『断らない彼女』  
 
 
 
 それは、二人が知り合って間もない頃のことである。  
「ゆきなりくん、3がつうまれなの?」  
 小さな女の子は驚いたように言った。  
 男の子はおもしろくなさそうに頷く。  
「……そうだけど」  
「じゃあわたしのほうがおねえさんだね。わたしは4がつ」  
「そ、それくらいでいばるなよ!」  
 女の子は目を丸くした。  
「いばらないよ。そうじゃなくて、わたしがおねえさんになってあげようとおもって」  
「……え?」  
 女の子はにっこり笑う。  
「ゆきなりくんもわたしもきょーだいいないでしょ? だからわたしがおねえさんになるよ」  
 男の子は困惑した顔で呟く。  
「……ぼくにおねえちゃんなんていないよ」  
「だーかーらー、わたしがかわりにおねえさんするから」  
「そんなのいらない!」  
「わたしはおとうとほしいよ? なんでもきいてあげるから、なんでもいって」  
「いわない!」  
 
 
 
 放課後の教室で、自分の椅子に腰掛けながら、高橋雪成(たかはしゆきなり)は昔のことを  
思い出していた。  
 唐突ではない。同じクラスの女子生徒をぼんやり眺めていたら自然に思い出したのだ。  
 雪成の視線の先には、帰る準備をする幼馴染みの見慣れた姿。  
 彼女──田中亜季(たなかあき)は雪成と同じ高校一年生である。  
 4月生まれのため、クラスの誰よりも年上だ。  
 百五十センチに満たない身長に、背中まで届く長い黒髪。ぱっと見の特徴はその二つ。  
 成績は優秀。運動はあまり得意ではない。友達はそれなりにいるが、騒がしいのは苦手。  
 そして、  
「田中さん、今日掃除当番代わってくれない?」  
「うん、いいよ」  
 人からの頼み事を断らない。  
 基本的には好ましい点だろう。しかし周りにすればそれは『便利な人』でしかないのでは  
ないだろうか。  
 雪成はそれを忌々しく思う。  
 亜季のその性質は周りのみんなにとって都合のいいものだ。宿題を見せてもらったり、  
当番を代わってもらったり、多くの人間が亜季を利用する。  
 みんながみんな悪気を持っているわけではないのだろう。しかし、  
「ホント? ありがとう田中さん! 今度何かおごるよ」  
「いいよ別に」  
 クラスメイトは嫌いではないが、それでも今のようなやり取りを見ると嫌気が差すのだ。  
 
 亜季に片目をつぶって礼を言うと、女子生徒は小走りに教室を出ていった。  
「亜季」  
 雪成は席を立つと、机を引く亜季に声をかけた。  
「雪成くんまだ帰らないの?」  
 幼馴染みは柔らかく微笑む。  
「掃除、手伝うよ」  
「いいよいいよ。雪成くん当番じゃないし」  
「お前だってそうだろうが」  
 亜季は目を丸くした。  
「少しは断れよ。いつも言ってるけどさ」  
「でも、別に私嫌じゃないし」  
「甘やかすなって言ってるんだよ。みんなどこかでお前を便利屋扱いしてるぞ」  
 亜季は答えず、箒で床を掃き始める。  
 雪成も箒を持ってそれに続く。  
「他の奴らはどうしたんだよ」  
「さあ、わかんない」  
「サボりか」  
「用事があるんだよ、きっと」  
 亜季は肩をすくめて笑う。  
「そんなわけ、」  
「ごめん、遅れちゃった!」  
 雪成の声を遮るようにドアが開き、一人の女生徒が現れた。  
 クラスメイトの百合原依子(ゆりはらよりこ)だった。依子は少し息を切らして教室に  
入ってくる。走ってきたらしい。特徴的なポニーテールが小さく揺れている。  
「ごめんごめん。宿題持っていったら先生いなくて、見つけるのに手間取っちゃった。  
……あれ、二人だけ?」  
「依子ちゃん含めて三人だよ」  
 彼女は苗字で呼ばれるのを嫌うため、周囲に名前で呼ぶよう言っている。  
 亜季が言うと、依子は頬を小さく掻いた。  
「しょうがないなあ。ていうか亜季ちゃんもユキナリくんも当番じゃないし。みんなサボり?」  
 当番は四人制である。  
「知らね。小川はさっき亜季に押し付けていったけど、他はどっか消えたな」  
「そういう言い方しちゃだめだよ」  
 亜季が人差し指を立ててたしなめた。  
「押し付けられたのは事実だろうが」  
「私は別に嫌じゃないもん。それに小川さんちは母子家庭だからいろいろ大変なんだよ」  
 ちゃんと相手にも理由があるの、と亜季は言う。  
 しかし理由をつけられること自体が雪成は気に入らない。反論できないからだ。  
「じゃあ他の奴らは? 百合原だけ、」じろりと睨まれた。「……依子だけだぞ来てるの」  
「掃除くらいでそんなに怒らなくてもいいじゃない」  
「……俺はお前が、」  
「はいはいストップストップ」  
 雪成が言い募ろうとした瞬間、依子がそれを遮った。  
「口論は後でね。早く掃除終わらせようよ」  
 雪成は黙って依子を見返す。  
 さっきの目はどこへやら、ニコニコと毒気のない笑顔に何も言えず、ため息と共に掃除を  
再開した。  
 箒で集めたチリをチリ取りで取ると、机を今度は教室の前側に寄せる。教室の後ろ側の  
チリを掃き集め、同じようにチリ取りで取ってごみ箱に入れた。  
「ごみ捨ててくる」  
 雪成はごみ箱を持って教室を出ようとする。  
「早く戻ってこないと亜季ちゃん先に帰っちゃうかもよー」  
 依子がからかうように言った。  
「大丈夫、ちゃんと待ってるから」  
「……」  
 亜季の笑顔に雪成は小さく肩をすくめると、灰色のごみ箱を抱えてごみ捨て場に向かった。  
 
