私の名前はコハク、種族は蛇女、年齢は……
へっ、蛇女の中では若い方なんだからねっ、
人間と同じものさしで計らないでよねっ。
ママと一緒に放浪の旅を続け、安住の地を探し続けていた私達。
ある時、若い退魔士の不意打ちを受け、私を守るためにママが大怪我を負い、
近くの洞窟に逃げ込んだまではいいが、ママは深手で身動きが取れなくなった。
体力の回復には人間の肉が一番!
……と、聞いたことがあるので、傷ついたママの腹ごしらえにしようと誘い込んだ男。
それが今のパパ、名前は‘甲斐幸一’。
誘い込もうとして正体がバレた時は心臓が止まるかと思ったわ。
人外を見破れる人間が退魔師以外でいるなんて聞いたこと無かったし。
洞窟まで逃げ帰って、それを追うように入ってきたときは絶体絶命だと思ったけど、
実は意外と優しい人だった。
毎日のように食べ物を持ってきてくれたし、ママの治療や私の遊び相手もしてくれた。
雄、それも人間の男に優しくされた事の無かった私は、思い切って言ったの。
ママと幸一が一緒にいるときに、
「あーあ、幸一がお父さんになってくれたらいいのになぁ」
ってね。
でも、二人とも人間と人外との一線を越えることを嫌がってか、
展開はそれ以上先に進まなかった。
まったく、初心なネンネじゃあるまいし……
いっ、今、年寄りくさいとかおもったでしょ!
コホン、そこで、私は一計を案じたわ。
幸運な事にその夜は満月、私達の欲望が一段と高まる夜。
私は、幸一の家まで行き、涙目を作ると悲しそうな声で告げたの
「お母さんが……お母さんが……」
狙いは的中、パパは私を抱えると、一目散に洞窟へと向かった。
あとは、尻尾でパパの身体を吹っ飛ばして、
ママの身体目掛けてシュートをかましたら、見事に命中。
我慢し切れなかったママはパパをぐるぐる巻きにして捕食体勢へ、
本当に食べちゃうんじゃないかと心配したけど、
結局二人は愛ある行為に発展し、見事にゴールイン。
二人が結ばれたのは、何もかも、この私のおかげって訳よ。
まぁ、後で、ママに怒られちゃったけどね。空の彼方まで飛ばされて……
パパは実家が旅館をやっていて、
ママもそこの若女将として平凡ながら愛のある生活を送っている。
人生……いえ、人外生というのはわからないものね。
でも、パパの方はあれから色々な人外に弄ばれているようで、
心身ともに疲労で毎晩大変みたい。
そのせいで夜の頻度が減っているママも、ちょっと不満そう。
まぁ、私はパパの妹である‘幸恵ちゃん’とラブラブだから満足。
その、はずだったのに……
「はぁ、おなかすいたなぁ」
私は食べた事が無いけど、私達は本来、人を喰らって生き続けていた種族。
まぁ、雑食だから人間と同じ食事でも問題はないんだけど、
それでもどこか、普段の生活に物足りなさを感じていた。
その日は旅館の手伝いもあまり無く、自分の部屋でゴロゴロとしていた。
私の部屋は、パパやママが寝泊りする愛の巣……もとい、離れの客間と違い、
本館の一室を私室として使わせてもらっている。
下半身を蛇の姿にしても窮屈しないように、旅館でも大き目の部屋を使わせてもらい、
とぐろを巻いてぐっすりと眠りにつく。
時々、お姉ちゃんと一晩中愛し合う事もあるのよ♪
……でも、少し違った
「ん、なんだろ、この感じ」
不思議な匂い、今まで嗅いだ事の無い匂いを感じた。
身体の内で何かが煮えたぎり、収まらぬ興奮が始まる。
その時、頭の中で知らない誰かがこう言ったの。
『餌だ、獲物がいる、喰らってもいい人間がいる』
頭の中に響いた声。
後々考えてみると、蛇女としての‘本能’が告げたんじゃないかと思う。
ともかく、その後は何もかも放り出し、走り出していた。
目的地がどこか頭では分からなくても、足が勝手に連れて行ってくれる。
2本足では速度が出せないから、途中で下半身も蛇の姿に戻して移動する。
気が付いたときには、もう’そこ’に着いていた。
みんなが’岬’という場所。
後から、そこが’神隠しの断崖’と呼ばれる場所だと聞いた。
そこには人生を諦めた人間がやってきては消えてゆく。
遺体も、衣服も、遺書すら残さず。
だから、普通の人間はそこが自殺の名所だなんて知らない。
人が来た痕跡も、何もかもが無くなってしまうから。
理由は知らないけれど、ママからは近寄ってはいけないと念を押されていた場所。
「あれ? 私なんでココに?」
だが、来てしまったものはしかたがない。
岬に着いた私は、感じていた匂いの正体を視界に捉える事ができた。
(人間の……男……)
遠目に見ただけだが、男が岬の先端で海を見つめていた。
(この匂い……感覚? 何だろう。心が疼く)
(あの人間……死のうとしている?……飛び降りようとしている?)
