「はあ?」  
「ですから、死んで頂けますか?」  
目の前で正座した女性はにっこりと微笑むと、冗談じゃない一言を口に出す。  
ちょっと整理しよう…オレは事態を飲み込むために状況を振り返る。  
 
それは平和なはずの土曜日の夕方、  
一日、暇だったオレはのんびりとP●Oのオフライン、今日こそはあのレアをと未だに延々と周回をしていた。  
 
コンコン  
 
そんな時にノックが聞こえた。  
妹か?  
マルチモードでも手伝わせるかな?  
と思い、部屋のドアを開ける……誰も居ない……  
そもそも、天下御免の帰宅部のオレと違ってアイツは学校で部活のはずだ。  
単純作業を一日やって疲れたかな?  
オレが首をかしげ再びコントローラー握った時、  
 
コンコン  
 
またノックが聞こえる。  
オレは落ち着いて音の方向を確かめると、それは背の方に  
ある窓の方。  
しかし、ここは家の二階…  
「本格的に疲れているなあ…」  
もうゲームは止めてちょい寝るか……  
そう思い、ゲームをセーブした時、三度目。  
今度は少し強めに  
 
コンコン  
 
確かめるだけ確めた方が良いかな?  
 
でも、見えちゃいけないモノとか見えると嫌だなあ…オレは霊感ってやつが強い。  
よく血塗れな武者とか痣だらけの女性とか見えちゃったりする、慣れてはいるが気持ちが良いモノじゃない。  
しかし、ほっとくわけにも行かず振り向いたオレの目に彼女が入った。  
 
その瞬間、オレは彼女に目を奪われた。  
腰どころか膝まである夕日をキューティクルで反射する艶やかなストレートの金髪。  
序々に育ち形作られる生命体であれば有りえない完全な左右対称、そして凛とした美を称えた顔。  
なにより、碧眼というよりもっと赤味掛かった……  
そう紫水晶のような透明感じのある紫の瞳。  
「あの…飛ぶのって見た目より疲れるので部屋に上げて頂きたいのですが?」  
「え…ああ…」  
間抜けな生返事をして窓を開けようとしたオレは、体を動かしたことでやっと我に返った。  
「飛ぶ?」  
ちょっと待ていっ!!  
よく見ると彼女の美貌に脳内削除されてたが、彼女、格好が妙だ……  
服は正式な名前は知らないけどギリシャ彫刻がよく着ているゆるい感じの布みたいな服。  
いや、それは良い。  
幽霊なら外国人から見れば鎧武者だって時代かかってるって意味じゃ同類だろう。  
……幽霊に話かけられるが良いか悪いか別にすれば……  
問題は背中だ。  
羽?…というか翼だな。  
彼女の身長、よく見るとけっこうある170cm位上は有りそうだ、そして背にそれと同じかそれよりも大きいかもって位の、真っ白な翼が生えている……  
「…つかの事、お聞きしますが?どちらさんでしょう?」  
それが、オレが彼女の出会いとオレが彼女に初めてかけた言葉であった。  
 
「あ、はい天使ですけど?  
 名前はベアトリスと申します」  
何を当たり前の事をとでも言わんばかり態度で彼女はあっさりと答えそのまま部屋に入りこんでくる。  
天使っていうとキリスト教とかユダヤ教だよな?  
葬式の時位しか仏教にさえ関わらない信仰とは無縁なオレに言われてもピンとこないが……  
「で、その天使さんが何の用だよ?」  
いつの間にか座布団を出して他人の部屋の真ん中で正座している彼女にオレは向かいあうように話しかけ自分も座ろうとした。  
その瞬間、オレは自分の格好に気づいた……  
一日、ゲームしながらゴロゴロしてたオレのファッションは、トランクスとTシャツ一枚……  
トランクスは今時滅多にない漢の下着、青縞だぜ。  
ってンな事どうでも良い!  
一瞬にして赤面したオレは床に脱ぎ捨ててあったGパンを掴むとそのまま部屋を飛び出る。  
何、動揺してんだ……  
扉を閉めGパンを穿きながらほてった頭で考える。  
ある漫画の影響で別段、サルマタは恥ずかしくないはずのオレが自室で女性にソレを見られたくらいで……  
しかし、現実問題として赤面している。  
オレは耳まで上気してしまったのが冷めるまでの時間稼ぎに階段を降りると一階の台所に行き、蛇口を捻ると顔を洗う。  
そして、冷蔵庫から作り置きのアイスコーヒーを二つのグラスに注ぎ、それをお盆に乗せると今度は階段を上がり再び自室に戻る。  
そこには彼女が居た。  
先ほどと寸分違わぬ姿勢のまま、  
オレは少々安堵し、  
「コーヒー飲むか?」  
と声をかける。  
「はい、頂きます」  
凛とした見かけや声に似合わない穏やかな口調で返事が返ってくる。  
オレは彼女にグラスを渡すと、彼女に向かい合うようにあぐらで座り取り敢えず、気になった事を聞く。  
「で、天使さんが何の用?」  
つーか、なんでまたオレはこの異常事態に早々に慣れてんだ?  
 