      ◇   ◇   ◇  
 
 幼馴染みなんてろくなものじゃない。  
 雪成は最近強くそう思う。  
 家族のように近い距離にいることが当たり前で、それがたまに鬱陶しい。  
 互いの生活リズムは丸わかりだし、何かあったらどうしても気にかけてしまうし、長い  
付き合いの分遠慮がなくなるし、そのくせ歳を取るにつれて昔の気安さをそのまま持ち込む  
ことに若干の抵抗を感じるし。  
 ましてや、異性の幼馴染みなんて。  
(意識するなって方が無理だろ)  
 朱に染まった夕暮れの帰り道を、二人は並んで歩く。  
 亜季の狭い歩幅に合わせながら、雪成は隣の幼馴染みのことを思う。  
 小さい体だ。この体によくもまあクラスの連中はいろいろなことを押し付けられるものだ。  
 亜季は決して弱い人間ではない。だからそんなことで潰れたりはしないだろう。  
 しかし、やはり側にいる者としては不安なのだ。  
 頼みごとを断らないというのは、美点であり欠点だ。  
 人が好すぎるために、それが亜季を苦しめないかと心配になるのだ。  
 当の本人はそんな雪成の気持ちをわかっているのだろうか。  
「どうしたの? ぼんやりこっち見て」  
 亜季が雪成の顔を覗き込んできた。身長差が三十センチ近くあるため、見上げる形になる。  
「なんでもない。晩飯のこと考えてた」  
「うちは今日スキヤキだよ。いいお肉がお母さんの実家から届いたの。よかったら来ない?」  
「いいよ。母さんが作ってくれてるはずだから」  
 雪成の家は共働きだ。両親共に遅くなることも多いので、そういうときは母親が前もって  
用意してくれている。  
「そっか、残念。久しぶりに雪成くんと一緒に晩御飯食べられると思ったのに」  
「……」  
 気安い、と雪成は思う。  
 亜季はこちらをそれほど意識していないように見える。だからこそ彼女はいつまでも  
幼馴染みとして変わらない。  
 雪成が好きな幼馴染みとして。  
 それはとても嬉しいことだが、同時に寂しかった。  
 こちらだけが意識して、ときに鬱陶しささえ覚えるのは寂しかった。  
「……えっとね、大丈夫だよ」  
 不意に亜季が言った。  
「何が」  
「心配してくれてるのはわかるの。でもね、雪成くんが思うほど、私弱くないよ」  
「……知ってるけど」  
「だからね、私は好きで頼まれごとを受けてるわけだし、大丈夫だよ。安心して」  
 亜季は雪成を元気づけるように、にっこりと笑った。  
 そんなことはわかっている。  
 雪成は別にそこを心配しているわけじゃない。  
 雪成が心配しているのは、亜季の強さや弱さではなく、相手の悪意や好意の方だった。  
 亜季は人をいい者と信じているし、他人を信用しすぎている。  
 クラスメイト相手と言えども、それは危ういと思うのだ。悪意なら避けることもできるし  
断ることもできる。しかし好意だったら、亜季はそれを拒絶できるだろうか。  
 人の好意が必ずしも誰かのためになるとは限らないのに。  
「……お前、なんか連帯保証人とかにさせられそうだけどな」  
 わりと本気で思ったことを口にすると、亜季はむくれた。  
「ひどい! 私は真面目な話をしたのに、どうしてそんな茶化すようなこと言うの?」  
「いや、結構本気で言ったんだが」  
「なお悪い!」  
 頬を膨らませて怒る姿はどこかかわいい。  
 こういう姿を見せるのは雪成の前だけだろう。それはちょっと嬉しかった。  
「嫌い、雪成くんなんて」  
 そっぽを向く幼馴染みに、雪成は苦笑した。  
 