匂いとして感じていたのは、『死の気配』
人が自ら命を立とうとしたと時の気配を感じ取っていたみたい。
(飛び降りる……死ぬ?……どうせ死ぬなら……食べても、良いよね?)
口に溢れてきた涎をゴクリと飲み込む。
その時の私には、目の前の人間を喰らう事しか考えられなかった。
(同じ死ぬんだもん、私が食べても同じことよね)
思い浮かぶのは、男を喰らうための自分勝手な理由付け。言い訳。
(死ぬ前には……うんと、気持ちよくしてあげなくちゃね)
そして、食欲以外も満足させたいという己の欲求を相手に転嫁させる。
この思いを廻らせている間にも、私の体は男……獲物へと近づいていた。
10mまで近寄っても、獲物は気づかない。
よくよく見ると、男は既に両靴を脱いで綺麗に並べ、その上へ遺書らしきものを乗せていた。
「お兄ぃさんっ」
見た目どおりの女の子らしい声で話しかけると、獲物は振り返り、驚きの表情を見せる。
当然よね、自殺しようとしているのに、目の前にいきな美少女が現れたら。
「飛び降りに来たんだよね、知ってるよ」
「なっ!?」
ふふっ、驚いてる驚いてる。
男に対し、考える暇を与えずに詰め寄る。
「きちんと並べた靴とその上に乗せた遺書。自殺以外に何があるのかな?」
「え、いや、その……うっ!?」
男は慌てふためき、オロオロとすることしかできないでいたが、
突然動きが止まる。
私の頭にもクエスチョンマークが浮かんだ。
男は、私の瞳をジッと見つめたまま、動く事が無い。
「お兄さん、どうしたの?」
こちらの質問にも答えることがない。
何があったのか理解できずにいたが、その表情から原因を知る事ができた。
『魅了の瞳』
ママが使えるのは知っていたし、使うところを見た事もあるけど、
まさか自分も使うことができるとは知らなかった。
獲物を目の前にして、体が勝手に最善の術を行使したのかもしれない。
「おいで、そっちは危ないよ」
獲物は、言われるままに近寄ってくる。
空を見つめた瞳に光は無く、表情が動く事も無い。
私の言うとおりに動く操り人形のよう。
「さ、邪魔な服を脱いで、一緒に気持ちよくなりましょう」
催眠にかかった獲物は、言われたとおりに服を脱ぎ始め、
それと同時に、私も準備に取り掛かる。
服を脱ぎ捨て、本来の姿である、蛇の下半身を露にする。
息を荒げながら獲物が身体を寄せるのを待っていたが、
尻尾を巻きつけようとした直前、男の意識が戻ってしまう。
「あっ、あれっ!? オレなんで裸に?」
「ふぇぇ、魅了の術が解けちゃったぁ」
多分、力不足に経験不足だと思う。
全裸になった自分と、眼前には巨大な蛇の下半身を見せる少女。
突然訪れた非常識な現実に獲物は逃走を図ったけど、
残念ながら私の動きの方が早かった。
長い胴体を鞭のようにしならせると思い切って振り、
逃げようとする獲物の身体に向けて放った。
ギリギリ、尻尾の先端で獲物の身体を掴むと、そのままグルグルと巻き込む。
「へへーっ、再びコンニチハ」
「うっ、うわぁ、やめてくれっ」
獲物は、再び私の眼前にその裸体を曝け出す。
脚をジタバタさせて足掻いても、私の巻き付からは逃れられない。
ひとまず、蛇らしい方法で黙らせる事にした。
‘カプゥ’
獲物の動きを止める毒。
首筋に打ち込んだ強烈な毒は、血流に乗って体中を駆け巡る。
動けなくなるまでに数秒とかからない、人外特製の毒。
それと同時に、獲物の下半身に熱い滾りが現れる。
これも毒の特性、媚薬の効果ね。
そして、自分の下半身にも宿る熱い感覚。
