日本海側のとある海辺に村がある  
海と山に囲まれたこの地方は、都市部から交通手段は1時間に一本の鉄道があるだけ  
夏は涼しい風が吹きぬける過ごしやすい避暑地であるが、冬は正反対  
雪が降り積もり、道路は凍りつき、家々を行き来するだけで一苦労  
だが、人間の居住を拒絶するようなこの村に、なぜか旅館がある  
村の外れ、海岸沿いに歩いて少し山の方に入った所にある古びた建物がそれだ  
歴史だけは数百年あるらしいが、傍から見れば建物が古いだけで何の意味もない  
良い所を挙げろと言われると困るが温泉だけは唯一の自慢で、村人も風呂代わりによく訪れている  
旅館の名前は“甲斐(かい)旅館”俺の名前は“甲斐幸一”この旅館を経営する夫妻の長男である  
こんな寂れた寒村の旅館を継ぐのがいやで両親の反対を押し切り都会の学校へ入ったが  
結局やりたい事が見つからずに故郷の村に戻って旅館を継いでいる  
なんとも笑えない話だ  
もう一人いる妹も同じ理由で都会に出ているが、アイツは割と都会に馴染んでいるようで  
今は高校1年生として寮生活を送っているらしい  
「んじゃ、行ってくる」  
まぁ、こんな旅館に客が入るはずも無く、今日もこうして暇潰しに釣りへと出かける  
今までどうやって旅館の経営を続けて来たのか、勝手に考えた旅館七不思議の一つだ  
そんな我が家の不思議を考えながら釣り糸を垂らしていると、2時間ほどでバケツには10匹近い魚が泳いでおり  
今晩のおかずに十分すぎる量に満足しそろそろ帰ろうと思ったとき、近くの岩場から一人の少女が声をかけてきた  
「こんにちはお兄さん、何してるの?」  
見た目は白いワンピースを着たかわいらしい少女だが、人間でないことは一目で分かった  
そもそも都会が嫌になってこの田舎に帰ってきたもう一つの理由が“コレ”だ  
霊媒体質とでも言えばよいか、昔から周りには幽霊や妖怪が寄り付きやすいらしく、  
旅館でも毎日のようにその手のモノ達を見てきたし、会話もしていた  
幼いころから幽霊や妖怪を見ていたせいで、存在するのが普通だと思っていたが、  
普通の人間には見えないと知ったのはこの村を離れて都会へと出たときの話  
幽霊の話題になったときに「え?普通にいるジャン」と言った後のみんなの白けた視線が今でも忘れられない  
都会の街中でも‘人に見える妖怪’と結構すれ違ったが、友人は誰も気が付かなかった  
ここに帰ってきた理由は、都会の妖怪事情に体がなれなかったことも理由のひとつだ  
「ねぇねえ、私と一緒にあそぼおよぉ〜」  
残念ながら俺の能力では妖怪の正体まで見抜くことはできないため、その真意は計れない  
遊ぼうと言うので岩場を飛んだり跳ねたりしながら一緒に遊ぶ  
特に悪意は感じ取れなかったが、小1時間ほど遊ぶと少女の表情に変化を読み取れた  
その瞳に明らかに悪意が宿り、不敵な薄暗さを持った笑みを浮かべたのである  
長年見てきたせいもあってか、妖怪や物の怪のこの手の変化を読み取るのはお手の物だ  
普段なら危険を感じて逃走するところだが、この少女は何者で俺をどうするつもりなのか、俺は興味本位で付いていった  
 
「ねえ、こんな所に洞窟があるよ!」  
岩場をのんびり歩いていくと、少女がわざとらしく指差す先には洞窟があり、  
少女は意気揚々とその中へ進んでいくが、俺はそこに入る前に足を止める  
「さて、物の怪の可愛いお嬢さん、一体俺をこの洞窟でどうしようというんだい?」  
背中越しにギクッと体が反応したのが読み取れる  
「君、人間じゃないね?俺をこの洞窟に連れ込んでどうする?食うのか・・・ん?」  
「うわぁぁぁん、助けてぇ〜」  
どうやら確信を突いてしまったらしく、少女は叫びながら洞窟の奥深くへ走り去る  
洞窟の中は真っ暗で、洞窟の壁に手をつきながらでないと進めないほどだったが、  
しばらくすると穴の開いた天井から光が差し込む大きな空間が現れた  
「ごめんなさい、ごめんなさい、まさか正体がばれるなんてぇ〜!きっと退魔士だよ〜!」  
「大丈夫、あなたは私が命をかけても守るわ、大丈夫だからね」  
空間の奥からする声の方に目を向けると、そこには2体の巨大な蛇が横たわっていた  
大きい方は長さが20m、小さいほうでも5mはありそう  
全身は真っ白で、人間の上半身がついていなければギネスに登録したくなる大きさだ  
・・・上半身がついていなければ  
しかも、大きい蛇は胸と下腹部の辺りにボロキレを巻き付けているだけで何も着ておらず、  
巨大な胸が窮屈そうに自己主張していた  
正体は蛇女だと言う事が判明したが、親がいたとは予想外である  
あんな巨大な蛇に狙われたら命がなさそうなので、その場からの撤退を決意するが  
‘ガタッ’  
「だれっ!」  
不覚にも足元の岩を蹴り飛ばしたことにより、撤退は中断せざるを得なくなった  
「来たわね、退魔士!どこからでもかかってきなさい!」  
敵意を持って身構える蛇女の体はいたる所に傷があり、血がにじみ出ていた  
巨大な体を起こしてこちらを威嚇するが、満身創痍だというのが一目で分かる  
‘グー・・・・’  
とどめは洞窟内に響き渡るなんとも間抜けな音、恐らくは腹の鳴る音だろう  