      ◇   ◇   ◇  
 
 ある日のこと。  
 亜季の様子がおかしかった。  
 普段と違い、どうにも落ち着きがない。教室で席に座りながら、友人との会話にもあまり  
身が入っていなかった。  
 雪成は怪訝に思い、昼休みに直接尋ねてみた。  
 返ってきた答えは「なんでもない」だった。  
 もちろん納得などしない。  
「いや、なんでもないことないだろ。今日のお前、なんか気が入ってないし」  
「そ、そんなことないよ?」  
「授業中に二度注意されて、休み時間も上の空で、移動教室間違えて授業に遅れた人間が  
何言ってんだ」  
「ううー……」  
 亜季は小さく唸ると、ちらりと雪成の顔を見やった。  
 何か迷っているような表情で、すぐに顔を伏せる。  
「言いたいことがあるならはっきり言えよ?」  
「うん……」  
 口を開きかけて、しかし閉じる。そんなことを二度三度亜季は繰り返したが、なかなか  
思い切れないのか言葉が出てこない。  
 雪成はせかさなかった。ただじっと、話し出すのを待った。  
 やがて意を決したのか、亜季が口を開いた。  
「えっと、ここじゃ人も多いから、別の所行こ?」  
「いいけど、聞かれたくないことか?」  
「できれば」  
 亜季は席を立ち、廊下に出ようとする。  
 後についていくと、亜季はそのまま階段に向かって進んでいく。  
 階段を上がっていく幼馴染みに雪成は首を傾げた。上の階は二、三年の教室が集まる所で、  
その先の階段は屋上に繋がっているが、学校側が開放していないので外には出られないはずだ。  
 しかし亜季は迷いなく階段を上っていく。仕方なく雪成もそれを追っていく。  
 屋上に通じる扉の前で亜季は立ち止まり、くるりと振り返った。  
「あ、あのね」  
「お、おう」  
 相手の緊張が伝わってきて、なぜか雪成まで固くなってしまう。  
 亜季はゆっくり息を吸い込むと、小さな声で言った。  
「放課後にね、呼び出されてるの」  
「……は?」  
 予想外の言葉にきょとんとした。  
「……番長グループとかそういうやつ?」  
「いつの時代の話? そうじゃなくて、えっと、男の人と待ち合わせの約束をしてるというか……」  
「!?」  
 心臓が一際強く跳ねた。嫌な予感が。  
「だ、誰? 相手は」  
「二年の三原先輩。図書委員やってて、私よく図書館行くからそこで知り合って……」  
「……待ち合わせって、何の用だよ」  
「あ、デートとかじゃないよ?」  
「なら何だよ?」  
「……」  
 言い淀む亜季の様子に、なんとなく想像が間違ってないことを悟る。  
 
 雪成は胸が急速に締め付けられる思いに駆られたが、平静を装って尋ねた。  
「で、どうするんだ?」  
「どうって……わからないよ。いい人だし……」  
 息が詰まる。もしOKするなんて言われたら、どうすればいいのだろう。  
 すると亜季がじっと見つめてきた。  
「……何」  
「……」  
 亜季は何も言わない。  
 しかしどこか探るような目に、雪成はたじろぐ。  
「な、なんだよ。言いたいことがあるなら、」  
「言いたいことがあるのは雪成くんの方だと思う」  
「……え?」  
 ドキッとした。  
 何かを期待するような亜季の目が、下から突き刺さる。  
「私が断らないのを知ってるのに、それでも雪成くんからは言ってくれないんだね」  
 断らないとは誰に対してだろう。  
「これじゃ役割があべこべだね。何かを言うのはいつも雪成くんの役目なのに」  
「……」  
 雪成は固まって答えられない。  
「言わないなら私から言うね。私は、」  
「待てよ!」  
 咄嗟に大声を上げて言葉を遮った。  
「……俺のこと全部わかってるような口ぶりはやめろ」  
「……ごめん」  
「言いたいことはある。でもそんな簡単に言えるなら苦労はしないだろ」  
 亜季がくすりと笑う。  
「私だって一緒だよ。だから今迷ってる」  
「迷ってるのか?」  
 何に、とは訊かない。放課後の件であることはわかりきっている。  
「うん。とても、迷ってる。だから雪成くんに打ち明けたんだよ?」  
「俺が断れって言ったら断るのか?」  
「違う。そういうことじゃなくて、踏ん切りつけさせてくれるかな、って期待してたから」  
「……」  
「でもいいの。もうわかったから」  
「え?」  
「雪成くんに話してよかった。ちゃんと勇気もらったから」  
「はあ?」  
 まったくわけがわからなかった。今のやり取りのどこにそんな要素があったのだろう。  
「じゃあ、先行くね」  
「あ、おい!」  
 雪成の横をすり抜けて、亜季は階段を駆け下りていく。  
 相手のいなくなった空間で、雪成は歯噛みした。  
 言いたいことがあるならはっきり言うべきだったのに。  
 
