まさかこいつと結婚することになるとは思わなかった。  
大事な友達だけど、そういう対象として見たことは……まあ、想像の中で一回くらいで、  
恋愛対象としては見たことはホントになかった。  
けど、ノリとか勢いとか色々あって、こいつは今、俺の目の前で晩飯を作ってくれてる。  
俺のために。  
というか、俺たちのために。  
学生の頃は遊びに行くと、どうせ自分の分を作るついでだと、俺の分も作ってくれたけど、これからはそうじゃない。  
やべえ、なんか嬉しい。  
まあ、片づけるのは俺の仕事なんだけど。  
でも、指輪交換した女が飯作ってくれるってのはこんなに嬉しいもんなのか。  
「座って待っててよ。なんならお風呂に先入っちゃって」  
キャベツを刻む手元をにやにやしながら見てたら、そう言われた。  
「んー……。いや、でも、なんか手伝うよ」  
「ありがと。でも、大丈夫。これ切り終わったら、コロッケに衣つけて揚げるだけだから。  
 お風呂から上がった頃にちょうど出来上がると思うよ」  
「でも、そしたら高橋が風呂に入れないじゃん」  
「もう高橋じゃありませんー」  
どうしても、今までどおりの呼び方で呼んでしまう。  
照れくさくて今さら穂波なんて呼べない。  
俺がごめんとか何とか慌てていると、彼女はわざと尖らせていた口で今度はにっこり笑って、  
「私は大樹がお皿洗ってくれてる間に入るから後でいいよ」  
と言った。  
高橋はまだ風呂に入ってないのに、俺が風呂上りホカホカの身体で飯食ってるところを想像して、  
俺はなんだかつまらない気分になった。  
とは言っても、料理してるこいつの傍にまとわりついてても邪魔になるだけだから、俺は、  
「いい。待ってる」  
と言って、椅子に腰をおろした。  
 
テーブルに置いてあった新聞を捲ってみるけど、内容なんて頭に入ってこない。  
目がどうしても高橋の方に行ってしまう。  
そりゃあ、そうだ。  
なにしろ、今日は結婚して初めての週末。  
一か月前に引っ越したけど、ここに住んでたのは俺だけで、高橋は荷物をちょくちょく運びに来るだけだった。  
結婚式は先週の土曜。  
日曜はお互いの親に挨拶に行って、帰ってきたら二人とも疲れ果てて爆睡。  
月曜から金曜までは新婚さんに優しくない仕事ラッシュで、あっという間に今日になった。  
今日の午前中は日用品の買い物に行って掃除機かけたりもしたけど、大したことはしてない筈だ。  
そう。  
つまり、初夜ですよ、初・夜!  
と、テンションを上げてみたけど、俺にはいまいち現実味がなかった。  
頭ではそういうところを想像できるし、そうなったらすごく嬉しいであろうことも予想できる。  
なのに、俺は未だに実感が沸かない。  
やりたいと思ってる反面、気持ちのどこかではセックスなんかしなくても、  
こいつとなら夫婦をやっていけるとか思ってる自分がいる。  
理由は多分、高橋とは長い付き合いなのにそういうことになったことが実は一度もないからだ。  
お互いの部屋を行き来して、飲んでしゃべって、そのまま泊まったことだってあるのに、  
そういうことにはならなかった。  
結婚が決まった後もそういうことにはならず……。  
なんと、びっくり。  
誓いのキスが俺達のファーストキスだった。  
しかも写真撮影の都合上ほっぺに、ちゅ。  
それでも、俺は十分に緊張したんだけどな。はっはっは。  
二次会、三次会でのキスコールでやったキスなんて、酒のせいでまともに覚えてない。  
 
もう一度想像してみる。  
俺が脱がすと照れる高橋。  
照れながらも俺に抱きついてくれて、触ったりしたら「や、えっち」とか言ってくれて……。  
だあっ!  
ホントにそうなったら嬉しいよ!ああ!嬉しいさ!  
多分、めちゃくちゃ興奮するよな、俺。  
でも、なんだろう?  
なんかピンとこないんだよな。  
どうせ、じじばばになったらそんなことしなくなるんだから、最初っからセックスなしの夫婦生活とか、ダメかな。  
各種STDの検査まで受けたくせに、往生際が悪い。  
 