「その前に質問しても宜しいでしょうか?」  
「ん?答えられることなら」  
何気なく答える。  
「名前は金刀比羅神の金刀(こと)と書いてコンドウに成功の成でシゲル、年齢は16歳。 家族は1つ歳違いの妹と伯父で合ってますか?」  
「うん」  
「趣味は寝ること」  
「…ああ」  
「勉強はやらなくても出来るからしない主義、授業中は寝る時間と決めていて教室に居ない事の方が多い」  
「……悪いか?」  
「スポーツ万能だけど部活は面倒なのでしない」  
「……」  
う〜ん、真実だけど他人の改めて言われると駄目人間さ加減を実感するなあ……  
「生徒会など選挙では人格で失格のはずなのに必ず推薦されるが、これも面倒なので一度もひき受けた事はない」  
「もしかして、怠けで天罰でも与えに来たんですか?」  
「そうですね。それも有ります」  
「……罰、なるべく痛くないのが良いなあ」  
「大丈夫ですよ〜死んで頂くだけですから」  
ああ、そうか。……って  
「はあ?」  
ちょっと厳し過ぎやしませんか?という気持ちを込めて聞き返す。  
「ですから、死んで頂けますか?」  
 
彼女談によると、オレ…というかオレの魂か?は天界では結構偉い天使で、こっちには使命があって来てたらしい。  
……が、  
「実は、この時代って貴方が要るような事起こらなかったんですよ」  
……手違いがあったらしい。  
「救世主様の要るようなサタンの復活も、勇者様の必要な魔王も無し、預言者様になって宗教活動をされる必要もありませんし、下手に規格外な貴方が人間のなかに居られては世界自体混乱し兼ねませんし、  
このままこちらに居られますと七つの大罪の内、傲慢と怠惰に魂が堕ちそうですし、一刻も早く天界に戻って頂こうという事になったんですよ」  
そこまで言った彼女は立ち上がり軽く微笑む。  
「大丈夫ですよ、痛いのは最初にちくっとするだけですから」  
いつの間にか彼女の手には例えるなら蛍光灯?のように全体が光を放つ、槍状の物が握られている。  
「って注射じゃあるまいしンな事ありゃあせんだろっ!?」  
 
「危ねっ」  
空気を切り裂く音もなく彼女の光の槍が迫ってくる!!  
オレはそれを立ち上がると同時に、体の軸を右に回し避ける。  
と、同時に体重が掛かってない方の足を思いっきり踏み出し、彼女の懐に入り槍を振り回せないように両肩を掴みそのまま力一杯押す。8畳間じゃ禄にかわせない。  
つーか、槍振り回させて物壊されたらタマらん……そんな考えからの行動であったのだが、  
予期せず、彼女を後ろにあったベッドに押し倒す体勢になった。  
「どうして……どうして抵抗するんですか……」  
先ほどまでとは打って変わり弱い声…  
それはオレに心臓が止まるかと思うほどの罪悪感を与える。  
しかし…  
「やっぱ、オレはまだ死ぬのは嫌だ」  
オレの生まれる前、死んだ後、生きている理由さえが彼女の言う通りだとしてもそれでも死ぬのは嫌だ。  
「私はただ…ただ貴方に帰って来て欲しいだけなのに……」  
彼女の紫水晶のような瞳に涙が滲んでいる。  
オレの一番好きな瞳に……  
「ああ…そうか」  
オレは口の中で呟いた。  
何で、こうも簡単にこの状況に適応したのか?  
彼女の存在、彼女の言葉に疑問を持たなかったのか?  
そして、今感じる罪悪感の正体。  
答は簡単だった。  
オレは彼女を好きなんだ。  
多分…彼女の言う所のオレであった前から……  
そう自覚したオレは哀しむ彼女を放っておけなかった。  
肩を掴んだ力を緩めると、彼女の顔に自分の顔を寄せ、そのまま口付けをした。  
 