      ◇   ◇   ◇  
 
 放課後。  
 急いで教室を出ていく亜季を窓際の席から見つめていると、後ろから声がかけられた。  
「ユキナリくん」  
 振り返ると依子がニコニコと笑顔を浮かべていた。  
「なんだよ」  
「つれない反応だなあ。おねーさんもっと素直な子が好きですよ?」  
「同い年だろうが」  
「早生まれのくせに」  
 なんで知ってるんだ。  
「亜季ちゃんに聞いたの。三月生まれだから私の方がおねえさん、だって」  
「……」  
 雪成は閉口した。昔から言われているそれは、雪成の気に入らないネタの一つだ。  
「……何の用だよ」  
「いやいや、今日は亜季ちゃんと帰らないの?」  
「今日も、だ。いつも一緒に帰ってるわけじゃない」  
「そうなの? 仲良いのに」  
「幼馴染みだからな」  
 言いながら、自分で嫌な返しだ、と思った。  
 幼馴染みというだけで仲良くしているわけじゃない。少なくとも雪成はそうだ。  
 好きだから近くにいるのだ。  
 すると依子は小さく首を傾げた。  
「とっても綺麗な縁で繋がってるのになあ……」  
 意味のわからないことを言う。  
「は?」  
「ああ、いやなんでもない。こっちの話。うーん……でもなあ」  
「なんなんだよ」  
「ユキナリくんは亜季ちゃんのこと好きなんでしょ?」  
 いきなりずばりと言われて、雪成は息が詰まった。  
 赤くはならなかったと思うが、すぐには答えられなかった。  
「告白はしたの?」  
「──待てよ、なんで俺があいつを好きってこと前提で話進めてんだよ!?」  
「声大きいなー」  
 はっと気付いた時にはもう遅かった。  
 教室に残っていた結構な数のクラスメイト達が、興味深々の目を向けてきていた。  
 さすがに顔が熱くなった。恥ずかしさに頭を抱えたくなる。  
 依子はそんな雪成の肩を軽く叩くと、小さく囁いた。  
「ここだと色々面倒だから、出よっか。一緒に帰ろ?」  
 雪成はじろりと相手を睨み、しかし何も言い返せずに力なく頷いた。  
 
「えっ? じゃあ亜季ちゃんは今先輩の告白を受けてるの?」  
 下駄箱でスニーカーに履き替えながら、依子が驚いたように言った。  
「それってユキナリくんにはおもしろくないよね」  
「……何でだよ」  
「もう。自分の気持ちには素直になった方がいいよ。好きなんでしょ?」  
「……」  
 ストレートな物言いは反論を許さない程に強烈だった。  
 気に入らない。清々しいくらいに気に入らない。  
「ずかずか人の心に入り込んできて楽しいか? 俺は不愉快だ」  
「……ごめん」  
 素直に謝られた。  
 まるでこちらが悪いように思えてきて、雪成は舌打ちした。  
「……好きだよ、あいつのことは」  
 苦々しい口調で、しかし素直に雪成は己の気持ちを吐露した。  
「小さい頃から一緒で、あいつのことはなんでも知ってる」  
 靴を履き替えながら独り言のように続ける。  
「きっと嫌われてはいない。むしろ向こうだって、自惚れじゃなく俺のことを好いてくれて  
いると思う」  
「うん」  
「けど……近すぎるんだよ、やっぱり。この距離に、幼馴染みの距離に慣れてるし、今の  
関係も嫌いじゃない。それを壊すのって、怖くないか?」  
「うーん」  
 依子はあまり納得できないようである。  
 外に出ると夕方ながら、残暑の太陽が厳しく体を照り付けてきた。  
「例えばさ」  
 右手で体をぱたぱたと扇ぎながら、依子が呟いた。  
「例えば、テストの解答用紙がある人の目の前にあるとするよ?」  
「何の話だ?」  
「例え話だよ。答えも検討がついているのにその人は答えを書かない。それは間違えたら  
どうしよう、って臆病な気持ちが決断を妨げているせい」  
「……」  
「でも書かなければ、そのまま制限時間を過ぎれば、どのみち不正解で終わってしまう。  
だから追い詰められたら人は駄目元で答えを書くの」  
「……」  
 いまいち何が言いたいのかわからない。  
「でも、それは制限時間があるから決断するわけで、それがなければその人は答えをいつまでも  
書けないと思うの」  
「……」  
「で、今のユキナリくんはそういうものに追い立てられていない。物書きさんだって〆切  
設けられなかったらいくらでも怠けると思う。『まだ時間はある』ってね」  
「……」  
「だけど人生には、そんなわかりやすい〆切や制限時間なんて設けられていないんだよ。  
知ってる? 宇宙にはたくさんのチリがあって、いつ地球に落ちてくるかもわからないん  
だって。ひょっとしたら私たち、明日にも死んじゃうかもしれないんだよ? 隕石落下の  
ディープインパクトで。三冠馬には勝てないんだよ」  
「おもしろくねえよ。……そりゃ先のことはわからないしな。そういうこともあるかもな」  
 ぶっちゃけた話、二秒後に心臓発作で倒れることもありうるのだ。……倒れなかった、よかった。  
「先のことはわからない。制限時間も不明。ならさ、今できることをやるしかないよ」  
「月並みな励ましだな」  
「ユキナリくんにはそれで十分じゃない? 月並みな悩みなんだから」  
「……」  
 皮肉を言ったのにあっさり切り返された。苦手だこいつは。  
 