張り詰めた空気に包まれた洞窟内の緊張感が一気に低下する  
「あぁ〜私もうだめだわ、あなただけでも逃げなさい」  
「うわ〜ん、お母さん死んじゃいやだぁ〜」  
空腹のためか巨体をヘナヘナと地面に落とし、娘が涙を流してそれに抱きつく  
ため息をつきつつ、親子漫才・・・もとい、感動的な親子の愛情劇を繰り広げる二人の前に近寄った  
「あの、お口に会うか分かりませんが、コレでよけどうぞ」  
いたたまれなくなった俺は、彼女の目の前にさっき釣ったバケツ一杯の魚を差し出した  
・  
・  
・  
 
「本当にありがとうございます(ングング)」  
「いや、そんなに喜ばれるとこちらも嬉しい限りです」  
「空腹で死ぬかと思いましたぁ(アグアグ)」  
持ってきた魚を差し出すと蛇女は疑いもせず一心不乱に食べ始めた  
いや、‘食べる’というより‘丸呑みする’と言ったほうが正しいだろう  
それなりにでかい魚が彼女の喉を通過していくのを見ると、物の怪なんだなぁと実感する  
ここで、ふと疑問に感じたことを聞いてみた  
「ヒト・・・食べないの?」  
「ムグッ」  
急な質問に驚き丸呑みしていた魚を喉に詰まらせたようで、胸をドンドンと叩く  
「たっ、確かに昔はそんなこともしましたが、この子を産んでからは一度もありません!」  
「それが、別れた旦那との約束なんです・・・」  
それから、残りの魚を丸呑みにしつつ昔の話をしてくれた  
昔は村々を襲い、人を食らい、人々から恐れられる存在であったこと  
退治しに来た退魔士と何度も刃を重ね、戦いを続けるうちに愛が芽生えたこと  
愛を確かめ合い、娘が生まれたこと  
旦那と喧嘩別れし、娘を連れて二人で生きるのを決めた事  
それからは人を襲うことをやめ、人目を避けて細々と生きていること  
たしかに、最初に見たときから彼女に対して‘恐怖’という感情を抱くことは無かった  
「まぁ、この子はあなたを私に食べさせるつもりで連れ込んだみたいですけど・・・」  
「はぁ・・・」  
チラリと視線を横に移すと、俺を連れ込んだおしおきに蛇女の尻尾を上から叩きつけられ地面に突っ伏す娘の姿があった  
「ところで、その体中の怪我は?もしかして退魔士とやらに?」  
「ええ、最近は無害だと主張しても手柄欲しさに無理やり滅しようとする輩が多くて」  
話を聞くと、物の怪の世界もこの世で生きていくのはいろいろ大変なんだなぁ、と他人事ながら実感させられる  
また、今の状態の彼女では万が一退魔士と遭遇した場合に逃げ切る事が難しいらしく  
傷の完治と体力の回復を待って旅立つとのことであった  
「よし、完治するまで俺が食い物を持ってこよう、人の付けた傷は人が治さないとね」  
「えぇ!ダメですよ、そんなご迷惑をかけるようなことは・・・」  
「それに、着る物も持ってこなくちゃ・・・その格好のままだと、目のやり場に困るし」  
「え・・・」  
男性を目の前にして自分が半裸であることを初めて意識し、思わず顔が赤くなる  
その後、なんとか説得して看病の許可を得る事ができた  
それから数日間、毎日のように洞窟へ通い食事や包帯などの治療の道具を運んだ  
血の滲んでいた傷口は日が経つにつれて薄くなり、真っ白いきれいな肌が現れる  
最初は申し訳なさげに介抱されていた彼女も次第に慣れ、かわいらしい笑顔を見せるようになった  
退屈そうな娘に釣りを教えたりして一緒に遊んでいる時は、尻尾を揺らしながらゆっくりと眺めている  
その途中で彼女達の名前も知る事が出来た  
大きい方の名が“珀(ハク)、小さいほうがその娘で“琥珀”(コハク)と言う  
白い体からとった名前らしいが、かなり安易なネーミングだと思う  
名を知ってからは互いを名前で呼び合うようになり、何でもない話で盛り上がったりする  
こうして交流を続け、2週間ほど経過すると蛇女の傷は形跡すら残さずなくなっていたが、  
それを思うと何ともいえない気持ちが心に湧き上がってくる  
 
「お兄ちゃんどうしたの?暗い顔しちゃって?」  
急に寂しそうな表情をしたのを見て、娘が心配そうに顔を覗き込んでくる  
「いや、何でもない、何でもないよ・・・」  
傷が完全に癒えているのを確認した時は大きな喜びを感じたが、  
同時に訪れる彼女達との別れに悲しみがこみ上げてくる  
ハクは俺の気持ちを察しているようで何も言うことは無いが、娘は唐突にある提案をする  
「あ〜あ、幸一がお父さんになってくれたらいいのになぁ」  
突然の発言に心臓がドキリと大きく鼓動し、おもわず顔が赤くなる俺と蛇女  
「ねえ、お兄ちゃん、お母さんと一緒になってよ、そうすればずっと一緒にいられるじゃない?」  
「こら、お兄さんの困るようなことを言っちゃダメでしょ!」  
動揺しつつも叱り付けるが、娘は食い下がることなくさらに続ける  
「お兄ちゃんだって、お母さんとなら一緒になってもいいって言ってたじゃない!なんで正直に言わないの!」  
俺に対して詰め寄って来るが、無言のまま何も言わずにいると今度は矛先が母親に向かう  
「お母さんも、お兄さんとならもう一度結ばれてもいいって・・・言ってたのに・・・」  
「もうしらないんだからっ、二人ともバカァー!」  
