誰にでも初めてがあるだろう?
僕の場合は決して格好つけれるものなんかじゃない、
大失敗の部類に入るかもしれない。
これはきっとどこかで聞いた事のあるような話。
大人ぶりたいだけの子供だった僕。
そんな僕を彼女は抱き締めてくれたんだ。
年に数回しか訪れることのないテイウェンの都。
訪れる度に変化する都会の街並に心踊らせる僕をよそに、
父は用事と言って留守にしては酒や香水の匂いを漂わせ、
母は買い物だの舞台だの田舎暮らしではできない遊びにかまける。
僕はと言えば、
友人のいないこの地では年の離れた従兄弟位しか話す相手もなく、
父のあとを付けようと思ったのはほんの暇つぶしだったのだ。
父があちこちに愛人を囲っていることなど家では暗黙の了解だった。
冷えきった夫婦などどこにでもいる。うちだけの話ではない。
体裁を守るためだけの結婚が普通の貴族ならばなおさらだ。
だから僕は父の浮気を責める気持ちなど微塵もなく、
ちょっと興味があっただけなのだ。
限られた逢瀬を重ねる父の特別な浮気相手に。
父の書斎で偶然みつけた書きかけの手紙。
それは普段寡黙な父からは想像できない程の情熱を書き綴った恋文だった。
〜都に行く時しか君に会えないのが辛い。
領地など放り出して今すぐ会いに行きたい。
君をあんな場所から連れ出してしまいたい。
愛しいエミリア〜
全てに目を通す事など恥ずかしく到底できなかった。
あの父が、女の問題は金任せと豪語してた父が、
まるで恋をしたばかりの少年のような真直ぐな思いをぶつけようとしている。
級友の書いた間抜けな恋文を皆でまわし読みした時をふと思い出した。
これを書いたのが級友だというのなら笑い飛ばすことができるのに。
床に散らばる紙屑も全てエミリアへの思いを書き綴ったもの。
金や宝石だけ与えてればつなぐことのできる女ではないのだろう。
エミリアという女性は父の愛人の中でも別格というのがわかった。
母方の祖父の家に招かれての晩餐会。
時計ばかりを気にして落ち着かない父は、
母が世間話に花を咲かせているのを尻目に「先に帰る」と供も付けず馬車を呼ぶ。
あやしい。
そう睨んだ僕は密かに御者に金を握らせ耳打ちする。
「父を降ろした場所を後で教えろ」、と。
従兄弟に適当に口裏をあわせてもらい、戻ってきた馬車に乗り込む。
父を降ろしたと告げられた場所は貴族の住まう邸宅前でも娼婦の集う歓楽街でもなく、
予想に反した場所だった。
メイア修道院─
時間も時間だ。
普段来訪者を迎えるための正門は既にかたく閉ざされている。
月明かりにそびえたつ白い建物は聖なるものというよりは無気味な存在だった。
こんな時間に教会でもなくなぜ修道院に?
父は礼拝すら面倒臭がる人なのに。
「戻るか?」と尋ねる御者に金を払い、余計な詮索をされぬうちに追い返す。
きっちりと閉められた正門は誰も歓迎する気配はなく、
他の入り口を探っていると裏手に錆びた錠のついた扉を見つけた。
開かぬ覚悟で扉を押すと、容易に開く。
真っ暗な敷地に入ってはじめて自分が招かれざる侵入者である事に気付く。
もし見つかりでもしたら…、不安が無いわけではなかった。
だがいざとなったら道に迷ったと通せばいいだろう。
少なくとも僕は盗人や殺人鬼に見られるようななりはしていない。
皆が寝静まったのであろう真っ暗な敷地内で
不自然に明かりの漏れる場所を見つけ、木々に隠れながら進む。
おそるおそる扉を開け、中に入ると麻袋に入った芋の山に小麦のこぼれたあと、並んだ樽。
食料などの貯蔵庫になっているのか?
