかな力すら抜け落ち、修平の行為に身を任せた。  
 
「顔もすっかり蕩けちゃって、俺の下半身も、君を犯したがってうずうずしてるよ」  
 
 真鬼の体に覆いかぶさっていた修平は、立ち上がりながらベルトを外すと、  
ズボンや上着を一気に脱ぎ捨て、パンツ姿となる。  
 
「これで、君とおあいこだね」  
 
 体を跨いで立つ修平の姿を見上げる真鬼であったが、その視線は一直線に  
下半身へと向けられる。  
 薄い布製の下着越しに、脈動する一物の姿が視線に飛び込み、息を呑む。  
大きく張った布のテントの頂点では、透明な液が僅かに染みを作っていた。  
 
「今日は、俺の太巻きをたっぷりとご馳走してあげるよ」  
 
 最後に残った下着をも脱ぎ捨てると、天を仰いだ修平の分身が姿を現す。  
送り込まれた大量の血液で怒張したソレは、物欲しそうに脈動していた。  
真鬼は自分の秘所を貫かれるという、期待と不安に胸を熱くしていたのだが、  
 
「よいしょっと」  
「ふえ?」  
 
予想に反し、修平は真鬼の胴体に腰を下ろすと、自分のイチモツを胸の間に挟みこんだ。  
 
「ちょっ、何しとるんや」  
「いや、実は一度、お前のでかい胸でパイズリしてみたかったんだよなぁ」  
 
 修平は質感のある真鬼の両胸に手を添えると、間に挟みこんだ自分のイチモツに向けて  
力いっぱい押し込むと、柔らかな胸は、形を変えつつ、秀平のモノに密着する。  
 
「すごいな、俺のモノが全部隠れちゃったよ」  
「いっ、いややぁ、こんなん、いややぁ」  
 
 自分の胸で秀平を挟み込んでいるものの、力の出せない真鬼には、秀平にされるがまま。  
その瞳の端にはジワリと涙が溜まり、今にも泣き出しそうな勢いである。  
鬼の目に涙とは、まさにこの事だろう。  
 
「さ、動くよ」  
 
 真鬼の割れた腹筋の上に腰を下ろした秀平が、腰をゆっくりと前にずらすと、  
巨大な胸に埋もれていた秀平のイチモツ、その先端が僅かに顔を覗かせた。  
秀平はゆっくりと腰を前後させつつ、力を込めながら、胸を前後左右に激しく揉みこむ。  
 
「あたいの胸の間を、秀平のが出入りしとるぅ」  
「真鬼の胸、やわらかくて、あたたかくて、くっ、今にも射精しそうだ」  
 
 腰を上下し、胸を揉み扱く秀平に乗られているが、  
力が出せないとはいえ、鍛え抜かれた真鬼の腹筋が堪えるほどではない。  
 先ほどまで涙を貯めていた真鬼の瞳であったが、視線の先にある秀平のイチモツを  
凝視していたその瞳は、次第に熱を帯びており、秀平もそれに気が付いていた。  
 
「真鬼、どうせなら俺のモノ、お口でしゃぶったりしてくれないかな」  
「んなっ、いい加減にせんかいっ、なんであたいがそこまでっ」  
「そうか、潤んだ瞳で俺のモノを見てるもんだから、てっきりしゃぶりたいのかと……」  
 
 腰を突き出した状態で動きを止め、真鬼の眼前にイチモツの先端を見せ付ける秀平。  
透明の液体を垂らすモノを眼前にして涎を垂らす真鬼であったが、  
すぐに頭を振って否定の意を表した。  
 
「じゃっ、続けるね」  
「あっ、うぅぅ」  
 
 平然と腰の動きを再開する秀平に対して、真鬼は残念そうな表情を見せる。  
胸の柔らかさを感じ、ひたすらに自分を高める秀平と、成すがされるままの真鬼。  
真鬼にも、己の胸を弄られる感覚と、量の胸の間で熱く鼓動する修平の感覚が伝わる。  
視界には、自分の胸の間から顔を出す亀頭の張りが写り、それが今にも爆発しそうな状態  
であることを悟っていた。  
 