二人の煮え切らない態度に業を煮やし、洞窟中に響き渡る大声で叫ぶと蛇の体をスルスルと動かしながら外へと消えていった  
後に残された二人の間に、何ともいえない空気が流れたのは当然である  
1分・・・2分・・・  
二人とも顔を上げることなく沈黙が時を支配し、僅かな波の音色と時折落ちる水滴の音だけが洞窟の中に響き渡る  
『あのっ』  
二人同時に顔を上げ、声を出す  
顔を上げた瞬間に視線が交差し、顔の赤くなった二人は再び顔を背けてしまい2度目の沈黙が訪れる  
その沈黙を破ったのは、ハクの方だった  
「私達、明日の朝にここを去ろうと思います」  
その言葉に、驚きの表情で視線を蛇女に向ける  
「今夜は満月です、満月は我らに安らぎと力を与えます。だから、明日には旅立てるでしょう」  
「それに・・・あなたにこれ以上迷惑はかけられない」  
伏目がちに話す彼女の顔も、さっきの俺と同じように寂しそうに思えた  
「俺は、君がよければこのまま・・・」  
「ダメですっ!」  
意を決して自分の正直な気持ちを伝えようとしたが、それは彼女の言葉のよって遮られる  
「ダメですよ、そんなこと言われたら私・・・我慢できなくなっちゃいます」  
両手で自分の体を抱き、何かを押さえ込むように体を振るわせる  
自分の不用意な発言が彼女を苦しめてしまったかのように思え、その場にいる事ができなくなる  
「わかった、でも最後のお別れくらいさせてくれよな」  
彼女は俺と目を合わせることは無かったが、コクリと頷いてくれた  
「それじゃ、また明日」  
「ええ、また・・・」  
人と人外とは本来交わってはいけない、二人とも分かっていながら黙殺していた暗黙のルールが今になって襲い掛かる  
人間である俺には、それ以上に何も言う事ができなかった  
「今夜は何があってもここにはこないで下さい、絶対に、約束ですよ」  
洞窟から去る間際、ハクが何気なく言ったこの言葉の持つ重大な意味を知るのは  
全ての事が終わった後の話になる  
 
 
異変が起きたのは、その日の夜のこと  
その夜は厚い雲が夜空を覆い強風が部屋の窓を叩きつけるように吹き抜け、寝付く事ができないでいた  
‘コツン’  
窓に何かが当たる音がしたが、風のいたずらと思い布団に潜り込む  
‘コツン コツン’  
だが、それが何度も繰り返されるのでおかしいと思い、布団から這い出て窓の外を見ると  
そこにはコハクの姿があった  
ハクの身に何かあったのかと思い素足のまま駆け寄ると、その目に涙が浮かんでいた  
「どうしたんだ、蛇娘に何かあったのか?」  
両肩に手を当てて尋ねると、目からポロポロと大粒の涙を流しはじめてしまう  
「お母さんが・・・お母さんが・・・」  
事の次第を問いただす間も無く、娘を抱いて洞窟へと駆け出す  
なぜそこまで蛇女のことを気にかけるのか、理解しながら認めたくない自分がいる  
その心は夜空に立ち込める雲のように黒く、心は吹き抜ける風に激しく揺さぶられたが、  
洞窟の入口へ辿り着く頃には俺の心に曇りが存在することは無かった  
この洞窟を照らす、淡い満月の光のように・・・  
「あっ、、、くっ、、、んっ、、、」  
ほのかに月明かりの照らす洞窟に耳を澄ますと、奥からは蛇女の苦しむ声が聞こえてくる  
抱きかかえていた娘を洞窟の外へ下ろし、蛇女の元へ向かうため中へと一気に駆け込もうとした  
・・・が  
「お兄さん♪」  
「ん?」  
‘ズガッ’  
コハクに呼び止められて後ろを振り返ると目の前には変化を解いた娘の巨大な尻尾が迫り、0.1秒後には脇腹にクリーンヒット  
その勢いで俺の意識は半分飛び、体は洞窟の奥深くへと吹き飛ばされていった  
何を考えたのか、娘はその体を鞭のようにしならせて俺を洞窟の中へと突き飛ばしたのである  
コハクだったからまだ良かったものの、ハクだったら体中の骨が粉々になっていることだろう  
「頑張ってね、母さん♪」  
洞窟の外ではコハクがにこやかな笑顔でエールを送りながら、吹き飛ぶ男の姿を見送っていた  
「うわぁぁぁぁ!」  
‘ボフッ’  
脇腹に渾身の一撃を食らったために防御の体制をとることができず、ほぼ一直線に洞窟内を吹き飛ばされる  
そのまま洞窟の壁に激突すると考えて身構えるが、何か柔らかい物に受け止められた  
何に衝突したのかと思い体を起こすと、そこには露になった豊満な胸とピンク色に染まった顔があった  
「うわあっ、ごめんっ」  
おもわず飛び起きその場から離れようとしたが、後ろから伸びてきた蛇女の尻尾によって阻まれる  
尻尾は体に巻きつくと体を引き寄せ、そのまま彼女の体の中に引き戻された  
謀ったのか偶然かは分からないが、顔が豊満な双丘の間にうずもれ、  
その上から後頭部を両腕で押さえ込まれて、顔の両側に胸がモロに密着する形となった  
「あぁ、幸一さんっ、幸一さんが私の体にっ、胸にぃ〜」  
俺を胸の谷間にうずめながら自分の胸を弄って快感を得るハク  
両耳が胸に圧迫された上、口と鼻が体に押し付けられているので段々と息が苦しくなる  
「ちょっ、苦しい、落ち着いてっ」  
もがきながら何とか声を出すと、彼女も気が付いたようで動きが止まり、  
