「ちょっと早かったかな…」
アスミがパチ公の前で小首をかしげながら立っている。
ポンとスニーカーで小石を蹴る。ちょっと無理して買ったようなバッグを
袈裟懸けしている姿は、学校で見るアスミと全然違う。
「はーやっく、こーないっかなあ」
その横ではヘンな歌をうたいながら、石見先生がポーチを後ろ手に持って立っていた。
ポーチと一緒にブランド品の小さな紙袋を持ち、オトナの雰囲気を漂わせている。
ぼくはしばらく二人をじっと見ているが、お互い無視しているのか一言も話さない。
おそらく、二人とも存在を気付いているはずなんだけど、敢えて空気のように意識していないらしい。
石見先生は、黒いふんわりしたワンピース。編み上げのショートブーツがかわいい。
一方アスミは、白い薄手のパーカーを羽織り、少年っぽいいでたちだ。
オトナっぽい子供と子供っぽいオトナが待ち合わせ。二人とも全く対照的なのが実に面白い。
しばらくすると、わざと気付いたように、石見先生がアスミに話しかける。
「神岡さん。誰かと待ち合わせ?」
「石見ちゃんこそ、ずっとそこで誰かを待ってるみたいだけど?」
人差し指でメガネをツンと上げた石見先生は、隙を付いてアスミを挑発している。
二人とも目を合わせないのが、ものすごーくリアルなのだ。ぼくは、電柱の周りをくるくる回る。
「最近、石見ちゃんにも気になるお方が現れたらしいじゃないっすか」
やはりアスミが切り返してくるが、石見先生はその質問には答えなかった。
「神岡さんって、教室の外では女の子らしいのね」
元来、負けず嫌いなアスミが黙っておくはずない。いつもはごく普通の女子として
スクールライフを過ごしていたアスミ。学校では『ほどほど』で通していたのだ。
そんなアスミの学校では見せない『やんちゃっぷり』を見抜かれたのかと思ったのか、
アスミはムキになって反論する。この子は石見先生のように、無視ができないのだろうか。
無視が出来ないという時点では、アスミもまだまだ子供のような気がする。
オトナの階段は、アスミにとって段が高すぎる。なんだかぼく、偉そうだな。
「ふふーん。石見ちゃんだって、わざわざ休みの日に待ち合わせするような人がいたんですね」
「わ、わたしだって、人並みに忙しいんです!」
「世間知らずのお嬢様も、人並みなことがあるんですか。石見さま?」
「世間知らずじゃありません!!」
「ふーん。石見ちゃんって怒ると、おこちゃまみたいなんですね。怖い怖い」
アスミは憎たらしい顔をして、ここぞとばかりに石見先生に3倍返しをする。
敵に回すと怖いけど、味方にすると頼りないのがこの子の恐ろしい所なのだ。
日曜日の午前中なので、全くと言っていいほど人通りがない。
時計の針は、とっくに11時を回っている。白い雲だけが流れてゆく。
約束の時間だけど、ぼくはまだまだ二人の観察を続けることにしよう。面白いし。
「遅いなあ…」
「来るのかなあ」
ハトが駅前にたたずむ二人の周りを囲む。
ぶわっと膨らんだハトが、石見先生がぼくを追い回すように、もう一羽のハトを追い回している。
そして、もう一羽のハトはぼくのように必死に逃げ回っている。
さっきから、風が強くなっているのか電線に止まっているハトが揺さぶられていた。
二人を観察するのも飽きてきたので、気分転換にちょっといたずらしてみようかな。
ぼくがハトの群れの中に駆け込むと、驚いたハトたちはいっせいに飛んで逃げる。
「きゃっ!」
アスミは声を上げて驚き、石見先生は頭を抱えてしゃがんでしまった。
二人の前を思いっきり横切っても、ぼくと気付かないようだ。痛快痛快。
さて…みなさん、お分かりの通り、二人はもちろんぼくが来るのを待っています。
そしてぼくは、とっくにパチ公前に来ています。ただ、二人は全くそのことに気付いていません。
なぜかって言うと、ぼくは『イヌ』の姿になっているからなんです。ハイ。
朝、出かける前にちょっと自分で自分をワンワンしておいて、わんこの姿に変身させてもらったのです。
誰でワンワンをやったかっていうのは…言えません。ナイショです。気持ちよかったな…。
もちろん、『ケモノ系』に戻っても着替えられるように、尻尾に着替えを入れたバッグを引っ掛けておいてるんすよ。
これで準備万端。多分、二人とも直ぐに『橘ハル』と気付かないと信じておこうね。
こうしてしばらくの間、二人を観察させていただいている訳なのです。エヘへ。
そんな『わんこ』になったぼくはさておき…。
「あっ!来た来た!!」
突然、アスミが騒ぎ出す。しまった!ぼくの正体が見破られたのか!?
