『続・断らない彼女』  
 
 
 
 ある日曜日のこと。  
 田中亜季は部屋の真ん中で緊張していた。  
 六畳間の一室。小さな座卓の前にちょこんと座り、彼女は部屋の主を待っている。  
 勉強机と大きなベッド。壁に張り付くように置かれたタンス。タンスの横の押し入れ。  
他には座卓と、二つの窓。  
 高橋雪成の部屋は、そんな簡素さに満ちた部屋だった。  
 小学生の頃までは何度も訪れていたが、ここ最近は全然だった。  
 部屋の雰囲気は昔と変わっていない。  
 机の位置が変わっていたり、ベッドのサイズが大きくなっていたりと、確かに部屋自体は  
変化している。しかしシンプルな雰囲気は昔のままである。  
 亜季は懐かしい気持ちになった。ここにはちゃんと昔の空気が残っている。  
 外は雨が降っている。  
 冷たく聞こえる雨音は、静寂を生み出すような気配を伴った矛盾の音だ。  
 この雨のせいで──おかげで、亜季はこの部屋にいる。  
 今日は本来デートのはずだったのだ。ところが秋雨前線の余計な頑張りで、何度目かのデートは  
中止になってしまった。  
 ……いや、正確には中止ではない。  
「お待たせ」  
 ドアが開き、幼馴染みが姿を現した。烏龍茶の入ったグラスを二つ、盆に載せている。  
「う、うん」  
 亜季は腰を浮かせたが、雪成がそれを制した。盆を卓の上に置き、グラスを一つ亜季に差し出す。  
「あ、ありがとう」  
 声が微かに震えた。  
 このような状況を作ったのは、実は亜季の方だった。  
 雨が降っただけでデートがなくなるのはあまりに残念である。なんとか代わりの案を出そう  
として、思い付いたのがこれだったのだ。  
『家、行ってもいい?』と亜季がメールをすると、雪成は案外簡単にOKしてくれた。  
 随分とおもいきったことをしたなあ、と亜季は他人事のように振り返ったが、これは確かに  
自分が望んでいることだった。  
 なんというか、『いろいろと』望んでいる。  
 二人が付き合い始めて一ヶ月になる。  
 互いを好き合い、順調に仲を深めてはいる。デートを幾度も重ね、学校の昼休みには一緒に  
亜季の手作り弁当を食べるようになった。  
 それはそれで幸せなのだが──そこから先の段階に、二人は踏み込んでいなかった。  
 まだキスさえしていないのである。せいぜい手を繋ぐ程度の接触しかなく、亜季は少し  
焦れったく思っていた。  
 最大の原因は雪成が奥手すぎることだろう。雪成は亜季を大事にしてくれるが、それゆえに  
どこか積極性に欠けていた。  
 別に急がなくてもいいとは思う。しかし、思春期の男の子ならもう少しそういうことを求めても  
いいと思う。  
 亜季は雪成の彼女なのだから。  
「……」  
 亜季は烏龍茶を一口飲んだ。液体は渇いた喉を潤し、高鳴る胸の奥へと落ちていく。  
(うあー……私、緊張してるよ……)  
 すぐにまた喉が渇く。唾が呑めなくなる程に口の中はカラカラで、鼓動のリズムも激しい。  
 そっと顔を上げる。  
 対面に座る雪成と目が合った。  
(!)  
 ふい、と目を逸らす。  
 意識過剰かもしれない。しかし意識してしまうのを止められない。  
 
