箒……箒……竹箒。  
 使った事が有る人なら解ると思うが、箒はある事をするのに適した質量と長さを持っている。  
 その事から箒を用いてそれをした事が有る者も少なくないと思われる。  
 緋早の現人神様とその巫女と言えども例外ではなかった。  
 
 ここ緋早神社は山の近くで有ることから日が暮れるのも早い。  
 日が暮れる前に社の裏側に有る門を閉じるのが毎日の習慣であり、規則でもある。  
「門を閉めたら神社のお仕事は終わりよね。って……あら?」  
 自分達が昼ごろ掃除した道を歩くと、遠くに何か気になる物でも見つけたのか  
沙良が声を出して立ち止まる。  
「どうしたのって、箒? 」  
「拾って来るから葵は先に行ってて」  
 昼の掃除の時に色々有って忘れてたのを思い出していると、同じように思い出し顔を赤くした  
沙良が駆け出していく。  
 取り残された葵は待っているのも何なので一人先を行くと、道の上に先程彼女が取りに向った  
のと同じ箒が転がっていた。  
 これも昼間の忘れ物であると思い拾ってまた歩き出す。  
 裏門が見える所まで来て沙良が追いついてくる、走っいるのが玉砂利を蹴る音でわかる。  
 
「ッ!」  
 追いついた沙良は持っていた箒の柄を握りしめ葵に向って背後から箒を振り下ろす。  
「あぶないな。どうしたの急に?」  
 正面に向き直り、持っていた自分の箒の柄で彼女の箒を受け止めながら彼は口を開いた。  
「こういう物を持っていたら、久しぶりに振り回したくなったのよ」  
「で、いきなり斬りかかってきた訳ね」  
「斬りかかるって、あんなので葵に何か出来るわけ無いじゃない。  
今だって簡単に受け止めた訳だしさ」  
 呆れたような顔になる葵に向かい、沙良は悪びれることなく話し出す。  
「まあ、確かにあれ位は止められるけどさ」  
「あれ位、ってまたまた謙遜しちゃって。私は結構本気だったよ」  
 本気と言ってもあくまで彼の身体に当てるのが目的であり、当然の事ながら  
それ以上を狙ったわけではない。  
「沙良が本当に本気だったら、簡単には受け止められないと思うけど」  
「試してみても良い?」  
 何処までが本意なのかと思案しているうちに彼女は葵から一歩距離を置くと  
一礼し、両手を肩幅位まで広げ薙刀を構えるのと同じ姿勢で箒を構える。  
 
「壬白井沙良。参ります」  
 そう言ってまだ構えても居ない葵に箒を振り下ろすが、先程と同じ様に受けられしまう。  
「だから、なんでこうなるの?」  
「問答無用!」  
 自分から箒を離し再び攻撃に移るが、これも受けれる。  
「どうしてこう簡単に止められるかな」  
「いまのはそんなに悪くは無かったよ」  
(絶対に当ててやる)  
 最初はこういった物を久しぶりに振り回せれば良かった。  
 彼女としても葵の力量は知っているつもりだし、まかり間違って彼に怪我でもさせては  
いけないとも思う。  
でも、自分の力量にも有る程度の自身は有ったし、空振りした際など打ち込める隙が生じた際も含め、  
葵の方から一回たりとも打ち込んでこないのにも腹が立つ。  
 だからこそ一回ぐらいは当ててやろうと思って打ち込むのだが、その度に受けられるか、  
避けられるかをされてしまう。  
 そして打ち込もうと言う気が一層強くなるのだから、いつの間にか彼が刀を持つのと同じように  
箒を持っていたことには気づかなかった。  
 
沙良の箒を受けながら葵は改めて思う。  
 やっぱり自分は彼女が好きなんだということ。  
 初めて会った時、何となく結ばれるのではないかという気はしていた。  
 感動的な話などはあまり無く、なるべくして今の関係になった。  
 現在手にしている物は違えど薙刀を振るう時の真剣な表情を久しぶりに見ると、  
輝いていると心から思える。  
 手合わせの場に置いて力量の差がどうであれ、打ち込める時に討たないのは相手に対して失礼  
だが、もう少し箒を振り回す彼女の姿を見ていたい思うと躊躇してしまう。  
 その間にも沙良の打ち込みは激しくなり、自分も本来の形を持って対処することにし、  
そこから数度ほど打ち合った所で彼女の方から口を開いた。  
「あーもう、葵の嘘つき。何よ私が本当に本気だったら簡単にはいかないとか言って」  
「別に嘘は言ってないよ」  
 彼は受け止められないとは言ったけど、捌ききれないとは言っていないので  
嘘をついている訳にはならない。  
「でも、だけど……」  
 沙良が何かを言おうとした瞬間、山から吹く風が吹き荒れた。  
 日暮れ時に拭く風は秋が近い事を伺わせる。  
 その冷たい風を感じて葵は門を閉じるという本来の目的を思い出した。  
 