昨日の夜あたりから考えてることをまた考えてたら、じゅう、といい音がした。  
高橋の方を見ると、ちょうど二個目のコロッケを入れるところだった。  
また、じゅう、といい音がする。  
高橋の作るコロッケはうまい。  
三個目を入れるところを見てたら腹がぐうと鳴った。  
「もうすぐできるから待っててね」  
高橋はこっちを見ずに言う。  
「うん、腹減った」  
食べざかりのガキみたいな返事をしてからふと思った。  
そう言えば、こいつはどう思ってるんだろう?  
こいつも俺とやるのなんて、変だとか違和感があるとか思ってるんじゃないのか?  
それとも実はやる気満々だったりして。  
子供が好きって言ってたしな。  
それならそれで、向こうから押し倒してくれたら楽かもしれない。  
一回やったら、その後はきっと気兼ねなくできる。  
 
でも、本当にそれでいいのか?  
高橋だって一応女なんだし、どっちかと言ったらこういうことには消極的なんだから、  
それをこいつに期待するのは間違ってる、というか男としてどうよ?  
冷静に考えろ。  
まず、やりたいのか、やりたくないのか。  
……。  
やりたい。  
じゃあ、なんでやらない夫婦生活とか考えてるんだ?  
「大樹ー。出来たよー。取りに来て」  
「あ、うん」  
揚げたてのパン粉の匂いが漂ってきた。  
学生の頃からよく知ってる匂いだ。  
その頃はコロッケが揚がるまで、俺は高橋の部屋のマンガを読んだりCDを漁ったりしてたんだよな。  
なるほど、分かった。  
俺はこいつとのそういう関係を壊したくないんだ。  
やったらそれが崩れそうで、高橋が俺の知ってる高橋じゃなくなりそうで怖いんだ。  
今までだって、喧嘩して崩れたことは何度もあったけど、そのたんびに元通りになったんだ。  
やったくらいでおかしくなんて……ならないよな?  
ダメだ。  
まだビビってる。  
なんでビビるんだよ、俺のバカ、小心者。  
「大樹、どうかした?」  
「え?」  
「大樹の好きなコロッケなのに、ため息なんかついちゃって」  
皿を渡しながら俺を見上げてくる高橋。  
こんな構図、今までにだって何回もあった。  
あったけど、変なことを考えてたせいか、俺は急にドキドキしてきた。  
 
そんで、気がついたら、  
「なあ、片付け終わったらいっしょに風呂入んない?」  
と言っていた。  
本当に何にも考えてなかった。  
多分、さっきの「お風呂に先入っちゃって」がどこかに引っかかってたんだとは思うんだけど。  
言ってみると意外になんてことはなくて、俺は割と冷静に、  
今の俺には一番口にしやすい誘い文句だな、なんて思ってたら、目の前の顔が真っ赤になった。  
適当にあしらわれると思っていたから、この反応は予想外だった。  
「高橋?」  
「は、はいっ!?」  
「飯食って、片付けたら」  
「あーあーあー!そういうことは、ほら、まず、順序ってものが必要じゃない?  
 そうだ!ほら、まずご飯を食べよう!」  
俺の横をすり抜けて食器棚の方へと向かいながら、そう言った。  
もしかしたら、俺以上に意識してたのかもしれない。  
だとすれば、このタイミングで言ったのは良くなかったのか?  
けど、それにしては過剰な反応じゃね?  
拙かったかも、と思うのに、この反応がもっと見たくて、俺はとりあえず皿をテーブルに置くと、  
炊飯釜をあけて米をかき回している高橋の後ろに立った。  
「順序ってなんだ?風呂入るって、普通に一番最初にするだろ?」  
「でも、一緒に入る必要はないよねえ?」  
「なんで?洗いっこって、普通に前戯込みで楽しいじゃん?」  
さっきまでのしょぼい悩みはどこへやら。  
今の俺はノリノリで、一つにまとめられた背中まである髪を撫でながら、高橋の耳元にわざとらしく囁いてみた。  
 
「バカッ!そんなの知らないもん!」  
高橋がしゃもじを炊きたての米に突き刺した。  
俺はちょっとびっくりして、身体を引いた。  
「なんだよ。そんな怒ることじゃないだろ?」  
「怒ってない」  
「いや、怒ってんじゃん」  
「怒ってないってば!」  
「お前がそういう言い方するのって、絶対怒ってるときじゃんかよ」  
横から顔を覗き込もうとすると、顔を背けられた。  
喧嘩と言っても、趣味の違いとか、友達の痴話げんかでどっちの肩を持つかとかの言いあいで、  
俺たち自身が痴話げんかをしたことがないから、どうフォローすべきか分からない。  
けど、何が怒ってる最大の原因か分からないのは後々のために大変よろしくない。  
「なあ、急に言ったのは悪かったかもしんないけどさ、なんで怒ってるのか言ってくんねーと俺、困るじゃん」  
「怒ってないもん……」  
この言い方は反則だ。  
こんな拗ねた高橋見たことないが、かわいい。  
思わず後ろから抱き締めると、ひゃっと肩をすくめられた。  
「な、俺、悪いこと言った?」  
「悪くはないけど……」  
自分で自分の指をさすりながら、こいつにしては歯切れの悪い口調でぼそぼそと呟く。  
「うん」  
「いきなり、お風呂とか……」  
「うん」  
「……キスだってちゃんとしてないし」  
「うん、そうだよな。してないよな」  
俺は努めて冷静にそう返したけど、気持ちは高橋のほっぺたやら首やらにキスしまくりたい衝動に駆られていた。  
 