「くあっ、出るっ」  
「やめっ、出す前に退けぇ、そこで出したらどこに命中する思っとるんやぁ」  
「ゴメン、我慢できないっ」  
 
 真鬼の眼前で、修平のイチモツが爆発した。  
真鬼の胸に挟まれていたため、修平から放たれた白濁の液体は、狙い済ましたかのごとく、  
真鬼の顔面を直撃する。  
射精と同時に、真鬼の胸をさらに押し込みつつ、腰を二度三度と前後にスライドさせ、  
竿に残った僅かな精液も全て放出した。  
 
「くっ、ふぅ、すっきりした」  
「……」  
 
 射精の達成感に満面の笑みを浮かべる秀平に対し、顔面を精液で汚した真鬼は、  
瞳を見開いたまま、呆然とした表情を見せ、動こうとしない。  
涙目になっていた真鬼の瞳から、一筋の涙が流れ落ちたのは、その時である。  
 
「ふっ、ふえぇぇぇぇん」  
「なっ、どうした、なんで泣く」  
 
 大声を上げ、泣き出す真鬼。  
今まで泣き言はおろか、涙を流すところすら見た事がない秀平は困惑する。  
 
「人間に犯されたぁ、顔を汚されたぁ、ふぇぇぇん、これがバレたら破門やぁ」  
「え、破門?」  
「きっと、一族の誰かがあたいを殺しに来るぅ、ふえええんっ」  
「なっ、ナンダッテェェェ!」  
 
 真鬼の発言に衝撃を受ける秀平。  
今まで2年近く生活を共にしていたが、よくよく考えると彼女達一族については  
何も考えていなかった。  
 しかも、“殺される”という単語が飛び出した事に、困惑の度を強める。  
 
「とっ、とりえず、その顔を拭こうか」  
「待ちやっ」  
 
 自分の行為が真鬼に危険を招く結果となる事に焦り、  
その場を退いて立ち上がろうとする修平の手を、真鬼の腕が掴む。  
力が出せないにもかかわらず、必死に修平を掴むその腕には、異様な力がこもっていた。  
 
「見てみい、あんたのソレは満足しとらんやろ、あたいの股を、使ってもええで」  
 
 視線をそらせつつ、顔を真っ赤に染めて答える。  
確かに、秀平の股間では、立派な太巻きが天を仰いでそそり立っていた。  
 
「いいのか、破門がどうとか言ってたけど」  
「んな事を考えるんは後回しや、それよりも、あたいの大事なところが大洪水や」  
 
 修平が、真鬼の股間を覆う虎縞の布を外すと、見慣れた真鬼の秘所が姿を現したが、  
そこは過去に見た事がないほどに濡れ、手にした真鬼の下着も、水気を含んだ染みで  
グッチョリと汚れていた。  
 
「真鬼、おまえ……」  
 
 股と両手を大きく開き、秀平を招き入れる準備を整えた真鬼。  
じっと修一を見つめる真鬼の瞳は情欲を含み、ネットリとした視線が修一に絡みつく。  
 
「いっ、いいのか、なんだか大変そうだけど」  
「もうっ、じらさんといて」  
「じゃあ、いくよっ」  
「んっ、ふああぁぁあっ」  
 
 真鬼に招かれるまま、濡れた秘所にイチモツをあてがった秀平は、  
そのまま腰を前に押し込み、一気に挿入した。  
挿入の喜びに力の出ない身体を震わせ、自分の中に浸入した異物の感覚に悶える真鬼。  
 
「やあっ、こんなに、気持ち良いんは、久しぶりやぁ」  
 
普段は上に乗って腰を振る真鬼の姿しか見た事の無い修一なだけに、  
自分の下で仰向けになり、悦びに塗れた顔で修一のモノを受け入れる真鬼の姿は、  
修一をいつも以上に興奮させていた。  
 
「いつもはギッチリ締め付けられているせいか、今日はなんだか緩く感じるな」  
「うるさいっ、力がだせんのやから、しゃあないやろっ」  
「俺は、このぐらいの締め付けがちょうどいいよ」  
「シュウの、ばっ、かぁ……」  
 
 責められる悦びに快感を覚える真鬼と、責める悦びに心を躍らせる秀平。  
真鬼は、鬼としての誇りよりも快感を優先させてしまう自分に呆れつつも、  
秘所を貫く秀平の感覚に、いつも以上の興奮を感じていた。  
 