幼い丘の筋から愛液が垂れ、その興奮の度合いを自分で理解する。
「あはっ、お兄ちゃんのここ、ビンビンだねぇ……はむぅ」
勃起した獲物のイチモツを凝視すると、我慢が出来なくなった。
喉の奥まで一気に挿入すると、口をムニムニ動かしながら舌を絡める。
私の長い舌を絡み付けると、毒で肥大した男のモノは、精を私の口に放出した。
「はむっ、ちゅるんっ……濃くて、おいしぃよぉ」
男のモノを解放し、口を大きく開けると、大量の精液が口に満たされ、
口の端からトロリと垂れた。
長い舌を口の中で廻しながらゆっくり味わうと、残らず飲み下す。
激しい性欲が身体を突き動かし、本来ならばそのまま行為に及ぶところだけど、
男は最初の射精だけで気を失ってしまい、それ以上の行為に及べない。
獲物の耐久力の無さに眉を潜めるが、ここまで来た以上、後に引くことは出来ない。
ここで、性欲以外の欲求が激しく湧き上がるのを感じた。
膣のさらに下、長い蛇の胴体に募る不満。
今まで感じた事の無い感覚が、感じた事の無い場所に集まり、
悶々とした感覚に身をくねらせる。
それが‘食欲’である事に気が付くには、少し時間が掛かった。
目の前でとぐろに巻かれた獲物を見ていると、その欲求がさらに高まる。
口内に涎が溢れ、収まりきらずに口の端から垂れる。
下の口から湧き出る涎も、今までに無い分量だ。
「はうっ!?」
頭のスイッチが突然切り替わる。
獲物と共に快楽を貪る者から、獲物を壊し、捕食する者へと。
「ん、でも……」
私には分からなかった。
獲物を、どのように喰らえば良いのか。
人間の食べ方なんてママにも聞いたことが無かったし、
今まで考えた事も無かった。
試しに口を大きく開いてみたけれど、ぜんぜん広がらない。
口裂け女みたいに大きく広がるわけでもないし、
蛇らしく人間を丸呑みにするなんてとても無理。
悶々とした感覚を残したまま、獲物を目の前に何も出来ない自分。
獲物を目の前にして何も出来ない自分が情けなく、食事の方法を自分の頭に問い続けると、
その問いには身体が答えてくれた。
「んあっ、なっ、何っ!?」
下半身に異常を感じ、視線を向ける。
愛液の溢れる、かわいらしい下のお口。
人間と蛇との境界に存在する小さな割れ目から、
さらに下半身へ向けて一筋の線が入った。
突如現れた巨大な割れ目に驚きを隠せずにいたが、
異変はそれで収まらなかった。
筋から愛液が染み出し、パックリとした割れ目がはっきりと姿を現す。
その周囲は熱を帯び、割れ目に沿って赤く腫れたように膨らみ始めると、
肉が内側から盛り上がった。
まるで、つぼみから花が咲いたように……
「嘘……これがあたしの……おマンコ?」
正直、見た目はかなりエグい。
縦に長い穴に沿って盛り上がる肉壁。
両腕を使ってクパァと拡げると、スイカでも丸呑みにできそうな穴。
その中に満たされる正体不明の粘液。
穴の内側では、触手のように細長いヒダが何本も蠢いている。
私は、恐る恐る、自分の腕を差し伸べた。
「ひあぁん」
触れた瞬間、体を流れる電流に、背を海老のように仰け反らせる。
巻きつき、捕獲している獲物を取り落としそうになったほどの快感だ。
さらに、内側から伸びる触手がヌラヌラとした粘液をまといながら、
私の腕に絡み付いてきた。
「すっ、凄いよぉ……こんなの、私のじゃないみたいだよぉ……」
腕を抜き、絡みついた粘液を舐め取りながら、恍惚とした表情になる。
さらに、そこから発する香りが頭を痺れさせる。
生まれてから一度も開く事の無かった大輪の花が発する香り。
