とん、とん、とん、とん・・・・・・  
 
まな板を包丁が叩く音が、心地よく響いている。台所の流しの前では、妻が形の整った素晴らしいお尻をフリフリしながら、鼻歌まじりで夕食を作っている。  
やや長めのピンクのスカートに、上は薄い茶色のセーター。そして、やはりピンクのフリルの付いたエプロンを身に着けている。  
そんな妻の後姿を眺めながら、私は実感する。  
(結婚、したんだなぁ)  
正直、まだ実感は湧かない。  
小さな頃から、女の子とは無縁で、付き合ったことなどなかった。もちろん、ずっと童貞だった。  
ここだけの話、妻との初夜が、私の童貞の卒業式だった。  
私は元々容姿には自信がなかったし、周囲からもそう見られていたのだろう。  
共学の学校に行っていたにもかかわらず、異性から告白されたことは一度もない。  
周囲の男友達が次々に彼女を作ったり、そして童貞を卒業したりしていく中で、私一人だけがずっと取り残されていく・・・そんな感じがしていた学生時代。  
もしかしたら、このまま一生、女に縁がないままなのかもしれない。私はずっとそう思っていた。  
だから、今この目の前の風景が、未だに信じられない。私の目の前で、妻となった女性が、私に夕食を作ってくれている。  
 
妻と初めて出逢ったのは、一年ほど前だった。  
25の年になるまで、私は女性と付き合ったことがない。それだけではなく、私は風俗にも行ったことがなかった。  
「信じらんねえな。普通、この年だったらとっくに童貞卒業しているだろ。」  
周りの友達は揃って、皆そう言う。だが、厳格な警察官だった父の影響を受けたのか、私は風俗に行くことができなかった。  
何となく、そういったものに汚らわしさを感じていたのかもしれない。お金を払って性交をすることに、抵抗があったのだろう。  
 
結局、彼女もできず、風俗にも行かないため、私の童貞は永遠に続くかと思われた。  
だが・・・・・・  
 
それから一年。  
今私の前に、可愛い妻がいる。私と同い年で、誕生日も近かった。三日ほど、彼女が早いだけだ。  
もちろん、性交も経験した。初めての経験。  
あんなに気持ちよかったとは、思いもしなかった。周囲の友人が、金を払ってでも風俗にはまるという理由が、わかる気もする。  
だが私は、今に至るまで風俗には行っていない。やはり金銭で性交渉をするのには、抵抗がある。  
まあ今は、そんなことよりも、目の前の可愛い妻の姿を、存分に堪能しようと思う。  
「ふんふんふ〜ん♪」  
妻の楽しげな鼻歌が、私の耳を心地よくくすぐる。容姿もさることながら、声も可愛い。  
「良実。」  
「なあに?」  
私が声をかけると、妻は振り返った。その可愛い顔は、さながら芸術品のようだ。  
「私のほっぺをつねってみてくれ。」  
すると妻は私のところにやってきた。そして・・・・・・  
 
むぎゅ〜っ!!!  
 
「い・・・いててててて!」  
「ご、ごめんなさい!だってあなたが・・・」  
「いや、いいんだ。」  
「でも、いきなりほっぺをつねれって、どうしたの?」  
「いや、何でもないんだ。」  
「・・・・・・変なの。」  
そう言って、彼女はくすっと笑った。  
ともかく、これで証明された。これは夢じゃない。現実なんだ。  
可愛くて、素晴らしい妻を迎えたという、素敵な現実。  
去年の今頃には、思いもしなかった、環境の変化。  
「さあ、ご飯ができたわよ〜」  
妻の声が響いた。今日のメニューは、肉じゃがだ。  
「おっ!おいしそうだな。」  
「そう?ちょっとだけ、自信作なの。」  
妻はちょっとだけ照れた。やはり褒めると、それなりに気分はいいらしい。  
「いただきま〜す!」  
そして私と妻は席に着いて、夕ご飯を始める。のどかな日曜日の、ささやかな幸せのひと時。  
自信作だけあって、妻の肉じゃがは美味しい。よく、雑誌とかに載っている、夫が妻に作って欲しい料理とかの一位に肉じゃがが入っていることが多いけれど、何となくわかる気がする。  
現に今、私はこうして妻に肉じゃがを作ってもらっている。このことの、何と幸せなことか。  
 
