違いの分かる男、勝俣秀幸(二十歳・大学生)は今、思いつめていた。  
それは、彼の目の前でいじましく夕餉の準備をしている、五歳年下の  
妹、綾香の事。  
「お兄ちゃん、お夕食は何時頃にする?」  
「いつでもよろしい」  
「じゃあ、七時にしましょう」  
夏物のセーラー服にエプロンをまとうという、大枚はたいても中々お目  
にかかる事が出来ない萌え姿で、綾香は秀幸に問う。更に、  
「お風呂先に入ったら?ビール冷やしとくから」  
と、まるで世話女房よろしく気が利くので、かなわない。しかも、秀幸の  
鼻を美味しそうな惣菜の香りがくすぐっている。このよく出来た妹は、料  
理だって得意なのだ。そう言われれば致し方ないと、入浴を決める兄。  
「風呂入って、金玉でも洗うか」  
「着替え、すぐ持っていくからね、お兄ちゃん」  
秀幸が浴室へ向かえば、綾香はすぐに追従する。この間の取り方も、  
絶妙であった。  
(参ったなあ・・・いつまでも、兄離れが出来なくて・・・)  
可愛い、可愛いで甘やかしてしまった妹の綾香が、いつまでたっても  
自分の元から離れようとしない事が、秀幸にとって最も懸案する事項  
であった。美しく育ち、可憐という言葉が相応しい綾香ではあるのだが、  
何せ妹である。他の男に持っていかれるのも腹立たしいが、さりとて  
いつまでも兄べったりでは困る事も多い。  
 
「ふう・・・どうしたもんかな」  
たっぷりと湯が張られた浴槽につかりながら、秀幸は綾香の優しい  
笑顔を思う。多忙で、家を空けがちな両親の代わりに、自分が綾香  
の面倒をよくみてきたという自負は、確かにある。ただの一度だって、  
妹を怒った事のない駄目な兄ではあるが、愛情だけは十分に注いで  
きたつもりだ。それを、妹は過剰に恩と感じているのではないか──と。  
『お兄ちゃん』  
秀幸は目を閉じると、常に綾香の愛らしい顔が浮かぶ。自分を呼ぶ  
声だって生々しく聞こえてくる。  
「お兄ちゃん、入るよ」  
また、声が聞こえた──ハイハイ、と適当に相槌を打つと、浴室の扉  
がガラリと音を立てた。続いて、  
「えへ」  
という、綾香の笑い声もする。ここで、秀幸はようやく我に帰り、目を開  
けて浴室の扉へ、視線を送った。すると・・・  
「背中流してあげるよ、お兄ちゃん」  
素肌にバスタオルを巻いただけの格好で、綾香は秀幸の前へ現れた。  
髪をパレッタで纏め上げ、僅かに乱れた後れ毛をかく姿が愛らしい。  
「い、いかーん!」  
ずばーん!と浴槽の湯を波立て、ばたばたと慌てふためく兄。それに  
対し、妹はしとやかに膝を折り、湯桶を手にした。  
「お兄ちゃん、子供みたいにはしゃがないで」  
にこっと微笑む綾香に邪気はない。むしろ、よく出来た妹が、駄目な兄  
を窘めているかのようだった。綾香は、行儀作法だって優れている。  
 
「綾香、お兄ちゃんは子供じゃないんだから、背中ぐらい一人で洗える  
よ。気を使わずに・・・」  
「あら、そうだったかしら?うふふ・・・お兄ちゃん、いっつもカラスの行水  
で、体をちゃんと洗ってるのか、疑わしいのよね。だから、今日は綾香が  
見ててあげる」  
「あ、あ、あ・・・あかんがな!」  
両手をぶるんぶるんと振って、迫り来る綾香を拒む秀幸。幸せに秀でる  
と書いて秀幸──彼は混乱のあまり、自分につけられた名前のルーツ  
を思い返していた。しかし、妹はその間にもそそと足を滑らせ、兄の元へ  
やってくる。しかも、タオルの裾部分からは、ちらちらと若草のような物を  
ちらつかせながら。  
「綾香、まさかタオルの下は・・・?」  
秀幸の目には、タオル越しの綾香の肢体に、下着の線は見えていない。  
と、なると──  
「裸に決まってるでしょ。服着てお風呂入る人は、いないわ」  
うふっと微妙な笑いを浮かべ、綾香は答えた。そして、湯桶を浴槽に入れ、  
兄の体を掠めるように湯を掬う。  
「かけ湯しなくちゃ」  
綾香がはらりとバスタオルを落とした。その瞬間、ほっそりとした体には  
ちょうど良い感じの、大き過ぎず小さ過ぎずというような、まことにバランス  
の取れた乳房がお目見えした。  
「キャー!」  
そう言って、顔を両手で覆ったのは兄、秀幸。あまりにも悩ましい妹の胸元  
を、この兄は情け無くも直視出来なかったのである。  
 