「……そんなに緊張するなよ」  
 呆れたように雪成が言った。  
 うつ向いて亜季は答える。  
「して、してないよ」  
「どもるなどもるな」  
「うう……」  
「なんにもしないから安心しろ」  
 雪成は苦笑する。  
 亜季はその言葉におもいっきり眉を寄せた。  
「……な、なんだよ」  
 亜季の睨みに雪成はたじろぐ。  
「……二人っきりだよ」  
 休日にも関わらず、雪成の両親は仕事で出ている。  
「……ああ」  
「何もしないの?」  
「……何も、って、何を」  
「……わかるでしょ?」  
 亜季は真っ赤な顔で雪成を見つめる。  
「私は……したいよ」  
「……」  
「手をつないだり、抱き締め合ったり、キスをしたり……そ、それ以上も、私……」  
「……」  
 雪成は答えない。しかし表情を見るに、慌てているのは一目瞭然だ。  
 亜季はなんとか心を落ち着かせようと、大きく息を吐き出した。  
「……たぶんね、私、わがままになっちゃったの」  
「……」  
「雪成くんの彼女になれてすごく嬉しいの。幸せで、毎日が楽しくて、ずっと浮かれてしまう。  
でも……同時に不安なの。ちゃんと私、彼女できてるかなって」  
「……」  
「私、魅力あるのかな、って……」  
 亜季の声はだんだん小さくなり、最後にはずいぶんとか細いものになってしまった。  
「……どこがわがままなんだよ」  
「だって、『足りない』って思っちゃうんだよ? もっともっと雪成くんに近付きたい、  
愛されたいって思っちゃって、気持ちが抑えられないの。こんなの初めてで、私……」  
 亜季は溢れ出る想いに流されるように、心情を吐露する。  
 ずっと「お姉さん」として雪成の側にいたのだ。だから亜季は、雪成のために何かをすることは  
あっても、自分の欲や願望のために何かをすることはほとんどなかった。はっきり表に見せる  
ことなどありえなかった。  
 しかし今の亜季は、確かに自分のしたいことを主張している。  
 それはお姉さんではなく、恋人としての立ち位置。  
 その主張の内容はかなりアレだったし、亜季自身恥ずかしくて仕方なかったが、抑えることなど  
できなかった。  
「……だから雪成くんも、もっと……」  
 熱で浮かされたような目で、亜季はじっと雪成を見つめた。  
 すると、雪成はすくっと立ち上がり、亜季のすぐ隣に寄ってきた。  
「……ゆき」  
 名を呼ぼうとした亜季の口が、「な」で止まる。  
 雪成がしゃがみこむや、亜季の体を抱き締めたからだ。  
 力強い抱擁だった。背中に回された両手は、どこか焦るように荒々しく、亜季にしがみついてきた。  
 胸が遠慮なく押し付けられる。  
 
「……どう、したの」  
 かろうじて、それだけを訊く。  
 雪成は小さく呟いた。  
「限界だ……」  
「え?」  
「いくらなんでも反則だろ」  
 何が、と問おうとして、その言葉は発せられなかった。  
 雪成の唇が亜季の唇を開かせなかったからだ。  
「ん──」  
 抵抗はしなかった。受け入れたわけではなく、突然のことに体が動かなかっただけだった。  
 唇が離れる。温かい感触が消える。  
 雪成の目がじっと亜季を見つめてくる。いつもの優しい印象はなく、野生動物みたいだと  
亜季は思った。  
 そのときになってようやく、自分が雪成に求められていることを理解した。  
「ゆ、雪成くん」  
「もう止まらないからな」  
 雪成のノンストップ宣言に、亜季は顔を真っ赤にしながらもこくりと頷いた。  
 
