俺は勇(ユウ)。神社に通うことを日課としている。  
あの人に会うために。  
 
 
第2話「幼馴染み」  
 
 
勇「ちょっと出かけてくる」  
そう言って俺は家を出た。もちろん目的地は歩いて15分のところにある神社。  
夏が近いのか、今日は暑い。  
 
神社に着き石段を上がろうとしたとき、ふと疑問がよぎる。  
 
香織はあんな格好で平気かな?  
 
そう思った俺は石段を素通りし、近くのコンビニでアイスを買った。  
 
そして石段を上がる。  
いつもの風景。  
香織はどこだ?といっても見当はついてる。俺は迷わず縁側へ向かった。  
 
──────────────────────────  
 
いた。いたけど……  
勇「香織?」  
香織「ぁ…勇さん…」  
縁側に倒れ込んでいるような感じでへばっている。  
 
勇「大丈夫?」  
香織「……暑い」  
 
俺はすかさず買ってきたアイスを差し出し、勇「どーぞ」  
香織「……ん?あ、アイス!」  
香織は嬉しそうにそれを受け取った。  
 
二人は無言でアイスを舐める。  
 
俺はちらりと香織を見た。アイスに夢中になってるようだ。  
夢中でアイスをしゃぶる香織を見ていると、よからぬ妄想が浮かんできた。  
 
固くそそり勃った俺の分身を舌を使ってしゃぶり、  
上目使いでこちらを見てくる香織。  
 
駄目だ。ブラの話ぐらいで赤くなる香織が  
そんなことしてくれるわけない。  
っていうかチキンな俺がそんなことしてくれと言えるはずがない。  
 
俺は軽く頭を振って小さく溜め息をついた。  
非現実的な妄想を掻き消すために。  
 
そうこうしてるうちにアイスを食べ終えた香織が  
香織「ふぅ…さっきより楽になりました。ありがとう勇さん」  
にっこりお礼を言ってきた。  
 
勇「どういたしまして」  
笑い返す。  
 
勇「やっぱりその格好は暑いの?」  
香織「はい、夏は熱が籠って蒸れちゃって…」  
ほほう、蒸れるのか。  
 
勇「へー…なんとか改善できないかな?」  
香織「今、お父さんが考えてます」  
勇「そっか、早く改善されるといいね」  
香織「はい」  
 
そんな会話をしていると  
 
ゾクッ  
 
悪寒がした。思わず身震い。  
 
香織「ん? どうしたの?」  
心配そうに聞いてくる。  
 
勇「なんかすっごい嫌な予感が…」  
香織「えっと…地震とか?」  
勇「いや、そんなんじゃなくて……なんだろ」  
香織「うーん…」  
 
二人で嫌な予感の原因考えていたそのとき、  
 
?「おーーーい!どこだーーー!?」  
 
この声、聞いたことあるようなないような。  
香織「誰かが誰かを探してますね」  
勇「うん。誰だろう?」  
 
?「おーーーい!ここにいるのかーーー!?」  
 
声の主の姿が見える。  
あ!  
勇「ヤバイ!」  
香織「え?」  
勇「どっか隠れるところない!?」  
香織「え?どうして?」  
勇「後で話す!」  
 
いきなりの展開に狼狽する香織。  
香織「えーっとえーっとぉ…と、とりあえず中に!」  
 
俺は香織に促され、境内に隠れた。  
 
勇「俺のこと聞かれたら上手くごまかしといて!」  
香織「上手くごまかしといてって…」  
俺は強引に  
勇「頼んだよ!」  
香織「は、はい!」  
押し付けた。  
 
─────────────────────────  
 
5分ぐらいたった頃。  
 
?「ねぇ、ちょっといいかな?」  
香織「はい、なんでしょう?」  
奴が来やがった。  
 
俺は見つからないように様子をうかがう。  
 
奴「身長176ぐらいで17歳の男の子を探してるんだけど知らない?ここにいるかな?」  
香織「いいえ、勇さんは居ませんけど……あ!」  
香織はパッと口に手をやった。名前言っちゃダメでしょ……。  
 
奴「あれ?名前言ってないのになんで知ってんの?まさかここにいるとか?」  
香織「そ、そんなことありませんよ!」  
ダメだよ香織ちゃん。声がうわずってる……。  
 
奴「怪しい…」  
香織「そうですか?」  
奴「……ん?その靴は?」  
香織「え?あ!」  
やっちまった。迂濶だった。靴を隠し忘れたorz  
 
香織は靴を自分の陰に隠し、  
香織「な、なんにもないですよ?」  
とぼけた。  
 
数十秒の間。  
 
奴「あ!猫だ!カワイイー!」  
香織「え?きゃ!」  
卑怯だ!油断した隙に香織を押し退けやがった!  
 
