「いつも悪いわね。よろしくね、シスタールーエラ。」  
「はい。シスターヴァーナ。」  
託された小包。差出人はミセスカーター。いつもと同じ。  
前は月に一、ニ度程度しかなかったミムザへの荷は、ここ一月程は週に一、ニのペースに増えていた。  
北風の吹くなか灰色の塔まで移動するのを好む者など  
年寄りだらけのこの修道院にいるわけもなく、  
ましてやミムザ本人の直々の指名もあり、配達の役目は私が全て担っていた。  
シスターヴァーナは仲違いしていた私達が仲直りしたと安心している。  
年寄りだらけで自給自足も危ういこの修道院に寄付と言う名の潤いをもたらしてくれる大事な大事な預かりのお嬢様。  
そのお嬢様の寂しさを紛らわせてくれる友人の存在に安心している。  
 
灰色の塔にいつもミムザはいる。  
配達の役目。それだけならどんなによいことだろう。  
荷の山を抜け、奥の階段を重い足取りで一段一段上がっていく。  
コンコンと形だけのノックをして、木の扉をあける。  
最近ますます蝶番の調子が悪いようで扉がズズーっと床をする。  
部屋の主は私の姿を認めるとなんの警戒もない無邪気な笑顔で私を迎え入れる。  
「これ、荷物。」  
私は手渡し、ミムザが受け取る。  
本来なら私の役目はそれで終わるはずなのだ。  
だが、違う。  
荷を机に預け、ミムザが私の手を取る。  
「じゃあ、始めようか?」  
彼にしてみれば私の役目はこれからようやく始まるのだ。  
 
ベッドに腰掛けている彼はさっき渡したばかりの手紙を広げて熱心に目を通す。  
時々舌打ちをしたり、目をひそめたり。  
手紙の内容は彼にとって都合のいいことばかりではないようだ。  
彼には帰るべき場所がある。この修道院の外の世界に。  
私にはないけれど。  
いづれ来る別れの時まで私は彼と罪を重ねる。  
行き場がなく下腹部を見ていた目を上に向けると、紙から目をそらし私を見下ろす彼と目が合う。  
「手紙、気になるの?止まってるよ、お口が。」  
頬を軽く突かれ、私は奉仕と言う名の作業を再開する。  
唾液にまみれて、舌にからまれて、彼の股間にある半勃ちのものが少しずつ大きさも硬さも増していく。  
私の中を情欲の証でいっぱいにするために。  
 
はじめは目にする事さえ躊躇われた。  
手に触れる事すらおぞましかった。  
ましてや口に含むことなど考えもしなかった。  
だが、彼はそんなこと許さなかった。  
乱れたヴェールからはみ出る髪をひっ掴み、  
仁王立ちとなって目の前にそれをつきつけた。  
「舐めて。」  
口をつぐんだまま直視すらできない私。  
彼は私の頬にいきり立った自身を押し付ける。せかすように。  
赤黒く充血したそれは青ざめた頬よりもわずかに熱を帯びていた。  
おずおずと口を開く。  
「舌も使って。絶対に歯をたてるなよ。」  
 
私には拒否権などなかった。  
妹のような親友のはずだったミムザ。  
だが偽りの皮を脱いだ彼は今や専制君主となった。  
力で抗っても到底かなわない。  
縛られるのも、殴られるのも、苦痛を増やすだけ。  
ならば従順にやり過ごすだけのこと。  
与え、与えられる快楽の波に溺れていればいい。尽きて果てるまで。  
そして今日も君主は私のこころを、私のからだを支配する。  
 
彼の膝の上に子供のように抱きかかえられている私。  
乳房を後ろから揉まれ、髪を分けられうなじを舌でつうっと舐められる。  
「やらしいねえ、ルーエラは。こんなにびちょびちょにして。」  
彼は濡れた下着の上から果肉の割れ目に沿って指を滑らせる。  
指の動きにあわせて私のからだがぴくんと痙攣する。  
下着の中に侵入した指が蜜壷をかき回し、私の頭は朦朧となる。  
彼の指を今か今かと待ちわびてぷっくりと突起していた陰核がこねられると、  
私のからだは簡単に絶頂の山を超えていまう。  
尻には天を向き硬くなった彼の分身がこつりと当たる。  
「…っあ、っはあ、ミムザ…おねがい。」  
私は途切れ途切れのやっとの声でミムザに嘆願する。  
さらなる情欲の罪を。  
「お願いって何を?」  
彼は耳もとで囁き、そのまま耳たぶに舌を這わす。  
溢れ出た蜜は後ろへと伝いはじめ、彼はそれを不浄の穴に塗りたくる。  
「そこは、いや…」  
彼はわざと後ろの穴に指をそえ、入らない程度にわずかに指を沈める。  
「じゃあ、どこ?どうして欲しいの?」  
悪魔の囁きが私を惑わす。  
「違う、ところ…お願い、わかるでしょ?挿れて…」  
蜜壷の奥底から脳天を突き抜けて、私の女としての本能が泣叫ぶ。彼が欲しいと。  
 
 
「あら、ルーエラ。またミムザのとこでさぼってたのね。」  
シスターエイミが塔に行ったきり、中々帰って来なかった私を咎める。  
「すみません。ミムザがおもしろい本を持っていて、つい。」  
「そう。でもミムザと仲がいいのも大概になさいね。あの子は所詮預かり。そのうちここを出ていくんですから。」  
「はい、シスターエイミ。」  
私は真実を語らない。  
ミムザの為ではない。私の為だ。  
ミムザの罪を語る事。それは私の罪を語ること。  
汝姦淫するなかれ。  
神に誓ったはずの純潔はとうに失った。  
今の私は情欲の虜となった穢らわしい女。  
盛りのメスの獣。  
もし私の罪が露見したら、私がここを追い出されたら、  
街角に立ち春を売る娼婦にでもなるしかないのだろうか?  
このからだは知ってしまった。覚えてしまった。感じることを。  
そうしたのは彼。彼のからだ。  
 
 
灰色の塔、そのニ階。  
黒衣姿へと戻ったミムザは、情事の間放っていた読みかけの手紙に手を伸ばす。  
先に目を通したニ枚は彼にとっては不愉快な内容だった。  
(どうして姉上はそんな…)  
いくら過保護気味に溺愛する弟の為とはいえ、早まった感のある選択だ。  
だが、三枚目にこそ彼の望む結果が書いてあった。  
ひらりと落ちる紙。  
震える手。  
「…っはははっ。やってくれたね。」  
自然と笑いがこぼれる。  
これで準備は整った。  
もうこんなところにこそこそと潜んでいる必要はない。  
東が、イゼンダ候がついに動いた―  
 
 

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