「なのに、お風呂とか」  
「うん、ごめん」  
「ぜっ、ぜん…ぎ、とか言うし」  
「うん」  
応じてはみたものの、俺の理性は助走を始めていた本能にブレーキをかけた。  
ちょ……っと、まて?  
もしかして、高橋、  
「楽しいとか言うけど」  
これはやっぱりあれか?  
初心者なのか?  
処女?  
ヴァージン?  
生娘?  
「私、そんなの、知らないから……」  
俺は高橋の肩を片腕で抱きしめたまま、米に刺さっていたしゃもじを抜き、しゃもじ立てに立てた。  
それから、炊飯釜の蓋をゆっくり閉めて、頭の中でアイスやら雪やら南氷洋やら冷たそうなものを思い浮かべて、  
必死に冷静さを保つ努力をした。  
嬉しい。  
そうとう嬉しい。  
暴走しそうなぐらい嬉しい。  
が、ホントに初めてなら、暴走は厳禁だ。  
何をどう聞いても、傷つけそうで怖い。  
だけど、確認は必要だ。  
だって、高橋にだって少ないけど付き合ってたやつはいる。  
ゆっくり身体を離すと、俺は高橋の両肩に手を添えて、さらにゆっくりとこっちを向かせた。  
 
俯いてるせいで顔は分からないけど、赤くなった耳は見える。  
俺はあまり賢くない頭をフル回転させて、出来るだけ落ち着いた風を装って聞いてみた。  
「風呂入るのはいつも別々だった?」  
「あの、えっと、あのーね」  
ビンゴだ。  
風呂どころか、前戯もしたことないんだろう。  
嬉しいんだけど、言わせるのがかわいそうな気もしてきた。  
でも、俺が「お前って実は処女?」とか聞くのは論外だ。  
結局俺はまた、  
「うん」  
としか言えずに高橋の言葉を待つしかなかった。  
「だから、なんて言うか、そういうことを、したことが、……なくて」  
高橋の声は消えそうで、俺は気がついたら耳を高橋の顔の傍まで近付けてた。  
ほっぺたに触れるかすかに震えた息がくすぐったい。  
これだけで昇天しそうだ。  
「大樹……」  
高橋がこちらを窺うように見てきた。  
「ん?」  
腰をかがめたまま、その目を見ると、彼女は泣きそうな顔をした。  
「あの、ごめん、ごめんね」  
「なんで謝るんだよ。全然ごめんじゃないよ」  
「だって、処女なんてめんどくさいのにさ」  
「バーカ。めんどくさいとか、そんな訳ないだろ?」  
確かにちょっとは気を使うけど、でもそんなこと本当にどうでもいい。  
そんなことより俺は今、こいつが俺だけのものだっていうことに異常なまでの興奮を覚えていた。  
 
「ホントに?」  
「ホント。なあ、俺、今すげえ嬉しい」  
「嬉しいの?」  
怪訝そうな顔をする高橋。  
「変な顔すんなよ」  
「だって、めんどくさいからやだ、って言われたんだもん」  
そういえば、高橋は前のヤツと別れた時、別れた理由を絶対言おうとしなかった。  
なるほど。  
これは言ってはいかん一言だな。  
けど、そのおかげで俺が高橋を独り占めできるので、ある意味グッジョブ!  
が、それを言う訳にはいかない。  
そのあたりは押し殺しつつ、俺はむくれる高橋の頭を撫でてみた。  
「それってさ、そいつが高橋に本気じゃなかったんだよ。  
 よかったじゃん。そんな奴とやらないですんでさ」  
「それは、そうかもしれないけど……」  
「俺が最初の相手じゃ不満か?」  
前のヤツの事後処理で慰めの言葉を探す筋合いはない。  
高橋はやっと笑うと、俺が彼女にしたように俺の頭をそっと撫でて、  
「唯一の相手になってくれる?」  
と聞いてきた。  
「当たり前。俺の嫁は後も先もお前だけだろ」  
俺がさらに顔を寄せると、高橋は、そうだよね、とまた笑ってくれた。  
それから俺たちは初めて二人しかいない場所でキスをした。  
 
