「はふう……」
エッチの後のだるいけど気持ちいい感じを堪能しながら腹這いでお布団に寝そべっていたら、久しぶりに大樹がおねだりをしてきた。
「ほーなーみーちゃんっ」
「なぁに?」
「元気になったらこれ着て、これ」
また、謎の要求……。
なだろう?
サンタ服は去年着たでしょー?
ミニスカートだと思って買ってきたら、普通の男の人用のサンタ服だったことに
もの凄い衝撃を受けて落ち込んでいた大樹を思い出して、くすくす笑っていると、
「なんだよ」
とふてくされた声が聞こえた。
「なんでもないよ」
もしかして、そのリベンジでミニスカートのサンタ服を買ってきたのかな?
と思いながら首だけ大樹の方に向けると、大樹はさっき脱いだワイシャツを手に持っていた。
そう言えば、上機嫌で帰ってきた大樹にいきなり襲われたんだっけ……。
「……着るって、それ?」
よっこいしょ、とお布団の上に身体を起こして、毛布で身体をくるむ。
「そうそう」
嬉しそうに頷く大樹。
「だって、それ、ワイシャツでしょー?」
コスプレっぽいものなら分からなくもないけど、なんでわざわざワイシャツなんだろう。
だったら、普通にパジャマでいいのに。
口に出して言った訳じゃないけど、大樹はそれを見抜いたみたいに解説を始めた。
「ワイシャツだっかっらっだ!
俺としたことが、結婚して一年十ヵ月もの間、こんな大事なことを忘れていた!
それは何故か!
俺たちに恋人期間がなかったからだ!」
「それって関係あるの?」
「ある!
いいか。
ワイシャツプレィ……、もとい、ワイシャツを女子が着るというのはだな、ロマンだ!」
裸エプロンの時もそんなことを言ってた気がするし、
失敗に終わったミニスカサンタの時もそんなことを言ってた。
ロマンが多いな、とも思うけど、テンションが上がって妄想を繰り広げてくれる大樹が面白いし、
ちょっとは興味もあったりするから、黙って拝聴。
「お泊りをする予定がなかったのに、恋人大樹のうちにお泊りをしちゃった穂波には
朝起きて着るものがない訳だ」
昨日着てたものを着ればいいじゃん。
と思ってると、大樹がすかさずそこを拾う。
「昨日着てきたものを着ればいい、と穂波は言うかもしれない。
がっ!
ベッドの下に目を向けると、俺が脱いだワイシャツ。
それを拾う穂波。
ちょっと鼻を押し当ててみると俺の匂い。
一回り大きいけど、ちょっと着てみようかな、なんて思っちゃう訳だ」
でも、傍に自分の服があったらそっちを着ると思うんだけど。
「『大樹は隣でまだ寝てるし、ちょっとくらい借りてもいいよね』」
大樹が私の口調を真似するのはもう慣れたから、ふーん、と言って先を促す。
「ベッドから起き出して、俺のワイシャツを着る穂波の気配に気づいて起きる俺」
結局、起きてるし……。
「『穂波……?おはよ』とか言う俺にびっくりして、『きゃっ』とか言っちゃったりなんかして」
「訂正を要求します。
そこで私は『きゃっ』じゃなくて『うひゃぁっ!』って言うと思う」
「……確かに。
じゃあ、『うひゃあ!』ってびっくりする。
けど、おまえは、まだ眠い俺の方を見て、『ちょっと借りちゃった』と照れ笑いをする。
これはかわいい!」
可愛い、で終わり?
そもそも、それがホントに可愛いのかどうか分からないし、
「……それで、何が得られるの?」
大樹ならもっと視覚的な何かに訴える筈なのに、ここまでの話だとシチュエーションの話だけ。
そう思ってると、案の定、視覚的な話が追加された。
私の両肩に手を置いて、エッチなことを妄想している時、特有のにへら〜っとした顔で大樹は首を横に振った。
「いいか、穂波。
俺の方が明らかに身体がでかい」
「それは……まあ、そうだね」
「そうすると、袖が指先しか出ない。
指先も出ないかもしれない。
そして、裾は膝より十センチくらい上なだけだ」
「そんなに長くはならないんじゃない?」
「だが、隠したいところは隠れる!」
隠したら文句言うくせに。
「そして、男物の服の中にはその美しい乳!