      ◇   ◇   ◇  
 
 ベッドの上で仰向けになった亜季は、高鳴る鼓動の音を内に聞きながら目の前の相手を見つめた。  
 覆い被さるように上から見下ろしてくる幼馴染み。ベッドに着いて体を支える両手は亜季の  
肩口近くにあり、まるで格子のようだと亜季は思った。  
 しかし嫌悪はない。緊張と高揚が入り混じり、熱っぽくなっていく感覚が少し心地よい。  
 雪成の顔が近付く。睫毛が長い。鼻筋が真っ直ぐ通っている。恰好いいとか綺麗とかそういう  
感想はなぜか出てこない。  
 思ったのは──愛しい。  
 それだけで、この状況を受け入れるのには充分だった。  
 雪成は亜季の頬に手を添えると、ゆっくりとキスをした。  
 さっきのような荒々しいキスではなく、いたわるような優しいキスだった。口唇が柔らかく  
亜季を撫でる。  
 亜季は一瞬どうしようか迷った。こちらも積極的に応えるべきかどうか。  
 しかしその間に雪成の唇が離れる。亜季は「あ……」と声を洩らした。  
「……不満か?」  
「!」  
 顔が熱くなる。でも、それは雪成の勘違いだ。不満とかそんなんじゃ、  
 ……本当に勘違いなのだろうか。  
 答えを返す間もなく雪成の口がまたくっついてきた。  
 さっきよりも深く繋がる感触。海に溶け込むような心地よい安心が広がっていく。  
 勘違いではないかもしれない。繋がっていることに、こんなにもほっとするのだから。  
 亜季は相手の背中に手を回して、自分から深く求めた。  
 雪成の口が細かく動いた。唇に生温かい何かが触れる。  
(舌が、)  
 亜季の弛緩していた体が一気に強張った。唇を舐め回していたかと思ったら、隙間から舌が  
ねじ込むように侵入してくる。  
「んんっ……」  
 強引に突破され、無理やり口を開けさせられる。だらしなく開いた口から涎が染み出るように  
垂れて、頬を伝って落ちていく。  
 舌同士が絡み合った。雪成の舌は蛇のようにしつこくまとわりつき、亜季の口内をなぶる。  
肉が触れ合った瞬間、亜季はぞくぞくと背中が震えた。  
(……こんなに、気持ちいいんだ)  
 不快感はまるでない。亜季にとって初めてのキスで、ましてやディープキスなど経験どころか  
想像さえろくにしたことがなかったが、しかし痺れるくらいの感触は、決して悪くないものだった。  
 それどころか、  
(離れたくない──)  
 亜季は雪成の体を強く抱き締める。背中のごつごつした肉感が掌を通して伝わってくる。  
 絡み合う二つの舌は唾液と熱を交換するように密着し、互いの味を求め合った。擦れる歯が、  
顔を撫でる息が、興奮を高めていく。  
 
「んっ」  
 不意に雪成の右手が動いた。左胸を触られて思わず声が出る。感じたわけではないが、驚いて。  
 雪成の口が名残惜しげに離れた。  
「……柔らかい」  
 何を言うかと思えば、たったそれだけだった。亜季は拍子抜けする。  
「私の胸、そんなに大きくないよ」  
「でも揉めるぞ」  
「……ひょっとして、小さい方が好きとか」  
「お前のならなんでも好きだ」  
「……」  
 話している間も雪成の手は止まらない。  
 左手も同じように動く。両胸を同時に揉まれて、亜季は恥ずかしくなった。  
「ゆ、雪成くん……」  
「服、脱がすぞ」  
 両手が胸から少し離れる。ブラウスのボタンが上から順に外されていき、その下のシャツも  
捲り上げられた。抵抗する間もなく、胸を包む下着も上にずらされる。  
 亜季は反射的に胸を右腕で隠した。  
「見えないぞ」  
 不満げに呟かれる。  
「ごめんね。いざとなると……ちょっと恥ずかしい」  
「さっきも言ったけど、今さらやめないからな」  
「……うん」  
 右腕をおそるおそる下にどける。  
 乳房が露になると、雪成の息を呑む音が聞こえた。  
「……どう、かな」  
「……」  
 雪成は答えない。呆けたようにただ亜季の胸を凝視している。  
「いいよ、……触って」  
 亜季は心持ち胸を張る。あまりボリュームに自信はないが、雪成が好きと言ってくれるなら  
もう気にしない。  
 左胸に、次いで右胸に大きな手が降りる。未成熟な果実をもぎ取るかのように、指が膨らみを  
しっかりと包み込んだ。  
 始めは慎重に。次第にやわやわと大胆に揉まれる。特に気持ちいいわけではないが、なんだか  
不思議な気持ちになる。恥ずかしいのもあるが、それ以上に『しょうがないな』という気になる。  
「あ……」  
 乳首を指先で撫でられる。少しくすぐったい。  
「ん……んっ」  
 こりこりと摘まれたり、押し潰されたりする。くすぐったさに自然と声が洩れた。  
(ちょっと気持ちいいかも……)  
 初めての感覚に亜季は戸惑った。  
 雪成の顔が降りてくる。胸に、その先っぽに、  
「ひうっ」  
 左胸を舌でなぞり上げられた。下から真ん中にかけて、唾液を染み込ませるように舌が伝い、  
登頂部で止まる。  
 生温かい感触が先端を刺激して、亜季は思わず体を震わせた。  
 雪成の手は休むことなく両胸を揉んでいる。少しずつ力が入っていくのが亜季にはわかる。  
決して乱暴な手つきにはならないが、それでも揉むというより揉みしだくといった方が正しい  
くらいには強い。  
(雪成くん、本当に私を求めてる)  
 緊張、不安、困惑、羞恥、そんなマイナス感情は確かにあるが、求められていると思うと  
少しも苦にならなかった。  
 右胸から左胸に口が移動する。同時にくすぐったさも左に移る。  
「あ……んん……」  
 普段なら出ない妙な声が、亜季の口から吐息と共に洩れた。  
 それは雪成も同じのようで、荒い息が乳房に強く当たる。  
 互いに気が昂っている。亜季にはそれがいいのか悪いのか見当がつかない。  
 