確かファーストキスは高校生の時だって前に言ってた。  
唇も初めてだったら、俺はきっと悶え死んでたかもしれない。  
残念だとは思うけど、まあ仕方がない。  
それを言ったら俺はあっちもこっちも使用済みだ。  
余計なことを考えてるのがばれたら、きっと今度こそ怒られる。  
けど、キスに集中したら高橋を窒息させそうで怖い。  
そのくらい今の俺は暴走寸前なんだ。  
ちょっと唇が離れた時に口元にかかる息とか、漏れる声とか、服にしがみついてくる手とか、  
良く知ってる高橋の初めて知る部分が俺をこれまで以上に興奮させる。  
これから先、こいつを独占できるのかと思うとさらに興奮する。  
今まで女だっていう分類のためにしか見てなかった胸が、特別な意味をもったものになって、  
強く俺の身体に押しつけられてる。  
風呂上りでもないのに、やけにいい匂いがする。  
脱がしたい。  
脱がして、身体中を撫でて、触って、キスして……。  
本当にこいつを窒息させそうな気がしてきて、俺は唇を離して目を開けた。  
でも、濡れた唇、火照った顔でこっちを不思議そうに見てくる高橋を見たら、  
俺は冷静さを保つために唇を離したことも忘れて、またその唇に食いついてしまった。  
性急にエプロンの紐をほどいて、舌を動かす。  
どうせなら、少しでも気持ち良くさせなきゃとか、どっかで思うのに、  
唇の裏の粘膜の柔らかさを堪能して、甘えたように絡みついてくる舌を貪るのに夢中で  
そんな悠長なことしてられない。  
極力股間を擦りつけないようにはしてたけど、俺はとても正直で、  
あれこれ考える前に手が勝手に高橋の尻を掴んでた。  
高橋の身体がびくんと跳ねたけど、構わずに尻を揉む。  
ナイロン製のパンツがすれてしゃかしゃかと音を立ててる。  
俺の手から逃げたいのか、高橋がもぞもぞと動くたんびに高橋の下っ腹が股間を擦るせいで、  
俺のイチモツはしっかり硬くなってきてしまった。  
 
「んー!」  
苦情の声に俺がようやく、今度こそちゃんと唇を離すと、高橋は荒く喘いで口元を指でぬぐった。  
「だいじょぶか?」  
「ん……うん」  
呼吸が落ち着くと、彼女は俺を見上げて、  
「大樹って意外と情熱的なんだ」  
と笑った。  
「意外ととは失礼な。俺はいつだって情熱に溢れてる人間だぞ?」  
口ではおどけてみたけれど、笑った顔がかわいくて、高橋と距離を作るのがもどかしくて、  
俺はすぐに顔を近づけて、額やらほっぺたにキスをした。  
高橋は嬉しそうにそれを受けてくれたけど、  
「でも飽きっぽいよね」  
と、痛い一言を言われてしまった。  
俺の作りかけのガンプラを二体完成させ、やりかけのRPGをクリアしたのは高橋だ。  
「でも、おまえと居るのには飽きなかっただろ?」  
「……それもそうだね」  
俺はちょっとじれったくなってきて、高橋の手をつかんだ。  
「大樹?」  
「隣に行こ」  
「え、でもご飯冷めちゃう!」  
「大丈夫。おまえのコロッケは冷めてもうまい」  
「でも……」  
「お前……俺の状況、分かってて、わざと言ってる?」  
いくら経験なくても、あれだけ密着してたんだからそれくらい分かってほしい。  
「あ、あれってやっぱり、そーなんだ……」  
「うん、ごめん」  
照れる高橋を見てたら、なんだかこっちまで照れてきた。  
 