胸の合間から首を顔の方に向けると彼女が恥ずかしそうな顔でこちらを見下ろしていた  
その顔は赤く染まり、相当に興奮している事が理解できる  
「幸一さんのことを想って体を弄っていたら、本当に幸一さんが・・・でもなぜここに?」  
「ははっ、それは・・・」  
胸に挟まれた状態で、娘に呼ばれた事、そして尻尾で突き飛ばされた事を話す  
また、それと同時に彼女が興奮している理由、つまり、満月が興奮を増長させる事を知った  
だが彼女が落ち着いたのはその一時だけ、自らの高ぶりを抑えきれない彼女は次なる行動に移る  
「もうっ、あの娘ったら・・・あとでしっかりオシオキしてあげないとっ」  
「でも、まずは目の前の悪い子にオシオキしないとだめですよね?」  
唐突に発せられたその言葉の意味が分からず顔を見ると、瞳が怪しい輝きを見せた  
彼女の目の前にいる子というと自分しか考えられず、心臓にドキリと動揺が走る  
「絶対に来ちゃダメって言ったのに、約束を破ったあなたが悪いんですよ?」  
胸に挟んでいた頭の両側を両手で挟んで優しく持ち上げると、おもむろに顔の前まで近づける  
惚けた瞳と視線が合い、荒い吐息が甘い香りを顔に吹き付け、彼女の興奮状態が理解できた  
 
「約束を破った人間にはオシオキをするのが、大昔からの常識ですものね♪」  
‘んちゅ〜’  
物の怪の常識を持ち出し一人で納得すると、次の瞬間には唇が触れ合っていた  
口内に進入した彼女の舌が俺の舌に触れたかと思うと、一気に絡み付いてくる  
彼女の舌は本物の蛇同様に細長く、俺の舌にシュルシュルと絡みついて離れない  
さらに、彼女は口を大きく開くと口全体を覆い、一気に吸い上げる  
「ふっ、むぅ〜」  
口の中全てが彼女の舌に蹂躙され、あふれ出る唾液を一心不乱に舐め取るが  
彼女の吸い取り切れなかった唾液が口の端からこぼれ、光の筋を作った  
「・・・ぷはぁ」  
長い長い舌の触れ合いから開放されると、酸欠と興奮によって頭がフラフラしていた  
口の中は彼女の舌による愛撫の余韻か、ピリピリと痺れるような感覚が残っている  
できれば毒でないことを願いたい  
「んっ、ちょっと・・・毒いれちゃった」  
先の割れた細長い舌をチロチロと出しながら、テヘッと笑顔でごまかす  
毒の効果か、全身が熱くなるのに反比例して恐怖のあまり顔が青ざめるのを感じた  
「ちょっとまてぇー!死ぬのやだー!もうヤメテクレぇー」  
とぐろに巻かれた体をゆすって脱出を試みるが、人間の抵抗などはかない物である  
「心配しなくでも大丈夫です。この毒は体が熱くなるだけ、それにあなだって準備万端じゃない?」  
「え?あれ?イッツ イリュージョン!?」  
口付けの余韻に浸って気が付かなかったが、視線を下に移すと上半身どころか巻きつかれていた下半身までも素っ裸になっており、  
横に移すと洞窟の隅に俺の衣服が放られているのが見えた  
「あなたには立派な旦那さんがいたんでしょう?それを裏切るようなことはっ」  
「いいえ、もう別れた男っ、それにっもう100年も昔の話ですっ、だから時効ですうっ」  
満月の力に当てられたのか、俺の説得は通じる気配を見せない  
「大丈夫、二度と忘れられないように・・・私から離れられないようにしてあげる・・・」  
不意に彼女の声色が変わったのに気が付きその顔を見ると、表情が一変していた  
発情した雌の顔ではなく、獲物を前にしていまにも丸呑みにしようとする蛇の顔  
チロチロと舌を出しながら嬉しそうに獲物に狙いをつける瞳が、こちらを見つめていた  
もしかしたら俺はこのまま骨を粉々に砕かれて、彼女に丸呑みにされてしまうのではないか  
確かに性的な意味で食べられてしまうのだが、この時のハク顔は命の危機を感じさせるに十分だった  
‘ニュルリ’  
巻き付く彼女の胴体からヌルリとした液体が染み出し、這い回りながらそれを体に塗りつけてくる  
最初は硬い鱗のために体を這い回られると軽く痛みが生じていたが、粘液がローションとなって痛みを和らげ  
滑りが良くなった事で這い回るハクの動きも速まり、さらに多くの粘液を塗りつける  
全身を使った熱い抱擁に抵抗する力は削げ落とされ、体の上を這い回る彼女に身を任せた  
「ふふっ、そんなに無防備になって、はやくシテ欲しいんでしょう?」  
粘液をまとって体中を這い回られる快感に毒の効果も加わって、下半身に熱が集まっていく  
「私の体液、これを塗りこまれた男は何回射精しても疲れなくなるのよ」  
体を滑らせながら、しかし決して逃がさないように巻きつけ、グニグニと愛撫を続ける  
「まずは、お口であなたの肉蛇君を味あわせてもらおうかしら」  
細長い舌をチロチロと見せつけながら下半身に顔を寄せると、2つに割れた舌の先端がペニスに触れ、快感が脳天まで一気に突き抜ける  
尿道口を抉るように激しく舌を立てたかと思うと、次は亀頭全体を優しくなでるように  
体に巻きつく太い胴体によって実際に見ることは出来ないが、感覚だけで何をされているのか頭に浮かぶ  
長い舌を沿わせ、割れた舌の先端をカリ首を挟むように絡ませる  
人間では真似ることの出来ない舌技の数々は、対象の男を快感の坩堝へと誘う  
