日本というのは、  
戒律による禁欲の要らない豊かな風土故か、  
それとも宗教による縛りがなくとも、元々、協力して生きていくことが当然な農耕民族だからなのか、  
単一民族国家故なのか、  
多くの人は宗教に対して緩い。  
 
古くはご都合主義の神仏習合、  
現在では、  
寺の住職が幼い我が子にクリスマスプレゼントを贈り、  
神社のネギさんが近所の人と一緒に除夜の鐘を突き、  
カソリック教会の門前に正月、門松が飾られる。  
 
「…で、オレが何を言いたいかと言うと」  
オレは眼の前に突き付けられた、光で出来たような槍の穂先をゆっくりと指先でそうっとずらしながら、  
「夏祭りに誘った位で槍出さないで欲しいなあ…と」  
と、オレの前で槍を両手で構えているベアトリスに言う。  
 
…いや、こうなる気はしてたんだよ。  
近所の神社が天照大神かそれに従っている神様辺りを祭っててくれれば良かったんだよ。  
唯一神と対立した宗教と違い地母神が天の神を負かす宗教と違い、同じく天の神で多くの神がその部下、  
つまり天使と同義だとか何とか口先で魔化せる。  
実際、日本に戦国時代にキリスト教が入って来た当時は、神はデウスだったわけだし、基本的に政治背景など人間の都合が入らなければ、天の最高神=唯一神で問題ないはず。  
希望的観測も含んでいるが、その神仏習合もどきな理屈で押し通せる気がしないでもない…  
…ベアトリスは見かけに反して、思考回路はけっこう単純だし……。  
 
けど、悲しいかな…  
というか夏祭りだから当然といえば当然だが、土地の氏神様の神社だ……  
つまり最高神に明確に従ってるわけじゃない神様なわけだ……  
その上、地の神様……  
 
だから…端っから銀次や正樹を誘ったんだけど、  
正樹は最初から断り、  
銀次はつい30分程前にバースさんに連行されて行った。  
いや、それだけなら別にこんな命知らずなマネはしない。  
問題は銀次が連行された後、  
諦めて一人で屋台巡りでもと思ったトコまでは良かったんだが……  
 
「だから、言ったじゃない。  
 私と行きましょうって」  
オレが槍を横にずらした所で、タイミング良くオリビアが  
窓から顔を覗かせる。  
とっさに槍をそちらに向けるベアトリスよりも、  
これを予想していたオレの方が一瞬に速く横に抜けようと  
する槍を思いっきり掴み止め壁の大破を回避することに成  
功する。  
 
ベアトリスを誘ったのは彼女が原因だ。  
一人で神社に行こうとしたオレは、オリビアに捕まった。  
しかし、彼女と夏祭りに行けばどうなるか、  
…特にベアトリスにバレたら……  
そう考えたオレは、仕方なく逃げるように家に引き返しベアトリスを誘う事でオリビアを諦めさせようとしたわけだけだ。  
 
というか  
「……うちの二階の廊下窓を浴衣を胸まで大きくはだけて、背中の黒い翼を羽ばたいて、覗かくなよ…  
 近所の人に見られたら体裁が悪いどころの話じゃないぞ」  
オレは同時に目線で、オタクの槍もだよ。  
とベアトリスに伝えるが通じたのか通じてないのか、全く槍をひいてくれない……  
…因みに学校では、さすがに槍や翼は出ないが一日に数度はこういう事態がある……  
悪いことに最近は、オレの困る顔が可愛いだの、良いストレス解消になるだの言ってオリビアは面白がりはじめている……  
 
「…で、行く?」  
オリビアはわざわざ窓枠に手をかけ、  
その手から伸びる腕で胸をはさみ谷間を強調しながら、オレの方に身を乗り出してくる。  
……ベアトリスの無い胸じゃ出来ない芸当だ……  
間違いなくオリビアは面白がって挑発している。  
ここでオレが下手なことを言うと、今日寝る家が無くなる。  
 
「行くけど、オレは一人で食べ歩きに行くだけだぜ」  
オレはあくまで一人でと、食べ物目当てであって宗教儀式じゃないと言う所を強調して、言う。  
 
……が、オリビアの返事は  
「じゃあ私も一人で行こうかな。  
 偶然、君の隣を歩きながら」  
ソレ全然、偶然とは言わせん……  
「成さんは行きません!!」  
そこに今までオリビアを睨んでいたベアトリスが凛とした声で、言い切り、  
槍をオリビアに向けたまま片腕を離し、その手でオレの腕を握り締める。  
 
オレは柔らかく、その手を離させると  
「いや…それは出来ない」  
だってそうだろ?  
焼そば、たこ焼き、いか焼き、フランクフルト、綿菓子、りんご飴、  
一晩で臨終する金魚に、3日で萎む水風船、いんちき臭い輪投げの景品、  
日本男児なら諦めきれまい?  
 
