「なぁ由紀、何もキミまで僕を敬わなくてもいいんじゃないか?」
「いえ、西川家は家康公のご執政以来、代々にわたって松本家にお仕えして栄えた家系でございます。おいそれと慣習を変えることは致しかねます」
「しかしなぁ由紀、ボクはまだ高校生で、キミは大学を卒業し、春から立派な社会人になる。いい加減にしがらみは断ち切ったほうが、色々と都合がいいんじゃないか」
「若様。私のことなど関係ありません。これまでどおり、若様のお世話は私が致します」
「ワカサマて。何時代だよ、今頃。僕のことはいいからカレシの1人でも作ってみなっての。普通、大学生活つったら恋人がいてナンボだろ」
「そんなことは、ないです。家政科での授業は大変有意義なものでした」
「ふぅん……寂しいヤツ。若いのに。おばあちゃんみたい」
「……なんだか今日はトゲがありますね、若様」
「別に。もうすぐキミは勤めに出るんだろう。あえて言うなら、僕のことを気にしないですむよう、配慮だよ。配慮」
「……可愛くない」
「別に由紀に可愛いと思ってもらう必要はないさ。僕ももう17歳なんだ。あ、いや、年上のキミの前では“まだまだ”17歳、と言うべきだったね」
「……あーあ、ほんの10年前は若様のお布団、毎日干してあげてたのに。可愛くないの」
「由紀」
「毎日毎日ぬらして汚して、そのたびに私が」
「む、昔のことを言うのは、ひ、卑怯じゃないか」
「いやぁ、若様ったらなかなかおねしょ癖が治らなくて、10年前どころか5年前あたりまで・・・」
「由紀!」
「……どうしたんです、若様」
「どうしたもこうしたも」
「何も無いなら、おばさんの昔話でも続けますか。若様ったら雷の日には怖い怖いって言って泣きじゃくって」
「由紀ィ!!」
「どうしましたんです、若様?」
「あの……」
「なんです?」
「ご、ごめんなさい……由紀となかなかあえなくなるのが寂しくて、生意気いいました……」
「素直でよろしい」