ちょっと見える谷間がたまりませんッ!」
「ちゃんと着たら谷間は見えないとおも」
「ちゃんと閉めなくてよろしいっ!」
あー……、よく分からないこだわりが……。
こういうノリに慣れたせいで、呆れもしない。
むしろ、よく毎度これだけの男のロマンを持ち出してくるなあ、って純粋に感心してると、大樹がにっこり笑った。
「という訳なので、まだ朝じゃないし、もう夫婦で、ここは俺たち二人のうちだけど、着て」
「……どうせ着るまで納得しないんでしょー?」
「さすが穂波。
良く分かってんじゃん」
そう言ってほっぺにちゅーはずるいでしょ。
そんなことしなくたって断らないけど、そんな風にされたら、もっと断れなくなる。
でも、そう思われるのはちょっと悔しいからわざと呆れたふりをして、
「分かりましたー。
じゃ、それ貸して」
と、私は大樹に手を差し出した。
ワイシャツを私に渡すと、大樹は後ろを向いた。
大樹の変なところ。
着替える私を極力見ない。
脱がすのは好きなくせに、エッチの後も普段の生活でも極力見ないし、特にこういう時は絶対見ない。
でも、私はそんな大樹の背中を見るのが好きだから、大樹の方を見ながら服を着る。
今日もはだかんぼのまんま、そわそわした感じでむこうを見てる大樹の背中を見ながら
大樹のワイシャツを着てると、なんだかドキドキしてきた。
確かに大樹の匂いがふわっとする。
大樹の匂いなのに、大樹にくっついてる時に感じるのとはちょっとだけ違う匂い。
ご希望に合わせて、胸のボタンは谷間が見える程度に開けておく。
手を伸ばしてみたら指の第一関節から先がやっと出るくらいだった。
やっぱり大樹は大きい。
裾をちょっと直して、
「着たよー」
と声をかけると、大樹はこっちを向いて、
「おおっ!」
って声を上げた。
上から下までしげしげと眺めてくる視線にドキドキして、大樹の顔を正視できない。
ワイシャツなんて全然重さがないのに、大樹に抱っこされてるような不思議な感じがする。
なのに、大樹本人は目の前に居て、私を見てる。
「ね、もう脱いでいい?」
「だーめ。
な、ちょっと立ってみて」
「あう……」
下に何にも着けてないのに、この裾の短さは恥ずかしい。
でも、私も大樹のスケベにだいぶ汚染されてるらしくて、恥ずかしいのに嫌じゃない。
裾がめくれないように前の方を押さえながら立つと、大樹が、
「ぐふうっ!」
と悶えた。
「な、なにっ!?」
「いや、何って、思ってたより短くて、押さえてる手がなんかちょびっとでてるだけで……。
ほら、あれだ。
『萌えー』ってやつ?」
「大樹、私が何かするといっつもそれ言ってるし、『萌えー』ってもうだいぶ死語になってきてない?」
そもそも、実際に言ってる人なんて、大樹しか見たことない。
「死語になっていても萌えるものは萌えるんだから仕方がない。
要するに、だ、めちゃくちゃ可愛い、ツボ、もう一回やりたい」
結局そこか。
まあ、いいけどね。
可愛いって言ってっくれたし、なんだか、大樹に抱っこされてないのにされてるようなこの感じはすごく落ち着かない。
もう一回、大樹にぎゅっとしてほしいし、大樹がエッチな目で見てくるから、私もそんな気分になっちゃってるし。
「ん……いいよ。
もう一回……しよ」
立ったばっかりだったけど、私は大樹の前に膝をついて、大樹に手を伸ばした。
大樹も手を伸ばしてくれる。
軽くちゅってキスしてから、ぎゅうって抱きつく。
やっと安心する。
そっか、なんか落ち着かなかったのって、大樹の体温と腕の力強さが無かったからだ。
「えへー」
大樹に頬ずりすると、大樹もお返しにほっぺを押しつけてくれた。
お布団に押し倒されながら、明日の朝、大樹が起きた時にこれを着てたら喜んでくれるかな、なんてことを考える。
でも、明日は無理かも。
大樹はこのままでエッチするつもりらしいから、皺くちゃになり過ぎるか……ちょっと汚れちゃうかもね。
だから、大樹が忘れた頃にこれを着て驚かそう。
(了)