寝室にしてある四畳半――と言っても、キッチンからふすま一枚のところだけど――に入ると、  
俺は押し入れから乱暴に布団を引っ張り出して、その勢いのまま布団を敷いた。  
埃が立つとかなんとか、文句を言ってる割には高橋もエプロンを外して、  
もう一対の布団を敷いてくれている。  
高橋が敷き終えたところで、俺は後ろからタックルをかけた。  
「わあっ!」  
「つぅかあまあえぇたああぁ」  
「え?ええっ!?」  
「ふっふっふ。脱がしてやる!」  
「え、じ、自分で脱げるよっ」  
「ダメ。俺が脱がす」  
こんなバカみたいなやり取りが楽しくて仕方がない。  
俺は高橋を抱えたまま身体を起こして、彼女を胡坐の上に乗せた。  
「あ……」  
「分かる?俺のちんこが早く高橋に入りたいって、尻つついてんの」  
わざと露骨な言葉を使ってみると、高橋は期待通りに耳を真っ赤にして、  
「わざわざ言うな!」  
と膨れてくれた。  
「高橋カワイイ……」  
首筋に鼻を擦り付けながら、Tシャツの裾から手を入れる。  
「バカ……。もう高橋じゃないってば」  
「ん……だな」  
俺は誤魔化して、胸の間に見つけたホックをはずした。  
「うわっ……」  
反応がいちいちかわいいけど、それを言うと拗ねそうだから、俺は首筋や耳に軽くキスしながら手で胸を包んだ。  
でかい方だとは思ってたけど、実際に触ってみると手に余る。  
慣れたらパイズリに挑戦してもらおう。  
あれは俺も試したことがないからな。  
 
俺は脱がすのも忘れて、しばらく高橋の胸を堪能した。  
硬くなった乳首が時々指に触るから、そっちを弄ってもいいんだけど、もうちょっとこの柔らかさを味わいたい。  
「高橋のおっぱい柔らかくて気持ちいいな」  
「大樹、……胸、好きなの?」  
「好き。高橋のだからもっと好き。でも尻も背中も腹も」  
要するに俺は女の身体は全部好きだなあ、とか思いながらしゃべってると、  
「大樹……名前で呼ぶの恥ずかしいんでしょ?」  
と、痛いところをずばりと言われてしまった。  
「呼び慣れてるから呼んじゃうんだよ」  
と誤魔化してみたが、誤魔化しきれなかった。  
「……でも、穂波、って呼んでほしいな」  
ぐはっ、かわいい言い方するんじゃねえ!  
「ん〜……てりゃっ!」  
俺は苦し紛れにTシャツを思い切りまくりあげた。  
「わっ!こら!」  
たぷん、と揺れてでかい胸が現れた。  
白い肌に薄茶色の乳首が顔を出してる。  
「は〜……すげえ」  
初めて見た、ってほどすごくでかい訳でもないが、なんでだか俺は異常に感動してしまった。  
「バカ!見ないでよ!電気消せー!」  
慌てて胸を隠して前かがみになる高橋のTシャツを今度は背中からつかんで引き上げる。  
「ダメ。見たい」  
「やだ。見せない」  
「ふっ、甘いな。じゃあこっちだ」  
俺はナイロンパンツのウエストを引っ張って、お尻の方へ思い切り下げた。  
 
前かがみになっていたせいで、俺がパンツをひっぱると高橋はころんと転げてしまった。  
その反動を利用して、膝までパンツを引き下ろす。  
水色のショーツが俺の目の前に現れた。  
「やっ!バカ、脱がすな!」  
高橋はじたばたと身をよじったが、胸を隠しながらだから、大した抵抗になってない。  
俺はあっさりパンツを引き抜くと、勝ち誇ったようにそれを掲げて見せた。  
「だって脱がなきゃ出来ないだろ?」  
「でも、もうちょっと脱がし方ってものが」  
パンツをぽいと放って、身体を丸めて色々隠そうとする高橋の上に覆いかぶさった。  
「お前が隠すからだ」  
「大樹のエロスケベバカッ!」  
「そんなの昔から知ってるだろ?」  
「……ホント、よくSTD検査が全部陰性になったと思うよ」  
確かに。  
俺と結婚しない?と俺が言ったとき、STDが全部マイナスだったらね、と高橋は言った。  
俺も実はそれだけは若干ビビってたが、何もなくて本当に良かった。  
「俺は色々ラッキーだな」  
「色々?ビョーキだけじゃなくて?」  
高橋と同じ大学に入れた。  
高橋と友達になれた。  
高橋が独身でいてくれた。  
高橋が処女だった。  
でも、こんなことをラッキーだと思ってるなんてきっと俺だけだ。  
「うん、色々。……なあ、観念しろよ」  
俺が腕の隙間から強引に突っ込んだ手の指先で乳首をつまんでそう言うと、  
高橋は本当に観念したらしく、腕から力を抜いてくれた。  
 