いい加減見当違いな事をしてる気がしてきた。
もう戻ろうか、大通りに出れば馬車も捕まるだろうし…
あきらめかけた時、上からかすかに漏れてくる声と見過ごしていた階段の存在に気付く。
いら立ちを押さえながらどれ程待ったか。
上から近付いてくる足音を聞き、樽の陰に隠れて待つと、
痩せ形の長身で顎髭をたくわえた紺のコートの男が現われる。
父だ。
僕は音をたてぬように潜んだまま、父が出ていくのを見届ける。
そして扉が閉まるのを待って僕は階段を一気に駆け上がる。
そうして明かりの漏れる部屋をこっそり覗く。
だが、みすぼらしい寝台と、机、ランプが置かれるだけの質素な部屋は無人だった。
ただ、人のいた気配は残っていた。
皺の残る乱れたシーツ。床に落ちたままの枕。
そして何よりの証拠は自分も知る「あの行為」の特有の臭い。
間違い無く父はここで愛人との密会を愉しんでいたのだろう。
しかもこのような神聖な場所で…
「忘れ物かしら?」
急に背後からかけられた声に驚き振り向くと、
そこには同じく想定外の人物に驚愕を隠せぬ顔をした黒衣の女性が立っていた。
「そう、ファンダルさんの息子さんなのね。」
窓を閉じながらその修道女は言った。
「勝手に忍び込んだことは謝ります。父さんがどんな人に会ってるのか知りたくて。」
情事の跡の残るベッドに腰掛けながら修道女はくすりと笑う。
「それで、浮気をとめるつもりだったの?」
浮気、と聞いて確信する。
この女が、神に仕えるはずの修道女が、父の恋焦がれるひとなのだと。
「あなたが、エミリア?」
名前を言い当てられると彼女は眉をぴくりと動かし、うなずいた。
自分よりはかなり年上に見えるが、父よりは相当年下のように見える。
一体このひとはいくつなんだろう?
「別に父さんやあなたのことを批難しにきたんじゃない。父さんにとってあなたは愛人の中でも特別なみたいだったから、見てみたかったんだ。読んだこっちが照れるようなラブレター書いてたし。」
愛人と言われても特別と言われても彼女は眉ひとつ動かさなかった。
「好きだ、愛してる、一緒に暮らそう、ファンダルさん以外にもそう言ってくれる人は多いわ。」
彼女は枕を拾いあげる。
「私にしてみればあなたのお父様もいいお客さんの一人。ひいきなんてしないわ。」
「でも、あなたシスターでしょう。こんな娼婦の…」
真似みたいなことしていいのか?と言い終わる前に唇を塞がれる。
まっすぐ立った彼女の目線の高さは僕よりわずかに上。
「あなた名前は?」
吸い込まれそうな瞳で見つめられながら問われる。
「ウィル…」
「そう、ウィル。教えてあげましょうか?私がここですることを。」
知りたくない、と言ったら嘘になった。
級友達と競いあうのはキスをした、尻を撫でた、胸に触った、
そんな稚拙なレベル。
まだ見ぬ女の体を本や話や絵だけで想像し、夜な夜な手淫にふける。
年の近い女など所詮自分と同じ未成熟なからだ。
からかったところで物足りない。
憧れるのは大人の女性。自分など相手にするはずもない年上の人。
大きな胸、柔らかな曲線を描く尻、そしてまだ知らぬ秘密の場所。
自慰で得るようなかりそめではない、本当の絶頂を与えてくれる場所。
何も声を出せなかった。肯定の言葉も、否定の言葉も。
目が離せなかった。
彼女が黒いヴェ−ルを外し、亜麻色の髪が揺れるのを。
足下から巻くりあげた黒衣が腰を抜け、臍を越え、
袖から一本一本腕を抜き去り、
修道女がただの女に脱皮していくのを。
生まれたままになった彼女のからだは絵とはまるで違う
血の通った生身の女で、
それはとても美しいものだった。
心臓は早鳴る一方であちこちに血が上っていくのも感じていた。
彼女の白い肌のあちこちに残る赤い痕は父がつけたものか?