気持ちが高揚した為に思わずしてしまった口付け、  
慌てたオレは唇を急いで離そうとした。  
……が、  
驚いたのか押さえた彼女の肩から伝わる一瞬の体の硬直の後、彼女の方から更に強く唇を押し付けてくる。  
「う…ん…」  
彼女との長い長いキス。  
その柔らかい感触、甘い声と匂いを感じたオレの腕は自然と彼女の肩を解放し代わりに彼女を抱き締め、  
彼女の腕もそれに答えてくれる。  
 
「ふう…」  
どの位の時間たっただろう?  
ようやく唇を離したオレは大きく息をつき呼吸を整える。  
「もしかして、息止めてました?」  
クスっと笑い、彼女がオレに尋ねる。  
「……うっ」  
仕方ないだろ?  
ファーストキス、正真正銘若葉マーク付きなんだから…  
「ねえ?一つ聞いて良いですか?」  
「ん?」  
 
「私の瞳、どう思います?」  
「……綺麗だと思うよ」  
一瞬、質問の意味を計りかね言葉が遅れるが、考えても仕方ないと正直に答える。  
「有り難う……変わりませんね」  
「なんの話?」  
「これは刻印なのです。  
 弟…と言うのも変ですね、私たち天使はすべて主の作り給うた兄弟ですから……  
 でも、その中でも私のもっとも近しかった彼が堕天した時に、私の瞳の色も赤く変わりました」  
そこで彼女は目を一度伏せ、  
「…不浄を嫌う天使たちの中で、私の瞳を綺麗だって言ってくれたのは貴方だけだったんですよ……  
 私はだた貴方に帰って来て欲しいだけっ!!  
 この10数年、天界に居た私にとってまばたきの時間、  
 でもっ!でもっ!!  
 それでも我慢できなかったっ!!  
 ……だから、だから…」  
語調が感情を現し激しくなり、やがて涙が掻き消して行く。  
「…うん…ごめん」  
何に謝っているのか解らないが自然と言葉が出、彼女を抱き締める腕に力が入る。  
そしてもう一度口付けをする。  
 
二度目のキスは先ほどの失敗を踏まえ手早く唇を離す。  
「……あ」  
名残惜しそうな彼女の声が耳に痛い。  
が、オレはその声が終わるか終わらないかの間に次の行動  
に移り、それが彼女から違う声を引き出す。  
「あ…ん…」  
オレは彼女の唇から離した自らの唇を、今度は彼女の首筋  
に優しく這わした。  
「あの…欲情は大罪…です」  
甘い吐息を吐きながら彼女は弱々しくオレを止めようとする。  
それに対してオレは  
「欲情じゃなく愛情だよ。  
 それともオタクは違う?」  
普段のオレじゃあ絶対、言えない台詞だが何故か今は口から出てくる。  
「…いえ、その……」  
言葉がなくても彼女の返事はオレの言葉に対する態度で明らかだった。  
オレはそれに満足すると、続きを続ける。  
彼女の服の肩の部分に手を掛けるとそれを引き下ろす。  
 