快感に悶えて体をくねらせるが、彼女と擦れあうことで体液が深く染み込み、よけいに感じやすくなっていた  
「んっ、ヒトじゃこんな事できないでしょ?出した狩ったらいつでも出していいよ?」  
それではお言葉に甘えて・・・と言いたい所だがそう言われると我慢したくなるのが人の性  
だが、快感に耐えるその姿は、動かぬ体をよじり快感に喘いでいるようにしか見えない  
 
「くぅ・・・はあっ・・・」  
喘ぎ声を上げながら快感に耐える姿を上目遣いに眺めるとニイッと薄ら笑い見せ、  
責めをそれ以上奥に進める事はせず、亀頭責めだけで射精に導こうと舌の動きを早めた  
‘ズニュッ’  
「うっ・・・くっ」  
そして、トドメとばかりに尿道口へ突き入れられる舌先  
その刺激は、最初の射精へ導くのに十分であった  
飛び散った精液の半分が彼女の口へ入り、残りは綺麗な顔を汚す  
「肉蛇君、頭を舐められただけで出しちゃったね・・・」  
口の中に入った精液を飲み下し、顔に掛かった分は長い舌で顔を丁寧に舐め、噴出した精液を全て舐め取る  
射精の余韻に浸りつつもその光景を見つめると、下半身の熱がさらに高まるのが分かった  
「君の白い毒液・・・とってもおいしい・・・もっとほしいよぉ・・・」  
‘チュポンッ’  
「ひいっ」  
余韻に浸りつつ息を切らしていると、予告無しに根元まで呑み込まれた  
喉の奥がペニスに絡みつき、竿を舌がシュルシュルと巻き込む  
さらには舌の先が口から這い出て陰茎にまで巻き、中では喉の奥がうねりながらペニスの先を激しく刺激し続けていた  
唾液で溢れる口の中で舌が竿を絡めとり、ジュクジュクと淫らな音を響かせる  
先ほどとは比べ物にならない愛撫に再び精子を放ち、体がビクビクと痙攣する  
喉の奥まで飲み込まれていたため、今度は一滴残らず飲み干されてしまうが、  
それでも物足りないとばかりに舌を使ってペニスを絞り、尿道に残った僅かな精も搾り取ってしまった  
「んっ、ふぅ、ごちそうさま」  
モゴモゴと口を動かして綺麗に舐め取ると、ようやく口からペニスを開放する  
うなだれる男を差し置いて、ハクは満面の笑みを浮かべていた  
「な、なぁ、もういいだろ?」  
「そうかしら?こんなにヒクヒクしちゃって、肉蛇君はまだ満足できていないみたいよ?」  
続けざまに射精したせいで軽い疲労を憶えるが、  
彼女の言う通り下半身の熱は収まるどころかさらに激しさを増していた  
「次は・・・“ココ”に入れてあげるわ」  
ペニスを貪っていた口を離すと、体を器用に動かして顔を彼女の腰の辺りにくるよう体を動かす  
蛇の下半身と人間の上半身の繋ぎ目あたりを見せられても白い肌と鱗しか見えなかったが、  
目を凝らすと僅かに見える細いスリットから透明な蜜が濡れ出て、怪しく光を反射していた  
そこが蛇女の大事なトコロであることは瞬時に理解できたが、その小ささに不安を覚える  
ハクは不安そうな顔をする俺の考えを察してか、そこに自分の指をあてがい、ズブズブと沈め始めた  
「心配しないで、これから・・・大きくなるから・・・ンッ」  
小さなスリットは進入してくる指を何の抵抗も無く根元まで飲み込んでしまう  
「アッ・・・ハウッ・・・」  
挿入した指を出し入れしたり、中を押し広げるように動かす  
小さかったスリットが次第に大きくなり、周辺の白い肌がだんだんと赤みを帯びると、  
それにあわせて指を2本、3本と増やし局部へのマッサージを強めてゆく  
指を出し入れするたび目の前で腰が怪しく踊り、蜜がさらに溢れてくるのが分かる  
「ふあぁぁぁ〜ん♪」  
大きくあけた口の端からよだれを垂らし、天を仰ぐと壮絶な叫び声を上げる  
その姿を見上げながら、自慰に耽って絶頂を迎えたのかと思ったがそれは間違いであった  
目の雨にある蜜の溢れるスリットが大きく盛り上がったかと思うと、そこに紅く濡れた花が咲いた  
何枚も重なる花弁とその奥にある透明な蜜を蓄えた蜜壺、男を惑わす禁断の花が咲き誇ったのである  
ハクは荒い息を落ち着けると、再び下を向いて視線を俺に移す  
「どう?コレで安心した?」  
指を引き抜くと粘液が透明の糸を引き、指に残った液体を長い舌でペロリと舐めた  
余りの驚きと興奮に、無言で首を縦に振ることしか出来ない  
「こんなの出したまま生活したら淫乱な女だって思われちゃうから、いつもは隠してるの」  
ハクは秘所を弄っていた腕を両方とも俺の後頭部にあてると、グイッと力をこめる  
目の前には彼女の秘所、後ろには彼女の腕  
何をされるのか考えたくないが、頭にはこの後自分に訪れる状況がはっきりと浮かび  
‘ジュプ’  
予想道理に蛇女は顔を自分の秘所へと押し付けた  
 
「ん〜、んん〜、む〜」  
口を秘所に押し付けると花弁の奥から多量の蜜が溢れ、必然的に口の中へと入ってくる  
体を巻き疲れた上に後頭部を押さえつけられ、抵抗も出来ずにそれを飲み込むことしか出来ない  
‘ゴクリ、ゴクリ’  
それは、とても甘い・・・不思議なくらい甘い液体であった  
自分の頭が壊れてしまったのだと思ったが、変化はすぐに現れた  
口移しに与えられた毒による体の発熱がだんだんと収まっていくのである  
(身体が・・・軽い?)  