 
一年前・・・・・・  
 
私たちの出会いは、とある料亭で行われた。  
ドラマチックな突然の出会いではなく、意図的に計画して行われたものだった。  
親戚のおばさんに、すごく世話好きな人がいて、今回の話もおばさんから紹介されたものだった。  
いわゆる『お見合い』。  
そして料亭で、彼女との初対面が行われた。  
初めて見た彼女の印象は、絶世の美女というわけではないけれど、かなり可愛い人。  
そして私は直感的に感じた。  
(この人が、私の将来の妻だ)  
そう考えた根拠は、今となってはわからない。おそらく、本能的に、相性の良さを感じていたのだろう。  
結果的に、その直感は間違っていなかったことになる。  
そういえば、彼女も言っていた。  
初めて見た瞬間、あなたが私の夫になる人だと感じたと。  
よほど相性がいいのだろう。これほど相性のいい人とは、もう二度と出逢えないだろうと思う。  
妻とは、一生仲良くやっていきたい。心の底から、そう思う。  
 
「ふう〜食った食った。」  
「すご〜い!ご飯三杯も食べちゃうなんて!」  
「それだけおかずが美味しかったからだよ。」  
「うふふ。ありがとう。おそまつさまでした。」  
「おそまつなんて言わないでくれよ。君の料理は絶品なんだから。」  
「もう、褒めすぎよ!」  
そう言って、妻は恥ずかしがる。だが、私は嘘は言っていない。すごく美味しかったし、妻の愛情もビンビンと伝わってきた。  
「じゃあ、お片づけしようか。」  
「えっ?い、いいのよ?私の仕事だから。」  
「いや、自分だけ食べてごろごろしてたら、怠け者になっちゃうからね。」  
「そ、そう?でも・・・・・・」  
そう言って戸惑う妻を、私は抱きしめてみた。  
「君のために、お手伝いしたいんだ。」  
「ありがとう・・・・・・大好き♥」  
 
そんな感じで台所の後片付けを終えると、妻が待っていた。  
「お疲れ様でした。」  
「どうしたの?」  
「えっとね・・・・・・一緒にお風呂に入ろうかなって・・・♥」  
途端に私はドキドキする。そういえば、新婚初夜のときも、こんな展開だったなあ。  
あの時、私は思わずのぼせてしまい、鼻血を噴いて倒れた。  
無理もない。女の人の裸なんて、母親以外見たことなかったから。  
「きゃー!しっかりしてー!」  
彼女は私を抱きかかえながら、一生懸命介抱してくれた。  
いい年をした男が、みっともない。だが、童貞男、しかも堅物の男にいきなり女性の裸なんて、初期症状の患者にいきなり劇薬を与えるようなものだ。  
で、今、妻の裸が目の前にいる。  
さすがに鼻血ブーはおこらなくなったけれども、興奮は収まらない。  
「まあ!」  
私と妻、正面から向かい合っている。そのため、私のモノが、彼女の目の前にあることになる。  
私のそれは、ギンギンにいきり立っている。無理もない、可愛い女性の裸が、目の前にあるのだから。  
妻はそれを、愛しそうに撫でている。もちろん、私は気持ちいい。  
「あの時・・・・・・」  
そうつぶやいて、彼女はぽっと顔を赤らめた。  
「どうしたの?」  
「ううん、何でもないの。ただ、あの時のことを・・・思い出しちゃって♥」  
「あの時?」  
「うん。」  
「あの時・・・・・・初めて、私の中に・・・・・・もうっ!恥ずかしいじゃない!」  
そう言って妻はぱしっと私のモノを叩いた。  
「い、痛いなあ!」  
「ご、ごめんなさい!」  
あの時って・・・・・・いつだろう?私との初夜のことだろうか?  
それとも・・・・・・  
「でも・・・・・・未だに信じられない。こんなに大きなモノが、私のここに入ったなんて・・・・・・」  
そう言って妻は、自分の股間を見る。そしてすぐに、私のモノを見た。  
「よく入ったなあって思うわ。だって私・・・・・・初めてだったから。」  
「えっ?そうなの?」  
「うん・・・・・・私、男の人となんて付き合ったことなかったから。」  
「そうなんだ。こんなに可愛いのに、ちょっとだけ勿体無い気もするなあ。」  
「お父さんもお母さんも、すごくしつけが厳しくて。でも、そのおかげで、こうしてあなたと出逢えたし、私、すごく幸せ。」  
「私もだよ。」  
妻のあまりの可愛さに、私は妻をぎゅっと抱きしめる。  
「あ・・・・・・」  
妻の心臓が、すごくドキドキしている。彼女の興奮が、私の身体にも伝わってくる。  
「君を、抱きたい。」  
「もう抱いてるじゃない。」  
「あ、あのね、そういう意味じゃなくて・・・」  
「うん。わかってるよ。何となく言ってみたかっただけ。」  
そして妻は私のモノをひっきりなしに撫で回してくる。間違いない。妻は私の身体を求めている。  
初めての夜から、まだ数日しかたっていないのに、こんなにもお互いの身体を求めている私と妻。  
こんなにも相性にいい相手なんて、世界中探し回っても、他には誰もいないだろう。  
良くこんな相手を見つけられたものだと、つくづく思う。  
 