「隙ありっ!」  
 門の方に向うため背を向けた彼に沙良は箒を振り下ろす。  
「えっ、沙良っ?」  
 気づくのが遅れた葵は右手の甲で箒を弾いたまでは良かったのだが、反射的に足を絡ませ  
彼女を転ばせてしまった。  
「大丈夫?」  
「えっ、どうして葵が立ってて私が地面に仰向けで寝ているの?」   
 突然の事に頭が回っていない沙良を助け起こすべく葵は右手を差し出した。  
「どうしたの赤くなってるよ? って……」  
 腫れた手を見て自分の身に何が起こり、その原因は何で有るかを悟った  
彼女は彼の手を掴むこと無く半身だけを起こした状態で呆然とする。  
「ごめんね。私があんな事をしたからだよね」  
「ちゃんと止めなかった僕も悪かったし、これぐらいなら二、三日もすれば良くなるから大丈夫」  
 あえて平気な所を見せるため葵は痛む右手で沙良の手を掴み立ち上がらせる。  
「えっ!」  
 沙良が衣に付いた砂埃を払う間に、落ちていた二本の箒の内彼女が使っていた物を拾った  
葵は、箒の柄が緩み中から白銀の刃が覗いている事に驚愕した。  
「やっぱり右手が痛むの?」  
「うん……軽くだけど」  
 箒が仕込み刀だったことに動揺しつつも、お互いに万一の事が無くて安堵している  
自分を気づかれないようにと生返事をしたのがよくなかった。  
 
「じゃあ私が持つね」と、沙良は箒を奪うと傍に有ったもう一本も拾い裏門へと向う。  
 門を閉めてから戻る間、葵は彼女が箒に気づいてしまうのでは無いかと思いひやひや  
したが、結局の所片付け終わるまで気づいた様子は無かった。  
 住居でも有る社殿に入ると沙良は急いだ様子で救急箱を取りに居間に向い、彼もそれに続く。  
「本当に申し訳有りません」  
 並んで木造の床に座り右手に包帯を巻きながら沙良は改まった言葉使いで口を開いた。  
「過ぎた事だから、そんなに気にしなくて良いよ」  
 葵は空いている左手で髪を退け頬を撫でるも彼女の目元は今にも涙がこぼれそうだった。  
「でも、怪我させるなんて……」  
「それも謝ったことだからもう終わり。やっぱり沙良は箒を振り回すぐらいに元気じゃないと」  
「……実は気にしてるでしょ。でも、ちょっと落ち込むな」  
 拗ねた感じで言葉を切り換えた沙良には先程の悲しんだ様子は微塵も無く、葵の望んだ表情の  
彼女が有った。  
「落ち込むってどうして?」  
 話の流れからも、心の動きからも大丈夫だと悟り葵は安心して聞き返す。  
「いくら最近練習してなからって言っても、掠らせる事も出来ないなんてさ。  
あーもう、こうなったら明日から特訓して絶対に葵から一本取ってやるんだから」  
 彼の言葉を聞いているのか聞いていないのか、沙良は一人で完結すると台所に消えた。  
 
社殿を出る前に用意は済ませていた事から運ぶだけで夕飯の支度は整う。  
 普段は向かい会う形で膳を並べるのだが、今日だけは横に並べ葵の左側に沙良が座る。  
 最初は戸惑いを覚えた葵も手を合わせ箸に手を伸ばした所で彼女の意図に気づいた。  
 そして次の行動は彼の予想に寸分違わぬ物だった。  
「はい、あーんして」  
 沙良は葵の膳に箸を伸ばし料理を左手と一緒に彼の口に運ぶ。  
 必要以上に包帯を巻かれ固定された右手では箸を掴むどころではなく、  
葵はこの年にもなって食事の世話をして貰う事に恥ずかしさと情けなさを覚える。  
「早く食べないと冷めちゃうから、ほら早くあーんして」  
 対照的に彼女は彼にこの様な年甲斐も無い行動を取らせる事が出来て嬉しいのか、  
意図的に気を引き締めているのにも関わらず頬が緩んで来る。  
「わかった」  
 覚悟を決めて口を開くも、一口食べたからと言ってそれで食事は終わらず膳の全てが  
空になるまで何度と無く繰り返される。  
 葵も今の自分の状況を顧みて食べさせて貰うという行為自体は受け入れたが、  
それとは別に疑問に思った事が有った。  
「食べさせてくれるのは良いけど、食べないの?」  
先程から沙良は彼の口に運ぶばかりで自分の膳には箸を付けないでいた。  
 
