「……えっと、君が……神崎、由美香、さん?」
「何だか他人行儀だなぁ。いつも通りユミちゃんでいいよ、タロ君」
「……え、あ、うん……ユミ、ちゃん、だよね?」
「うん! こういう場合も、やっぱり初めまして、なのかな?」
「ど、どうなんだろ……?」
僕には、物心ついた頃からとある手段で連絡を取り合ってきた、女の子がいた。
その手段というのは……まあ今時は珍しいかもしれないが……手紙だ。
物心ついた頃……だから、四歳くらいからかな?……それから、十八になる
今日この日まで、僕は彼女と……神崎由美香と、週に一回は必ず手紙のやり取りを
していた。俗に言う文通という奴だ。
なにせ物心ついた頃からやっていたことなので、習慣づいてしまってたというのも
あるんだろうけれど……あとは、引っ込み事案で、あまりお喋りをするような友達に
恵まれなかったという事もあるんだろうけど……僕は特に疑問を抱く事もなく、
それどころか毎週楽しみに、彼女と……顔も知らない彼女と、手紙のやり取りを続けていた。
その週にあった出来事を色々と書き、嬉しかった事、悲しかった事を綴り、それに
返事が来るのが酷く嬉しくて、彼女に返事を出すのが酷く楽しくて。
そして、それは……彼女も同じだったのだろう。
「じゃあ……初めまして、楠木太郎君!」
初めて見る、彼女の顔。そこに浮かぶ笑顔が、僕にそう教えてくれていた。
「あ、うん……初めまして……ユミちゃん」
釣られて笑いながら……僕は、彼女が差し出した手を取り、初めて彼女に触れた。