 
「綿菓子でも食べるか?」  
「いりません」  
 
二階の廊下が風通し良くなるという多大なる被害(伯父貴になんて言おう……)を出しつつ、  
オレはベアトリスにオレの監視とオリビアからのガードという名目を与えることで、なんとかあの修羅場を脱したわけだが、  
当然、そうなるとベアトリスが夏祭りにオレを見張りに着いてくるわけで……  
 
「じゃあ、五平餅は?」  
「一昨日、成さんがスーパーで買って来た物を食べました」  
「さいでしたね…」  
 
あからさまに不機嫌な彼女は万事がこの調子で、生まれて初めて恋人と夏祭りという男の夢の達成にも関わらず、  
…ぜんっぜんっ楽しくない……  
来て速攻で食べた、たこ焼きで思い知ったが、  
連れが居るのに一人でバクバクと食うのは空しいし、いらん気を使う。  
…だから、オレは最悪でも一人で来ようと思ってたのに…  
 
「はあ…」  
仕方ない。  
幸い、家の二階からでも花火は見えるし…  
適当に一つ二つ遊技系の夜店で遊んだら、帰ろう……  
オレはそう考え  
「じゃあ、ちょっと射撃でもしてくる」  
射撃の屋台を指さして固まった……  
 
何故に?  
どう考えやあしても景品としておかしいやん?  
神様…オレ、何かわりい事でもしたんきゃも?  
よりによって景品に  
「何で、ロザリオのネックレスなんかがあるんだ……」  
 
「早くされたらどうです?」  
…ベアトリスの恐ろしく冷たい声が、固まったオレの後ろから聞こえる……  
「…いや、止めておきます……」  
ここで台座に当てるだけだとか、オレはアレは狙わないとか下手な言い訳しようものなら、  
今日がオレの命日になるだけじゃなく、この辺り一帯が地獄絵図になる気がする……  
 
…仕方無い…  
ツイてない日ってのは、誰にでもあるもんだ、  
本当はバースさんに引き連り廻されてペース乱されまくっている銀次でも見つけて笑ってやりたがったが、  
こういう日はさっさと帰って、ふて寝に限る。  
 
「……帰ろうか」  
今日はたこ焼き食べただけで良しとしよう、  
オレはその他の楽しみを諦めてベアトリスに声を掛ける。  
「はい」  
オレの声に即座に反応して、ちょっと機嫌が良くなったような声で返事が帰ってくる。  
……やはり、単純だ。  
もっとも、そんな考えオレはおくびにも出さずに、返事をするや否やさっさと歩き出したベアトリスに着いて歩き出す。  
 
ドーン  
 
大きく響く音、  
そしてワンテンポ遅れてバチバチと弾けるような音が鳴る。  
「あ…やべ」  
もう始まったか…  
玄関先で鍵を開けようとしたオレの耳に花火の音が届く、  
と同時にオレはとんでもない事を思い出す。  
 
……花火が見える部屋ってベアトリスの部屋側だ。  
南東に位置するオレの部屋だと、ベランダに出れば少しくらい見えるか?程度で……  
これ以上、怒らせたくないしなあ…  
仕方無いベランダで見るか。  
そうオレが決めた時、  
「花火…一緒に見ますか?」  
意外な一言をベアトリスの方から言ってくれる。  
「いいのか?」  
オレが聞き返すと、彼女は申し訳なさそうに  
「これでも反省はしてますよ……  
 ただ、あの悪魔が……」  
と呟く。  
「…しかし、オリビアの介入前からオタクはしっかりオレに槍を突き付けてたんだけどなあ……  
 最も、オレはそんな事は口が裂けても言わないけどね」  
 
「言ってますよ…」  
ベアトリスはオレに突っ込みを入れると、ため息を一つつく。  
しかし、それに対してこの反応という事はどうやら冷静になってくれたらしい。  
「……声に出てた?」  
だから、オレも必要以上の反応はせず軽く返事をし彼女に微笑み返しただけで、  
家の中にさっさと戻った。  
 
元々は物置になってた空き部屋だったこの部屋が、ベアトリスの部屋になってから初めて入ったけど……  
 
ぬいぐるみとかある部屋を想像はしてはなかったが、  
その心構えを持っても殺風景な上に旧約と新約、コーランと数種類のハディースまで学校の教科書と一緒に並んでいる様はシュールだぞ。  
…そもそも、この本(後者二つ)どこに売っていたんだ?  
アラビア語で書いてあるし…  
オレは売っているトコ、見たことないぜ。  
 