「偉そうなことを言うけど、お前はどうなんだよ。お前はできることをしてるのか?」  
「まあそれなりに。カレー作ったり囮になったりお節介を焼いたり、色々してるよ」  
「なんだそりゃ」  
 謎の言い回しに眉をひそめるが、とにかく。  
 雪成にできるのは想いを口にすることだけだ。それを相手に伝えることだけだ。  
 あとは向こうがどう受け止めるか。  
 それさえ、昼のやり取りである程度察しているのだ。あのとき幼馴染みの言葉を雪成が  
遮らなかったら、あるいは望む答えが聞けたかもしれない。  
 一つだけ気掛かりがあるとするなら、それは例の告白の件で。  
「後手後手に回ってる時点でヘタレ確定かもな……」  
「ん? そりゃ君のせいだよ」  
「わかってる。十年以上も時間もらっといて何もしなかった俺が悪い。だから……待つよ」  
 校門の前で、雪成は歩みを停めた。  
 おもしろそうに依子が見つめる。  
「十年以上も幼馴染みやってきたの?」  
「ああ」  
「ずっと好きだった?」  
「……まあな」  
「もし、亜季ちゃんが先輩の告白を受け入れたらどうするの?」  
「どうもしない。それが亜季の選択なら諦める。十年間の積み重ねが足りなかっただけだ。  
それは俺の責任なんだから」  
「潔いね」  
「どこがだよ。頭の中はもう諦め悪い考えでいっぱいだぞ。後悔ばかりだ」  
「まあ大丈夫だと思うけどね。亜季ちゃんの気持ちを君が知らなさすぎなんだよ」  
 わかった風な口を聞く依子を雪成は軽く睨んだ。  
「……あいつは、人の好意を拒絶できるやつじゃないんだ」  
「知ってる。でもちゃんと、相手のことを思って答えの出せる強い子であることも知ってる」  
「……」  
 幼馴染みの自分より依子の方が亜季をわかっているみたいで、少しおもしろくない。しかし  
そうかもしれないと雪成は思った。  
 いずれにせよ、待つことしか雪成にはできないが。  
「じゃあ頑張ってね。私は先に帰るよ」  
「ああ。ありがとな」  
 依子は驚いたように目を見開いた。  
「……ユキナリくん、人にお礼を言える人だったんだね」  
「どういう意味だそれは!?」  
「いやいや、素直な子は好きですよ?」  
「さっさと帰れ」  
 依子はぺろりと舌を出すと、その場でターンをして背を向けた。綺麗に結ったポニー  
テールが飛行機の旋回のように踊った。  
「明日結果教えてね」  
「誰が言うか」  
「じゃあ亜季ちゃんに訊くよ。んで、明日君をからかうのだ」  
「地獄に落ちろ」  
 明るい笑い声を残して依子は去っていく。  
 雪成は無言でその後ろ姿を眺めていた。  
 
