ううううう……。  
かーなーり、最悪だ。  
今日でもう……にぃ、しぃ、ろく、なな……、その前に出来ない週があったからー……、二ヶ月か。  
まずい……、完全にタイミングが分からなくなった。  
や、そりゃあさ、俺が悪いよ?  
発端は俺だよ?  
けどなあ……、ちゃんと謝ったじゃん。  
……謝り方が悪かったのか?  
いや、そんなことはない!……ハズ。  
穂波がクラス会に行ってしまったため、俺は一人寂しく晩飯を食いながら、  
六週間くらい前からずっと続けている一人反省会を今日もスタートした。  
 
七週間前、もう穂波の生理が終わる頃だろうって事で、俺はお誘いをかけた。  
穂波が皿を食器棚にしまい終わったところを見計らって、後ろからぎゅうっと抱きついたんだよな。  
で、いつもみたいにほっぺとか首にちゅうとかして、もにゅもにゅーんと乳を揉んだりなんかしてたら、  
電話がかかってきたんだ。  
うう……あの乳に二ヶ月触ってないとか。  
マジありえん。  
俺は穂波の乳の感触を思い出しながら、指先を動かしてみた。  
さすがに手に残った感触も消えてきてる。  
で、だ。  
電話がかかってきたんだよ。  
「ちょっと待ってね」  
って、俺の腕からするっと抜けて、穂波は電話を取った。  
そしたら、友達からの電話だったせいで、クラス会のお知らせっていう用件が済んだのに、話し始めちゃったんだよな。  
まあ、分からなくはないけどさ、出たとたんに、  
「わあ、なんとかちゃん!?久しぶりー!」  
とか言ってたし。  
 
けど、そのおかげで俺は放置されてしまった訳だ。  
その気になってただけにこのおあずけは結構効く。  
十五分……いや、十分だったかな。  
まあ、とにかくそのくらいは待ったけど、一向に終わりそうにない話しっぷりに俺は悶々としてきて、  
電話で話してる穂波の後ろから改めて抱きついた。  
抱きついて髪とかにキスしてるうちは穂波も放っておいてくれたんだけど、  
乳を触ろうとしたら手をぺしっと叩かれた。  
ムッとする俺。  
先に穂波といちゃいちゃしてたのは俺なのに、そこに割り込んできた知らないヤツにちょっとムカつきながら、  
俺は穂波の首筋とか耳にキスしてやった。  
穂波が首をすくめてから、振り向いて睨んできた。  
俺はごめん、ごめんと口だけ動かして両手を上げて穂波から離れてみた。  
ここで諦めとけばよかったんだよなあ……。  
俺はため息をついて、その時の自分の気持ちを思い出そうとした。  
一週間しないことなんて、珍しい訳じゃない。  
けど、忙しかったりしてやらないでいて、気がついたら一週間経っちゃってた、っていうのと、  
したいと思うけど身体的事情で一週間出来ないでいるっていうのとは違うんだよな。  
まあ、出来ないと思うから余計したくなるんだけど。  
だから、あの時の俺はしたくてしかたなかった。  
いつもだったらそういう時でも手とか口とかで一回くらいは抜いてもらうのに、  
あの週に限って、そういうことをしてもらってなかったっていうのもネックかもしれない。  
俺は穂波にばれないように気をつけながら、そうっとエプロンの紐をほどいた。  
話に夢中らしく全然気がつかない穂波。  
俺はこっそり真後ろに立つと、Tシャツの裾から一気に手を突っ込んで、乳を鷲づかみにした。  
「そうそう、それで先生があっ!?」  
穂波の声がそっくり返った。  
 