 ただ、  
「うわっ」  
 雪成が慌てた声を上げた。  
 亜季が雪成の頭をおもいきり抱き締めたのだ。  
「お、おい、亜季」  
「ごめん、でも私っ」  
 昂ったまま亜季は力を緩めない。  
 愛しい気持ちが止まらない。胸の奥からせり上がってくる想いに、亜季は逆らえない。  
「……怖いのか?」  
 雪成が心配そうに尋ねてくる。  
「違うの、よくわからなくて……」  
 怖くはない。むしろ、  
「たぶん……ううん、きっと、嬉しいの。求められて、愛されて、あなたのものになれることが  
とても嬉しくて、こうやって抱き締められるくらい近くにいることも嬉しい」  
「……俺もだよ」  
 雪成は亜季の腕を引き離した。  
「でも少しだけ間違ってる」  
「え?」  
 雪成は頭を上げ、真っ直ぐな目で亜季を見つめめきた。  
「お前が俺のものになるだけじゃない。俺も、お前のものになるんだ」  
「…………うん」  
 亜季は雪成の頬を両手で挟むと、そっと口付けた。雪成もそれに応え、二人は静かに目を閉じた。  
 浅く添える程度の、しかし互いを支え合うような和らかいキス。  
 十秒間の繋がりの後、二人は唇を離した。  
「あっ」  
 亜季の首筋に雪成が舌を這わせた。  
「ん、急に何するの」  
「おいしそうだったから」  
「ムード考えてよ」  
「お前のことだけ考える」  
「……もう」  
 頚動脈から喉辺りを強く吸われる。痕が残らないかちょっと心配になるが、今度は耳を甘噛み  
されてすぐに余裕はなくなった。  
「ひゃあ!」  
 スカートが捲られた。右手が太股を大胆に撫で回してくる。  
「やっ、ああ」  
 内腿から尻にかけて揉むように触られる。遠慮のない手つきについ声が出る。  
 指が下着の端にかかった。  
「っ、」  
 するすると脱がされていく。着ているものを剥がされていく度に、どこか心許ない気持ちに  
なって、亜季は再び体を強張らせた。  
 膝辺りまで下着が下ろされ、下半身が部屋の空気にさらされた。  
 そして、  
「──んっ!」  
 脚の間、一番大事な部分に右手が触れる。指で縦になぞられて、亜季は目をつぶる。  
「ちょっと濡れてるな」  
 不意に耳元で囁かれて、瞬間的に頭が沸騰した。  
「バ、バカぁ!」  
「おっと、暴れるなよ?」  
 軽く頬に口付けされる。それからまた指が動いた。  
 割れ目を優しく撫でられる。他人に許したことのない部位を預けるのはかなり緊張するが、  
同時に襲う快感がそれを上回る。  
 くちゅ、と微かに水音がした。  
(は、恥ずかしい……)  
 羞恥と快感が入り混じる中、雪成の指は止まらない。  
 ゆっくり慣らすようになぞられる。次第に湿り気が増していくのを自覚する。  
 