俺は出来るだけゆっくり腕をどけた。  
腕を開くと、高橋は仰向けになってはくれたけど、すぐにその腕で今度は顔を隠してしまった。  
「腕どけろよ」  
「やだ」  
囁くみたいに小さい声で、でもきっぱりとした返事。  
「キスできねーじゃん」  
「……いいもん」  
顔を寄せて顎にキスしてみたけど、高橋は腕をどけてくれなかったから、  
「ふーん。じゃ、こっちに」  
と言って、両手で乳をつかんで、その白い肌に唇を触れさせた。  
小さな反応があったけど、それを無視して唇で柔らかい肌をついばむ。  
胸元まで真っ赤になってきた。  
ふうふうと息づかいも荒くなってきてる。  
「少しは感じてきた?」  
「分かんないよ、そんなの」  
「ホントに?あそこ、むずむずしてねえ?」  
ぴん、と立ってる乳首をつまんだり齧ったりしたいのを堪えて、その周りにキスを繰り返しながら聞いたけど、  
返答なし。  
ってことは、むずむずしてきてるんだろう。  
言わせてやる。  
「乳首は立ってんだけどな」  
俺は左の乳首を指でつまむと同時に、右側を唇で捕まえた。  
「わぅっ!あっ!や、やだ!」  
「ん〜?」  
舌で乳首を嬲ってやると簡単に身体が跳ねる。  
もうひと押しと思って、左手を脇の方に落としていくと、うひゃ!と声が上がって、身体をよじられてしまった。  
 
「だっ、だいきっ!や、くす、くすぐった……!ダメっ!」  
押さえ込もうとしたけど、本気で身体をよじって這ってでも逃げようとするところを見ると、  
本当にくすぐったいらしい。  
こりゃダメだ。  
開発する楽しみが増えたけど、今はエロエロモードにするスイッチを押し間違えた。  
だがしかし、ここでうやむやにする訳にはいかない。  
「逃がさん!」  
俺は布団の上に這いつくばった高橋の肩を掴むと、もう一度仰向けにさせた。  
今度は隠される前にしっかり手首を捕まえる。  
「捕まえた」  
高橋はあからさまにしまった!という顔をすると、目をぎゅっと瞑った。  
なんでこんなに面白いんだ。  
面白いんだが、かわいい。  
かわいいけど、  
「なあ、あんま緊張すんなよ。俺まで緊張しちゃうからさ」  
俺がそう言うと、高橋は眼を開けて、俺を見上げてきた。  
「じゃあ……電気消してよ」  
「えー。見たいのに」  
「そ、そのうち見せるから……っていうか、今でも十分見てるのに……」  
俺はからかい半分で言ったのに、高橋は真面目に答えてくれた。  
ちょっと申し訳ない気持ちになって、俺は手を離して立ち上がった。  
「じゃあ、その時は隅から隅まで見せてな」  
蛍光灯についてる紐を引っ張って、オレンジ色の薄暗い電球だけにする。  
「隅って……」  
俺がトレーナーを脱いでると、いぶかしげな声が聞こえてきた。  
「あーんなとこや、こーんなとこだよ」  
明るいところでそんなことをしたら、こいつは絶対また耳まで赤くしてくれるだろう。  
それを想像しながら、俺はトレパンも脱いで放り投げた。  
 
改めて布団に膝をつくと、高橋は顔を隠さないで待っててくれてた。  
真面目な顔でこっちを見てる。  
きっと赤い顔してるんだろう。  
この明るさだとそのあたりが分からないのが悔しい。  
俺は右肘をついて、出来るだけ身体をくっつけてま隣に横になった。  
一目惚れした高橋のおっぱいを撫でながら、ほっぺたにキスをすると、高橋は嬉しそうに笑って  
俺の肩に手を添えて顎にキスを返してくれた。  
何度かお互いの顔にキスを繰り返して、唇同士がくっつくと、俺は火がついたみたいに高橋の唇を貪り始めた。  
乳首を弄っていた左手の指に勝手に力が入って、乱暴に嬲るたびに唇の隙間から掠れた声が聞こえる。  
肩に置かれた指先に力が入る。  
さっきより積極的に舌を絡めてきてくれる。  
荒い息使いや、唾液が混じり合う音が俺を刺激する。  
俺は胸から手を離して、下の方へと移した。  
うっかり腹に触るとまたやり直しになるから、腹には触らないようにしながら手を伸ばして、  
どうにかショーツにたどり着いた。  
その上から下っ腹を撫でてやると、僅かに身体をくねらせただけで、逃げる様子はない。  
俺は脚の間に手を進めて行った。  
予想はしてたけど、脚がしっかり閉じてる。  
唇を少しだけ離して、力を抜くように言うと、少しだけ開いてくれた。  
 