「シュウ、今日のあたいは動けんから、変わりに動いてぇな」  
「あ、ああ、そうだった」  
 
 挿入したまま動かない秀平に苛立ちを感じつつも、それを表に出すことなく、  
しおらしい態度で秀平におねだりする。  
だが、秀平としては、日々の行為において自分が動こうとする度に、  
 
「貴様は、あたいの下でじっとしとればええんや!」  
 
 などと、烈火のごとき怒りを向けられているわけだから、  
いきなり責めに回れといわれてもうまく動けないのは仕方が無いといえる。  
 
「んなぁ、はよう動いて」  
 
 動かぬ身体をクネクネと捻り、秘所に加わる僅かな快感に甘んじている真鬼であったが、  
快楽を没する欲求だけが高まり、動かぬ秀平に怒りを向けそうになる。  
 だが、主導権が秀平にある以上、秀平のご機嫌を損ねるわけにはいかない。  
 
「じゃ、動くからね……怒るなよ?」  
「あんっ、せやっ、ちゃんと、んんっ」  
 
 ゆっくりとではあるが、腰の前後動を開始する秀平。  
真鬼の顔を覗きながら、ご機嫌を伺いつつのため、動きは若干ぎこちない。  
 
「んっ、んんっ、うんっ」  
 
 秀平のピストンを受ける真鬼の声も、どこかぎこちなく、  
快感に呻く女の喘ぎ声とは程遠い。  
 
「なぁシュウ、もう少し、激しく動けんのか?」  
「えっ、ああ、わかった」  
 
 真鬼に急かされて腰の動きを早める秀平であったが、自分よりも巨体の真鬼を責めて  
いるわけだから、うまく動けないのも無理は無い。  
 
「んもうっ、シュウ、もっと激しくって言うてるやろ」  
「無理言うなって、お前の巨体が悪いんだぞ」  
「なっ!?」  
 
 真鬼の顔にはだんだんと青筋が浮き出てくる。  
秀平に対して受身に出ていた反動か、鬼である真鬼が爆発したのは当然の事かもしれない。  
 
「くおらぁぁっ! シュウ!」  
「はっ、はひ!?」  
「何をヘコヘコ腰ふっとるんや、もっとしっかり腰ふりぃな!」  
「ひぃぃぃっ」  
 
 額に青筋を立て、立派な角をさらに尖らせながら怒りを露にする真鬼。  
秀平も鬼の形相を見せる真鬼に恐れ戦き、イチモツを縮めていたのだが、  
 
「人が下手に出てりゃぁ、ノンビリと腰振りおってぇ」  
「いや、ごめん、だってお前が……」  
「自分の不能っぷりをあたいの巨体のせいにするんか、こぉのヘッポコがあっ!」  
「ヘッ……ポコ?」  
 
 ピクリと、秀平の眉だけが反応した。  
それと同時に、自分を見下ろす秀平の顔に黒いオーラが宿る所を真鬼は見逃さなかった。  
 
「なっ、どうしたんやシュウ、急に黙って」  
「ヘッポコだと……ろくに身動きも、取れないくせに……」  
「ひっ、なあ、シュウ?」  
 
 秀平の身体から怒りのオーラが発せられると同時に、  
真鬼の形相に縮み上がっていた秀平の分身が、再び肥大した。  
普段見せた事のない怒りの表情を見せる秀平の異様な雰囲気に相まって、  
自分の膣に密着するかのごとく肥大した秀平のモノを受け入れ興奮する。  
 
「お前はいつもいつも、そうやって人を見下してばかりだっ」  
「あんっ、シュウ、ちょっと待っ」  
「うるさいっ、こうして欲しいんだろ、えぇ? こうして欲しかったんだろ?」  
「あっ、激しいっ、子宮の奥にっ、ふあああっ」  
 
 秀平は、真鬼に刺激されて、頭のネジが一本吹っ飛んでしまったようである。  
本能の赴くままに腰を激しく律動させ、真鬼を激しく突き上げる。  
急に始まった秀平の攻勢に、元より抗う力を持たない真鬼は、秀平の腰つきに合わせ、  
身体を前後に揺する。  
 