「……っと、あ、ごめん、だいじょぶだいじょぶ、ちょっとボールペン落としちゃって」  
苦しい言い訳をしながら、Tシャツの上から穂波が俺の手首をつかんで離させようとしたけど、  
俺はブラのホックを外して、お構いなしに乳を揉み始めた。  
「え?……いやっ、なんていうんだっけ、ほら、あれ、鉛筆回し?してたら飛んでっちゃったんで、  
 自分でも、びっくりしたっていうか……っ」  
顔をこっちに向けたけど、睨まれる前に反対側に避難。  
肩口のところをちうってすってやると、穂波はふ、と息を呑んだ。  
「……っ、え?だいじょぶだよ?  
 あ、ちょっと待ってね……、旦那が、なんか……」  
穂波は受話器の送話口を手で覆うと身体を左右にひねって俺を振り払おうとした。  
だが、俺はそんなことではめげない。  
乳首をきゅっと摘まんでやると、さすがに、  
「大樹!」  
と怒られた。  
「ちょっとやめてよ。電話してるんだから」  
「だって、なげーんだもん、穂波の電話。  
 ほっといたら、一、二時間余裕でしゃべるだろ?」  
「いいでしょー、久しぶりの友達なんだから」  
「いいよ。しゃべってろよ。俺、勝手にやってるから」  
「ホントにやめてってば」  
「だって一週間ぶりじゃん。俺溜めて待ってたのにー」  
さすがに呆れた、といふうなため息が聞こえた。  
この辺で俺はいちゃつきたいとかやりたいとかを通り越して、意地でもやめたくなくなってきてた。  
「……じゃあ、触っててもいいけど、変な触り方しないでね」  
穂波は穂波で口調が怒ってる。  
ホントに、なんでこのあたりで引かなかったんだろう……。  
 
「あ、ごめん、ごめん。  
 うん、大丈夫。大した用じゃなかったよ」  
俺は穂波に言われた通り、始めは乳の柔らかさだけを堪能していた。  
でも、それだけでももう”変な触り方”になっちゃうんだよな。  
今の穂波には。  
だんだん息が上がってきて、肩の上下動が大きくなって、ほっぺたも赤くなってきてた。  
体重をかける足がしょっちゅう左右入れ替わるのは、むずむずしてきてるからだ。  
俺が気をよくしてると、穂波がまた俺の手首を掴んだ。  
一生懸命引っ張ってるらしいんだけど、この時点でもう力が入ってなかった。  
さっさと電話止めりゃあいいのに。  
聞いてる俺からすると、そんなのクラス会で話せばいいじゃん、みたいな内容だ。  
他に話し相手が居ないならともかく、俺がこうして待ってるのに、って思ってたら、踵ですねを蹴られた。  
まあ、痛いっていうよな力じゃないけど、そんなに嫌か。  
そう思ったら、またムカついてきて、俺は言いつけを破って乳首をきゅっと摘まんでしまった。  
「ッッ!」  
穂波がかなりマジで怒った顔で見上げてきた。  
でも、ムカついてるから自重出来ない。  
「……へえ、そうだったんだー。  
 え?もう三人目がお腹に居るの?早っ」  
女ってすげえ。  
そして怖え。  
電話の相手にしゃべる時は笑ってるのに、自分が喋り終わった瞬間に眉間にしわが寄る。  
俺は俺で相変わらず。  
むしろその顔に煽られて、逃げられないように穂波を片腕で抱え込んで、もう片方の手で本格的に  
乳首攻めを開始した。  
 
「あっ!……ああ、それじゃ、今度のクラス会は来られないかなー。  
 連れてっ、きちゃえばいいのに」  
穂波もなかなか手ごわい。  
電話で相手がしゃべってる時は俺の手から逃げようともがく。  
もちろんさせなかったけど。  
「うん、まあそうだね……は……」  
時々息をこぼすけど、声は必死にこらえてしゃべってる。  
それが逆に俺を興奮させた。  
どこまで耐えられるか試してみたくて、俺は首筋にキスを繰り返しながら、手を腹の方へと下ろしていった。  
今度はさすがにかなりの力で手を押さえられて、今度は足を踏まれた。  
「私?まだかなー。  
 もうちょっと仕事したいし」  
会話が子作りの方に言ってるらしいと判断した俺は耳元に囁いた。  
「ちょうどいいじゃん、作っちゃおうぜ」  
穂波に手の甲を思いっきり抓られた。  
「いてッ!」  
さすがに手を離すと、穂波は、  
「ああ、なんか言ってるねー。  
 でもちょっとおこちゃまだから、パパになるのはまだ早いかもー。  
 ね?」  
と笑いながら言い放った。  
もちろん、俺に向けられたのは怒りの笑顔。  
ここでようやく俺は降参して穂波から離れたんだけど、穂波の怒りは収まらず、  
さらに二時間の電話の後、一時間以上の説教をくらい、途中で逆ギレした俺との喧嘩に発展した。  
 