下着は濡れてるってほどじゃなかったけど結構湿ってて、入口のあたりを押すとじわっと滲んできた。  
「んぅ……」  
「脱がすぞ」  
腰のあたりに手を戻して囁くと、高橋はぎゅっと目を瞑って頷いた。  
「腰、上げられるか?」  
腰が上がった。  
肩に置かれてる手が震えてる。  
それだけのことなのに、なんだか高橋がすごく愛おしくて、  
俺はここで、多分初めてこいつを大事にしなきゃ、って本気で思った。  
ショーツを下ろして足から抜くと、俺は彼女に覆いかぶさって言った。  
「もっとちゃんと俺に掴まってろよ」  
「ん……」  
細い腕が俺の首に巻きつく。  
「触るけど、痛かったら言えよ」  
「ん……」  
ホントは舐めて欲しかったけど、俺は自分で自分の中指の先を舐めて濡らすと、  
キスを再開してその手を下へと伸ばした。  
軽いキスを繰り返しながら、ワレメの周りの柔らかい肉を揉んでると、耳に届く息にかすかな声が混じってきた。  
陰毛もじっとりと濡れてる。  
中指をワレメの間にゆっくりと進めて行く。  
粘液が指に絡みついて、いい感じに行きたい所に誘導してくれる。  
「あ……」  
「ん?まだ入れてないぞ?」  
「あ、うん、えっと、ちょっとぞくってした」  
照れ笑いがかわいすぎる。  
もしかして、これが萌えーってやつか?  
あーもー!そんなこといちいち教えてくれなくてもいいっつーの!  
いや、俺が聞いたんだけど。  
 
「ここか?」  
「ふ、うわっ」  
反応があった場所で指を動かすと、しがみつく腕の力が強くなった。  
「よし。まずは一ヵ所発見」  
「もー、ホント、バカなんだから」  
そうは言ってるけど、声は笑ってる。  
肩からも足からも力が抜けてきたみたいで、俺の肩に入ってた力も抜けてきた。  
「これからいーっぱい探してやるからな」  
唇をついばんで言うと、結構です、と断られてしまった。  
「じゃあ、作ろう」  
入口を見つけた。  
「作らなくて……っ」  
少しだけ指を進めると、また身体が固くなる。  
「ん?」  
「作らなくて、いいっ」  
入口をゆっくりほぐしながら指先を進めていく。  
中は外とは比べ物にならないくらい濡れていて、めちゃくちゃ熱くて、俺の指を締め付けてきた。  
実況したい衝動に駆られたけど、それはまた次回のお楽しみにしておこう。  
俺は指を少しずつ進めていきながら、話を続けた。  
「やだ。作る。俺の夢はお前をエロエロに開発することなんだ」  
「なにっ、そのゆめ……っ」  
「だって俺だけがエロいの不公平……つらいか?」  
指を動かすと言葉が詰まるから聞いてみたんだけど、  
「平気。なんか変な感じがするけど」  
返ってきたのは嬉しそうな照れ笑いだった。  
 
「もっとやっても平気か?」  
「ん……だいじょうぶ……だけど」  
「ん?」  
「キスしてほしい……」  
「うん……」  
ヘタでバカな会話も悪くはないんだろうけど、結局これが一番いいらしい。  
俺たちはまたお互いの唇を貪り始めた。  
指を進めていくと、指はこれまで以上に締め付けられた。  
広げるようにゆっくりと動かすと、そのたびに声が上がったり、身体が小さく跳ねたりと反応が返ってくる。  
結構感じてくれてるのかもしれない。  
もういいか?って聞こうかと思ったけど、やめた。  
指を抜いて、離したくなかったけど唇を離した。  
名残惜しげに上がった顎にキスをして、ちょっと待っててな、と身体を起こして、トランクスを脱ぎ捨てた。  
分かってはいたけど、今日のムスコは張り切りすぎだ。  
暴走しないように言い聞かせつつ、高橋の右足を持ち上げて脚の間に身体を入れた。  
「大樹……」  
差し出された両手に顔を近づけて行くとほっぺたを掴まれて、結構濃厚なキスをされた。  
全然放してくれそうにないし、俺も離れたくなかったから、  
身体を探って先っぽを高橋の身体の入り口にくっつけた。  
肩がびくりとして、俺の唇にまとわりついてた唇の動きが鈍くなった。  
俺は高橋の頭を抱え込むと、とりあえず自分が納得するまで顔中にキスしまくった。  
「は…んっ……大樹……」  
キスするたんびに高橋が名前を呼んでくれる。  
気がついたら、俺も夢中で名前を呼んでた。  
「穂波……穂波っ……」  
先っぽはもう入って行ってたけど、俺はぎりぎりそこで唇をどうにか離した。  
「穂波……」  
「ふぇ?」  
高橋、もとい穂波は我に返ったみたいに、不思議そうな顔でこっちを見上げてきた。  
「無理だったら言えよ」  
「……うん」  
穂波は笑顔で頷くと、腕を俺の首に絡めてきて、俺を抱き締めてくれた。  
 