そこから溢れる甘い香りは、自分の身体から発するにも関わらず、
私をさらに狂わせ、その先の行為へと身体を導くスイッチとなる。
淫毒による効果で、獲物は相変らず気を失ったまま。
まさに、絶好の機会といえる。
「あふっ、もおっ、我慢の限界だよぉ」
とぐろに巻いた獲物を一旦持ち上げると、
その身体を下のお口に添える。
獲物を欲する口がパクパクと開閉を繰り返し、
粘液と甘い香りを噴水のように放出していた。
「さ、さぁ……入れるわよ……」
気を失い、だらしなく垂れた獲物の両足が入り口に触れる。
我慢できないのか、先走った触手が粘液を塗りつける。
大きく開いた口の中、粘液溢れる泉に、獲物の身体を落としこんでゆく。
「あっ、あっ、はぁぁんっ」
獲物の脚を沈める度に快感の波が襲う。
足先を入れた瞬間、大きく開いていた口が収縮し、咥え込む。
モグモグと咀嚼するように蠢き、獲物の脚を味わっているようだ。
肉壁と獲物の身体が触れ合うたびに快感が襲う。
まるで痛みのような快感に、一気に呑み込む事が出来なかった。
獲物の両足には触手が絡みつき、抜け出せないように拘束する。
快感に絶えながら、ゆっくりと。
膝のあたりまで呑み込んだ事を確認すると、尻尾の巻きつきを解いた。
‘ズニュン’
「はぁぁぁぁぁんっ」
獲物は重力に沿い、そのまま口の中へ落とされ、
身体を腰の辺りまで一気に沈み込ませた。
あまりの快感に、目を見開き、口をだらしなく開きながら天を仰ぐ。
肉が蠢き、ズブズブ、グチュグチュと音を立てて粘液を塗りつける。
腰まで飲み込まれたことで、男のペニスは再び私の愛撫に晒される事になり、
快感によって男の意識が現実へ引き戻された。
「あっ、うっ……なっ、なんだ!?」
異常事態に取り乱す獲物。
沈み込む自分の体を引き抜こうと盛り上がった恥肉に手をかけるが、
その行動は意味を成さない。
肉の盛り上がりに手をかけ、力を入れた瞬間に、男の腕はズブズブと沈み込んでゆく。
体と同じように。
「うわっ、腕が沈むっ! ぬっ、抜けないっ!」
恥肉に吸い込まれた腕にも触手が絡みつき、体と同じように抜けることは無い。
思い通りの展開に、私は思わず笑みがこぼした。
「ふふっ、自分から腕を突っ込んじゃうなんて、積極的で素敵よっ」
わざとらしく言い放ってはみたけれど、慌てふためく餌の耳には届かなかったみたい。
蠢く肉壁にペニスをマッサージされ、うめき声を上げる。
かく言う私のほうも、度重なる快感を受け、実際には余裕など無い。
「くそっ、バケモノっ、放せ、畜生!」
「うるさい子ね、汚い言葉を吐くイケナイ子には、こうしてあげる」
すでに、へその上までが呑み込まれている。
その獲物の上半身に尻尾を巻きつけ、激しく締め上げると、
今度は助けを懇願した。
「やっ、やめてくれ、お願いだっ、助けてっ……ひいっ」
締め上げられる痛みと同時に、下半身に与えられる快感に喘ぐ。
「ふふっ、下のお口にモグモグされて、精液を放出して、だらしないのね」
獲物の下半身を咥え込んだ口は、相変らず咀嚼のような愛撫を続けていた。
肉壁が収縮するたびに獲物のペニスが擦り付けられ、双方に快感を与える。
獲物の身体に沿って形を変え、ミッチリと密着する肉壁。
脈動する肉壁に愛撫され、我慢しきれるオスなどいない。
未だ口の外にある上半身にも、我慢しきれない触手が絡みつき、体液を塗りつけた。
「ひっ、いやだぁ、助け……てぇ」
快楽に喘ぎながら未だに生きる事を諦めきれない獲物に、私は現実を教えてあげた。