背中に冷たい物が走った瞬間、その言葉につられたのは、間抜けなオトナ石見先生。
「えっ?ハルくん??」
「バーカ。ハルはまだ来てませーん。石見ちゃん、わたしに釣られましたね」
「ちょ、ちょっと!卑怯じゃないの」
「薄々勘付いてたんだけど、やっぱり石見ちゃんは、ハルを待っているってことが証明されました。エヘっ」
アスミの挑発は、まだまだ続く。
「残念ですけど、ハルは今日ですね、わたしと約束しているんです。いつも一人ぼっちの石見ちゃん。
いつハルと約束したか知りませんけど、ハルが来てもあなたの所には来ませんから」
「来ます」
「来ません!!」
二人ともバカだ。岡目八目の目線だと、相当滑稽なんだろうな。
そんな石見先生、とうとう無茶苦茶な事を言い出した。
「わたしの教え子だから、わたしが何しようと勝手でしょ!」
「やっぱり、石見ちゃんってバカだよね」
「バ、バカ?あんたの先生に向かってバカとは何よ!」
「『三歩下がって師の影踏まず』って言葉がありますけど、わたしは思いっきり石見ちゃんの影を踏んづけてあげますよ」
「あ、明日抜き打ちテストをしてやるから!」
「ハイハイ。じゃあ、その答案、ぜーんぶ白紙で戻してあげますよ」
言葉に出来ない憤りを石見先生は、足元に落ちていた空き缶にぶつけた。
おっと、ぼくの方に空き缶が飛んできた。とばっちりは御免こうむりたいなあ。
しかし、アスミは怖い。彼女は、昔から『ほどほど』なおしとやかさもあり、また時々やんちゃな女の子なのだ。
しかし、ほどほどの『たが』が外れると、アスミは何を言い出すかわからないのが恐ろしい。
なんて言うんだろう、アスミは『ヤマネコ』なのだ。
見た目は、何処にでも居るようなネコ。しかし、そのネコは普通のネコと違って気性は激しい。
一旦そのヤマネコに嫌われると、牙をがっと剥きだしにして襲い掛かり、容赦の無い仕打ちを浴びせかける。
アスミはそんな子。そう、そんな子なのだ。
そんなアスミの毒牙に、石見先生はメッタ打ちに遭ってしまった。ぼくが石見先生の立場だったら、絶対泣く。
ぼくもアスミだけは怒らせないようにしよう。そうしよう。
と、突然強い風がびゅうと吹き、あたりの物を撒き散らす。
「きゃあ!」
石見先生のワンピースが風に煽られる。ぼくの目の前に、真っ白いパンツが露になる!
「わん!?」
いけない!なんだか興奮してきた!