「良実・・・」  
「良実さん・・・」  
結婚届を提出した際、役所が一時パニックに陥ったことを覚えている。  
結婚する夫と妻が、同じ名前だからだ。  
但し、読みは違う。妻は良実(よしみ)で、私は良実(よしざね)だ。  
まあそれはともかく、今、二人はすごくいい雰囲気になっている。  
「良実・・・・・・ここでする?」  
私が聞くと、妻は首を左右に振った。  
「私は・・・・・・ベッドの上がいいな。」  
彼女の返答に、私はこくっと頷いた。  
 
私と妻は、身体を拭いた後、そのままベッドに移った。  
妻の柔らかい肌。まさに『柔肌』という表現がぴったりだ。  
何でこんなに柔らかいのだろう。生物学的には、お腹の中の子供を守るために、脂肪が付き易くなっているとのこと。  
それに対して、男の身体が硬く逞しいのは、大事な家族を守るために、筋肉が付くからだろう。  
私も、妻も、その理論に合致した身体になっている。  
そんな私の思考を遮るかのように、妻は話しかけてきた。  
「あのね、お父さんがね、早く孫の顔が見たいって。」  
「そうなんだ。良実はどうしたい?」  
「私はね・・・まだちょっと早いかなって思うの。もう少し、二人きりでいたいな♥」  
子供か・・・・・・夢のような夫婦の二人きりの空間に突然出現する、現実的な問題。  
私たちにとっては夢のような空間であっても、産まれてくるであろう子供たちにとっては、そうではない。  
現実的な世界の中で、きちんと教育する義務もあるし、立派な大人に育てていく責任もある。それは大変なことだ。  
もうしばらくは二人きりでいたいというのもわかるが、私にとっては、それは面倒なことを先延ばしにしようという、いささか卑怯な考えにも思えた。  
「でもね、私はあなたが欲しいっていうなら、かまわない。」  
妻は可愛い、しかし真剣な眼で私の顔をじっと見つめた。  
その妻の顔を見て、私は答えた。  
「子供を、作ろう。」  
そう答えた私に、妻はにっこりと微笑んだ。  
「はい。」  
極上の、妻の微笑み。  
可愛くて、そして愛しくて仕方がない。  
私はそのまま、彼女に覆い被さるようにして、妻をベッドの上に寝転がせた。  
「きゃっ!ああん!」  
いささか乱暴だったかもしれない。だがそれほどに、私は・・・・・・妻を求めている。  
そして、私と妻は、いよいよ・・・・・・  
 
ギシギシアンアン  
 
「はあ、はあ、はあ・・・・・・」  
私は、彼女の奥底に精一杯の精を放出した後、彼女の真横にうつ伏せに寝転がった。  
まるで、私の全てが、彼女に一気に放出されたみたいだ。  
もう力が入らない。肩で荒い息をしながら、私は仰向けに姿勢を変えた。  
その横で、妻も荒い息をしている。その瞳は、真っ直ぐに私を見つめていた。  
妻の瞳が、潤んでいる。  
「はあはあ・・・大好き・・・はあはあ・・・♥」  
「・・・・・・これで、赤ちゃんできたかな?」  
私は妻に、そう聞いてみた。  
「うん。多分。でも・・・・・・」  
すると妻は起き上がり、私の顔を覗き込んで言った。  
「心配なら、もう一回する?」  
 
ギシギシアンアン  
 
おしまい  
 

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