「いいよ葵が食べ終わってからで、こうなったのも私が原因だし……」  
 一度言葉を切り息を付いてから彼女は再び口を開く。  
「それに……私は葵のお嫁さんなんだよ。まだ緋早の性は私は名乗れてないけど、それでも  
旦那様の事を優先させるのは妻として当然の事。ましてや怪我してれば尚更」  
「ごめん沙良……少し恥ずかしい」  
 途中で恥ずかしさの許容値を超えたのか葵が彼女の言葉を切るように口を挟む。  
「うん……言った私も恥ずかしい」  
 これ以後二人は言葉を交わす事無く、葵は黙って沙良が運んでくれる料理を食べた。  
 彼女は彼が食べ終わってから食事を始める。  
 食べ終わって暇なのかぼんやりと葵は沙良を眺めていて、時々目線が合うが互いに  
話すきっかけが掴めないのかやはり黙ったまま。  
「ご馳走様」  
「お粗末さまです」  
 それでも彼女が箸を置くと同時に揃って挨拶を交わし笑い合えるのは、二人の間に確かな  
絆が有るから。  
 それは彼が緋早の現人神で彼女が壬白井の巫女だからではなく、単なる葵と沙良として  
持っている物だからこそ夫婦を名乗れるのだろう。  
 
怪我をしていない時の三倍近くの時間を掛けた食事も終わり、  
昼間に済ませた事も有り入浴は別々で軽く汗を流す程度に止めた。  
 葵が沙良の敷いた布団に仰向けで横になっていると彼女が寝屋に入ってくる。  
 沙良も軽く湯を浴びただけなのか髪が僅かに湿り気をおびていた。  
「直してあげるから起きて」  
 そう言って彼の衣の帯を締め直そうと正面に座る。  
「あれっ? 上手くいかないな、私のだったら直に出来るのに」  
 人のでは勝手が違うのか結ぼうとしては途中でほどくのを何回か繰り返す。  
「やっとわかった」  
 何かがわかったのか、沙良は葵の背に胸を押し当てる体勢をとった。  
「うん。こうすれば結びやすいね」  
 自分でするのと同じ向きになった事で出来るようになったのか、  
今までが嘘のように一回で帯を直す。  
「今日は何か色々有って疲れたし、このままここで寝ちゃおうかな」  
 葵が先程まで寝ていた布団に今度は沙良が大の字に広がりながら言った。  
「それはただ単に僕の布団で寝たいって事?」  
「違うよ。私は葵と一緒に寝たいの」  
 予想どうりの葵の言葉を用意していた言葉で返し手招きをするようにして彼を誘う。  
 
灯りを落とした葵は沙良の待つ布団に入り込もうとする。  
 大の字になっていた彼女も彼が入るために場所を開けた。  
 余り大きくはない枕に二人分の頭を置くには互いに横向きになるしか方法は無く、  
向き合う姿勢のまま眠りにつこうと眼を閉じる。  
   
 二人が眼を閉じてから少しばかり時間がたってから、動き出すのは彼女の方。  
 沙良は疲れたと口にしていた筈の身にもかかわらず眼を閉じても眠りが訪れる事は無く、  
布団の中で何度も寝返りをうち、動くたびに僅かに寝間着が擦れ女性として弱い部分を刺激する。  
(あっ……)  
 自らの内側が熱くなる感覚には当然の事ながら覚えが有り、  
そのことを意識すればするほどに身も心も隣で寝ている葵を求め疼き出す。  
「まだ起きてる?」  
「そうだけど。沙良も眠れない?」  
 両手を強く握り締め意を決して彼に声をかけると返って来るの気づかいの言葉。  
「うん……あっ……」  
 短く頷いた所で葵は左手で沙良の頬を撫でた。  
「じゃあ、これからどうしようか? 続きをしようにも右手は動かないし、  
どうしたらいいと思う?」  
 