二日くらいは布団を部屋の隅っこに敷かれて、一メートルくらいの距離を開けさせられたけど、  
布団の位置はすぐに元に戻ったし、穂波の機嫌も元に戻った。  
と思ったんだけど、これが甘かった。  
機嫌が元に戻ったと思った俺はそれからちょうど一週間後、またおんなじようにお誘いをかけた時に、うっかり、  
「なー、こないだの続きしようぜー」  
と言ってしまった。  
返ってきたのは穂波の笑顔。  
でも、目が笑ってない。  
「こないだの続き?  
 また、私が電話で話してる最中に何かするの?  
 そのために電話しろって?」  
うおおおお……。  
今思い出しても怖い。  
「そういう訳じゃ……」  
「大樹、ちっとも反省してないでしょ。  
 ちょっと甘えれば私がなんでもオーケーしちゃうとか思ってるんでしょ。  
 それでもやっていいことと、ダメなことがあるんだからね?  
 いくら私がっ、初心者だったからって、大樹から教えてもらったことしか知らないからって、  
 大樹の言うこと、なんでも聞くと思ったら大間違いなんだからね?」  
最後の方はなんだか知らないけど、赤くなりながら怒ってたから、  
ここでちゃんと謝って謝って、持ち込めばやれたのかもしれないけど、俺は、  
「……うん、そうだよな、ごめんな」  
と口だけはそう言いながらも、腹の中では、穂波のケチ、とか思って仕事部屋にしてある隣の部屋に  
引っ込んでしまった。  
これが一番マズかったんだろうなあ。  
 
その後、運の悪いことに平日は仕事で遅くなる日が二人交互に続いた。  
週末は週末で冬物とか加湿器を買いに行ったり、冬物への衣替えをしたりして、  
そんなことをしてるうちに、あっという間に一ヶ月が経った。  
で、本格的に穂波の肌を恋しくなってきたんだけど、再び自重しなきゃいけない一週間が訪れ……。  
それが終わったと思って、今度こそ土下座してでもさせてもらおうって意気込んでたら、  
……インフルエンザって、おい!  
どこでもらってきたんだ、俺!  
未だにあのダルさが悔しくてならない。  
まあ、穂波がすごく甲斐甲斐しく看病して、うまいお粥作ってくれたり、  
熱がある時に風呂はダメだ、って身体拭いてくれたりしたからいいんだけどさ。  
けど、よりによってこんな時に熱出さなくてもいいだろ。  
んで、案の定、そのインフルエンザは穂波に伝染り、約十日の間、  
穂波と俺はインフルエンザと三人で過ごした。  
にしても、インフルエンザの薬って、熱出した日に貰わなきゃ意味がねーのな。  
病院に行ったら、インフルエンザかどうか確かめる検査するから、って鼻に棒突っ込んだくせに、  
「やっぱりインフルエンザですねー。でも、薬飲んでももう大した効果ありませんよ。  
 水分取ってあったかくして寝てて下さい。  
 奥さんはマスクして予防して下さいね。あ、でももううつっちゃってるかな。  
 ははは、若いもんねー」  
って診察代返せ、あのヤブ医者!  
腹の出たエロそうな中年おやじの白衣姿を思い出したら、俺は当初の反省会を忘れて腹が立ってきた。  
「はあ、ビール飲も……」  
一人で飲むビールはつまらない。  
穂波と結婚してからそう思うようになった。  
テレビ見ながらつまみ咥えてビールを飲む、なんて結婚するまでは一人でやってたことなのに、  
今は一人でそれをやるとビールが美味いと思えない。  
それでも今は少し気を紛らわせたくて、頭を冷やしたくて俺は食器を片づけるとビールを片手にテーブルに戻った。  
 
テレビのチャンネルをあっちこっち変えてると、不倫もの映画の再放送をやってた。  
おいおい、まだガキが起きてそうな時間なのに、こんなのやっちゃっていいの?  
つうか、この女優、乳ちっさ。  
夢の欠片も詰まってなさそうな乳だな、おい。  
その点やっぱり穂波の乳は違う。  
男の夢とロマンが詰まってる。  
素晴らしい。  
ふへへへへ。  
と、そこまで思ったところで、酔いが引いた。  
今日ってクラス会、って言ってたよな。  
……まさかとは思うが、まさか穂波に限ってそんなことはないと思うが!  
ふっ、ふ、不倫とかしないよな?  
こう……初恋のヤツとかとしゃべってたりして、  
『俺、あの頃高橋が好きだったんだ』  
『ホントに?私もほにゃららくんが好きだったよ』  
『マジで?そっかあ、でももう結婚しちゃったんだろ?』  
『うん、でも、ちょっとバカな旦那でね……』  
『なんかあったのか?俺でよければ相談に乗r  
ないッ!ない!ないないないないないッ!  
穂波はそんなことするヤツじゃないっ!  
けど、俺のスケベっぷりには呆れてるところ、あるしなあ……。  
いくら穂波が淡白とは言え、俺がそれなりに仕込みつつあるし、なのに二ヶ月やってないし、  
生理前だし……やりたくなってる所に、そんな展開が転がってきたら、しかも酒入りだもの。  
いくら生真面目が取り柄で、この年まで貞操を守り抜いてきた酒に強い穂波でも、コロッと……。  
ダメだ!穂波!  
そっちに行っちゃダメだ―ッ!  
 