 やがて、指が膣の中に侵入した。  
「ああっ!」  
 亜季の叫びに雪成は眉をしかめる。  
「ひょっとして、自分でいじったことないのか?」  
「え? な、い、いじるって」  
「ないのか。道理で妙に狭いと思った」  
 苦笑いする彼氏に、亜季はばつの悪い顔をする。  
「やりにくい?」  
「なんだそりゃ」  
「だって、慣れてる方が楽なんじゃないの?」  
「さあ」  
 雪成はそっけなく返す。  
「はっきり言ってよ」  
「知るかよ。お前以外の女なんて知らないんだから、やりにくいも何もあるか」  
 亜季は目を丸くした。  
「……雪成くんも初めてなの?」  
「……悪かったな」  
「だ、だって、さっきからあんなに気持ちよくしてくれるからてっきり……あ」  
 失言だった。  
 雪成が嬉しそうに笑う。  
「そっか、気持ちよかったのか」  
「や、その、」  
「これからもっと気持ちよくしてやる」  
 赤面する亜季の耳に口付けると、雪成は右手をゆっくり動かした。  
 人差し指が膣内をほぐしていく。入り口から徐々に奥へと潜り込んでいき、内側から肉を  
外へと拡げていく。  
「ああ……やぁ……」  
 亜季は新たな感覚に体を震わせた。  
 大事な人に大事なところをいじられている。その事実だけでもたまらないのに、性的な快感が  
強烈に脳を揺さぶってくる。  
「あんっ、あっ、ああっ、」  
 声を抑えることもできない。陰部への刺激に亜季は理性を保てなくなりそうだった。  
 雪成は亜季の様子を伺いながら、今度は中指も一緒に入れてきた。  
 二本の指は案外すんなりと入った。濡れすぼった秘壺をぐちゅ、ぐちゅ、とかき回されて、  
亜季はたまらず叫声を上げた。  
「ふぁあっ! あんっ、ゆきなりくん、そんな……ああっ!」  
「そんなに喘ぐなよ。抑え利かなくなるだろ」  
「そんなこといわれても……はぁんっ」  
 亜季は頭を振って堪えようとするが、雪成の容赦ない攻めの前に陥落寸前だった。  
 中指の腹が膣内の側面を小刻みに擦り上げてくる。亜季は幼馴染みの指の感触に絶頂を迎えて  
しまいそうになる。  
 しかし、その寸前で雪成の指が引き抜かれた。  
「んんっ……え?」  
 突如引いていく波に亜季は戸惑いを隠せない。  
 雪成は体をゆっくりと起こした。二人の間に空間ができる。  
 数十センチの距離を隔てて、亜季の視界には雪成の上体がはっきりと映っている。  
 亜季は消え去った快感に不満の目を向けようとした。しかし雪成がずいぶんと真剣な目を  
していたので、途中でやめる。  
 いや真剣と言うより、なんだか余裕がないような──  
「もう入れたい。いいか?」  
 声がどこか焦っているように聞こえる。  
 