「……いいよ、全部私がしてあげる」  
 そう言って布団を出て立ち上がると寝巻きの帯に手をかける。  
「少しぐらいなら良いけど、出来れば見ないで欲しいな」  
 葵に視られている事を意識してか、彼女が衣を脱ぐ動作は非常にゆっくりとした物だった。  
「あの……何か勘違いしてない。僕はあくまでもお休みのキスをして眠れるようになるまで  
抱きしめてるか、髪を梳いていてあげようと思ったんだけど……」  
「あっ……」  
 寝巻きの袖を抜き上半身を露わにした所での突然の言葉に、胸元を隠す事も忘れ  
ただ呆然とする沙良。  
「沙良はそういうことだと思ったんだ。ごめんね、気づいてあげられなくて」  
 対して葵は本心からすまなそうに謝る。  
「一緒に寝たいって言った時点で気づいて欲しかったな。葵ったら鋭い時は凄く鋭いのに、  
鈍い時は本当に鈍いんだから」  
「別に意識して使い分けてる訳じゃないんだけど」  
「うん、解ってる。そういう所も含めて全部が好きなんだから。だから私は葵のお嫁さんになれて  
本当に幸せだよ」  
 一度失態を演じた事で開き直ったのか、普段だったら赤面しそうな言葉も普通に出てくる。  
「それに、さっきの私は今の葵以上に恥ずかしい思いをしたんだから、  
少しぐらいお返ししたって良いじゃない」  
「あの、ちょ、ちょっと沙良?」  
「とにかく今夜は私が全部するんだから……ねっ!」  
 押し気味な沙良が葵を文字どうり押し倒す。  
 
「んっ……」  
 馬乗りになった状態から一度だけ唇を重ねると、身体を離し先程自分で  
結んだ帯をほどき葵の下半身を露わにさせる。  
「あっ……少し大きくなってる。やっぱり気もち良いんだ」  
 彼の股に顔を埋め息がかかるほどの近距離で葵のを見ながら、沙良は感嘆の声を漏らした。  
「そりゃ……まあ、その……ね」  
「うん。じゃあ、もっとして上げる」  
 曖昧ながらも、返ってきた答えに満足したのか彼女は嬉しそうに声を上げ指を絡ませる。  
「……どう、もう少し強くした方が良い? それとも違う事の方が良い?」  
 撫でるように指先を動かす事に加え時折先端部を口に含み軽く口付ける。  
「いいよ、このままで」  
「本当に? して欲しい事が無いか考えてみて」  
 葵の言葉に沙良が疑う様な視線を向けると、一瞬だけ彼は何かを  
思いついたような表情になる。  
「何か有った?」  
「有るには有るけど……」  
「いいよ。私が出来る事なら何でもするから」  
 話の流れに流されるまま彼女は口にする。  
「わかった、でも無理はしないで」  
「葵のためにする事なら、無理じゃないよ」  
 そう言って彼の言葉を聞き取るべく彼女は招かれるまま耳を寄せた。  
 
うん……じゃあ、いくよ……」  
 彼のお願いを実行するために彼女は腰を下ろしていく。  
「んっっっ…………」  
 下ろしていく毎に葵自身を包み込み最奥まで到達した所で動きが止まった。  
 葵のして欲しいことと言うのは、ただ単純に沙良と一緒に気もち良くなりたいという物だった。  
 それを彼女が自分ですると言う前提で解釈して今に至る。  
「じゃあ……動くよ」  
 葵の胸元に手を置きゆっくりとした動作で腰を動かし始める。  
 最初は抜けそうになる一歩手前で腰を上げるのを止め、下げる時は一息で下り切ってしまわないように  
足に力を入れて下りる。  
 それを数回程繰り返した所で身体が慣れてきたのか余分な力が抜け、  
自然に動けるようなってくる事に加えて相手を気づかう余裕が出てきた。  
「あっ……んっ……どう、気もち良い?」  
「うん」  
 葵は答えるのと同時に腰を突き上げ、そこから数回だけ自分の速度で動く。  
「あっ……だめ、動いちゃだめ……あぁぁぁ……」  
「何で駄目なの? 沙良が気もち良くなりたいのを我慢しながら頑張ってくれてるのに、  
僕が何もしたいのはね」  
 沙良はあくまでも自分が主導権握ろうとし葵を押さえながら腰を動かそうとし、  
彼は彼で彼女を満たそうと突き上げる。  
 