今まで落ち着いた状態でイヌの姿で居られたのだが、残念なことに体は正直、
ぼくの体は、元の『ケモノ系』の姿に戻ろうとしている。体中の毛がすこしずつ薄らいできて
ぼくの骨がミシミシ音を立てて『ヒト』の物に変わろうとしているのが分かる。
腰の骨がよつんばになる事は、無理のある姿勢だと叫んでいる。
おそらく、あと3分で完璧にぼくは立ち上がるだろう。
「わんわん!!」
ぼくは駅のトイレにイヌの姿のまま駆け込む。駅員さんはキモを抜かしている。ごめんなさい。
大きい方のトイレに駆け込んだぼく。その小部屋の中で、ぼくは『ケモノ系』に戻った。
変身する姿は、幸い誰にも見られなかったよう。尻尾にはまだ着替えの入ったバッグが引っかかっている。
薄い落書きだらけの壁に寄りかかり、しばしの休息を頂くとするか。
着替え終わったぼくは、10分遅れで約束のパチ公前に向かう。
腕組みしているアスミの横で、石見先生は泣いていた。
ぼくがいない間に何があったかわからないが、何かがあったと分かる気がする。
取りえず、直ぐに顔を見せないでしばらく二人を見ておこう。
「いい大人なんだから、諦めが肝心でしょ?」
「だって、だって…」
「いっときますけど、わたし口げんかでは負けないからね!」
「へえ…。く・ち・ではねえ…」
と、いきなり石見先生はアスミに脳天パンチしようと、ぶんと右手を上げている。
「石見先生やめて!!」
我慢が出来なくなったぼくは、二人のもとに駆けだす。
「ハル!来てくれたんだね!」
さっきまでいじめっ子の顔だったアスミが、キラキラと恋する少女の顔に戻る。
アスミは、ぼくの腰に手を回しきゅっと抱きしめようとする。アスミは柑橘系の香りがする。
むにゅ…。ちゅ。…突然、アスミの舌がぼくの口に入る。とろけそう…。
あまりにもいきなりなので、正直動揺している。ああ、甘いよお。
「ハルさ。この意味分かる?」
ぼくは、ぶんぶんと首を横に振る。
「前にさ、『恋人じゃないのに、キスなんかしないよ』って言ったよね」
「神岡さん!橘くん!やめなさい!」
「わたしのキスの意味、分かるよね?」
「分かるもんか、バーカ。橘くん!逃げなさい!」
「尻尾の先まで、愛してあげる。嬉しい?」
アスミの体温が伝わるぐらい、ぼくと引っ付いている。
お昼近くの往来で、ぼくたちは一体何をやってるんだろう。
しかし、アスミは心底幸せそうな顔をしているから、それはそれでよしかな。うーん。
「いたあい!!」
アスミの大声にびっくりした。頭を抱えて涙目になっているアスミ。背後には石見先生が。
「わたしね、イヌは大好きだけど、泥棒ネコはだいっ嫌いなのね」
「いったー!後ろから平手打ちなんて薄汚れたオトナだ!」
石見先生はもう一度、アスミの頭に平手打ちをした。
アスミの目から、光る物がポロリと垂れる。しかし、決して美しい物ではなかった。
「オトナは汚い!!」
「さっき、わたしの事『おこちゃま』って言ってたくせにね」
アスミは泣きながらうずくまり、ぼくはどうしようもなくなってしまった。
二人が子供じみたケンカをしているうちに、平和の象徴のハトが駅前に戻ってきていた。
きっと、彼らも『くっだらないなあ』って思っているんだろう。
急にぼくの体が浮いた。空を飛ぶように、ふわりと浮いた。
なぜなら、石見先生がぼくを抱き上げて、駅の方に走っていったのだ。
「ちょ、ちょっと!!石見先生!ぐ、ぐるじいい」
「い、石見コラー!!」
「誰が待つもんか。チビ」
あまりにも考えがたい行動だったので、アスミも一瞬固まっている。兎に角、ぼくは苦しい。
石見先生が駅に向かう横断歩道を渡ると、たむろしていたハトがブワーっとはばたく。
追いかけていたアスミは、ハトの群れに行く手を阻まれ立ち往生。
その隙に石見先生は、駅舎にぼくを抱えて入り、あらかじめ買っておいたと思われる
切符を改札機に通し、ホームへ駆け込んでゆく。
電車は今か今かと出発の時をチャイムの音を耳にしながら、ホームで待っている。
駅入り口で焦って財布を捜しているアスミの姿が、だんだん遠くなる。
「コラー!石見!待ちなさい!!」
「さ、ハルくん。バカネコはほっといて、わたしたちでいっしょに楽しいデートをしましょうね」
ぼくと石見先生を乗せた電車は、アスミを置いてゆっくりと駅を立ち去った。
「メガネのバカー!!」
きっと、アスミはそう叫んでるんだろうな。きっと。
車中、石見先生は先ほど取り出した首輪をぼくに見せびらかす。
「さ、ハルくん。新しい首輪だよ」
「や、やめて下さい!」
「やめない。これはね、最新式の首輪でね、GPS機能が付いてるの。すごいでしょ?