背が高いし、見掛けは白人という事であったちょっとした先入観  
というか青少年の期待が裏切られる……  
下ろされた白い布から形こそ良いが小ぶりな丘…有り体に言うと微乳が現れる。  
オレはその左の胸まで唇を這わせて移動させると、  
同時に左手で彼女の胸を優しく触れる。  
「……あうっ」  
先ほどまでの甘い声と違い初めて聞く、彼女の高い声。  
その声はオレの理性を容易に飛ばしそうになる。  
それをオレは危うい所……  
まさにあと一歩で踏みとどまる。  
「すう…はあ…」  
深呼吸を一度し、自分を落ち着ける。  
そして、  
左手の中にある彼女の胸をゆっくりさする。  
「…んんっ」  
想像してた女性の胸より少し固い気もするが、その固さが生み出す弾性が心地良い。  
オレは手のひらを少し浮かし動かすと、中指と薬指の付け根に感じていた突起を軽く人指し指と中指で挟む。  
「きゃぅ」  
再び彼女の先ほどよりも高い声。  
オレはそれを聞きながら再び、先ほどより力を少し込め彼女の胸をさする。  
いや、これは揉むというのだろう。  
「あ…うん…ん」  
彼女もそれに慣れたのか声を殺しつつも、オレの手の動きに反応し答えてくれる。  
 
どっくん…どっくん…  
心臓の音が体に響く。  
落ち着け…落ち着け……  
オレは自分に心の中で言い聞かせ、左手を彼女の胸から離し自分のGパンとTシャツをせわしなく脱ぎすて、少し悩み縞パンも脱ぎ捨てる。  
そして…  
先ほどの胸への愛撫の時に、観て予想した彼女の服の作りを頭に描きながら、  
その腰についた帯を外すと長いスカート部分の裾をそっとまくり上げる。  
「……あ」  
彼女の口から小さな声が漏れ、裾を掴むオレの手に添えられる程度に彼女の手が触れる。  
とっさに出た彼女の反射的な言葉と動作だろう……  
だが、オレは心配になって聞いてしまう。  
「いい?」  
言ってオレは後悔した。  
女性がそう聞かれて「はい、どうぞ」って言うわけにいかないだろ……  
ここは何もなかったことにして流すべし!  
そう決心したオレは握った裾をさっと上に引き抜き彼女の服を脱がす。  
ブラジャーが無かった事から予想していたが、やはり下着の類は彼女を着けてなかった。  
「あの…あまり見られると恥ずかしいのですが……」  
赤面し目を伏せ、腕で大切な所を隠した状態で小さく呟くように言葉を発した彼女に露になった彼女の白い肌に目を奪われ、思わず手を止めて彼女を直視していた自分に気づく。  
「ああ…ごめん」  
オレは彼女の首筋に唇を寄せ、同時に彼女の太股に腕を伸ばす。  
 
オレは首筋から彼女の白い肌にキスを重ねていく。  
「う…あん…」  
彼女はオレの頭を抱えるように抱き締め背筋を逸らせ小さな声をあげる。  
その間も彼女の太股に伸びたオレの手は彼女のしっとりとした彼女のきめの細かい感触を伝えてくる。  
「暖かいですね……貴方の手」  
オレの頭を抱いたまま、彼女がオレの耳元で呟く。  
その言葉が、こそばゆいような感情をムズムズとオレにもたらす。  
オレはその感情に止まりそうになる手を必死で、しかし、ゆっくりと彼女の大切な部分に這わせて慎重に指先を動かす。  
「く…ん……そ…そこは…」  
指の腹を申し訳程度に生えた彼女の髪と同じ色の淡い茂みがくすぐり、指先に序々にゆっくりと湿った感触が伝わってくる。  
「……まだ…だめ…」  
彼女はそう言うと太股を締めて閉じようとする。  
…が、すでにそこにたどり着いているオレの手はそれを無視して指先を優しく動かす。  
「あ…あ……」  
指を摺りつけるたびに、彼女の口から甘い吐息が洩れる。  
その様子を見ながら、少し指を奥にと滑らせたオレの腕を今までオレの頭を抱き締めていた彼女の腕が突然止める。  
「……え?」  
何か悪い事したかな?  
焦りすぎた?  
力を入れすぎた?  
幾つもの疑問視と不安がオレの頭を駆け巡った。  
しかし、彼女の意図はそのどれでもなかった。  
 