「ふんっ、鬼がこの程度で喘いでどうする、これならどうだっ」  
「ひあっ、らめえっ」  
 
 秀平は、真鬼を激しく突き上げながら、真鬼の豊満な胸を揉みまくった。  
行為のはじめの時のように、悪戯心から真鬼を責めているのではない。  
心の底からの怒り、普段のうっぷんを晴らすかのごとく、激しい責めを咥える。  
 
「イけっ、んっ、イきたいんだろ、んんっ」  
 
 原因不明の症状により力が出ないばかりか、性的な感覚が異様に高まっている真鬼には、  
秀平の与える激しい刺激、特に、言葉による激しい責めを受けるのは初めてで、  
 
「シュウ、あかんっ、こんな激しく突いたら、あたいっ」  
「どうなるんだっ、んっ、どうなるっていうんだ」  
「あっ、イッ、イッ、イクぅううううっ」  
「なっ、んっ、くああっ」  
 
 真鬼が絶頂を向かえ、それと同時に秀平も絶頂を迎えた。  
待ちに待った瞬間の到来に、頭の中が白く染まるのを覚えながら、  
膣に注がれる精液の熱い感覚に身体を震わせた。  
 
「ふんっ、どうだ、これでも俺が不能だと……あれ、真鬼?」  
「はうっ、ふあああっ、はふぅぅっ」  
 
半開きの口からは涎を垂らし、身体を痙攣させ、快感の余韻に浸りながら、  
真鬼の意識は絶頂の快感から戻ってこない。  
 
「真鬼、どうした、一体何が」  
「はっ、ふあああっ、くあぁぁっ」  
 
 怒りに頭のネジを飛ばした秀平と同様に、真鬼も快感によって頭のネジを  
飛ばしたようである。  
 
「んっ、ふぁぁぁっ、気持ちいいのが、とまらへんっ、くあっ」  
「むあっ、落ち着け、俺が悪かった、とりあえず抜くから……」  
「あかんっ」  
 
 真鬼の脚が、秀平の腰をガッチリと固定し、腰を抜けないように拘束した。  
数分前に見たのと同じような展開な気がする。  
 
「責められてイくんがこんなに気持ち良いなんて、初めてやぁ」  
「こらっ、落ち着けってば」  
「怒ったのは詫びるからぁ、もっと、あたいの中に出してぇ」  
 
(あ、こりゃぁ、何を言ってもだめだろうな)と、秀平は頭の中で結論付け、  
真鬼の言うとおり、腰の動きを再開した。  
 
 冷静さを取り戻した秀平につぃして、真鬼は快感に敏感なままで、秀平が腰を  
押し付ける度に、絶頂のような快感が真鬼の脳髄を刺激した。  
 
「はぁぁっ、責められるんがこんなにエエなんて、母ちゃんも教えてくれなんだわ」  
「んっ、くっ、破門がどうとかは良いのか?」  
「んあっ、シュウはそんなん気にせず、腰を突き上げればいいんやっ」  
「わかったよっ、ほらっ、ほらっ」  
 
 再び腰を突き上げ、真鬼の子宮を突き破らんとイチモツをねじ込む秀平。  
一旦は怒りの矛先を秀平に向けた真鬼であったが、連続的な絶頂の快感にそれも忘れ、  
秀平の肥大したイチモツに身悶える。  
 
「ああっ、見直したで、シュウ、あんたもこんなに責められるんやなぁ」  
「お前も、こんなに受けにまわれるんだなっ」  
「もう一度、一緒にイこう、あっ、イッ、イくっ」  
「あっ、俺もだっ、くああぁっ」  
 
 精を放ち終えると、結合を解くこともせず、そのまま真鬼の大きな体へ倒れこんだ。  
両名共に息を荒げ、目を瞑りながら、射精後の余韻と脱力感楽しんでいたが、  
沈み込んだ意識がだんだんと浮上するのを自覚すると、修平は結合を解き、再び真鬼の  
体に圧し掛かりながら、真鬼の顔をじっくりと覗きこむ。  
 真鬼も、力の入らない己の秘所から精液が漏れ出るのを感じながら、  
自分を覗き込む修平に、愛おしさを感じていた。  
 