これでハルくんが何処に行ったか、わたしのケータイで直ぐ分かるんだから」
「……」
抵抗すると、アスミのように頭をぶたれるかもしれない。
ぼくの首に最新式とやらの首輪が装着される。簡単に取れないように南京錠でロックされる。
ハイテクなんだか、アナログなんだか分からない。
ガタゴト電車に揺られている内に、なんだか聞き覚えのある駅名のアナウンス。もしや…。
「さ、もうハルくん、絶対逃がさないんだから」
石見先生に思うがまま電車から下ろされ、住宅街の中を進む。
隙を見て逃げようかと思ったが、「恋人みたいにして歩こっ!」とぼくの腕を組む石見先生。
ちょっと上品なワンピース越しに、石見先生のちょっと大きいおっぱいがぼくの腕に当り、
よからぬモヤモヤがぼくの頭の中に沸いてくる。
石見先生に引っ張られて連れられたのは、見た目築30年の蔦の張った古アパート。
ぼくらは、その建物の中へと入ってゆく。
軋む階段を登り、中に連れられて入った部屋の表札は『201号室・石見』。
相変わらず、イヌグッズで埋め尽くされたこの部屋。以前よりも増えているようだ。
部屋の窓の片方は、『大分かぼす』と書かれたダンボールで塞がれていた。
「これで、わたしの『イヌ・コレクション』の完成ね」
まだ、この人は懲りてなかったのか!!
「さあ、ハルくん。今日は一日わたしの部屋で楽しく遊びましょ」
そういいながら、石見先生はよそ行きだったワンピースを脱ぎ出した。
青少年であるぼくの目前では、いささか刺激が強すぎる。
ぼくは、わざと見ないようにそして見えるように手で目を覆ったが、石見先生は
「まだだよ!まだ!おあずけ!」
と叫んでいる。逆に着替えている姿を見て欲しいのか、バカな先生に心底呆れる。
「はい、お待たせ」
パジャマ姿に着替え、柴犬のぬいぐるみを抱えて、すっかりお気楽モードになった石見先生。
ふんふんふんと、ヘンな鼻歌まで歌っている。さっきまで泣いていたくせに。
昼まっからパジャマ姿とはな。教師をしていなかったら、間違いなくニートになっていただろう。
ある意味、ぼくが石見先生を救っていると考えれば、ぼくもまんざらでもない。
しかし、石見先生の手法が強引過ぎるので、どう考えてもぼくの先生通信簿は、オール1になってしまうのだ。
「先生、コレ」
「あっ?気付いた?先生ね、朝早くから並んで買ったのよ!」
最近発売されたテレビゲームのソフトが、あからさまにぼくに見つけて欲しげに床に置いていた。
「さっそくやってみましょ」
CDロムをハードに入れ、さっそくプレイ開始。
ソフトはこの度発売されたばかりのレーシングゲーム「CHU×2カート」。
プレイヤーはネズミ。スリッパ型のカートに乗り、家具や食器などの障害物を避けながら
家の中をカートで走り抜けるというもの。ぼくもちょっと、気になっていたゲームだ。
第1ヒートのスタート地点はキッチンのテーブルの上。テーブルを飛び降り、
隣のダイニングを経由し、廊下を走って玄関を目指す。
「負けないよ」
「…うん、ぼくも」
石見先生とぼくはコントローラーを持ち、スタートのシグナルを待つ。
ポンッ!
目の前のトースターから「START」と焦げ目が付いたパンが飛び出し、ぼくらはアクセル全開。
テーブルの上の果物をかわしながら、カートは爆走する。
ぼくらプレイヤーは、ネズミ目線なので普段のぼくらから見ると何でもない食器が、
ゲームの中では異様に大きく見える。おっと、ぼくのカートがリンゴにぶつかりスピンしているぞ。
「そりゃああ!」
石見先生のカートはいち早く、テーブルから飛び降り隣の部屋へ走り抜ける。
画面のカートと一緒に、石見先生も柴犬のぬいぐるみを蹴飛ばしながら、大きくジャンプする。
この技、結構やりこんでいると見た。
「きゃははは!!いけー!!」
石見先生は、子供のようにはしゃいでコントローラーをブンブン振り回す。
その度に、スリッパ型のカートはイスの脚にぶつかったりして、CGのネズミは振り落とされている。
いくらバーチャルとは言え、このネズミは哀れとしか言いようがない。ごめん。
「あっ!ネコ!ネコ!」
ダイニングに入ると横からネコが現れ、カートを追ってくるので、上手くまかなければクリア出来ない。