「その…なかを初めて…は、その……貴方自身で……」  
お願いします。と聞こえるか聞こえないかの声で続ける。  
これは、オレとしては実は有り難かった。  
正直な話、痛いほどに感じていたオレはすでに理性も限界に近いし……  
なにより、何がというわけではないがその彼女の言葉が無償にオレには嬉しかった。  
「…辛いかも知れないぜ?」  
オレは確認というより警告に近い言葉を彼女に言い。  
その言葉に対して彼女が顔を紅潮させ頷くのを確認すると、  
先ほどから指先で感じていた彼女の形を思い出し、自分自身を握るとそっとその入り口に当てがった。  
彼女の微かな震えが、伝わってくる。  
オレは少しでも不安が和らぐようにという気持ちを込め、  
彼女の唇に自分の唇を重ね気持ちが伝わるように願いキスをし、  
そのまま、彼女の体に覆いかぶさるように体勢を沈めゆっくりと挿入していく。  
 
「……くっ」  
彼女の噛みしめた歯の隙間から押し殺した声が漏れ、柳眉の間に苦悶のしわが浮かぶ。  
明らかに辛そうだ。  
「だ…」  
大丈夫か?  
と言いかけたオレを彼女は制し、言葉を紡ぐ。  
「そのまま…きて……ください」  
そう言うと、彼女はオレを抱き締め太股をさらに大きく開けオレが進みやすいようしてくれる。  
確かにこのままの状況を続けても彼女の苦痛が長く続くだけかも知れない。  
オレは彼女の言葉に従い、自身をゆっくりとだが確実に彼女の中を進めていく。  
やがて…  
というっても実際には大して入っていなかっただろうが、オレにとっては気の遠くなるような時間と思える程進み、微かな抵抗にあう。  
本能なのか一瞬でそれがなんなのか理解したオレは躊躇するが、  
一呼吸置いて、意を決すると少し腰をひき、勢いをつけるとそのまま一気に奥まで貫く。  
「……くうっ!!」  
彼女の口から歯を食いしばっても尚、苦悶の声が洩れる。  
「くう……ふう…」  
オレは終わりそうになる自分を抑えるために歯をくい縛りそのまま、呼吸を整える。  
オレを包み込む彼女から純血の証が滲み出ているのが見える。  
「は…入りましたか?」  
「ああ…全部、入ったよ」  
 
オレは彼女の質問の答ながら、微動だに出来ない自身を慎重に抑えながら、彼女にもう一度キスをする。  
「あ…ん」  
そして、キスをしたままオレはゆっくり慎重に、  
出来れば永遠に…  
しかし、それが無理なのは解っている、  
だから少しでも長く……  
せめて…彼女が感じるものが痛みだけでなくなるまで……  
そう願い、オレは彼女のなかを前後に動く。  
「く…っ……ひとつに…なっ…ている…んですね?」  
「ああ…」  
まともに言葉もすでにオレは発っせない。  
……彼女をちゃんと良く出来ているんだろうか?  
オレの動きは先ほどより無意識に幾分速くなっている。  
もう…動きを理性で抑えるのも限界である。  
と、同時にオレは自身の終わりを抑えるのも限界だった…  
「−−−あ」  
オレの終わりと同時に彼女の声が聞こえる。  
それはあ、a、母音の最初の音、  
原初の音であった……  
 
 
「ふう……」  
オレたちは余韻を楽しむように、もう一度キスをして抱き合った。  
そして、どのくらいたっただろう?  
抱き合ったまま眠ってしまったオレはふと目を覚まし、辺りを見渡す。  
…すでに夜。  
時計は午前3時を指している。  
横で寝てたはずの彼女が居ない。  
焦り…  
オレは胸が締め付けられる痛みに慌てて跳ね起きると、  
「起こしてしまいましたか?」  
安堵…  
良かった…居てくれた。  
 