「んっ……ん、くっ」  
穂波の中は熱くてとろとろで、ホントに溶けそうだと思った。  
「あっ!う……、んうっ」  
出来るだけゆっくり沈めてるつもりだけど、一応指よりは太いモノだ。  
俺が窮屈に感じてるんだから、入れられてる方はどれだけつらいんだろう?  
耳に届く声が苦しそうで、一気に奥まで行きたい衝動を抑えて、  
「平気か?」  
と聞くと、  
「ダメだったら言う……」  
と弱々しい声が返ってきた。  
もう既にダメなんじゃないのか、って思うけど、本人が言うと言ってるんだから任せよう。  
俺は絡みついてくる膣壁の気持ちよさに暴走しないようにだけしながら、また腰を押しつけた。  
一瞬、ちょっと抵抗があったような気がした。  
その瞬間、  
「つッ!」  
と、穂波が小さく呻いて、俺にしがみついてきた。  
もしやこれが噂の処女膜!?  
けど、今はそれより穂波の方が心配だ。  
かと言って、また平気?とか聞くのもなあ。  
と思ってると、何か囁かれた。  
「なに?」  
慌てて聞くと、  
「全部入った?」  
と、聞き返された。  
 
「……もうちょっとかな」  
どうしようか一瞬迷ったけど正直に答えると、予想通り、  
「じゃあ、全部入れて」  
と返ってきた。  
「お前な、無理すんなよ」  
「無理じゃないもん」  
「いや、明らかに無理」  
その証拠に、俺がきっぱり言うと、むう、と不満げな声を漏らしただけで反論が無かった。  
「穂波。何回かすればすぐ慣れるからさ」  
「そうかもしれないけど、それじゃ大樹が気持ち良くなれないもん……」  
「や、俺、この時点でかなり気持ちいいんだけど……」  
「無理すんなよ」  
「してねえよ」  
口調を真似されて俺は思わず吹いてしまった。  
「いや、明らかに」  
「やめろ。こんな時に笑わすな」  
「だってー」  
「だってじゃない。最後まで入れて、それから動いたらきっとめちゃくちゃ痛いぞ」  
「平気だもん……」  
口を尖らせる穂波を俺はぎゅっと抱きしめた。  
「穂波。俺が平気じゃない。我慢してもらっても嬉しくない。  
 いいじゃん。この後何千回もやるんだから、最初の何回かくらいさ」  
「何千回も?」  
穂波が笑った。  
「そう、何千回も」  
「飽きない?」  
「飽きない」  
「ホントに?」  
「だって、結婚てそういう約束じゃん」  
 
穂波はちょっと呆れたような感じでくすくす笑ったけど、すぐに俺をぎゅっと抱いて、  
「分かった。今日は名前呼んでもらっただけで良しとするよ」  
と言ってくれた。  
名前のことを言われてちょっと照れたけど、穂波がほっぺたを擦り付けてきたから俺もお返しに頬ずりした。  
「ありがと、大樹。でも、もうちょっとこうしてたい」  
「うん、俺も」  
 
俺たちは繋がったまんま唇を塞ぎ合った。  
音を立てて唇を吸い合って、お互いに唇だの歯茎だの舌だのを舐め合って、  
なんとなく身体を揺らしてるうちに、限界が来てた俺はわりとあっけなくいってしまった。  
 
それでもキスすることをやめないでじゃれ合ってると、ぐうと音がした。  
「……腹減ったな」  
「……うん」  
俺たちはもぞもぞと起き上がって、散らかってた服を着るとキッチンに戻った。  
テーブルに置かれたままの皿の上のキャベツが心なしかしおれてる。  
「コロッケ、冷めちゃったね」  
穂波はご飯をよそうと、大きい方の茶碗を俺に渡してくれた。  
「大丈夫。おまえのコロッケは冷めてもうまい」  
「ありがとう」  
穂波が席に着くと、二人で手を合わせていただきますの挨拶をした。  
俺は昔からこの瞬間が結構好きだ。  
あれこれ悩んでたわりに、いざやってみてもどうということはなくて、  
いつもと変わらない『いただきます』だった。  
箸を手にしてから、ふと思いついたことを言ってみた。  
「なあ、片付けが終わったらさ」  
「うん、一緒にお風呂入ろうか」  
穂波が赤い顔でコロッケを一口、口に入れた。  
 
(了)  
 

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