食事の準備は私の仕事。  
食後のお皿洗いは大樹の仕事。  
これは結婚することになる前から、何となく決まってた。  
大樹は私のうちに食べにくると、飯のお礼、っていつもお皿を洗ってくれてたから。  
で、今日もお皿洗いを大樹に任せて、私は楽しく食後のビールと映画鑑賞。  
やっぱりハリウッドはいいね。  
分かりやすい。  
分かりやすい割に、見るたんびにドキドキさせてくれるから、どの映画を見ても飽きない。  
見てたことのある作品だったとしても、ついつい見ちゃう。  
今日はもう何度目になるか分からない、なかなか死なないおじさん第二弾。  
いっつも血まみれになるくせに、どうやっても死なないんだよね、この人。  
もう、なかなか死なない、っていうレベルを通り越してる。  
やっぱりニの頃はまだ髪の毛があったな……。  
とか思っていたら、大樹に呼ばれた。  
「穂波ー、ちょっと来て」  
「えー」  
とは言ったけど、まだ話は序盤だから、まあいいか。  
ビールをテーブルに置いて、流しに行くと、  
「袖、落ちてきたからまくって」  
と言われた。  
横から覗き込むと、Tシャツの左の袖が手首まで落ちてきちゃってる。  
あー、嫌だよね、手が濡れてる時に袖が落ちてきちゃうのって。  
「はいはい」  
って大樹の腕に手を伸ばしかけたんだけど、そこで私はいたずらを思いついた。  
私が、大樹の後ろに回ると、大樹は、  
「なんだよ、穂波、ちゃんとまくれよ」  
と首をこっちに廻してきた。  
 
「ふっふー。今、まくって……あーげーるっ!」  
私はそう言いながら、後ろから大樹に思いっきり抱きついて、大樹の左の手首をつかんだ。  
「うおっ!」  
「わーい。びっくりした?」  
大樹の後ろから右手を伸ばして袖をまくりながら、大樹の肩にほっぺたを擦り付けると、  
「……そりゃな、いきなりその乳を押しつけられたらびっくりするだろ?ふつう」  
「ふっふー。どうだ!」  
両手で大樹のお腹に抱きついて、更にぐいぐいっと胸を押し付けると、大樹がまた、うおっと背中を反らした。  
「お前なぁ……。十一時までテレビの前から離れる気ないくせに挑発すんなよ」  
大樹がお尻で私のお腹を押してきた。  
確かにちょっと悩む。  
まあ、でも、今日はいいかな。  
この映画、しょっちゅう再放送されるし。  
……今週は一回もエッチしてないし。  
「大樹は十一時までしなくていいの?」  
ちょっと背伸びして首にキスすると、大樹がぞくっと肩を震わせた。  
私だってやられてばっかりじゃないもんね。  
「穂波……もしかして、誘ってる?」  
「大樹がしなくていいなら、私、またテレビ見るけど」  
ちょっととぼけてみると、大樹が手にしていたスポンジをわしゃわしゃわしゃっと握り締めた。  
大樹の右手があっという間に泡に隠れる。  
「おっまえなぁ、こんだけ乳を押し付けといて、俺のムスコが黙ってる訳ないだろ!」  
大樹がこっちを向こうとしたけど、私は大樹に抱きついたまま、  
「大樹のムスコさん、もう元気になっちゃったの?」  
って聞いてみた。  
ホントはここで大樹のズボンに触ってみたりとかしてみたいんだけど、そこまでする度胸はないんだよね……。  
代わりにもう一度、ほっぺたを肩に擦り付けると、  
「まだだけど!」  
と、ぶっきらぼうに言い放たれてしまった。  
「なんだ、そっか」  
私のおっぱいの効力も落ちたか、と思って大樹から腕を解くと、大樹が手だけの流しの上に残して、  
ぐるりとこっちを向いて、ちょっと引きつった笑顔で、  
「まだだけど、テレビはここで終了だからな」  
と言ってきた。  
なんでだか大樹は少し不本意みたいだけど、私は嬉しくてしょうがない。  
大樹が私のお誘いに乗ってくれたっていうことがすごく嬉しい。  
だから私は多分、満面の笑みで、  
「はいっ!」  
って答えて、大樹のほっぺたにキスをした。  
 
(了)  
 

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