いや、落ち着け、落ち着くんだ。  
穂波に限って、それは、絶対に、ない。  
根拠はないが、ない……ハズ。  
うおおおお!  
俺のバカ!  
俺が穂波を信じなくて誰が穂波を信じるんだ!  
ええい、酒が足りん!  
俺はビールじゃ物足りず、ウイスキーをソーダで割って、改めて飲み始めた。  
不倫チャンネルには変えないように気をつけながらテレビを見る。  
「つまんねー」  
穂波、早く帰ってこないかな。  
もう我がまま言わない……ようにするから、セックスとか嫌だったら無理にしなくてもいいから、  
一緒にビール飲もうぜ。  
「コロッケ食いたい……」  
食べ歩き番組のヒレカツ定食を見てたら、穂波の作ったコロッケが食いたくなってきた。  
まだ結婚して一年経ってないのに、俺はもう穂波なしじゃいられない身体になってしまったらしい。  
きっと穂波が作った飯を三日間食べられなかったら死ぬんだ。  
ということは、もし穂波が先に死んだら、すぐに後を終えるな……。  
それ、いいかもしんない。  
それで、最期まで仲のいいご夫婦でしたねって……、って言われる前にちゃんともっと仲直りしなきゃダメじゃん!  
「うおー。穂波、遅え〜」  
と、俺がテーブルに突っ伏したところで、笑い声がした。  
「ただいま。遅かったかな?」  
びっくりして顔を上げると、穂波が時計をちらりと見た。  
顔を上げて穂波の顔を確認してから、一緒になって時計を見る。  
まだ十時回ったばっかりだ。  
「ちょっと早くね?」  
「今、遅いって言ったの、大樹でしょー?」  
 
「まあそうだけど」  
「半分は子持ち、その残り半分は旦那持ちで解散になっちゃった。  
 もうちょっとおしゃべりしてきたかったんだけどねー」  
穂波はいいもの見ーつけた、と俺のハイボウルを一口飲んだ。  
「ふーん……」  
俺はくだらな過ぎる妄想を穂波に悟られないようにしつつ、穂波から返されたグラスに口をつけた。  
なんだかちょっと嬉しい。  
穂波はコートを脱ぐと、  
「シャワー浴びて来ちゃうね。  
 上がったら、もうちょっと飲むのにつきあって」  
と、部屋に引っ込んだ。  
まあ、この時間に帰ってきたんじゃ、穂波は確実に飲み足りないよな。  
「何飲む?」  
手にタオルと部屋着を持って淡い緑のワンピース姿で戻ってきた穂波に聞くと、  
「とりあえず、ビールでいいや」  
と返ってきた。  
「つまみは?」  
「うーん……あ、こないだ大樹のおばあちゃんが送ってくれた銀杏、あれ炒っといてくれると嬉しいかも」  
「りょうかい」  
「じゃ、よろしくー」  
解散はそうとう早かったけど、楽しかったんだろう。  
穂波はご機嫌だ。  
楽しそうに風呂場に行く穂波を見てたら、俺もちょっと気持ちが浮上してきた。  
まあ、でも、明日は二日酔いになる覚悟はしないとな。  
俺は気合を入れて晩酌の準備を始めた。  
 