沸騰しそうなほどに熱く、勢いよく体中を循環していた血液は段々と収まるが  
下半身だけには異様な熱さが残り、勃起が収まる気配は無かった  
・・・むしろさっきより激しくなっているかも  
「はあっ、気持ちいいっ・・・でも、本番はこれから・・・」  
一旦彼女の体から引き剥がされ、身体を持ち上げると同時に再び引き寄せられる  
蛇女は双方の腰の位置を合わせると、もったいぶるかのように腰を寄せてゆく  
しかも・・・  
‘シュルリ’  
「うわっ、なんだっ!?」  
突然、視界が真っ暗になると同時に頭を何かが締め付けた  
それは尻尾の先端だったのであるが、突然の事態に頭が混乱して単純なことも分からない  
目隠しをされた状態でいつ挿入されるか分からなくなってしまい、期待と恐怖が頭の中で交錯する  
ハクはというと視界の無い俺の反応を愉しむかのように身体をグニグニと締め付けるだけのマッサージを続けていた  
「さあ、パックリと全部飲み込んであげるわ・・・覚悟はいいかしら?」  
‘ピチャッ’  
言葉の後、先端が触れた  
濡れたイチモツの先端と同じく蜜の溢れる秘所が触れ、湿った感覚が伝わってくる  
秘所の外側にはみ出た何枚ものヒダが待ってましたと言わんばかりに激しく蠢く  
続いて、亀頭が全て呑み込まれた  
ヒダの一枚か波打ちながらカリ首に食い込み、逃がさないように固定する  
股間に力を込めながらわきあがる快感に耐え、呻き声を上げることしか出来ないでいたが  
限界が先に訪れたのは蛇女の方だった  
「んっ、本当はもっと焦らしてあげたい所だけど・・・私が我慢の限界よっ」  
‘チュプンッ’  
『あぁぁぁーっ』  
一気に彼女の最奥まで貫き、二人とも歓喜の中で絶頂を迎えた  
それと同時に俺の目隠しをしていた彼女の尻尾が外れ、状況を確認する事ができた  
秘所はペニスを根元まできっちりと呑み込むと同時に激しく吸い付き、  
さっきまで溢れていた蜜の流れが止まったことで完全に密着した事が理解できる  
竿どころか睾丸まできっちりと呑み込まれ、中でやわやわと揉みしだかれる  
「うわっ、すごいっ・・・・・すごいよっ・・・」  
長い長い射精の間、締め付けられた体がビクビクと痙攣し、  
彼女に捧げた精は一滴も外に漏れることは無く吸収されていった  
だが、それはほんの始まりに過ぎなかったのである  
「え・・・まって・・・そんなっ・・・ああああっ」  
何に驚いたのかというと、次の射精までの間隔の短さ  
何枚ものヒダが複雑に絡み合い、まるで何本もの舌に舐られているようにも思える  
ヒダがペニスに触れるたび、胎を僅かに締め付けるたびに精を吐き出し続ける  
体液による影響もあるのだろうが、今までこんな連続した絶頂など味わったことは無い  
毒+体液+愛液の相乗効果は同属相手はまだしも、ただの人間には過ぎた効果をもたらすようだ  
その効果をまともに受けている獲物にはそんな事を考える余裕は無いのだが・・・  
「君の命が私に流れ込んでくる・・・止まらない・・・止められないよぉ・・・」  
ハクも捕食者としてのスイッチが完全に入ってしまったようで、瞳に赤い輝きが燈る  
「あ、ああ、アアア・・・」  
巻きつきながらやわやわと愛撫を続けていた体の動きが急にとまり、  
激しく絞め付けたことで結合部がガッチリと固定され、離れる事はできない  
いままでの愛撫とは違う攻撃的な行為に恐怖と言う感情が湧き上がって来た  
 
「ひぃ・・・ひゃめ・・・もう・・・ひっ」  
だが、沸きあがる恐怖をそれ以上の快感が塗りつぶす  
ハクは決して自分の腰を動かすことは無く、秘所の動きだけで射精まで導き続けた  
身体に巻きつきながら愛撫し、まるで肉を食すように精液を貪る肉食の獣  
何度も何度も、続けざまの射精にもかかわらず捕食者は決して満足することは無い  
その捕食者の哀れな獲物は恐怖と快感にうめきながら、黒く沈んだ瞳でハクを見つめた  
「ひっ・・・ひぃぃぃ!」  
突如、洞窟内に響き渡る悲鳴  
だが、悲鳴を上げたのは巻きつかれた獲物ではなく、捕食者の方であった  
「その顔を・・・そんな顔をしないで、その顔で私を見ないでぇ!」  
獲物の背中に手を回すと、抱きしめると同時に爪を突き立てる  
長く尖った爪は肌を貫いて肉の内側に食い込み、そこから赤い血が流れ出た  
「昔、私が人を食っていた時、私に食される人間も今のお前と同じ顔で私を見つめていた・・・」  
「その顔・・・二度と・・・見たくなかった・・・」  
精を貪り、体を締め付け、背中に爪を立てながら強気な声でポツリと呟いたが  
強気ながらも湿り気を持った声を不思議に思いその顔を覗くと、瞳には涙が溢れていた  
その涙を見たとき、彼女の心をひとつ理解できた気がした。本当は寂しいのだと  
どんな理由で夫と別れたのかは知らないが、物の怪が人の世界で生きるのは相当の労力を要するだろう  
人と交わり、子を持った以上、同属からも見捨てられたかもしれない  
今回のように人間から追われることも何度も経験してきたかもしれない  
それでも、人を襲うことなく娘を育て上げてきた  
そう感じると、心の奥から今まで感じていたのとは違う愛おしさが溢れ出て、  
ただ愛するだけではない、生涯をかけて守りたいという気持ちが芽生えてくる  
この気持ちをなんと言って伝えるべきか、どんな言葉ならその心に届くのか思いつかず  
