第3話「説得」
曇天。もう夏はすぐそこ。俺は先日の誤解を解くために、遥の家へ行った。
「はぁ…納得してくれるかな…」
きっと一筋縄にはいかないだろう。気が重いと自然と溜め息が出る。
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遥の家に着き、呼び鈴を押す。
ピンポーン
「はーい!」
遥の母の声。扉が開く。
「こんにちは」
「あら勇ちゃんじゃない!久しぶりねぇ。ちょっと見ない間にまた大きくなっちゃって、流石男の子ね!元気にしてた?」
毎度ながらの凄い勢いに圧倒されながら
「うん、元気だった」
俺は答えた。
「遥は居る?」
「遥?居るわよ?ハルー!ハルーー!」
「なにー?お母さん」二階から遥の声。
「お客さん!」
「わかった、今行く」遥が降りてくる。
「よっ」
俺が言う。すると遥は表情を曇らせ、
「帰って」
言った。
「話があるんだ」
「帰って」
反論しようとしたが遥の母に先を超された。
「ねぇハルぅ?折角来てくれたのにそれはないんじゃなぁい?」
出た。恐怖の猫撫で声&笑顔。昔からこれには逆らえない。
一瞬遥の顔に恐怖の色が浮かぶ。
「はぁ……。あがって。ついてきて」
「お邪魔します」
俺は遥に従い、後に続いた。
「入って」
遥に案内され入った部屋。そこは遥の部屋だった。この部屋に入るのは小6の時以来だ。
部屋の様子は以前よりも女の子っぽくなっていた。
黄色のチェックのカーテン、布団が整えられたベッド、その上に縫いぐるみが数点、
キチンと整理された本棚と机、洋服箪笥などなど。
「遥の部屋に入るのは久しぶりだね」
と俺が言うと、遥は
「そんなことはどうでもいいの」
と言ってドアを閉め、「話ってなに?」
不機嫌な顔でベッドに腰かけた。
「俺と香織のことなんだけどさ…」
「そんなことあたしに相談しないでよ」
冷たく言い放つ。
「話は終わり。帰りなさい」
そう言って部屋を出ていこうとする遥。
「待てよ」
俺は遥の腕を掴んだ。
「離して!」
振り払おうとするが俺は離さない。
「ちゃんと最後まで聞いてくれ」
「嫌!聞きたくない!」
「いいから聞けよ!」
遥の態度につい声が大きくなる。ビクッと驚く遥。
「……何?」
俺は単刀直入に言うことにした。
「俺と香織は付き合ってない」
「え?」
「俺と香織は付き合ってないんだ。遥の早とちり」
「……そうなの?」
「うん。誤解だったんだ」
「誤解……。なんだ…そうなら早く言ってよ!」
遥の表情が明るくなった。
「ああ、ごめん」
さっさといなくなっちゃったのは遥なんだけどな……。
「香織と付き合ってなくてよかった?」
俺は聞いてみた。
「なんで?」
「だって、遥が嬉しそうな顔してニヤニヤしてるし」
「な!に、ニヤニヤなんかしてない!」
遥は表情を普通に保とうとしているが、喜びは隠せないようだった。
「してるよ?やっぱり嬉しいんだねぇ?」
俺はちょっと意地悪に言った。
「してないし嬉しくないッ!だいたい勇が誰と付き合おうと勇の勝手でしょ!もう用がないなら帰りなさい!」
遥は流石親子と言わんばかりにまくしたてて、
「うわ!わかったよ」
俺の背中を玄関まで押していった。
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「これからどうするの?」
「香織に会いに行く」
俺は即答した。
「…………。本当は付き合ってるんじゃないの?」
即答はまずかったか。
「付き合ってないって!誤解が解けたことを伝えに行くだけ」
「本当に?」
「うん」
「本当に本当?」
「本当に本当」
遥は俺の目をジッと見てきた。…顔が近いよ。
「ふ〜ん…まぁいいや。行くんなら気を付けてね」
「うん。じゃあね、また来るよ。お邪魔しました」
俺はそう言って家を出た。
「あれ?勇ちゃん帰ったの?」
「うん、また来るってさ。……フフ……アハハハハハハ!」
「どうしたのハル?嬉しいことでもあった?」
「ん〜?別に〜?…フフフ」