「この、こわっぱネコめ!こうしてくれるわ!!」
石見先生の顔が変わった。わざとカートにネコに体当たりさせ、ネコをメッタメタのボロボロにしている。
どうやらネコにアスミをダブらせている様だ。ネコの顔面にカートがぶつかり、鼻血を出している。
石見先生の頭にイヌミミが生え、尻尾が生えているのが見える気がした。
格闘の末、CGのネコは、頭の上に星を回しながらぶっ倒れてしまった。ネコに同情。
しかし、ゲームに夢中でアスミの事なんぞ忘れていたぼくは、何てひどいヤツなんだろうとも思った。
ぼくのケータイには、全く着信がないという事は、アスミは相当お冠なんだろうか。
「ふう。気持ちいいなあ、爽快爽快」
額に汗をにじませながら、隣の石見先生は笑っていた。メガネが曇っている。
こんなゲームではないことは承知なのに、石見先生はプレイの方向性を間違えている。
ゲームの開発者がこの事実を知ったら、どんだけしょげることか。
気が付くと、ぼくは遊び疲れて寝転んでいた。もう、窓が赤く染まってきている。
隣で石見先生は、まだゲームをやっていた。石見先生の横には『パヤパヤビール』と書かれた缶が。
「ぼく、そろそろおいとま…」
「絶対、逃がさないよ!」
帰ろうとするぼくに向かって、先生の声が突き刺さる。石見先生の顔が赤い。
いきなり石見先生は、カーテンレールから伸びたチェーンをぼくの首輪の金具につける。
どっかと、ぼくはイヌだらけのベッドに押し倒される。
「へへへー。ハルくんね、まだわたしの夢を叶えてくれてないでしょ…」
知らないよ!そんなの!しかし、聞く耳を持たない石見先生、潤んだ唇をぼくの顔に近づけてくる。
石見先生に見つめられているぼくは、わざと目が合わないように首をすくめる。
オトナの色っぽい息が顔にかかると、ぼくはどうしようもなく興奮してくるのだ。
しかし、お酒臭い息が気になる。
「ハルくんね。この間、突然イヌになってわたし、びっくりしてたの。
夜になると、イヌに変身しちゃうんだもんね」
違う。まだ、石見先生は誤解をしているらしい。
アスミの何処から出たか分からない『ウソ話』に騙されっぱなしの石見先生。
「でも…。わんこになったハルくんも、カッコいいよ。ホレちゃった」
さっきもわんこになっていたのに、気付かない石見先生、呆れるくらい相当鈍い。
折角、ぼくの雄姿を思う存分見られていたのに。ひどいなあ。
そんな人のいい石見先生、片手に飲みかけのビールの缶を持ってぼくに迫って来た。
「ハルくんもどう?」
「い、いや。大丈夫です」
「先生のお酒が飲めないの?!」
ムリヤリぼくの口にビールの缶を押し当て、中のビールを注ぎ込む。
にがくて、炭酸の味がする。本当に石見先生は悪いヒトだ。
目がグルグル回り始め、石見先生の声がぐわんぐわんと響いて聞こえる。
「あー!もう!!ずっとぎゅっとしてていい?わたし、これだけでも…しあわせ…」
髪の毛に石見先生のキスが降り注ぐ。ビンカンなイヌミミに舌を入れてくるので、
ぼくのわんこもだんだん熱くなる。完璧に石見先生とぼくは酔っ払っていた。
石見先生は、ぼくの目の前でパジャマを脱ぎ出す。見ていていいのか、ダメなのか分からない。
目をつぶっている間に、石見先生は真っ白の下着姿になっていた。なんだか、がまんできない。
「ねえ、ハルくんは女の子のブラの取り方って知ってる?」
「…先生、何言ってるんですかあ…?」
「先生が教えてあげる」
下着の前のホックを外す。ぷるんと、白いおっぱいがはじける。こんなに間近に見たのは初めて。
石見先生は惜しげもなく、おっぱいをぼくの顔に押し付ける。柔らかくもあり、息苦しくもある。
「わたしが飲ませてあげる」
石見先生は、お酒の缶をごくりと口に含み、ぼくに口移しでお酒を飲ませる。
唇が触れ合うと同時に、石見先生の前髪がぼくの顔にあたる。やわらかい先生の髪。
その間にも石見先生は、ぼくを指先でなでてくる。くすぐったいので暴れるぼくを、石見先生の太ももで締め付ける。
お酒は冷たかった。意外にも、唾の味はしない。
こぼれたお酒が足元に垂れる。
「あれ…?ハルくん?…寝ちゃったの??」
そのまま、ぼくはウトウトと夢の国へ…。ごめんなさい、ぼくは悪い家出少年です。