 亜季は頷きかけて──首を振った。  
「……その前に、雪成くんも服脱いで」  
 雪成はきょとんとなる。  
「……そういえばまだ着たままだったな」  
 素で忘れていたようで、亜季は呆れのため息をつく。それだけ没頭していたということか。  
「ちょっと待っててくれ」  
 雪成は急いで服を脱いでいく。長袖シャツを捲り上げると、筋肉質な体が姿を現した。  
 次いでジーンズも脱ぎ捨てる。ベルトの金属音がカチャカチャと、焦るように鳴り響く。  
 雪成が目の前で服を脱ぐなんて小学生のとき以来である。なんだか懐かしいと同時にこそばゆい  
嬉しさを亜季は覚えた。  
 何でもないことなのかもしれないけど、改めてちゃんと近くにいるんだ、という気がした。  
 トランクス一枚になった幼馴染みを、亜季はぼんやり見つめる。  
「な、なんだよ」  
 雪成の狼狽する様子がなんだかおかしい。  
「だって……」  
 亜季の目は正面にあるものをしっかり捉えている。雪成の下腹部、トランクスの真ん中の  
膨らみをじっと注視している。  
「あんまり見つめるなよ」  
「雪成くんだってジロジロ見たじゃない」  
「……」  
 急に恥ずかしくなったのか、雪成はトランクスを脱ぐのを躊躇した。  
 亜季は目の前の膨らみに腕を伸ばす。  
「あ、亜季!?」  
 無視してトランクスをずり下ろす。途中、逞しい突起物に引っ掛かるが、硬直したそれを  
うまく外して、亜季は下着を膝下まで脱がした。  
 ついにというべきか、現れた男根は亜季の想像以上に大きかった。自分の指よりもずっと長く、太い。  
 亜季の視線に照れたのか、雪成は顔をしかめた。  
「……」  
 亜季は沈黙。  
「……何か言えよ」  
「……へ? あ、う、うん」  
「気持ち悪いか?」  
「そんなことないよ。ただ……」  
「ただ?」  
「……これが私の中に入るんだなって思うと、なんか不思議な感じで」  
「……不思議って」  
 亜季は照れを隠すようにはにかんだ。  
「今から私たち、その、……えっち、するんだよね?」  
「……ああ」  
 亜季は小さく深呼吸をすると、姿勢を正して改めて雪成に向き直った。  
「優しくしてとは言わない。雪成くんのしたいようにして下さい」  
 柔らかく亜季は微笑む。  
 雪成は微かに眉を寄せた。  
「それは、俺のためか?」  
「私のためだよ。私の『頼み事』」  
「……わかった。じゃあ俺は俺のために、お前をできるだけ優しく抱く」  
 亜季は笑みを深めた。  
「ホント、ひねくれてるね」  
「うるさいな」  
「ううん、それが雪成くんだもの。私が知ってる、優しいひねくれものさん」  
 そういう人を好きになったのだ。素直じゃないけど、誰よりも亜季を大切に想ってくれる  
優しい幼馴染みを。  
 抱くぞ、と囁かれ、亜季は仰向けに倒れ込んだ。  
 枕元のベッドの引き出しから、雪成はコンドームの箱を取り出す。一つだけ中身を抜き取ると、  
袋を破って自身の逸物に装着した。  
 その間に亜季は、最後に残ったスカートを脱ぐ。紺色の布地から脚を抜き、ベッドの下に落とす。  
 