彼女は強制するでもなく、僕をベッドに座らせ、
向かい合って自分も腰掛けた。
「触ってみていいのよ。」
おそるおそる右手を伸ばし、柔らかな胸の膨らみに手をそえる。
彼女は微笑んだまま、僕の行動を見守る。
左手も伸ばし、手におさまりきらない膨らみに指を這わせる。
「撫でるだけ?もっと色々してみて。私が気持ち良くなるように…」
おそるおそる手を動かす度に形が変わる乳房。
張りのある白い乳房の先にはピンク色の乳輪と
そこに突起する小さな乳首。
僕は乳首を指で挟んでみたり、押し込んでみたり、擦ったり、
いろいろ弄ったが、
やがて本能を我慢できない赤児のようにその胸にむしゃぶりついた。
ちゅうちゅうと音をたてながら彼女の乳首に吸い付く。
「おっぱいが好きなのね。ふふ。」
子供だと指摘されたようで恥ずかしかったが、今は己の欲望に従った。
右の乳首を堪能したら左の乳首へと移動する。
「っあん」
口のなかで突起した乳首に軽く歯をたてると今まで無言だった彼女が声を漏らす。
舌で乳首をころころ転がし、もう一方の乳首も指でしごきあげる。
彼女は僕の髪を撫でながら乳首ばかりを弄ってた僕の右手をとり、
下腹部へ、さらにその先へと導く。
彼女の髪の色と同じ亜麻色の陰毛、そこに隠された未知の場所、
女の恥部。
「ここも触ってみて。」
もっとごわごわした感触だと思っていたのに、
彼女の毛の流れは柔らかで、
僕の指を自然と内側へと導くようだった。
外側の渇いた毛が内へ進むと湿った毛へと変わり、
あたたかな恥肉が僕の指に触れる。
ぬるりとするのは彼女の愛液か、父の放った精か。
そんなことはどうでもいい。
肉のヒダをかきわけ、男のものをおさめるべき口を捜す。
指が比較的無抵抗に侵入していく箇所を見つけ、
答えを待つ生徒のように彼女を見る。
「そう、そこよ。男が女を悦ばせる場所は。」
もう十分にとろとろになっている蜜壷は、
僕の指をも溶かしてしまうんじゃないかと思った。
指を更にすすめ、
まとわりついてくる肉壁をはらうように必死で動かすと
彼女の顔は紅潮し、せつなそうな吐息をもらす。
ただ指の抜き差しを繰り返すだけなのに
彼女のそこはいっそう蜜を増やし、
抜いた指は透明な粘液に覆われゆっくりと糸をひいた。
色は似てても唾液とは違う、不思議な香りがした。
彼女はズボンの中で大きくなってしまった僕のペニスを解放しようと
ボタンに手をかける。
女の人に服を脱がせてもらうなんて子供の時以来で、
彼女の指がボタンを一つはずす度に僕の理性の箍も外れるようだった。
すっかり裸にされた僕の体は、
女性である彼女と比べても貧相なところがあり、
無駄な脂肪の無いかわりにさほど筋肉もない自分を恨めしく思った。
「ここだけは立派に大人ね。」
彼女の白くひんやりとした指が赤く熱を持つ僕のペニスを包み込み、
先走りの液が滲む鬼頭を優しく撫でる。
興奮しきったペニスを自分以外の手で触られるなど初めてのことで、
僕はもうそれだけでも爆発してしまいそうだった。
彼女も僕の状況を悟ったらしく、ベッドに横たわると足を大きく開く。
「もう、入れたくてたまらないんでしょ?」
指で広げ、愛液がしたたるヴァギナを僕に示す。
僕は彼女におおいいかぶさり、彼女の指に導かれて挿入を開始した。
手でするのとはまるで違う。信じられない感覚。
彼女のなかは温かで、
愛液をたっぷり分泌して潤った肉壁が僕にからみつく。
体中の全神経がペニスに集中してその快感を享受していた。
もっと知りたい、もっと感じたい。
からみつくような肉の抵抗を味わいながら
ゆっくりとペニスを進めていく。
結合部からはみ出た愛液が互いのからだに伝っていく。
「ウィル、いい子ね。そのまま奥まで…」
もう進めないというところまで収めたところで、
僕はぶっ飛びそうなくらい気持ち良くて、
それ以上何もできなくなっていた。
「動いていいのよ?」
彼女に声をかけられてようやく
過去の想像でのシュミレーションを思い出す。
だが僕は加減ができず、
自分のものを少し抜いて挿すつもりが一気に全て抜けてしまった。
己のもので広がったヴァギナに照準をあわせるも、
焦ってしまい上手くいかない。
彼女はゆっくり起き上がり、僕を横たわらせると自分が上になる。
天井を向いたままの僕のペニスに彼女がゆっくりと腰を落とす。
彼女の重みもあってか、
僕のペニスはさっきよりさらに深く彼女に包まれているようだった。
「私に任せて…あなたは感じていればいいの。」
彼女に囁かれる。
彼女はそのまま腰を上下させ、僕のペニスが彼女の中に出入りする。
彼女が腰を落とす度に僕のものが彼女の一番奥をつつく。
「気持ちいいのね、さっきより大きくなったわ。」
この肉と肉がこすれあう快感はなんと呼べばいいのか?