      ◇   ◇   ◇  
 
 待ち合わせ場所の北校舎裏に行くと、すでに相手はそこにいた。  
 眼鏡をかけた細面の上級生。スマートで背の高いところは幼馴染みによく似ていると思う。  
 三原正志(まさし)は亜季の姿を認めると、穏和な笑顔で迎えた。  
「亜季ちゃん」  
 どこか嬉しげな声で呼ばれて、亜季はぎこちなく笑う。  
 二人が最初に出会ったのは図書館。正志はカウンターで受付をしていた。  
 入学当初から図書館に通っていた亜季は、すぐにその顔を覚え、覚えられた。  
 梅雨の時期にはおすすめの本を教え合うくらいに親しくなり、夏休み前には下の名前で  
呼び合うようになった。  
 正志は亜季にとって、気安い先輩だった。  
 穏和で人懐っこい性格は近付きやすかったし、本という共通の話題があったため、会話にも  
困ることはなかった。  
 部活や委員会のような組織に入っていない亜季にとっては、唯一親しい先輩だった。  
 そういった『先輩後輩』の関係は亜季には新鮮で、とても楽しく嬉しいものだった。  
 しかし、  
「亜季ちゃん」  
 もう一度、正志は名を呼んだ。  
 亜季は顔を上げ、真っ直ぐ相手を見つめる。  
 眼鏡の奥の目は穏やかながらも真剣で、唇は真一文字に結ばれている。緊張が強く窺えた。  
 亜季は軽く息を呑む。緊張を移されたみたいだ。  
 正志は静かに口を開いた。  
「急に呼び出してごめん。でも、来てくれてありがとう」  
「いえ……」  
 亜季の方があるいは緊張しているかもしれない。返事もそっけなくなってしまう。  
「……えっと」  
「はい……」  
「……亜季ちゃん」  
「……はい」  
「ぼくは……君が好きだ」  
「…………はい」  
 頷く。喉が微かに震えた。  
 予想していたことだから、前置きなく単刀直入に言われても取り乱しはしなかった。だが  
やはり驚きは隠せず、亜季は相手を見返すのが少し辛かった。  
「初めて会ったときは何も思わなかったけど、話をして君を知っていくうちにぼくはなんだか  
嬉しくなっていった。穏やかに本を読む亜季ちゃんを見るのが好きで、当番の日はいつも君を  
待っていた」  
「……」  
「君と同じ本を読むのが楽しかった。本の話ができて嬉しかったし、共通の趣味を持てること  
がすごく嬉しかった」  
「……」  
「ぼくは君が、とても好きです。だから、もしよければ、ぼくと付き合って下さい」  
 はっきり想いをぶつけられた。  
 もし図書館などで準備なくいきなり言われたら、きっと石か何かで頭を殴られたような  
衝撃に襲われただろう。しかし、準備できていても、亜季の胸には鉛のように鈍く重い思いが  
広がったに違いない。  
 実際、今その胸には、立っているのがやっとの苦しさが渦巻いている。  
 
 それでも逃げるわけにはいかないのだ。  
 勇気をもらったから。  
「先輩……ごめんなさい」  
 亜季は深々と頭を下げた。  
「先輩のことは嫌いじゃありません。全然そんなことなくて……むしろ先輩に好きって言われて  
嬉しいくらいです。でも、その気持ちに応えることはできません」  
「……」  
「私、他に好きな人がいるんです。だから、先輩と付き合うことは……できません」  
 言い切って、途端に苦しさが増した。  
 相手の想いが真剣だとわかっているから、こちらも真剣に答えなければならない。応え  
られないが答えなければならない。  
 亜季の答えは、断ること。  
 他人主義の彼女にとって、それはとても苦しいことだった。  
 それでもそうしなければならない。自分のために。正志のために。そして、幼馴染みのために。  
 すると、正志は微かに目を細めた。  
「ああ……それは、しょうがないよね……」  
 僅かに言い淀む声は寂しそうだ。  
「ごめんね。変なこと言って困らせて」  
「そんな! 変なことだなんて」  
 憂いの色が隙間から覗く正志の表情は、目を逸らしたくなる程に寂しい。  
 亜季は目を逸らさなかった。  
 悲しいことを言わないでほしい。亜季は、嬉しかったのだから。  
「……すごいです。先輩は」  
「え?」  
「想いを伝えるって勇気がいりますよ。私にはそんなの……だから、先輩はすごいです」  
 正志は目をしばたき、それからおかしそうに微笑んだ。  
「ちゃんと断れたじゃない」  
「え?」  
「ぼくの告白をちゃんと断った。それも、勇気のいることだと思うけど?」  
 正志は茫然とする亜季にただ笑いかける。  
「本当はさ、ちょっと期待していたんだ」  
「何、を?」  
「亜季ちゃんが断らないことを。君が頼み事を断らない子だっていうのは、この半年で十分  
わかっていたからね。だから、結構期待してた」  
「……」  
「でも、そんなことはなかった。君は決して受け身な人間じゃないし、自分の意思を通せる  
強い子だ。だから、亜季ちゃんはすごい娘だよ」  
「……」  
 真正面から褒められて、亜季は思わず赤面した。  
 正志は微笑んだまま亜季を見つめている。  
「で、その相手って?」  
「へ?」  
「亜季ちゃんの好きな相手」  
「え、あ、その、……お、同い年の幼馴染み、です」  
「ああ、前話してた子か。うまくいくといいね」  
「は、はい」  
 亜季は頷くと、もう一度頭を下げた。  
「もういいから、先に行って。ぼくはもう少しここにいるよ」  
「……はい」  
 ゆっくりと足を逆方向へ返して、亜季は背を向ける。  
 そのとき、最後の声がかけられた。  
「明日も、図書館に来てくれるかな……?」  
 不安げな問いかけは先程の告白よりも遠慮がちだった。  
 亜季は顔だけ振り返り、言った。  
「……またおすすめの本、教えてくださいね」  
 笑顔でそう答えると、正志は救われたような、ほっとしたような顔で、「うん」と頷いた。  
 
