私は狐につままれたような気持ちで、未だにテロップが流れたままのテレビを見つめていた。
まさか、本当にこのノートの力で?
確かに偶然にしてはできすぎだが…だからと言って、とてもそんな与太話を信じられるはずもない。
だが、もしも本物だとしたら。
「だ、誰か…辱めても構わない…いや、辱めた方がいい人間…」
私はノートを持って家を出た。
さっきは単なる冗談だと思っていたからこそテレビに出ている相手に使ったが、
もう一度同じことをするのはあまりにも目立ちすぎる。
本物かどうか知りたいなら身の回りの人間に使うのが比較的安全だろう。
問題は誰に使うかだ…効果が効果だけに、友達に試してみるわけにもいかない。
かといって特に恨みのある相手もいないし…
「ん?」
言い争っているような声が聞こえたので思わず目を向けてみると、
一人の少女がセレブっぽい派手な女性に絡まれているところだった。
「あんた、分かってるの? アイスなんか食べながら歩いたりしてさ…おかげで1着数百万はするスーツが汚れたじゃない」
「…す、すみません…」
「謝れば済むとでも思ってるの? それともあんた、お小遣いでこのスーツ弁償できるのかしら?」
「あ、ぅ…ごめんなさい…ひっく…」
「泣いたって許してあげないわよ。この渋沢拓魅を怒らせたらどうなるのか、徹底して教えてあげるわ」
「い、いやぁ…っ」
可哀相に、まだ中学生くらいと思われる少女は泣き出してしまった。
「いくらなんでも酷いわね…よし、あいつにするか」
近くにあったコンビニに入り、二人が見える位置でノートを取り出す
「確か…名前を書いて40秒以内なら恥ずかしいシチュエーションを指定できるんだっけ」
私はノートに先ほど聞いた名前を書き込む。
『渋沢拓魅――公衆の面前でおもらし』
『渋沢拓美――公衆の面前でおもらし』
『渋沢卓美――公衆の面前でおもらし』
『渋沢卓巳――公衆の面前でおもらし』
『渋沢琢己――公衆の面前でおもらし』
これでよしと…あとは40秒待つだけだ。
コンビニの中からじっと二人の様子を見守る。
「大体あんたさ…くぅっ!?」
先ほどまで平然と少女に絡んでいた女性の様子が突然変わる。
まるで何かを我慢するように内股になり、股間の辺りを手で押さえる。
よく見ると全身が震え、表情も真っ青だ。
少女のほうは、何が起こったのかわからずに不思議そうにしている。
「はぁはぁ…も…もう、ダメぇっ…!」
やがて女性は弾かれたように私のいるコンビニに向かって走り出すが…
数歩走ったあたり、ちょうど私の真正面で我慢が限界を迎えたのか、力が抜けたように地面に座り込んでしまう。
「ああ……」
甘い声を漏らしながら、女性は涙を浮かべる。両手でぎゅっとスカートの股間を押さえつけ…
すぐにそのあたりから徐々に黒い染みが広がっていく。
「そんな…嘘…」
うわごとのようにつぶやく女性。
その間にも、股間からあふれる雫は脚を伝って地面に大きな水溜りを作っていく。
スーツも、もはやアイスの染みなどとは比べ物にならないほど汚れてしまっている。
「見ないで…見ないでぇ…!」
泣きながら必死に恥ずかしい染みを隠そうとする女性の周りに、どんどん人だかりが広がっていく。
先程の少女はこの騒ぎに乗じて逃げてしまったようだ。
「き…決まりだ!」
私は今度こそ本当に確信した。
「羞恥ノート…本物だわ!」
(第二話終わり)