言葉では表しきれない正直な気持ちを、行動で伝えた  
‘ムチューッ’  
締め付けられて動かぬ身体を無理やり伸ばし彼女の濡れた唇に自分の唇を重ねると、  
突然の反撃に驚いたのか、骨が折れそうなほどの力で巻きついていた身体の力が弱まる  
その隙に固定されていた手を拘束から抜き、彼女の顔を掴んで舌をさらに奥へと捻じ込む  
積極的に舌を入れ、口の中を嘗め回し、吸い上げる  
最初のうちは予想外の行動に目を見開いて驚き、自分の中へ侵入した舌の動きに従っていたが  
彼女の口の中で絡まっていた舌もだんだんと押し返され、逆に彼女の舌に犯される  
結局は彼女にリードされる形になってしまったが、しばらくすると彼女の動きに変化が現れた  
背中に爪を立てていた腕がやさしく背中をさする動きに変わり、  
ヴァギナの動きだけで精を絞っていたのに腰をクネクネとグラインドする動きが加わる  
ただ精を搾り取るだけの動きが、快感を与えると同時に共有する動きに変化したのだ  
「ムッ・・・ぷはっ」  
口を放して彼女の顔を見ると、俺の知っている優しい顔に戻っていた  
息は荒いままで発情が収まったわけでは無いようだがその瞳に恐怖は感じられず  
体中に塗りつけられた粘液にも慣れてしまったようで、ヌメッた身体が妙に心地よい  
 
しばらくの間見つめあうと首に腕を絡め、恥ずかしそうな顔で瞳を見つめながら言う  
「昨日言おうとしたこと・・・こんな目茶苦茶に犯されても許してくれるなら、もう一度言っていただけませんか?」  
精を貪るための一切の動きを止めると、騒がしかった洞窟内が静寂で満たされる  
そして、彼女の瞳から視線を外すことなくが告げた  
「俺は、君がよければこのままずっと・・・ずっと一緒にいたい」  
出合って数週間しかたっていないのにこんな気持ちになるのはおかしいのかもしれないが、  
これが偽りの無い自分の正直な気持ちであった  
彼女の方は、その言葉を待ち受けていたかのように喜び、嬉しさの余り涙を流す  
「ありがとうございますぅ、もう一人でさびしい想いなんてできませんっ、どうかっ、どうかぁ〜」  
再び秘書の動きが活発になると、あっという間に絶頂寸前まで持ち上げられてしまった  
「あっ、あっ、お願いです・・・どうか・・・一緒に・・・」  
「俺もっ、俺も君と・・・一緒にっ」  
『あああぁーーーーっ』  
最後は二人同時に達し、俺は彼女の中に愛の証である白濁とした液体をぶちまけた  
「ハク・・・」  
「幸一さぁ〜ん・・・」  
彼女の腕に上半身は抱かれ、下半身は巻きつかれながら行為の余韻に浸る  
体を巻きつけながらグニグニとゆっくり体を締め付けると、なんともいえない安らぎに満たされた  
さらに、顔を胸の谷間に置きゆっくりと頭を撫でられる  
この世にこれ以上の幸福があるだろうか?  
「幸一さん、後悔はしませんか?私,バツイチだし・・・子持ちだし・・・」  
「大丈夫だよ、君も娘も精一杯愛してあげるよ」  
「あぁ、幸一さぁ〜ん」  
そして再び口付けを交わす  
欲望を満たすためではなく、愛を誓い合うための口付け  
口を離して見つめ合うと、二人の顔は清清しくも晴れやかな表情になり・・・  
「じゃぁ2回戦、良いですか?」  
「えぇ!もう!?」  
清清しいムードになって和んだと思った瞬間、蛇女は再び発情モードへシフトした  
「ふふふっ、言ったでしょう?私から離れられないようにしてあげるって」  
再び鋭くなる眼光を見て、何を言っても無駄だと悟る  
体をやわやわと揉みほぐしていた彼女の下半身が再び強く締め付けて自由を奪うと、  
巻き付かれた事でさっきまでの行為が頭をよぎり、愚息は初期の気力を取り戻していた  
ちなみに、開放されたのは10回ほど絞られた後になるが、意識が途中で途切れたので正確な数は覚えていない  
 
 
「さぁ、帰ろうかぁ」  
意識を取り戻した時はすでに空は白み、やつれた俺を見て蛇女が反省していた  
何とか着替え、フラフラの体を蛇女に支えてもらいながら洞窟を出ようとすると  
ハクが何かを思い出したかのように言った  
「そうだ、幸一さんのおうちに行く前に1つやる事が残っているわ」  
「・・・?」  
何かするのか分からない俺を差し置いて巨大な胴体をズルズル引きずりながら洞窟の入口へと向かい、  
俺もへとへとになりながらついていくと、洞窟の入り口から喘ぎ声が聞こえてきた  
「ふあっ、くぅんっ、はあぁん♪」  
声のする方向を見ると、自分の秘所に指を添えて自慰にふけり体をひくつかせるコハクの姿があった  
コハクもハクと同じように発情し、滾る体を抑えきれなかったのだろう  
洞窟の奥から聞こえる俺たちの声がさらに興奮を掻き立てたのかもしれない  
喘ぎ声を上げながら自慰に耽っていたが、後ろから迫る気配を察してその行動をとめる  
俺のときのように体をギクッと身体を反応させてゆっくり振り返ると、そこにいたのは怪しい笑顔で娘を見下ろすハクの姿であった  
「おっ、おおおお母様・・・お楽しみは終わりましたか?」  
にっこり笑う蛇女を見て冷や汗をたらすが、次の瞬間  
「お兄ちゃんに迷惑かけちゃいけないって言ったでしょ・・・反省してらっしゃい!」  
‘シュッ ドカッ’  
「なぁ〜ぜぇ〜」  
俺がやられたように尻尾で思いっきり吹き飛ばされたコハクは、エコーを残しながら朝焼けのの星になった  