「残念だけど、私があなたを解放しても、どの道、助からないわよ」
「なっ、に……?」
「ふふっ、周りを見て御覧なさい」
獲物は私に言われたとおり首を廻して周囲を確認する。
その瞳に移るのは、茂みや岩陰で羨ましそうにこちらを見つめる美女、美少女。
獲物にも、それらが人間でない事が、何となく理解できているようだった。
「私が逃がしても、周りにいる誰かが、あなたを食べちゃうわよ?」
「うっ、あぁ……」
「私でよかったわね、血が大好きで肉をバリバリ食べる怖い娘もいるんだからさ」
それを聞いてから獲物は黙り込んでしまった。
まるで、全てを諦めたかのような顔が、射精の瞬間だけ、僅かに歪む。
ゆっくりゆっくり、
獲物が呑み込まれていく姿を、
獲物が快感に喘ぐ姿をじっくりと眺めながら、
たっぷりと時間をかけて男を呑み込む。
僅かな抵抗を示しつつも、度重なる愛撫によって何度も射精へ導かれる獲物。
私は、獲物が絶頂を迎え、喘ぎ声を上げるたびに、
少しづつ、その体を胎内へと導く。
その動きを止めることなど誰にもできない。
今や、獲物はその頭を僅かに覗かせるだけとなっていた。
けど、獲物は最後の最後で足掻きを見せる。
頭しか出ていない状態で体を捩り、完全に沈み込まないようにもがく。
私に言わせれば無駄な抵抗だけれども、男は必死だった。
その必死に喘ぐ顔が、私を再び不機嫌にさせた。
「ずいぶん粘るわね……でも、しつこい男は嫌いよ」
尻尾の先端を持ち上げると、獲物の頭上に置く。
獲物もそれに気がつき、何事かと上を向くが、
尻尾の意図に気がつくと再び悲鳴を上げた。
「やっ、やめろぉ、お願いだ、やめてくれぇ」
尻尾の重みが加わると、男の顔がズブズブと沈み始め、
首元までが完全に埋まってしまった。
相変わらず体を捻じるように動かすけど、それが私への愛撫となり、
粘液をさらに激しく噴出させた。
私は尻尾の先端をゆっくり動かし、獲物の頭を優しく撫でてあげる。
この世と別れを告げる獲物に、哀悼の意味をこめて。
「最初から死ぬ気で来たんでしょ? あそこの崖から飛び降りるつもりだったんでしょ?」
「あう、い、い、あ、いやだ、こんな、いや、だぁ」
「いやだなんて嘘よ、本当は気持ち良いまま、このまま私に食べられたいんでしょう?」
「そんな、そんなこと無いっ……」
「あるのっ! あなたは快感意外感じることなく、私の中で溶かされるのよっ!」
「ガッ、グボッ」
「じゃ、さよなら」
尻尾の先端に力をこめると、男の顔が肉に沈んでゆく。
喘ぎ声を発する口が飲み込まれ、快楽と絶望に塗れた瞳が見えなくなる。
’ツプン’
完全に……呑み込んだ。
途端に湧き出るのは、例えようの無い充実感と達成感。
蛇女としての欲望を満たした満足感。
人間を屈服させ、自分の餌とした征服感。
少女の小さなつぼみから大輪の花へと成長した下半身の口も、
獲物を呑み込むと同時に、再びつぼみへと戻っていく。
ミチミチと肉同士が擦れ合う音を立て、プックリ膨れた唇のような肉が収まる。
やがて一筋の線となり、跡形も無く消えた。
後に残ったのは、無毛の小さな丘と、その間にある小さな穴。
まるで何も無かったかのようにも思えるが、
腹の中で蠢く餌が、人間を喰った現実を教えてくれる。
消化するための器官へと導かれた獲物は、
私の腹の中でも無駄な抵抗を続けていた。
いくら蛇女の腹とはいえ、私はまだ子供。
その胴体で大の大人を呑み込んだのだから、窮屈そうだ。
ま、このまま消化しちゃうわけだから関係ないかな?