「興味お有りなら貸しましょうか?」  
…どうやら、オレが二冊の本を見てた理由を勘違いしてくれたお蔭で、彼女の完全に機嫌は直ったらしい、  
ベアトリスは嬉しそうにオレに訪ねる。  
「アラビア語は読めないから良いよ」  
せっかくの機嫌を損ねるのも難なので、オレはちょっとだけ嘘をついて回避しておく。  
「では、今度日本語訳を探しておきますね」  
……最悪、適当に流し読めば良いか……  
オレはそう考え適当に頷いておき南西に向かった窓を開ける。  
 
とたんに轟音が部屋に響き、  
目映い光が窓枠いっぱいに広がる。  
…ってのは大袈裟だな……  
所詮は都会の町内行事、  
近隣住宅に気を使った申し訳程度の打ち上げ花火なので大したことはない。  
少し最初の方は見逃した事もあって、あっと言う間に花火は終わってしまった。  
 
「花火、けっこう綺麗だったろ?」  
花火が終わった後、  
肩を並べた姿勢のまま座っていたが、  
互いの存在の間にある溝を埋める為に、もっと彼女に触れたくなったオレがその一言でその沈黙を破り、  
更に彼女の返事を待たずに自分の唇で彼女の唇を合わせる。  
 
「あっつ」  
いきなり不意討ちに合わせられた唇の奥で、互いの歯が当たりその痛みから彼女の声が洩れる。  
当然、オレの方も痛い……  
「もうっ、急にキスをなさるから歯当たっちゃいましたよ」  
オレが痛みから唇を離したとたん、彼女は文句を言いながら唇をさする。  
もっとも、その声色は怒りなどを含んでいるものでなく逆に多少の喜びを含んだ明るさを帯びている。  
「御免、その…ベアトリスに触れたくなったんだ」  
オレはそんな彼女の明るさに合わせて、軽く微笑み正直に申告し、今度はしっかり彼女の肩を抱き、もう一度唇を重ねる。  
 
「ふう」  
軽く合わした唇を離したオレの口から、感嘆のため息が洩れる。  
…ベアトリスの唇って柔らかくて凄く心地良いんだよ。  
オレは本番より、彼女とのキスの方が好きって位。  
 
彼女の肩を抱き締めながら、オレがそんなキスの余韻に浸っていると、  
「…あの…いつも、して貰うだけですし…その……  
 今日のお詫びも含めて…私も成さんの事……」  
彼女が小さく呟くように、  
……肩を抱いていた為に彼女の口が耳元になければ聞き逃してしまったかもしれない程の声で、  
「させて…ください」  
と言う。  
 
…それって……  
まさか……  
「…口で?」  
丁度、彼女の唇の感触に酔っていた事も有り、  
恐ろしく希望的観測だと自覚して居ながらも、つい口から出てしまう。  
「えっ!?  
 …いえ…その手で……」  
オレの一言が意外だったのか、  
驚愕の高い一言をあげた後、序々に小さくなる声で彼女はオレの希望を申し訳なさそうに否定するとそのまま、固まったようにうつ向いて固まってしまう。  
 
「どう…すれば良いのでしょう?」  
しばらくの間、うつ向いて固まったままだった彼女がゆっくり動き出しオレのGパンのチャックを下げながら訪ねてくる。  
 
しかし…どうすればって聞かれても……  
人にしてもらった事なんてないし…してもらう心構えもなかったオレは答えに困る。  
そもそも、すでに限界まで膨張しチャックから飛び出ているとはいえ、  
実はオレのは中学の修学旅行の風呂で、銀次に皮付きミドリガメと笑われた程度のモノでしかない……  
チャックを下ろしただけでは充分な大きさが露出しない……  
取り敢えず、  
 
「悪いけど、服脱ぐから」  
せっかく決心して貰った所、悪いけどオレは一旦彼女から離れると上下の服を全て脱ぎ捨てる。  
彼女の方もオレにやや遅れ、服を脱ぎ横に畳むとオレと向き合う形で座る。  
 
オレはそんな彼女に覆い被るさる形で近づき、  
「じゃあ…えっと」  
彼女の右手を左手でそっと掴むと、オレ自身導く…  
「うっ…」  
彼女の指先がそれに触れた途端、  
そこを起点にした鋭角的な痺れにも似た快感がオレの全身に走る。  
 
「今、びっくって動きましたけど……」  
中でしか感じた事にない、彼女にとって未知であろうオレの反応に驚いたのか、指先がぱっと離れる。  
…そのお蔭でなんとか踏みとどまったオレは自分を落ち着かせる為に深呼吸を一呼吸し、  
「別にその動きは変な事じゃなくて…気持ち良かったから……」  
…言い難いさを感じながら、オレは彼女の質問に答え、  
「それで…それをさすってくれれば良いから……」  
もっと、先もあるんだけど…  
説明するのも難だし、何よりもオレの方もベアトリスの準備をしなければならない。  
正直、今でも限界なんてすぐ来そうなのに、そんなに刺激されても困る。  
 