グラスを二つと銀杏の殻を入れる皿をテーブルに置く。  
穂波は銀杏、て言ってたけど、一応クッキーの入った缶も隣に並べとく。  
もう一枚皿を取るついでに飲む前に飲む粉薬を取ることも忘れない。  
穂波の前じゃ絶対に出来ない裏技だ。  
皿をガス台の横に置いてから、俺はにがーい粉薬を飲んだ。  
ウワバミの嫁を貰うとなかなか苦労する。  
知ってはいたけど、ホントに底なし。  
寝ないし、吐かない。  
つまり、潰れない。  
もちろん、二日酔いにもならないし、記憶を無くしたこともないらしい。  
でも、本人曰く、ちゃんと酔ってるもん。  
俺も弱くはないつもりだけど、酒だけは穂波に勝てる自信がない。  
でも、穂波と飲むのは楽しいから好きだ。  
だからその準備はしっかりやる。  
俺は口の中の苦さを水で押し流してから、冷蔵庫から銀杏を出した。  
毎年ばあちゃんが近所の公園で拾ってきてくれる銀杏は天然モノだけあって、皮をむいた後でもしっかり臭い。  
塩をフライパンに敷いて時計を見ると、ちょうどいい時間だ。  
これを炒り終わった頃に穂波が風呂から上がってきて、ちょうど食えるくらいに冷めたところで  
ドライヤーをかけ終わるだろう。  
ビールを冷蔵庫から出すのはその時で十分だ。  
我ながらなんて完璧な時間配分。  
フライパンに銀杏を十個くらい入れて、蓋をして、俺は火をつけた。  
 
予定より少し早く、銀杏をフライパンから皿に移し替えてる所で穂波が風呂場から出てきた。  
「あー、いい匂いー。  
 こう、秋だな、っていう感じだよね。  
 もう冬だけど」  
すっぴんになってさっぱりした顔をした穂波は自分でツッコミを入れながら、  
冷蔵庫から缶ビールを二本出して椅子に座った。  
「まだ熱いぞ」  
餌を与えられた犬みたいにキラキラした目で皿を見る穂波にそう言うと、  
分かってるもーん、と返事が返ってきた。  
「さあ、飲もう」  
やっぱり今夜はそうとう飲む気だ。  
缶の蓋を開けてお互いのグラスに注ぐ。  
一回目は相手のグラスに注ぐけど、二杯目からは手酌がいつの頃からか出来た俺たちのルールだ。  
「週末にカンパーイ」  
グラスをかちんとぶつけると、穂波は大きく一口ごくんと飲んでふう、と息をついた。  
「オヤジくせえ」  
俺も同じように飲むけど、そう言って笑うと、穂波が膨れた。  
「だってー。なんだかお洒落なお店でね、美味しかったんだけど、あんまりパカパカ飲めなくってさ。  
 しかも飲まない子が多いテーブルに居たから余計に……」  
なるほど、そりゃあ確かに飲み足りないよな。  
「でも楽しかったんだろ?」  
「うん。すごく楽しかった。  
 高校の時にぽっちゃりしてかわいかった子が、すらっとしたバリバリのキャリアウーマンになってたり、  
 高校の時、ミス華女的存在だった子が二人のママになってて、しっかり母ちゃんになっちゃってたり、  
 先生がメタボってたり……昔はカッコよかったのにー。  
 大樹はああならないでね」  
 
穂波は銀杏を剥きながら、俺の知らない誰がどうしたとか、結婚式に来たやつがこうしただとか、  
色々教えてくれた。  
俺もそうだけど、飲み会の報告をするのはなかなか楽しい。  
相手がそいつを知ってるかどうかとかはあんまり問題じゃない。  
だから俺も銀杏とビールを交互に口に入れながら相槌を打つ。  
聞いてる方も、知らないやつの話題でも楽しいものだから。  
ビールが切れたところで、穂波がグラスをゆすいで氷を入れて帰ってきた。  
「焼酎?ウイスキー?」  
「大樹と同じのー」  
テーブルに置きっぱなしだったウイスキーとソーダ水を穂波に渡そうとすると、珍しく、  
大樹が作ってー、と甘えた声を出してきた。  
「俺と同じ量でいい?」  
「うん。……ねえ、大樹」  
穂波のグラスにウイスキーを注いでると、穂波がちょっと真面目な声になった。  
なんだかちょっと不安になる。  
「んー?」  
「あのね、こないだの……ばれてた」  
「何が?」  
ソーダ水を入れる手を止めて穂波を見ると、作ってーと急かされた。  
何がばれたんだ、って気になりながら、ソーダ水を入れてると、穂波は銀杏の殻を弄りながら、  
「こないだのー……電話の時のー……ね、夕菜ちゃんにばれてた」  
思わずぶっと噴き出すと、穂波は、  
「あうー、恥ずかしいよー」  
とテーブルに突っ伏した。  
「あー……ええと、その節は……申し訳ありませんでした」  
俺は本気でそう言いながら、穂波にグラスを差し出した。  
 
(続)  
 

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