獲物は体をグネグネと動かし、脱出しようともがく。
まだ、希望があると思っているのだろうか?
腹の中に収められては、手足を動かすこともできない。
まるで、イモムシのよう。
少し、可愛そうに思えてきた。
残念だけど、私の腹で暴れることが、
自分の残り少ない寿命をさらに縮めることだと分かっていない。
暴れる獲物の動きに刺激されると、消化のための粘液がさらに分泌される。
それが潤滑剤となり、獲物はさらに胎内奥深くへと導かれるのだ。
丸呑みにしてから数分で、胴体の中ほどまで移動している。
男の入っている場所がボッコリと膨れ、それが動く事で、その場所を知ることができた。
「あっ、はぁんっ……聞こえる、歌が、聞こえる……」
実際に歌が聞こえるわけではない。
聞こえるのは、胎内で喘ぐ獲物の叫び。
絶望に苛まれた叫びはやがて収まり、快感に悶える声へと変わる。
肉壁が蠢き、愛撫を加えるたびに媚声をあげる。
もっとしてくれ、もっと激しくとねだる。
私の体は、私の意志とは関係なく、男を貪る。
それからの事はあまり覚えていない。
林の中から私を見つめる人外たちの羨ましげな視線を避けるため、
旅館へ戻ったことは確か。
気が付いたときには、自分の部屋で横になっていた。
腹の中では、完全に飲み込まれた獲物が快感に悶えながら跳ね回る。
与えられる快感に悶え、精を吐き出し、残り少ない命をさらにすり減らす。
放たれた精は、命の元となって私の体に染み渡る。
「ふあぁっ、こんなに暴れちゃって……気持ち良すぎて食事に集中できないよぉ」
やがて、肉壁の一部が盛り上がると、男の手足をがっちりと拘束した。
こうなっては、獲物は何の行動も取れない。
射精の度にビクッと僅かに体を跳ねさせるだけ。
獲物のペニスからは絶頂を迎えるたびに精液が放たれ、私の肉壁は奪い合うように
それを吸収してゆく。
しばらくするとその動きも小さくなった。
獲物の精が、ついに尽きたのだ。
それを感知した私の肉体は、食事の最終段階に入る。
自分の腹の中を見たわけではないが、感覚として知ることができた。
獲物の体が、私の体と同化しつつある事が。
獲物の体を貪っていた私の肉壁が、愛撫と違う動きを見せる。
接触していた男の肌にピッタリ密着すると、その境界線が曖昧になる。
「ふっ、ふわぁぁぁ」
今まで感じたことの無い、例えようの無い快感に、甘い声が漏れる。
同化が進むごとに、獲物の命そのものが体に流れ込む。
精液とは比べ物にならないくらい、甘く、強い。
普段の愛撫では感じたことの無い感覚に、脳が痺れた。
私の頭の中に、腹の中にいる男のイメージが浮かび上がる。
ピンク色の肉壁に囲まれた獲物。
快感意外感じることをやめたその体は、ピクッ、ピクッと震えながら絶頂を続ける。
射精を伴わない、連続絶頂。
同化が進んだ男の腕や足は、肉壁と完全に同化し、
今や頭と胴体が辛うじて人間としての形を残しているに過ぎない。
トロンと熔けた男の表情は、恐怖などまったく含んでいない。
意識を残され、快楽の享受を強要された哀れな姿。
獲物にとって幸福なのは、その哀れさすら認識できない事だろう。
しかし、かく言う私も、命を吸い上げる快感に、
喘ぎすら発することができなくなっていた。
自分の体を抱きしめ、その命を捧げる獲物の感覚に集中する。
もっと味わいたい、ずっとずっと、獲物の味を感じていたい。
だが、その思いをよそに、体は獲物の同化、吸収を進めた。
形をとどめていた体や頭も、その表面を微かに残すだけで、
ピンク色の肉壁に浮かぶ肌色の人肌が、僅かに盛り上がっている程度。
外から見ても、プックリと膨れていた蛇の胴体部分が、
最初と比べて格段に縮んでいる。
でも、突然の来客のせいで、一気に現実へ引き戻されちゃった。