「さすれば良いのですね」  
彼女はオレの言葉を確認し、その言葉にオレが頷いた事を確認すると、  
ゆっくりと指先を上下させるようにオレ自身をさすり始めてくれた。  
 
「ぅ…くっ」  
オレは思わず出そうになる絶頂感を声と共に、歯を食いしばって殺す。  
彼女の指のもたらす刺激は緩やかで単調、本来ならそんなに即達するような刺激ではない。  
…はずなんだが、オレはそれをいっぱいいっぱいで辛うじて堪えるのがやっとだ。  
 
「…どう…ですか?」  
そう訪ねるベアトリスの言葉も所々で途切れ、  
彼女の方も自分の行為に対して、精神が高揚していることが解る。  
「うん…気持ち良い…」  
彼女に返事をしつつ、  
少し慣れ落ち着いたオレは自分の手を彼女の大切な部分に溝に合わせて這わせる。  
「あうっん…そんな突然……」  
オレの手に突然刺激された彼女は声を上げ、手を一瞬止める。  
「だけど、準備しとかないと」  
実際、触れた彼女のその部分は小さな突起が固くなってはいるが、まだ充分に潤っていない。  
「そう…ですよね」  
納得した彼女は、再びオレ自身を手を動かしさすり始める。  
 
「う…くっ」  
「あっ…うんっ…」  
互いの切ない声と指の感じられる暖かさが、互いを高めていく。  
「…そろそろ」  
その行為にまた、オレは限界を感じ一言かけ彼女を止め、  
彼女の白い足に手を掛けそれを開くように力を込める。  
「うん」  
そして、オレの行動に彼女はゆっくりと頷き、そっと足を開いてくれる。  
 
足から手を離したオレは、  
添えられたままになって二人に体の間にあった彼女の手を取り、そのまま体の外側で握り締め、  
「…いくよ」  
と優しく宣言し、彼女のなかに自身を埋没してゆく。  
「あぅ…んっ」  
それと同時に彼女の唇から甘い吐息とも呻き声とも取れる声が洩れる。  
 
彼女にしてもらい、すでに限界が近かったオレは一度、奥まで到達すると、一息も入れずそのまま腰を使って前後に動き出す。  
「えっ…?あっ…あくぅ…ん」  
ベアトリスにとってそれは予想外だったのか、動き始めに驚いたような声を出すが、  
すぐにオレの動きに合わせて下から、ぎこちなく動いてくれる。  
「…ベアトリスっ…ベアトリスっ…」  
オレあ自分の動きと、それとはタイミングのずれた彼女の動きの二重の刺激に夢中になり、序々に自分の速度をあげてしまう。  
 
「あっ…あっ…成さっ…ん…あくぅん…あああっ」  
絶頂の近づいた彼女はオレの名を呼び、きつく抱き締めてくる。  
オレはそんな彼女に答え、抱き締め返し、絶頂を一気に引き寄せるように彼女の唇を貪る。  
「はっ…くっん…うぅんっ!」  
塞がれた彼女の口から声は出る事が出来ず、  
くぐもった呻き声だけが漏れ、その最後の一息の大きさが彼女が達した事を知らせると同時に、  
「くっ…」  
オレも彼女に包まれたまま達した。  
 
 
ー・ー・ー・エピローグ・ー・ー・ー  
 
「窓、閉めてエアコンつけましょうか?」  
「…いや、良いよ」  
ベアトリスの火照った体の暖かさが、急激に冷やされ失われるのはもったいない、  
それに彼女を出来るだけ長く抱いていたかった為、オレは彼女の申し出を断り、  
オレは彼女を抱き締め、余韻のまどろみに目を閉じようとした。  
 
その時、  
「なにっ!!この穴!!」  
夏祭りに友人と行っていた美迦が帰宅したらしく、例の大穴を見て大声を上げている……  
「お兄ちゃんっ!!これどうしたのっ!!」  
 
矛先がオレに向いた……  
まあ、ガキの頃からいろいろと前科あるから仕方ないか……  
オレは諦めると、立ち上がりついてこようとするベアトリスを手で制すると、  
急いで服を着け、部屋から出る。  
 
「あっ!!お兄ちゃん!!この壁の穴…  
 って…お兄ちゃん、どこから……」  
ん?  
どこからって…  
 
……ベアトリスの部屋からだあああああっ!!  
しかも、よくよく自分の格好を見ると急いで着たTシャツが裏表逆……  
 
その夜、一晩かけて金刀家では緊急家族会議(といっても3人)が執り行われた。  
因みにベアトリスは家に来た時みたく、洗脳だか催眠だかしてくれませんでした…  
彼女曰く、  
「家族公認って良い響きですね」  
…だそうです。  
 
 

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