「だめ。だめっ、それ以上葵に動かれた私……あっ、今夜は私がするんだから……だめぇぇぇ……」  
「もう、沙良は十分してくれたから後は任せて」  
「やだ、やだっっ、私がするの、だから葵が気もちよくなって、葵が満足して、私はそれでいいの。  
だから、葵より先は……いやだよぅっっっ……」  
 言葉どうりに葵は彼女にとって心地よい場所ばかりを擦るように動き始めるが、  
沙良は髪を振り乱し今にも泣き出しそうな顔を懇願する。  
 身体全体を激しく左右に動かしていた沙良が姿勢を崩し、  
葵に覆いかぶさる様に倒れこんだ所で彼の動きは止まった。  
「はぁぁ……あっ……あっ……はぁぁ……うぅぅ……」  
 後数秒今の状態が続いていたら嫌がりながらも達してしまう所から解放された安堵感から、  
自然と涙が頬を伝う。  
 その顔に罪悪感を覚えたのか沙良の内側から葵のが意思をなくしていく。  
「んっ……ごめんね……続けるから……」  
 自分の表情に原因が有ると悟った彼女は無理に微笑むと、  
彼に密着した状態のまま再び動き出した。  
「あっっっ……あぁぁ……」  
 動き出すといっても一度限界近くまで上り詰めそうになった身であり、  
なおかつ互いに密着した今の状態では葵を満足させるどころでは無い。  
 少しでも気を緩めれば数秒もしない内に最悪の事態を迎えてしまうだろう。  
 
 葵も感覚的に沙良の置かれている状態を悟ったのか、少しでも彼女の意識を他へ  
移すため髪を梳いたり、頬を指で突いたり、背中を撫でたり色々した。  
 その中で最も快楽を堪えられる物となったのは痛みだった。  
「んっ……んっ……もっと、もっと、叩いて」  
 沙良の言葉に導かれるままに葵は包帯で固定された右手で彼女の頭を抱きかかえ、空いた左手で  
お尻を叩く。  
「いいよっ……このままならもう少しは……もちそうっ……」  
 自分自身に言い聞かせるように言って沙良は少しずつ腰の動きを大胆にしていった。  
「んっ、あっ、ど、どうっ? 気もちいい?」  
「うん。でも、そろそろ限界」  
「あっ、うん。このまま続けるから私の中で出して」  
 葵の方が先に完全に気もちよく出来そうな事が嬉しくて、自身も限界が近いはずなのに  
自然と身体に力が入る。  
「出すよ」  
「は、はいっっっ。あぁぁぁぁ……」  
 葵が限界を向えてその直後に沙良が続き、ゆっくりと彼女の腰の動きは遅くなってくる。  
「だして、ぜんぶだして……わたし……のか、に……」  
 うわ言の様につぶやいた言葉をやり遂げるまでは止まらなかった。  
 
「ねぇ、葵。私はちゃんと葵を満足させて上げられたよ」  
「うん。気もちよかったよ。ありがとう」  
「お礼を言われる程の事はしてないよ。私は葵のお嫁さんとして当然の事をしたまで……  
それに、私も気もちよかったし」  
 最後の部分だけを小声で言いい沙良は体内に有る葵を拭わないまま彼の隣に横になる。  
「明日は起きたら薙刀の練習するからつきあってね」  
「それは良いけど、このまま寝るつもり?」  
「うん。少し汗掻いたし、なんかもう身体を動かすのがおっくうで」  
 昼間は暑さが残るといっても明け方になればそれなりに温度は下がる彼女の今の姿、  
一糸纏わぬ姿で夜を越せばどうなるかは想像は難しくない。  
「そんなこと言ってると風引くよ」  
「うーん、でも葵が暖めてくれるから平気でしょ」  
 彼の言葉にあくまでも反抗するかのように沙良は葵に抱きつくようにして目を閉じる。  
「…………」  
 こうなった彼女を起こして寝巻きを着る様に言っても聞き入れはしないだろう。かといって、  
着せて上げるにしても抱きつかれているこの状態では動きようが無い。  
 幾つか思うところも有ったが葵は足を使って隣の掛け布団を横に跳ね飛ばされた  
物と合わせて引っ張り寄せる。  
 一枚目を二人に掛け二枚目を沙良にだけ掛け葵も眠りに付く。  
 先程の言葉どうりなら彼は朝から彼女に付き合う事なる。  
 この代わりの無い神社で明日はどのような事が起きるかは緋早の現人神様と言えども  
分からないのであった。  
 

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