「何が、キャー!よ。変なお兄ちゃん」  
かけ湯を済ませた綾香が、そのまま浴槽をまたぐ。それも、秀幸の  
顔の前でわざとらしく、大股に。  
「あ、綾香・・・いけません!お兄ちゃん、すぐ出るから・・待って・・」  
茹でタコのように顔を赤くし、秀幸が入れ替わりに浴槽から出ようと  
すると、  
「それじゃあ、意味がないでしょ」  
ぐっと兄の体を押さえ、綾香は強引に湯に浸かった。そして、秀幸を  
逃がさないとばかりに、自分の体を密着させていく。  
「ひょへー!」  
後ろに回った妹の乳房が、背に当たっている。秀幸はそれと分かる  
といよいよ混乱した。何せ、狭い浴槽に兄妹ふたりが入っているのだ。  
だが、この状態は非常にまずいと秀幸が思っているのに対し、綾香は  
どこか余裕げだった。  
「ほら、ちゃんと浸かるのよ、お兄ちゃん」  
兄の胸へ手を回し、背へ頬を寄せる妹。えへ、と目を細める様は、まる  
で悪戯好きな子供そのもの。  
「うきゃー!くっついちゃ、ダメ!」  
「あん!暴れちゃ、いやん」  
暴れる秀幸を、綾香は弄んで楽しんでいるようだった。実際、必死の  
形相で戒めから逃れようとする兄とは正反対に、妹はにこにこと笑っ  
ている。こうなると、兄としての尊厳など木っ端微塵も同然で、秀幸は  
ばたばたと蜘蛛の巣にかかった蝶の如く、もがき、喘ぐのであった。  
 
「危険だ・・・とても危険だ」  
綾香の悪戯により、ほうほうの体で浴室から逃げ出した秀幸は、  
やはり思いつめていた。度を越えた妹のスキンシップに心底怯  
え、過ちが起こる事を恐れている。  
「どうしたらいいんだろう」  
パンツを穿き、寝巻きを身に着ける秀幸の元へ、素っ裸の綾香  
がしたり顔で浴室から出てきた。それも、当たり前のように肌を  
晒し、水に濡れた媚体を隠す事も無く。そして、  
「やっぱり、カラスの行水だったね」  
そう言って自分の衣服を取り、にこやかに兄と並んで着替えを  
始めたのであった。  
 
「う〜む・・・綾香のやつ・・・」  
すっかりと翻弄され、無様を見せた兄、秀幸。兄妹仲が良いのは  
いいとして、正直、綾香の奔放さには悩まされていた。それは、  
まさに懊悩と言っていい。  
「このままでは、まいっちんぐな事になる。何とかしないと・・・」  
自分を慕っている上での事なので、綾香に強く出る訳にもいかな  
い秀幸。まして、自分は妹を一度たりとも怒った事のない兄。  
「打つ手無し・・・か」  
あれやこれやと考えあぐねている内に、夜が更けてきた。夜が迫  
ると、また彼を悩ます時が訪れる。無論、それは妹、綾香の事。  
「お兄ちゃん」  
トントン──と、綾香が秀幸の自室のドアを叩いた。そして、音も  
立てずに、そうっと入室してくる。  
 