「なあ、シュウ、もしもあたいが破門されたら……」  
「わかってる、責任は、俺がきちんと取ってやるよ」  
「ああっ、シュウ」  
 
優しい口付けを交し合った二人は、どちらからともなく、深い眠りに落ち……  
 
「あんっ、もっとや、まだまだ足りひん」  
「えっ、まだやるの?」  
 
落ちることは無く、真鬼の気が満たされるまで、秀平は腰を振り続ける事になる。  
 
……そして、数時間後。  
 
「はぁ、“新月の間”やて?」  
「そう、先ほどまでお二人がいらした部屋の名前です」  
 
 新月の間とは、人外旅館に存在する特殊な部屋の一つであり、  
その部屋に入った人外の者達は、誰もが本来の力を出せなくなる。  
変化形の獣人は人間の姿のまま変化できなくなり、真鬼のような腕力系の人外も、  
少女のようにか弱い力しか出せなくなってしまう。  
昔から、人外との夫婦関係で悩む人間男性が、ちょくちょく使用していたらしい。  
 
「へぇ、あたいらみたいなのが他にもおるとは驚きや、なぁ、シュウ」  
「修平さんは……当分喋れないと思いますが」  
「あ、せやった」  
 
 行為を終了し、従業員の部屋で先ほどの経緯と今後の展開について話し合う、  
修平、真鬼と、若旦那の幸一。  
肝心の修平からの応答が無いのは、部屋に入って一息着いた直後に真鬼の一撃を受け、  
顔を壁にめり込ませて、抜け出せなくなっているからだろう。  
仲居姿のコハクが引き抜こうと必死になっているが、修平の顔は木製の壁を突き破って廊下に飛び出しており、相当手こずっているようだ。  
 とりあえず、この一撃で真鬼の気も納まったらしい。  
 
「ちっ、しゃあないなぁ、ふんっ」  
 
 おもむろに立ち上がった真鬼が、壁に顔面を埋めている修平を引っこ抜き、  
自分の真横に座らせた。  
壁の中にいた修平は幸一の話を聞いていなかったので、幸一は先ほど真鬼に話したのと  
同じように説明を始めたが、その視線がチラチラと修平がめり込んでいた壁に向けられる。  
どうやら、壁の修理をどうしようか考えているらしい。  
 
「へぇ、俺たちみたいな人達が、他にもいるんだ、なぁ、真鬼……真鬼?」  
 
話を聞き終えた修平は、先ほどの真鬼と同じようなことを口にのぼせながら、  
笑顔を傍らの真鬼に向けたが、当の真鬼は不満げな表情でそっぽを向いていた。  
修平も、真鬼の気持ちを悟っていたし、自分のやりすぎも自覚しているから、  
うまい言葉が出ない。  
 
「なぁ、真鬼、今回の事、許してくれるかい?」  
「いやや」  
 
そっぽを向いたままの真鬼。  
半ば予想道理の反応であったが、どう償えばよいのか分からず焦りを見せる秀平に対し、真鬼の顔が怪しい笑みを浮かべ、  
 
「けど」  
「けど?」  
「また、あたいをいっぱい責めてくれるって言うなら、許してやらん事も無いかなぁ」  
 
 色っぽい視線を投げかける真鬼に、修平の表情も一気に明るくなった。  
 
「じゃ、来年の2月3日、予約でええな」  
「いきなりかいっ!」  
「何か不満でも?」  
「いいえ、不満など何もありません」  
 
 上げた拳に力を込めながら笑顔を見せる真鬼に、肩を落とす修平。  
結局、真鬼の尻に敷かれる運命に変わりは無いようである。  
落胆する秀平であったが、下を向いたその顔には、奇妙な悦びが宿っていた。  
 一方で、  
 
「あ・な・た」  
「ハッ、ハクじゃないか、いつからそこに?」  
「いつって、最初からに決まってるじゃないの」  
 
 妙にニッコリとした笑顔をたたえつつ、二股の蛇舌をチロチロと出し入れするハク。  
読み取りにくい微妙な表情ながら、幸一はハクが何を言おうとしているのか察していた。  
 
「あんな素敵な部屋があるのに、妻であり若女将である私に内緒っていうのはどうかしら」  
「別に内緒にしていたわけじゃないよ、聞かれなかったから答えなかっただけで」  
「なら許してあげるけど、知ったからには、分かっているわよね?」  
「はい、今度時間が空いたら、その時にはね」  
「うん、よろしい」  
 