俺の靴を見る奴。そして叫ぶ。  
 
奴「ユウ!いるんだろ!でてこい!」  
 
無視してやる。  
 
奴「でてこないとこの子をこの場で全裸にします」  
奴は香織を  
香織「わ! 勇さぁ〜ん!」  
羽交い締めにした。  
 
奴「5秒前!4!3!n」  
勇「わかった!落ち着け、遥!」  
俺は奴こと遥の前に飛び出した。すると遥は香織を解放し、  
遥「捕まえたァァァ!」  
勇「ぐほぉ!」  
腹部に衝撃と痛みが走る。  
 
ドサッ  
 
俺は遥のタックルを食らって倒れた。  
 
勇「いってー…」  
香織「勇さん!大丈夫?」  
遥「あんたは黙ってて!」  
ビシッと聞こえてきそうな勢いで指を差す。あまりの気迫に怯む香織。  
 
遥「なんで隠れたの?ここで何してた?」  
 
質問攻めか。嘘をついたら殺されそうだ。  
 
俺は立ち上がって言う。  
勇「香織と話してた」  
遥「隠れた理由も言いなさい」  
勇「う…それは……」  
 
言えない。遥に見つかったら今みたいな状況になるから、なんて。  
 
 
遥は3歳の時からの幼馴染みで、愛称ハル。16歳。陸上部。  
短い髪、普通の子より筋肉がついた体、綺麗に日焼けした肌、控え目な胸。  
香織とは正反対のタイプで、活発で少々キツイ性格。香織が月なら遥は太陽か。  
 
 
遥「ハァ…。じゃあなんで香織ちゃんと話してた?」  
勇「なんでって楽しいし癒されるし…」  
遥「ふーん…。ねえ香織ちゃん」  
香織は急に呼ばれてビクッとしながら  
香織「はい!」  
返事をする。  
 
遥「ユウはどのぐらいの頻度でここにくるの?」  
香織「えっと…週に3〜4回ぐらいです」  
 
それを聞いた遥は暫く考え込んだあと  
遥「そっか、そういうことか…」  
呟いた。ん?なんか悲しげな顔をしたような?  
 
遥「ユウ、そういうことなら早く言ってよ!隠すなんて水臭いぞ!」  
勇「はぁ?」  
俺は間抜けな声をあげた。  
 
遥「はぁ?って、二人は付き合ってるんだろ?」  
香織「え!?」勇「え!?」  
俺も香織も驚いた。何を言い出すんだ?  
 
遥「そうだよね。香織ちゃん、ハルより可愛いし、胸もあるし」  
勇「……なぁ遥」  
遥「ごめんね?邪魔しちゃって」  
勇「おい聞けよ」  
遥「香織ちゃん、脱がそうとしてごめん。じゃあね!お幸せに!」  
そう言うと遥は駆け出した。  
 
勇「待てって!」  
俺は追い掛けようとしたが、流石は陸上部。もういない。  
 
香織「……行っちゃいましたね」  
勇「うん、後で付き合ってるって誤解を解かなきゃ」  
香織「……勇さんなら、嫌じゃないよ」  
勇「え!?」  
香織「あ!あの、えーっと…そ、それより遥さんから隠れた理由、教えてください!」  
香織は顔をほんのり赤くして言う。  
 
 
俺は遥とは幼馴染みだということを、何故隠れたかを話した。  
 
なぁ香織…今、凄いこと言わなかったか?  
 
香織「なるほど。…勇さんは遥さんが苦手なんですか?」  
勇「うん、少しね。嫌いってことはないけど、あまり得意じゃないタイプ」  
香織「へぇ…。でも、根はいい人ですよね」  
勇「え?なんでわかるの?」  
香織「うーん…なんていうか、雰囲気的に」  
勇「凄いね、香織は。俺なんかそれに気づくのに10年かかったのに」  
香織「へへ…なんだか照れます」  
 
二人はしばらく語り合った。  
 
気がつけば天も、地も、人も、オレンジ色に染まっていた。  
 
 
香織「そろそろ暗くなりますね」  
勇「そうだね、暗くなる前に帰るよ」  
香織「お見送りします」  
 
石段を下りているとき、俺は思い切って聞いてみた。  
 
勇「ねぇ香織」  
香織「ん?」  
勇「さっきのってさ…その…本当?」  
香織「さっきのって?」  
勇「俺なら嫌じゃないっていうこと……」  
 
香織は動揺した。  
香織「え?あぁ、それはね?えーっと、うーん…」  
 
俺はもう一度聞く。  
勇「本当?」  
香織「……じゃ……い」  
勇「ん?」  
香織「…ゃ……な…」勇「あやふやに言われてもわからないからハッキリと!」  
焦れた俺は香織を急かした。  
 
香織「…………嫌じゃない(ボソ」  
勇「え!?」  
香織「さ、さぁ!もう帰らないと日が暮れてしまいます!」  
勇「もうi」  
香織「さぁ!!もう帰らないと日が暮れてしまいます!!」  
勇「……ねぇ」  
香織「さァ!!!もう帰らないと日が暮れてしまいます!!!」  
 
勇「……」香織「……」  
 
勇「はぁ…わかった。見送りありがと」  
香織「はい、気を付けて下さいね」  
 
二人は手を振り合い、別れた。  
 
─────────────────────────  
 
香織は気付いてないが、俺にはちゃんと聞こえた。  
 
「嫌じゃない」と。  
 
香織は俺をどう思ってるのだろうか?そして俺は……?  
 
そんな思考を巡らせながら、若者は帰路についた。  
 
 
第2話、完ッ!  
 

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