      ◇   ◇   ◇  
 
 亜季は歩きながら昔のことを思い出していた。  
 雪成と出会ったのは四歳の頃。  
 初めての異性の友達は、ちょっとだけひねくれていた。最初亜季が挨拶しても、目を合わせずに  
軽く頷くだけだった。  
 元々の性格もあっただろうが、仕事で親が夜遅くまで帰ってこないのも、一つの要因だった  
のかもしれない。  
 そこで亜季は自分の家に雪成をよく招いた。  
 最初は嫌がっていた雪成も、次第にそれを受け入れていった。二人は一日のほとんどを  
亜季の家で過ごすようになった。  
 ときおり見せる雪成の寂しそうな顔を、なんとかしたいと思っていた亜季は、少しずつ  
笑顔を見せるようになっていった少年の様子がとても嬉しかった。  
 早生まれの雪成に対してお姉さんぶりたかった、というのもあったかもしれない。思えば  
亜季は、幼馴染みの世話をやたら焼きたがった。  
 好きなお菓子は一番に譲ってやったし、困ったことがあればいつも助けてやった。  
 そうすれば少年は、ぶっきらぼうだったけど、必ずお礼を言ってくれたから。  
 少年を助けてやることが、何かをしてやることが、何より嬉しかったのだ。  
 でも、それはいつまでも続かなかった。  
 少年はいつの頃からか、もう少女の助けを必要としなくなっていて、お姉さんぶる必要も  
なくなっていった。  
 それでも誰かのために何かをすることは嬉しかった。頼られることが嬉しく、役に立つ  
ことが楽しかった。自分にできることなら、亜季は喜んで引き受けた。幼馴染みはそれを  
快く思ってはいないようだが──。  
(誰かの役に立つことの嬉しさを教えてくれたのはあなたなのにね)  
 苦笑が洩れそうになる口をなんとか引き締め、亜季は校門へと歩いていく。  
 そのまま門を抜けようとして、しかしその真ん中で亜季は足を止めた。  
 塀にもたれかかるように、幼馴染みがすぐそこに立っていた。  
 亜季は驚いて、その場に立ち尽くしてしまう。  
 こちらに気付き、雪成が近付いてきた。  
「終わったのか?」  
「え……な、何が?」  
「……告白されたんだろ。どうだったかって」  
「あ、うん……」  
 亜季は正志のことを思い出して、顔を曇らせた。  
 しかし雪成を心配させたくなかったので、わざと明るく言った。  
「断ってきたよ。うん。先輩も納得したみたいだったし、後腐れなし」  
「……そうか」  
 雪成は安心したような、しかしどこかこちらを案ずるような、複雑な表情を見せた。  
 やっぱり心配させてしまったのだろうか。亜季は帰ろ、と短く言い、雪成を先導するように  
歩き出した。雪成は何も言わず、黙って亜季の横に並ぶ。  
 横目でちらりと隣を見やる。  
 相変わらず高いなあ、と内心でぼやく。背を抜かれたのは小学六年の頃だった。中学に  
入ったら雪成の身長は一気に伸び、今やセンチで175を数える。  
 本当にもう、亜季の助けは必要ないのかもしれない。  
 そんな自分が雪成の側にいるには、どんな立ち位置を取ればいいのだろう。  
 
「……俺さ」  
 不意に雪成が口を開いた。  
 慌てて横目を戻そうとしたが、その表情に微かな緊張があることに気付き、亜季は思わず  
じっと見入ってしまった。  
 雪成は軽い呼吸を何度か重ねると、立ち止まって言った。  
「俺、亜季のことが好きだ」  
 亜季の足も止まった。  
 夕日が雪成の顔を朱に染めている。きっと自分の顔もそうだろうと、亜季は思った。  
 赤面していたとしてもこれならごまかせるかも、とずれたことを思った。  
 雪成は軽く髪をかき上げる。手が微かに震えていたのは気のせいじゃない。  
「……今、言うの?」  
「今じゃなきゃ、決心が鈍りそうだったから」  
 亜季は呆れ笑いを向ける。  
「……昼休みのときに言ってほしかったんだよ?」  
「……悪かった」  
「……私が先輩のところに行くとき、止めようとは思わなかった?」  
「資格がないと思った。十年以上何もしてこなかった俺に、止める資格なんてない」  
 資格。そんなもの、どうだっていいのに。  
「そういうときは、強引になってもいいんだよ。少なくとも私に対しては」  
「……悪い」  
「ううん、嬉しいんだよ。私の知ってる雪成くんはもうちょっとひねくれていて、自分の気持ち  
なんて素直に言葉にするような人じゃないもの」  
「……」  
 不満そうな目を向けられたが、文句は来なかった。自覚はあるらしい。  
「だから嬉しい。自分の気持ちを真っ直ぐ伝えてくれて」  
「……」  
 沈黙する雪成の手を亜季はそっと掴んだ。  
「断るのって……辛いんだね」  
「……」  
「先輩の告白を断って、すごく心が苦しかったの。人の好意を受け取らないのが、こんなに  
苦しいなんて、知らなかったよ……」  
「……」  
「本当はすごく迷った。先輩は本当に優しくて、とても仲がよかったから。でも……でもね、  
昼休みに雪成くんの慌てる姿を見て、やっぱり断らなきゃ、って思ったの。雪成くんに慌てて  
もらえるくらいには、私も好かれているのかもしれない、って思ったから」  
「……」  
「雪成くんの気持ちが少し見えた気がして、勇気もらったから」  
 自惚れた気持ちかもしれない。それでもよかった。  
 亜季は、やっぱり、  
「私ね、ずっとあなたの支えになりたかった。あなたのお姉さんとして、ずっと。でもそれも  
終わり。あなたの恋人になるには、姉弟じゃだめだから」  
「……お前、忘れてるんじゃないだろうな?」  
 雪成が眉をしかめて言った。  
「……え?」  
「昔、最初に言っただろ。俺に姉はいないって。姉はいらないって」  
「……」  
「もし覚えてるなら、あれの意味……今ならわかるだろ?」  
「……雪成、くん」  
 幼馴染みは顔を背ける。恥ずかしそうに、ぷいっと。  
 
