その身を黒き衣に包む女達の、穢れ無き祈りを守るため、  
幾重にも罪を重ねるわたしのからだは穢らわしい白に塗られていく。  
この行為は何のために?  
誰のために?  
 
誰にもみつからずそこに行きたいのなら裏口にまわればいい。   
お飾りの錠は錆びていて容易に開く。  
そのまま植木に隠れて左に進め。  
楽園がそこにある。  
 
都の西北に位置する古き歴史を持つメイア修道院。  
神に祈りに捧げる修道女達の暮らす母屋と別に、  
敷地の一角には灰色の塔がある。  
水曜日の夜、修道女達の寝静まったあと。  
ほの暗い階段を上り、半開きの木の扉をのぞけば奇妙な光景が見られるだろう。  
 
 
 
 
「エミリ…おっと、今はシスターと呼ぶべきかね?」  
脂たっぷりの腹をたるませた髪の薄い男が重そうな皮の靴を脱ぎ捨てる。  
「どちらでも。御自由に。」  
女はひどく無感情な声で答えた。  
「まさかこんなところで我が青春の愛しき君にあえるとは。」  
言いながら部屋のベッドに腰掛ける。  
あまり頑丈ではなさそうな古いベッドは男の体重に対し不安気にミシミシと音をたてた。  
洗ってはありそうだが、繕ったあとや染みが目立つシーツを見て男は顔をしかめたが、  
目の前の女が腰掛けた彼の前に跪くのを見て機嫌をなおす。  
凝った刺繍の施された絹の衣をはだけさせている男は40近くだが、  
髪のせいかより老けて見える。  
質素な黒い衣を纏ったままの女の方は実は30をゆうに超えているが、  
まだ色褪せないその美貌が彼女を実年齢より若く見せている。  
「あの高嶺の花だった君が、信じられないよ。」  
女は無言で顔を下げ、でっぷりした男の腹のさらに下に近付く。  
男は女の行為をされるがままに見守る。  
 
男の腹の肉で悲鳴をあげそうなボタンを外し、  
細い指で男のものを取り出す。  
脂くさい男のそれはやはり少し脂臭い気がしたが、  
無表情のまま女は形のいい赤い唇を開き、萎びた男茎を一舐めしてから咥える。  
たっぷりの唾液を舌で男茎に塗りこみながら、手のひらでは睾丸を転がす。  
男茎は彼女の口の中で膨らんでいく。  
男はうっとりし目で、奉仕する彼女の頭を、正確には黒いヴェ−ルを撫でる。  
「くくく。すごいね、もう元気になってきたよ。最近は妻とは御無沙汰だが、君はその辺の娼婦よりはよっぽど上手い。」  
女はすっかり岐立したそれを咥こんだま上下に動く。  
見え隠れする赤黒い男茎は彼女の唾液でぬらぬらと光る。  
睾丸をいじっていた手はいつの間にか男の菊門に移り、  
指を入れるか入れないかの微妙な愛撫を与える。  
長い睫に覆われた目はふせがちで、  
時折男の反応を確かめるために上目遣いで見上る。  
その眼差しの持ち主ははかつて世の男達が欲してならなかった気高き女。  
どんなに求められても決して振り向かない難攻不落の深窓の令嬢。  
男にとっては他の女とは違う、特別な存在だった。  
 
彼女が赤いドレスを着れば他の赤いドレスの女はただの壁の花。  
彼女が青いドレスを着れば他の青いドレスの女は衣装を替えた。  
彼女が黄のドレスを着れば他の黄のドレスの女は泣き帰った。  
周りも自分も彼女に白のドレスを着させる事が目標だった。  
 
だが今は彼女は黒衣に身を包み、肉欲にまみれた男の肉棒をしゃぶっている。  
 
今日もまた顔も名前さえも思い出せぬ、かつて自分を想ったという男の相手をする。  
一人が相手のこともあれば、複数を相手にしなければならないこともある。  
皆かつての私を知る者。  
堕ちた私に嘆く者もいれば、悦ぶ者もいる。  
プライドなどとうになくなった。  
貰えればいい。  
この修道院を維持するための見返りを。  
 
神に仕える身でありながら、かつての華やかな暮らしを忘れられない愚かな修道女達。  
満足に織物ひとつできないのに、  
畑仕事ひとつ覚えないのに、  
どうしてそう金のかかる物を欲しがる。  
ヴェ−ルの下に隠れるその髪に塗る香油は必要か?  
冬は毛皮が必要か?  
葡萄酒は異国から取り寄せるのか?  
 
修道院は自給自足の生活など建て前に過ぎない。  
かつての庇護者は権力を失い、  
いまやこの土地さえも奪われようとしている。  
『信心深い』有力な庇護者の支援あってこそ存続の道が開かれるのだ。  
 
そして今日も『信心深い』男がやってくる。  
 
足下には脱ぎ捨てたられ黒衣。  
ヴェ−ルは一度目の放出のあと外された。  
無言で無表情だった気高きエミリアはもういない。  
「ああん、もっと突いて、もっと…」  
ここにいるのは男に抱かれて悦ぶ淫乱な罪深き修道女。  
ぜい肉をぶるぶる言わせながら、男は後ろから腰を打ちつける。  
膣に男茎が出入りするのにあわせて私も腰を動かす。  
愛撫で充血した秘唇を開いてクリトリスを指でこねくりまわされ、  
それに応じて膣を締め、中にいる男茎にも刺激を返す。  
「いいよエミリア、最高だよ。」  
乳房を鷲掴みにしながら男は一心不乱に腰を振る。  
大分スピードが早くなってきた。  
もう到達が近いのだろう。  
私も息を荒くし、切ない吐息を漏らす。  
 
額に汗をにじませた男が尋ねる。  
「中でいいんだろ?」  
男は喘声にかき消さそうな私の返事を聞くと同時に、  
私の子宮めがけて膣の最奥に白濁を放出した。  
既に自分の愛液がつたって濡れていた股は、  
力を失った男茎が抜かれると同時に更に白で上塗りされる。  
実ることのなかった子種がゆっくりと伝う。  
もぞもぞと男が動き出す。  
着替えを手伝おうと動いた瞬間、  
なかに残っていたものがぽとりとおち、足下の黒衣に白い染みを作った。  
 
男は帰り際に情事の匂いの残る部屋をあとにしながら言った。  
「君の望む額は承知した。だが何故君は神に仕えながらもこんなことを?」  
「勘当された時から私の居場所はここにしかないの。ここを守る為ならなんでもするわ。」  
そう、私はここをつぶすわけにはいかないのだ。  
ここは私の家。  
 
「また来ても?」  
男は階段をおりながら尋ねる。  
私はにこりと微笑んで言う、かつて王をも惑わすと言われた笑みで。  
「ええ。お友達も一緒でもいいわよ。」  
男は複雑な顔をしていた。  
私はさよならを言って扉を閉めた。  
男がまた来るかはわからない。  
だが身を汚す痴れ事は一度にしておいた方が身の為だ。  
じゃないと堕ちてしまうから。  
私の様に。  
 
かつての私。  
容姿への賛辞は欲しいままに。気位は高く、できるのはお愛想の微笑みだけ。  
両親は厳格だった。  
人目を盗んでの逢瀬を決して許さなかった。  
でも今は違う。  
この修道院こそが私の家。  
神に祈る。懺悔もする。  
そして快楽という名の罪を求め、からだをひらく。  
黒衣に本心を隠して。  
 
水曜日に信心深い男達は闇にひそんでやってくる。  
ここは私の楽園。  
 

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