まぁ、3分後には戻ってきたけどね  
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
そんなこともありつつ、二人を連れてなんとか旅館へと帰りつく事が出来た  
両親にいきなり蛇姿を見せるのはまずいと考えたので、ひとまず人間の姿に化けてもらい旅館へと入っていく  
二人を見た両親は俺が朝帰りをした上に女を連れてきたので何事かと驚いたようだったが  
若干脚色した事の次第を話し、妻として迎えたい事や子連れである事を告げた  
茶の間でちゃぶ台を挟み、腕を組んで考える親父とそれを見守るお袋  
「子持ち・・・か、まぁお前が惚れたというのなら俺は止めるつもりはないぞ」  
「そうねぇ、奥手なこの子が女性を連れてくるなんて、今夜はお赤飯炊かなくちゃ」  
緊張しながら反応を待っていたが、好感触というより全然OKといった勢いに心を安堵させる  
だが、これから一緒に生活する以上、隠し通せないだろう事実を告げなくてはならない  
「実は、もう一つ大切な事を伝えなくちゃいけないんだ」  
真剣な顔で訴える俺に聞き入る両親、そして  
「・・・頼む」  
「はい♪」  
ドロンっと怪しい音と共に、部屋中が白い煙に包まれ、その煙が引くと共に巨大なヘビの下半身が姿を現した  
ついでにコハクの方もヘビの姿になっている  
体の全てを入れるには茶の間が小さすぎたらしく、とぐろを巻いて窮屈そうだ  
「あのぉ、どうでしょうか?」  
上半身の方は天井すれすれにあり、上からの声に合わせてそれを見上げる親父とお袋  
おそらくは驚きで声も出ないのだろう  
卒倒しないのが不思議なくらいだったが、その後の両親の言葉に俺は自分の耳を疑った  
 
「むぅ、これは困ったな、その体じゃ客間に住むには狭すぎるぞ、おまえどう思う?」  
・・・は?  
「そうねぇ・・・あっ、どうせお客は来ないんだし、離れを二人の愛の巣にしましょうよ」  
・・・お袋も一体何を?  
「うむ、良い考えだ、あの広さなら、蛇なお嬢ちゃんも不自由しないだろう」  
「それに、ここまで音も届かないから愛の営みが激しくても・・・ふふっ」  
巨大なヘビとなった下半身を見て、急にどこに住まわせるかの話を開始する二人  
ちょっとまて、親父達はこの状況が理解できているのだろうか?  
いや、もしかしたらこの姿を見て、気が狂ってしまったのかもしれない  
不審に思って妻にちゃんと姿を見せているか確認を取ったが、術などは使っていないとのこと  
「おっ、親父にお袋、この姿を見てもなんとも思わないのかよ?」  
でかい蛇の下半身を指差して問うが、両親はキョトンとした顔で  
『何って、ヘビ女だろ(でしょ)?』  
と、そこにそれが存在するのが当然のように言い放った  
両親共にボケたかと思ったが、そのような気配は見て取れず、  
なぜこの姿を見ても大丈夫なのかを問いただすと  
「そういえば、お前には話してなかったな・・・ちょっとこい」  
そう言って親父は俺を玄関の外までつれてくると、上を指差した  
「ん?ウチの旅館の名前じゃないか、それがどうしたんだ?」  
玄関先にある旅館のでかい看板を見るが、それはガキの頃から毎日見ていた物  
古びた木彫りの文字で“  甲 斐 旅 館”と書いてあるだけだ  
「なんだ、お前知らなかったのか、ホレ」  
そう言って親父が横書きで記した文字の“甲”の脇にある微妙な間をほうきで掃くとそこに“陣”の文字が現れた  
余りの驚きに、一瞬声が詰まる  
「なっなにぃ!?ウチって“甲斐旅館”じゃなくて“陣甲斐旅館”だったのかぁ!」  
この世に生れ落ちて20余年で初めて知った事実であるが、俺はそれ以上に大変な事に気付いてしまった  
“陣甲斐旅館”・・・“ジンガイリョカン”・・・“じんがい”・・・“人外”・・・  
「・・・親父、まさかとは思うが、この旅館って?」  
共に看板を見上げる親父のほうを向きながら言うと  
「そうだっ、ここは本来、そこのお嬢ちゃんみたいな人外なお客が泊まる旅館だ!」  
当の親父は、衝撃的な事実をあっさり認めたのである  
そう、この旅館は代々ヒトならざるもの、‘妖怪’から‘神’に至るまで  
休暇を求める様々な種族を宿泊させるのを生業としていたとのこと  
ずっと前から見えていた妖怪達は、やはり幻ではなかったのである  
驚愕の事実を知り硬直していると、妻になった女性と娘になった少女が尻尾を絡めてきた  
「フフ、ご両親の許可も得た事だし、これからヨロシクね、ア・ナ・タ♪」  
「やったぁ!本当にお兄ちゃんがパパになるんだね、嬉しい!」  
「まぁ、これからは旅館の若女将として修行をしてあげないといけないわねぇ」  
「ウム、これでこの旅館も安泰だな、今日は祝いだっ飲むぞっ、ハッハッハッ」  
こうして、呆然と立ち尽くす俺を差し置いて、両親と妻と子の間で話が進んでいった  
 
さて皆様、この村においでになる際は“陣甲斐”・・・もとい、“人外旅館”へぜひどうぞ  
古びた旅館ではありますが、神も浸かる癒しの温泉と海の幸  
そして、女将となった妻と共に皆様のお越しをお待ちしております  
 
〜其の一・終〜  
 

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