「コハク、夕飯だって言ってるでしょ! もうっ、全裸でお昼寝なんて……」
ドアをノックする事も無く突然入ってきたママ。
まぁ、実際はノックしていたのに私が気づかなかっただけなんだけど。
ママは、私の身体を見た瞬間、絶句してしまった。
絶句したのは私も同じ。
ママも私も、視線を合わせたまま、ピクリとも動かずに時間だけが流れたけど、
先に動いたのは、ママの方だった。
‘カチャリ’
聞こえたのは、部屋の鍵を閉める音。
後ろ手で鍵を閉め、誰も入れないようにすると、ゆっくりと歩みを進める。
真っ赤な輝きを魅せる瞳が恐ろしく、無意識に後ずさりしていた。
「コハクちゃん、お腹の中に入っている……それは何かしら?」
「ふぇ!? なっ、なんでもないよぉ、ちょっと、太っただけだよぉ」
「そう、そうなの、うん、あなた、私に嘘を言うのね?」
「えっ? そんなことはっ、グガッ!?」
ほんの一瞬、数メートルの距離を目にもとまらぬ速さで移動したママは、
人の姿を崩すことなく、私の身体を持ち上げた。
首に指を廻し、壁際まで後ずさった私をゆっくりと持ち上げる。
その腕は私をゆっくり引き寄せると、ママの顔が私の眼前にあった。
ママの怒りに満ちた赤い瞳が、私の瞳を覗き込む。
「嘘はいけませんって教えたでしょう? 嘘吐きな子は、嫌いよ」
「ごめんなさい……もう……嘘は……つき……ま……」
「そう、なら、許してあげる」
ママが力を抜くと、首が解放されると私の身体は床に落ちた。
恐怖に駆られて身体を丸め、餌を食している最中だというのも忘れていた。
頭を上げると、赤い瞳は相変らず私を睨みつけている。
再びママの身体が近寄り、腕をゆっくりと伸ばす。
「もうしません、もうしません……ごめんなさい、ごめんなさい」
「ふふっ、かわいい子ね、別に、人を食べた事を怒っているわけじゃないのよ」
「へっ?」
ママは恐怖で震える私に近寄ると……そっと頭を撫でてくれた。
顔を覗きこむと、怒りに満ちた赤い瞳は消え、元の優しいままの顔に戻っていた。
「私の可愛いコハク、とうとう人間を食べれるようになったのね……」
「ふぇ? 人間食べたっことを怒っているんじゃないの?」
「怒っているのは、私に黙って食事に出かけたこと、人間を食べたことじゃないのよ」
「えっ、なんで? だって……ママは幸一と……」
「ふふっ、あなたも蛇女だもの、大人になるために、必ず通る道だものね」
「じゃ、じゃあ、これからも食べていいの?」
「もちろんよ、ただし、出かける前に必ず私に言うこと、何かあったとき言い訳できないでしょ?」
言い訳、やっぱり食事のことをパパや他の人間に知らせることはできない。
蛇女としての食事、捕食。
自分の食事が必ずしも人間にとっては正義ではないという現実が、心に伸し掛かる。
「じゃぁ、やっぱり……パパには言えないのね?」
「当たり前じゃないの、そんなことが知れたら、私たちは追い出されて、また何十年も放浪の旅……」
「ママ……」
「それに、私たちを狙っているのは退魔師だけじゃないのは分かっているでしょう?」
そう、私達親子を追っているのは、人間の退魔師だけではない。
私の本当のパパは人間。しかも退魔師だった男。
人外が人間と子を成すというのは、今も昔も禁則事項。
過去に例外が何件かあるけれども、それはあくまでも例外として認められず、
ママは私が生まれる前に一族を抜けた。
本当のパパは、逃げるママを守るために命を落とした。
だから、私達は今も蛇女の一族からも追われる身となっている。
見つかったら……一族の総力を挙げて抹殺されちゃうみたい。
「コハク、私はどうなっても良いけど、あなただけは生きて欲しいの」
「ママ、私分かった、これから人間を食べるときは、もっと慎重に行動するよぉ」