僕はからっぽの手を彼女の揺れる乳房に運ぶ。
腰の動きに合わせて跳ねる乳房を下から支えるように持ち上げ、
ふたつの乳首を摘むとそれに呼応して彼女の膣がきゅっと締まる。
それと同時に僕のペニスに甘い電流が走る。
限界のラインで爆発を押さえてていた僕は突然の強い快感の波に、
逃げるすべもなくいきなり絶頂を迎えてしまったのだ。
僕は低く呻き、ペニスがびくびくと脈打つのを感じた。
射精の瞬間は確かに気持ち良かった。
だけどあっけにとられた彼女の表情を見た途端、
僕はどうしようもなく情けない気持ちになってしまった。
彼女が腰をあげると、
先に果ててしまった僕のものはだらしなく頭をさげ、
白くまみえる己の精液がことの終りを改めて知らしめる。
時間にしてみればわずかな絶頂のあとに僕を襲うのは虚無感だった。
そして、女の体を知ったことへの喜びも、
自分だけ先走ってしまったことへの哀しみも、
全てが一気にやってきて僕は泣きだしてしまったのだ。
きっと彼女は呆れているのだろう、僕はそう思った。
だが、彼女は僕を抱き寄せ、頭を撫でる。
子供をあやす聖母のように。
「泣かないで、いい子。ウィル。」
そう言いながら。
僕は彼女に抱き締められたまま、眠りに落ちた。
「ウィル、起きて、起きなさい。」
眠い目をこすりながら身を起こすと、すっかり元の装いに着替えた彼女が立っていた。
「もう少しすると起きてくる人がいるから。年寄りの修道女は朝が早いのよ。そろそろ発たないと。」
言いながら彼女は僕に服を着せていく。
脱がす時と同じ、慣れた手付きだった。
「父さんに、ばれるかな?」
僕は尋ねる。
それ以前に従兄弟が上手くごまかしてくれたかも心配なのだが。
「そうね、道に迷って親切なシスターに泊めてもらったとでもいいなさい。」
彼女はくすりと笑う。
「奥様の手前では怒れないはずだから。」
「エミリア、ありがとう。」
僕は彼女に礼を言った。
僕達のした事が良い事かわからないけど、
そう言うのがふさわしい気がしたから。
「どう致しまして、かしら?本当は私を抱くのは凄く高いのよ。」
彼女はいたずらっぽい目をして言う。
「今日の事は二人の秘密。いっぱい恋をして、女の子も抱いて、そうすればすぐ忘れる。こんなおばさん修道女のことは。」
黒衣をひるがえし、彼女は僕に背を向ける。
「ちゃんと女のからだをいかせるようになって、まだもの足りないなら私が相手してあげる。ただし次は有料よ。」
言いながら振り返る彼女の微笑みは、
いつか絵で見た聖女のようだと思った。
「さよなら、ウィル。」
「さよなら、エミリア。」
それが僕とエミリアの最初で最後の思い出。
月日が過ぎ、僕を取り巻く環境も目まぐるしく変わっていった。
僕はエミリアの言うように恋もしたし、そこそこ女も抱いた。
燃えるような恋もあったし、悦ぶことも悦ばせることも覚えた。
だけどどこか渇いていた。欲していた。
あの日の虚無感を埋める何かを。
運良く学長の推薦を受けることのできた僕は
上の学校に進学することになり、
数年振りにテイウェンの都を訪れた。
都での生活にも慣れた頃、ふと思い出したのはエミリアのこと。
太陽の光の下に見るメイア修道院は何のやましさも無く、
僕や父達の行為など無縁のようだった。
昔のように飛び込む勇気はまるでなくなってしまい、
門の周りを掃除していた老齢の修道女にエミリアの事を尋ねた。
だが老女の答えはエミリアなんてシスターはいないという
期待外れのものだった。
試しにまわった裏門も新しい扉に変わっており、
立派な錠もついていた。
あれは少年の日の夢か?
立ち去る僕が最後に見たのはひっそりと建つ灰色の塔だった。
大人ぶりたいだけの子供だった僕。
そんな僕を彼女は抱き締めてくれたんだ。
今彼女に会ったなら、
大人になったねと言って微笑んでくれるのだろうか?
この渇きは今日も癒えない。