「今夜も、お邪魔します」  
髪を下ろし、寝巻きに身を包んだ綾香は枕を抱いて、秀幸の前に  
立つ。浴室での奔放さとはうってかわって、何故か殊勝な態度で。  
「もう、そんな時間か」  
「そんな時間です。うふふ、夜更かしは許さないわよ、お兄ちゃん」  
秀幸の手を取って、綾香がベッドへと足を運ぶ。そして、枕の上に  
互いの頭を並べて、早々と床に就いた。  
「お世話かけます」  
掛け布団からちょこんと顔を出しながら綾香が言うと、  
「もうそろそろ、一人で寝ないとな」  
秀幸はちょっぴり呆れ混じりで答える。子供の頃から、人一倍怖がり  
だった綾香は、両親が不在の間はこうやって、兄と同衾する事を望む。  
それは、十五歳になった今でも続き、秀幸の悩みの種となっていた。  
「だって、一人だと怖くて眠れない・・・」  
上目遣いに秀幸を見て、綾香は恨みがましく呟く。兄が、意地悪を言  
っていると思っているらしい。  
「まあ、いいさ。ほら、早く寝よう」  
妹の非難をかわすべく、秀幸が室内の明かりを落とすと、綾香は急に  
むずがった。一人寝を促された事が、癪に触ったようだ。  
「お兄ちゃんの意地悪」  
「意地悪なんかしてないぞ。ただ、一人で寝ないとって言っただけ・・・」  
「それを、意地悪って言うの!」  
隣り合う秀幸の胸を指で突付き、抗議する綾香。暗くなった部屋の間接  
照明が、妹の瞳が潤んでいる事を兄に知らせてくれる。  
 
「泣いてるのか?」  
「知らない」  
秀幸の問いかけに、そっぽを向く綾香。顔こそ背けはしたが、体は  
兄に密着させたままで。  
「ごめんよ」  
「・・・」  
ぷいっと横を向いた綾香の頭を撫で、何とかなだめようとする秀幸。  
意地悪をした訳では無いが、怖がりの妹に対して少々冷たい物言い  
だったかと、反省しきりのご様子。だが、綾香のほうも怒りは持続し  
なかった。  
「じゃあ・・・これからも、一緒に寝ていい?」  
「ああ」  
「本当?約束だよ」  
同衾の約定を取り付けると、現金なもので綾香はぱっと身を起こし、  
秀幸に顔をすり寄せる。そして、子猫が母猫に甘えるが如く、手足を  
兄の体に忍ばせ、固く抱きしめた。甘え上手な妹の本領発揮である。  
「お兄ちゃん、大好き」  
「こ、こら」  
乳房を押し付けながら、手足を絡ませる綾香。妹は兄を逃がすまい  
と、崩れかかったバランスの上で、懸命に体を預けていく。  
 
(ま、まずい!)  
もぞもぞと、妹の体が蛇のように巻きついてくる。秀幸はそんな感覚  
に襲われ、戸惑っていた。何しろ、綾香の足は秀幸の股間まで伸び、  
そこにある男の存在さえ、厭わないのだ。いや、むしろ兄を慕う妹は、  
そこを重点的に責めているような気がする。  
 
「あ、綾香」  
思わず腰を引き、妹との接触から逃れようとする秀幸。しかし綾香は、  
「なあに?お兄ちゃん」  
そう言って、身をかわそうとする兄の股間へ、大胆にも手を伸ばした。  
「うッ!」  
急所を妹の手が掴んでいる。それを理解した時、秀幸はおもむろに綾香  
の顔を見た。薄暗い部屋ではあったが、妹の顔が何やら妖しく微笑んで  
いる事だけは分かる。綾香は、楽しんでいるのだ。  
「さっきの・・・意地悪の・・・お・か・え・し」  
「ああ・・・やめろ・・綾香」  
きゅうっと綾香の手が、秀幸の一物を握り込む。それも、緩急を付けた  
悩ましい動きをつけて。  
「あッ・・・硬くなってきた。うふっ、お兄ちゃん、気持ちいいんだぁ・・・」  
二度、三度と揉むと、秀幸の男根はあさましい変化を始めていく。それは、  
男の本能ではあるのだが、妹の手遊びによって・・・という所が、いけない。  
「やめなさい・・・綾香・・うう」  
「うふふ、面白いね。男の人って、こうなるんだ」  
自分の手の中で、兄の男がいななく様が愉しいと綾香は笑った。そして、  
今度は直に触れるべく、秀幸の下着の中へ手を突っ込んでいく。  
「ああ!」  
茎の部分をぎゅっと握られ、思わず仰け反った秀幸。それと同時に、とう  
とう恐れていた事が起きてしまったと、悔やみもする。甘やかし、お小言  
ひとつ言えなかった、だらしの無い自分を。  
 