 そして、準備を終えた二人は互いに見つめ合った。  
「じゃあ行くぞ」  
「ん……来て」  
 雪成が慎重に腰を沈めてくる。亜季はどくんどくんと激しく鳴る胸の鼓動に、心臓が壊れるん  
じゃないかと思った。  
 秘部に、彼の逸物が触れた。  
「んっ」  
 体が固まる。反射的に身を縮めようとする。  
 何かが侵入してくる。指よりもずっと大きな異物が、亜季の中に、  
「あっ!」  
 ずん、と一気に塊が入ってきた。膣口もそうだが、中にひどく響いた。  
「いっ、あっ……くうっ」  
 体を裂かれるような感覚と言おうか。割れ目から奥までを、無理に広げられている。  
 亜季は声を上げない。  
 特別我慢する気はなかった。それでも声を抑えたのは、雪成の性格をわかっているからだ。  
苦痛の色を濃く見せれば、彼は行為をやめてしまうかもしれない。それだけは絶対に嫌だった。  
 ちゃんと、最後まで、  
「手……」  
 亜季はか細い声で言った。怪訝な顔をする雪成に、今度は幾分はっきりと、  
「手、握って……」  
 雪成は頷き、指を絡めるように亜季の手を握った。  
 確かな感触が届き、亜季はほう、と息をついた。雪成の手はごつごつと固く、亜季のそれよりも  
一回り大きい。  
 雪成が心配そうな顔でこちらを見つめている。  
「まだ……全部、入ってない、よね」  
 荒い呼吸を続けながら、亜季は途切れ途切れに言った。  
「ああ。半分くらいかな」  
「ん。じゃあ、一気に……入れて、いいよ」  
「……それで大丈夫なのか? ゆっくり入れた方が、」  
「あんまり、長くやられると……そっちの方が、多分きつそう、だから」  
「…………わかった。できるだけ早く終わらせる」  
 亜季は微笑みと共に頷く。  
 緩やかな腰の動きに合わせて、再び鈍痛が下腹部に響いた。  
 互いに呼吸を落ち着かせる。亜季は数回の呼吸を重ねてから、ぐっ、と歯を食い縛った。  
 その瞬間、一息に奥まで貫かれた。  
「うああぁっ!」  
 あまり女の子らしくない悲鳴を上げ、亜季は思わず固まった。  
 奥がズキズキと痛い。大きなナイフで貫かれたような、未体験の痛みが亜季を襲う。  
 息が止まりそうになる中、必死に呼吸を重ねて、亜季は痛みに耐える。  
「全部入ったぞ」  
「……ん」  
 うまく言葉を出せず、亜季は短く答えた。  
「痛いか?」  
「……ん。……雪成くんは?」  
「きつい」  
 一言で返される。亜季は不安になった。気持ちよくないのだろうか。  
 しかし雪成はすぐに付け加える。  
「きつくて、締め付けがすごい。予想以上に気持ちいいな」  
「……よかった」  
 涙が滲む目を細めて、亜季は笑顔を浮かべた。  
 依然として痛みはある。しかし亜季は満たされる思いだった。  
 痛みと共に雪成を直接感じられる。それが愛しさを増大させて、とても嬉しくなる。  
 
 雪成はしばらく動かなかった。  
「……動かないの?」  
 少し痛みに慣れてきた亜季は、ふと訊いてみた。  
 それに対して雪成は答えなかった。言葉では。  
「きゃうっ」  
 不意に乳首を摘まれて、亜季は叫声を上げた。  
「な、何するの?」  
「お前にも気持ちよくなってもらいたい」  
「え……別にいいよ」  
「俺が嫌なんだよ。少しは俺にも頑張らせろ」  
 雪成は言うと、左手で乳首をいじり回した。  
 さらに右手を下に持っていき、亜季の陰部の上端を軽く擦った。  
「あんっ!」  
 男性に比べたら遥かに小さい、しかし敏感な突起物を触られて、亜季は声を上げる。  
 雪成は腰を動かさず、しばらく愛撫に専念した。  
「や、あん……ひゃう、ううんっ……ああっ」  
 小さな胸を撫でるように揉まれる。陰核をこねるようにいじられる。挿入前の愛撫と同様の  
快感が亜季の全身を駆け巡り、亜季は激しく身悶えした。  
「ふあ、あぁん! やんっ、やんっ、やぁ、あん、ああっ、あんっ!」  
 声が際限なく洩れる。部屋中に響く淫声に混じって、ベッドが軋み始めた。  
「あっ……うごいて」  
 雪成の腰が少しずつ動く。ゆっくりと腰を引くと、逸物に引っ張られるように膣の中の襞が  
激しく擦れた。  
 亀頭のえらの縁が肉襞に引っ掛かり、亜季は悶絶する。  
 再び男根が奥まで入ってくる。少し前まで未開だった内部を、亀頭の先端で容赦なく蹂躙される。  
「んん────っ!」  
 緩慢に繰り返される往復に、亜季は悲鳴を上げた。  
 痛い。確かに痛いのだが、しかし何か違う感覚が痛みの中に混じっている。  
 亜季はその感覚の正体が掴めず、軽く困惑した。  
(わけわかんないよぉ……)  
 今日一日初めての体験の連続で、亜季の頭は許容量を越えそうだ。  
 そんな中もたらされた新たな感覚は、妙に意識を蕩けさせるようで、亜季はひどく陶酔した。  
「気持ちいいのか?」  
 その言葉に亜季はようやく自覚する。  
(そっか……私、感じてるんだ)  
 気持ちいい。痛みはまだ強く残っているが、その感覚は小さいながらも明確に存在していた。  
 亜季は小さく頷く。  
「うん……私、気持ちいい」  
 雪成はよかった、と安心の笑みを浮かべた。  
「なら、もうちょっと激しく動くぞ」  
 腰の動きが速くなる。性器同士の摩擦が一段と激しさを増す。  
 亜季は痛みに耐えながら、入り混じる快楽に身を委ねた。  
「あぁっ! んん、あっ、あっ、あっ、やんっ、んっ、やぁんっ!」  
「ふっ、くうっ」  
 雪成の声も微かに響く。亜季の耳に届くそれは、懸命に何かに耐えているようだった。  
「悪い、亜季っ。俺もう限界だ」  
「あっ……うん、いいよ。あっ、気持ちよく、んっ……なって」  
 亜季は雪成の首に両手を回して、強く抱き締めた。  
 雪成の腰がさらに速さを増した。膣から漏れ出る愛液が、互いの陰毛を濡らして妖しく輝く。  
 二人の腰が激しくぶつかる。ベッドは壊れそうな程に軋み、スプリングが大きく跳ねる。  
 亜季はしばらく後に到るであろう幼馴染みの絶頂を、拡散しそうな意識の中でひたすらに待った。  
 