……は良いけど…  
「それは?」  
「では、そろそろ」  
しっかり服装を直し、光の槍をオレめがけて構えた彼女が居た。  
「はい?」  
「帰りましょうか?」  
「いや…それは断ったんですが……?」  
「…私は貴方と離れるのは嫌だともお伝えしたはずですが?」  
 
彼女はにっこりとオレの大好きな笑顔で微笑むと、何気なく聞けば嬉しいが、よくよく考えると恐ろしい事をあっさり言う。  
「しかも、その気持ちをちゃんと受け止めて下さいましたよね?」  
……確かに  
「では」  
そう言うと彼女は槍を矢とし、自身の体を弓のようにひき絞る。  
「いや!ちょっと待った!  
 ほら…オタクがこっちに住むとか!」  
彼女と別れたくないが、  
当たり前だが、死にたくもない。  
彼女とオレはよくても全く何の解決にもなってない提案と解っていながらも他に思い浮かばず、口走る。  
「…そんなに嫌なのですか?」  
彼女が槍を握った腕を落としうつ向き訪ねる。  
「確認するまでもなく普通は嫌がると思う…」  
少なくとも人間は……  
彼女と自分の今の違いを認めるのが嫌で、最後の言葉は胸の中だけに止める。  
「…そうですか…」  
彼女は暗い声で呟くと  
「そんなに簡単に天使がこちらで住めるわけないでしょう!  
 もう勝手にして下さいっ!!」  
彼女は怒鳴るとオレに光の槍を投げつけ、振り向きもせず最初に来た窓から翼を広げ飛んでいってしまった。  
彼女が居なくなると光の槍も消え、あとにはその槍が掠めオレの頬につけた傷だけが残った……  
 
 
ー・ー・エピローグ・ー・ー  
 
彼女の怒鳴り声は眠っていた妹の耳に届き、オレは言い訳に四苦八苦した……  
 
あれから一ヶ月たった。  
 
取り敢えず死後、天界とやらに戻れる程度にはなっておこうとオレなりに頑張っている。  
死にたくないのは本心だし、それ自体は悪くないと今でも思うが言葉に思慮が欠けていた事を彼女に謝りたい、  
それに…許してくれたらだけど、プロポーズもしたい。  
 
「起きて下さい」  
妹が起こしに来たらしい。  
今日も目覚まし時計を知らない間に止めてしまったのか…  
…  
駄目人間返上はまだ出来ないな……  
覚醒しかけの惚けた頭でそんな事を考えながらいつもの返事をする。  
「あと…5分…」  
嗚呼…駄目人間…  
「美迦さーん、あと五分だそうですが宜しいですか〜?」  
「駄目っ!!起きないならその辺にある物で叩いてでも起こして!!」  
?  
美迦は妹だ。  
その声が遠く一階から聞こえる。  
って今、オレを起こしているのは妹じゃない……  
というか、凛とした声の癖にそれの合わない丁寧語。  
どっかで聞いた事あるぞ……  
 
オレはおそるおそろる目を開けるとそこには  
「お久しぶりです」  
彼女が居た……  
 
「天界で新しい仕事を頂きました。  
 貴方が帰ってこないならせめて大罪に触れないように生きて頂くように監視しろと。  
 それで私の立場なんですけど、貴方の……」  
彼女の言葉はオレに抱き締められ中断された。  
「もう、話の途中ですよ。  
 私はずっと、貴方と一緒に居たいので同居の従兄弟でハーフって事でお願いしますね」  
そう言ってオレの抱擁に答え、彼女もオレの背に腕を回してくれる。  
「…というかオレの妹、洗脳とかしてませんか?」  
「それから……婚約者ですよ」  
オレのささやかな疑問を無視して、彼女は今まで見た彼女の中でも最も綺麗な笑顔でぽつりと付け足す。  
「はい?」  
「文句有りませんよね?」  
例の光の槍がいつの間にかオレの喉元に突き立てられている。  
なんか性格変わった?  
とういうか実はまだ怒っている?  
もしかしたら、監視より寝首をかきにいらしゃった?  
など疑問は残るが、  
 
取り敢えず、オレは前よりも笑顔が綺麗になったオレの大切な天使が帰って来た事を喜ぼうと思う。  
 

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