 あっさりしながらも、妙に心の通じ合った二人を目にし、  
真鬼はライバル心を燃え上がらせるように、瞳を熱くしていた。  
 
「うっ、うちも負けてられへん、シュウ、早速帰って、あたいらも愛を育むんや」  
「昨日の今日で?」  
「問答無用やっ、さっ、行くでぇ」  
 
 言うや否や、秀平を肩に担ぐと、旅館を後にする二人。  
笑顔で見送る旅館の一同。  
こうして、無事に難を逃れた秀平は、真鬼との共同生活を続けていたのであった。  
 
 
 
 
▽△▽  
 
話は戻って、2月3日の人外旅館  
 
「いや、若旦那さんにはお世話になりまして……」  
「壁の修理、大変だったんですよ」  
 
世間話を続ける中、幸一の目は、秀平の背後で蠢く真鬼の行動を注視していた。  
自分の肩に下げた鞄の中に腕を突っ込んで何かを探していたかと思うと、  
その中から何かを取り出しつつ、自分の立ち位置を僅かにずらし、  
 
「シュウ、こっちむいてぇな」  
「なにっ……むっぐむっ!?」  
 
 真鬼の方を向いた秀平の口めがけて、太くて黒くて長いモノが差し込まれた。  
奇襲と同時に、秀平の首は一方向を向いたままガッチリと固定され、動かす事ができない。  
 
「その太巻きを口から抜いたり、何かしゃべろうとしたら……その首が胴から離れるで」  
「……」  
 
 真鬼の迫力に、秀平は何も言わず、ただ、太巻きを食べ続ける事しかできなかった。  
息を詰まらせつつ、顎を必死に動かし、太巻きを必死にほうばる。  
まさに、命がけの食事といえよう。  
 
「んっ、くっ、ぐはぁ」  
「ようやったで秀平、これで今年も一年、秀平はあたいのもんやぁ」  
 
 秀平が食べ終わると、真鬼が喜びの声を上げる。  
傍らの修平は、どんよりとした灰色のオーラをまとい、諦めムードをかもし出している。  
 
「はぁ、去年はあんなにしおらしく要求してくれていたのになぁ」  
「あん、なんか言うたか?」  
「いいえ、なんでもございません」  
 
 鋭い視線でジッと睨みつけられ、秀平はおろか、幸一も背筋が凍りつく感覚を覚える。  
鬼の瞳に睨みつけられて逆らえる人間は居ない。  
唯一この旅館で対抗できるとすれば、蛇女で若女将のハクただ一人だろう。  
 だが、睨みを利かせていた瞳の光が緩むと、修平の体に胸ごともたれ掛かり、  
 
「うふふふ、この後は、アンタの太巻きで、たっぷりいじめてくれるんやろ?」  
 
 両手で修平の体を抱きかかえると同時に、甘えるような声で囁きかける。  
修平としても、真鬼の行為にまんざらでもない様子で、後ろ手に真鬼の頭を撫でていた。  
 
「ああ、いつもの仕返しに、いっぱい苛めてやるからな」  
「うれしいわぁ、ほな、行こか」  
 
 真鬼は修平の首根っこを鷲掴みにすると、そのまま一気に持ち上げた。  
身長2メートルを超える真鬼に持ち上げられたわけだから、当然ながら両の足は宙を泳ぐ。  
修平を摘み上げた真鬼は、仲居姿のコハクに案内されて歩みを進めるが、  
その足取りは子猫を運ぶ親猫のごとく軽やかである。  
 重量数百キロの金棒を振り回す彼女にとって、修平ひとりの重量など、  
あってないようなものだ。  
 
「今日はあんたの気が済むまで、私を苛め抜いて欲しいわぁ」  
「おう、俺も頑張る……けど、この運び方はやめて欲しいな」  
 
 新月の間では、今夜、いや、明日の朝まで二人の媚声が響き渡ることだろう。  
連れて行かれる修平の後姿を見送る幸一の瞳には、  
同じ境遇を味わったことのある男にしか分からない、同情の光がこもっていた。  
(がんばれ、同士!)  
心の中で叫んだ言葉が、今宵の自分への激励であることも、また道理である。  
 
 
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