 そして、  
「あっ、やっ、やああぁ────っ!」  
「ううっ」  
 雪成は微かに呻くと、腰の動きを一気に落とした。  
 膣内で暴れていた男根が、小さな震えと共におとなしくなる。  
 亜季は甲高い声を収めると、直後に襲ってきた倦怠感に大きく息を吐いた。  
「亜季……」  
 雪成の力ない声が耳を打つ。  
 亜季はろくに返事もできなかったが、なんとか雪成の顔を引き寄せる。  
「雪成くん……」  
 どちらからともなく、二人は唇を重ねた。  
 幼馴染みの温もりを感じながら、このままずっと抱き締めていたいな、と亜季は思った。  
 
      ◇   ◇   ◇  
 
 亜季が目を覚ましたのは夕方頃だった。  
 外は依然として雨が降っている。静かな雨音が、疲れた体に染み込むような気がした。  
 隣には幼馴染みの寝顔がある。  
 穏やかな寝息を立てながら、雪成は眠っている。  
 寝顔を見ながら、亜季は小さく息をついた。  
 下腹部にはまだ鈍痛が残っている。  
 しちゃったんだ、と改めて亜季は行為を振り返った。  
 ちゃんと最後までできた。めちゃくちゃ痛かったが、気持ちよくもあった。最後の方は軽く  
達してしまった。  
「……」  
 嬉しさのあまり、笑いが込み上げてくる。にやけるのを止められない。  
 さらに嬉しいことに、これはまだ最初の一回目だということだ。これから何度もこういうことが  
できるのだ。信じられないくらい嬉しい。  
 痛みさえなければ、今すぐにでもまたしたいと思う。  
(ああ……)  
 自然とそう考えていることに、亜季は驚いた。同時にそれを嬉しく思った。  
 最初は雪成の本当の彼女になるためにという意識が強くあった。それは、雪成のものにして  
ほしいという面が大きかったためだ。  
 しかし今は少し違う。雪成を自分のものにしたいと強く思っている。  
 雪成は言った。亜季は雪成のものになるのだと。そして、雪成は亜季のものになるのだと。  
 自分達にはそのスタンスが一番合っていると思う。  
 ずっと長い間、並んで歩いてきた幼馴染みなのだから。  
(ならあと一つ、直さなきゃいけないことがあるかな)  
 一つだけ、ずっとやりたかったことがあるのだ。亜季は心の中でそのイメージを描く。  
 しばらくして、雪成が微かに身じろぎをした。  
 亜季はそれを見て身構える。  
 やがて亜季は、ぼんやりと目を覚ました幼馴染みに向かって、穏やかに微笑んで言った。  
 
「おはよう、『雪成』」  
 

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