「んっ、分かってくれればいいの、あなたが成長することは、私にとっても喜びなんだからね」
そう言いながら、ママはもう一度私の頭を撫でてくれた。
人を喰らうことは、蛇女にとって当然の行為。
正直、ママがこんな恐ろしいことを平然と言い放つとは思っていなかった。
ビックリだけど……なんだか嬉しい。
「さ、話は分かったでしょ、さっさと全部食べちゃいなさい」
「はーい、んっ、じゃぁ、最後にもう少し味わってから」
「味わうのはいいけれど、もう夕飯よ、ちゃんと食べられるでしょうね?」
「へへへー、心配無用、‘それ’と‘これ’は別腹だよぉ」
言いながら自分の腹をさすると、ママはフーっとため息をつく。
「そう、なら早く吸収して……先にお風呂に入ってからきなさいね」
「え、お風呂?」
「死臭が、あの人にはわからないと思うけど、死の臭いが染み付いているわよ」
「へ……クンクン、何も臭わないけどなぁ」
ママは、何事も無かったかのように部屋を後にしたけど、
その瞳には怪しげな光りが燈っていた。
あれは、興奮したときの瞳。
人間を食するという私達の本能を目の当たりにして、当てられたらしい。
多分、今夜はパパが大変なことになると思う。
私には分からなかったけど、何人もの人間を喰って来た経験豊かなママは感じるみたい。
人を、喰った後の臭いを。
「んっ、名残惜しいけど、全部食べちゃわないとだめね」
膨らんだ自分の腹を眺めながら、ため息をついたけど、
ママの言うことを聞かないわけにはいかない。
胎内にいる餌も、体の大半が肉壁と癒着しているらしく、ピクリとも動かなかった。
生きている気配すら感じられなくなっている。
「んっ、ふあぁ」
腹に力を入れ、肉壁をグニグニと脈動させる。
その勢いに、内壁につられて外側の鱗までグネグネと脈動していた。
そして、脈動が収まる頃には、さっきまであった男の気配はどこにも感じられなかった。
完全に、骨まで残らず、吸収したのである。
「ご馳走さま、おいしかったよ、お兄ちゃん♪」
「さて、ママの言った通り、お風呂に行かないとね」
私の下半身は元のスレンダーな蛇の姿に戻った。
男の入っていた形跡などどこにも無い。
ママに言われたことを思いだし、体を清めるために急いで温泉へと向かった。
全裸のままで。
「ちょっ、コハクちゃん、全裸で廊下を走ったら、お兄ちゃんに怒られるよぉ」
「あっ、お姉ちゃんっ、へへっ、お風呂に行くだけだから、大丈夫だよぉ」
「温泉に飛び込んだらダメだからねっ、ちゃんと身体を洗ってから入るのよ」
「はーい」
部屋を後にすると、いつもと替わらない日常が待っていた。
体を清めた後は、家族みんなでの食事。
でも、普通の食事をとりながらも、私は考えていた。
多分、あの臭いを感じたら、私はまた走り出してしまうだろう。
それは仕方が無い。
何故なら私は人喰いだから。
後悔する事も無い。
何故ならそれが本能だから。
「なぁ、コハク、今日は肌が異様にツヤツヤしてないか?」
「ふえっ!? きっ、気のせいじゃないかな?」
「そうか? ん、まぁいいか……」
突然のパパの問いかけに、私だけでなくママも身体を硬直させた。
次の質問に対して身構えていたが、
パパは私達の反応を不審に思いながらも話を切り上げてくれた。
ママ以外誰にも言えない、秘密の食事。
もし、私に食べられたいって子がいたら、あそこの崖に行くといいわ。
私じゃないかもしれないけれど、いろんな人外さんが、
心も身体もドロドロに溶かして、いっぱい愛してくれるから。
血を啜り、精を絞り取り、魂までも同化してくれるから。
気持ちよくなりたいけど食べられたくないって人は人外旅館へぜひどうぞっ。
きっと、宿泊している人外さんたちが、やさしく精を絞ってくれるわ♪
【終】