 亜季が雪成を恋愛対象として見るようになったのはいつのことだろう。  
 たぶん小学生のときだ。彼が亜季の助けを必要としなくなって、そのうち背も追い越されて、  
姉弟である必要がなくなっていった頃。  
 しかし雪成は、それよりもずっと前から亜季のことを想っていたのだろうか。  
 
『……ぼくにおねえちゃんなんていないよ』  
『だーかーらー、わたしがかわりにおねえさんするから』  
『そんなのいらない!』  
『わたしはおとうとほしいよ? なんでもきいてあげるから、なんでもいって』  
『いわない!』  
 
 亜季は、泣きたくなった。  
「……バカ」  
 うつ向く亜季に、雪成は囁く。  
「かもな……ごめん」  
「違う……バカは私。そんなに前からそういう風に見ていてくれたことに、なんで気付かな  
かったんだろう、って」  
「ずっと言わなかった俺も似たようなものだ」  
「……うん。あなたはいつだってひねくれているものね」  
 亜季は掴んだ手を胸元に引き寄せると、それを包み込むようにぎゅっと抱き締めた。  
「でも、そんなあなたが大好きです」  
 彼の想いに応えたい。自分の気持ちを伝えたい。抱き締めるその手の温もりを通して、  
少しでもその気持ちが彼に届けばいいと思った。  
 亜季は頭を上げ、笑顔を浮かべた。  
 雪成もそれに応えるように、優しい微笑を見せる。  
「付き合ってくれるか?」  
「うん──」  
 見つめ合い、頷き合う。  
 亜季は相手の手を握り直して、寄り添うように雪成の横に並んだ。  
 繋いだ左手の感触は、少しだけ硬く、温かかった。  
 もうただの幼馴染みじゃない。それが切なくて、嬉しくて、亜季はまた泣きたくなる。  
 でも泣かない。今はまだ我慢する。帰ってからおもいっきり泣くのだ。それが亜季の最後の  
仕事だ。雪成の前で泣かないことが、お姉さんとしての最後の仕事だ。  
「帰ろ?」  
「ああ」  
 二人は手を繋いだまま、ゆっくりと歩き出した。  
 
      ◇   ◇   ◇  
 
「アキー、宿題見せてくれない?」  
「うん、いいよ」  
 雪成は亜季とクラスメイトのやり取りを、席からじっと眺めていた。  
 亜季は相変わらず人からの頼みごとを断らない。それはもう、亜季の性質として切り放せない  
ものなのだろう。  
「不満そうだねー、ユキナリくん」  
 背後から楽しげな声がかけられた。雪成は振り返りもしない。  
「別に不満なんかない」  
 ぶっきらぼうに言葉を返すと、依子は前に回り、雪成の顔を覗き込んだ。  
「んー、心配なのはわかるけどね」  
「あいつの性格なんだから、もう何も言わねえよ」  
「でも心配でしょ?」  
「……」  
 相変わらず人の心を見透かしてくる。雪成はうんざりした。  
 しかし、依子は続けて言った。  
「でも、前とはちょっと違うみたいだよ」  
「……違うって、何が」  
 依子はにっこり微笑んで、促すように左手を差し向けた。  
 その先には、小さな幼馴染みの姿。  
「亜季ちゃん、今日掃除代わってくれない?」  
「あ、ごめんね。今日はムリ」  
 聞こえてきた亜季の言葉に雪成は驚く。  
「え? 何か用事あるの?」  
 うん、と頷くと、亜季はくるりと雪成の方を見た。  
 目が合って、雪成はドキッとする。  
 亜季は楽しそうな笑顔で答えた。  
「彼氏と待ち合わせしてるから」  
 えーっ、と驚く女子達の声が響く。  
 にやにや笑う依子を横目に、雪成は恋人から、真っ赤になった顔を慌てて逸らした。  
 

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