「わあ、あったかーい・・・」  
兄の男根を手中に収めた綾香は、当然のようにその感触を愉しんだ。  
そして、横向きのまま秀幸の背後にへばりつき、後ろから淫らに男根を  
こすりつけ始める。  
「だ、駄目だ・・・綾香」  
「うふふ・・・知ってるよ、綾香。これ、オナニーって言うんでしょ?お兄ちゃん  
も、たまにはこうしてシコシコしないと・・・」  
綾香の本格的な手遊びが始まると、秀幸はふうふうと息を荒げ、ただ、され  
るがままとなった。妹に強く出られない兄は、ここでも主導権が得られない。  
「綾香ッ、やめるんだ・・・」  
「やめない」  
そんなやりとりも空しく、秀幸の男根はいよいよ張り詰めていく。妹の技巧は  
稚拙ではあったが、ぎこちない中にも悩ましい蠢きが感じられる。  
「お兄ちゃん、出したいんでしょ?いいのよ」  
秀幸の耳元で、悪魔の囁きが聞こえた。それが、妹の口から出たとは思え  
ないほど淫靡で、兄の心を散々に掻き乱してしまう。まして、男根の茎部分  
を強くこすられながら、雁首を持ち上げられてしまってはたまらない。  
「うわあ!」  
腰が引きつったように戦慄き、秀幸の男根が膨れ上がった。その様は、矢を  
つがえた弓の如く、張力に満ちている。  
「いいのよ、お兄ちゃん!」  
綾香の手の中で、熱い抽送が始まった。兄の男が咆哮を上げたのだ。  
「ううッ・・・うッ!」  
背を丸め、尻穴をすぼめて男液の放出を行う秀幸。彼は恥知らずにも、妹  
の導きによって果てた。いや、果てさせられたのである。  
 
「すごい!すごいよ、お兄ちゃん!」  
射精が始まると、綾香は反射的に空いてる手を差し伸べ、放たれる  
男液を掬った。第一波の粘液は、ゼリーを思わせるほど濃く、また  
あさましい異臭を伴っている。次いで、第二波、三波と、これまた大量  
の白濁液が綾香の手の中で弾け跳んだ。  
「ああ・・・温かいね、お兄ちゃんの精子」  
「綾香・・・俺は・・」  
「何も言っちゃ駄目。今は、あたしの手で気持ち良くなって・・・」  
妹の手で達した事を悔やむ兄と、それを喜ぶ妹。立場は違っていたが、  
互いを思う心は同じだった。秀幸の心も、傾きかけている。  
 
「いっぱい、出たね」  
放精を終えた後、綾香は両手にべたつく男液をまじまじと見詰め、にや  
ついた。それに対し、秀幸は放心状態。妹との淫らな睦み事に、罪悪感  
を持っているようだ。  
「綾香・・・」  
縋るような視線を、兄は妹に向ける。自室を漂う性臭の言い訳を、綾香に  
して貰いたかったからだ。すると──  
「何も言わないで」  
綾香はそう言うや否や、ずずっと手のひらにある兄の粘液を唇で啜った。  
それを見た秀幸は、言葉を失い愕然とする。しかし、妹はどこ吹く風だ。  
「だって、お兄ちゃんの精液だし。えへへ・・・」  
唇と手の間で粘り気のある糸を引かせつつ、綾香は笑う。そして──  
「夜は長いわ。しっかり、あたしを抱きしめていてね、お兄ちゃん」  
そう言ったかと思うと、寝巻きのボタンをゆっくりと、ひとつずつ外して  
いったのであった。  
 
おしまい  
 

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