夢見がちな少女時代。  
 
異国から取り寄せた生地で仕立てたドレスに  
都一の人気職人の作った靴、  
祖母から譲られた真珠のネックレスにあわせた真珠の髪飾り。  
鏡に写るいつもより着飾った自分を見てはおおはしゃぎだった。  
「お嬢様、本当にお綺麗です。」  
「お人形遊びをしてたこの子がいつの間にこんなに綺麗になって。」  
「さすが我が娘。今夜の注目の的になりそうだ!」  
侍女達や両親におだてられて有頂天になった私は、  
 開かれた扉、そこに立つ私。  
 皆が一斉に私を見る!  
 「なんて美しいお嬢さんだろう。」  
 「あの娘の名は?」  
 あわてふためき我先にとダンスの相手を申し込む男達。  
 隅にかたまって私に嫉妬する女達。  
 〜舞踏会の話題を独占する新顔登場!〜  
なんてことを想像して、馬車の中で悦に浸っていた。  
だがそんな馬鹿なこと現実にあるわけもなく、  
広間に颯爽と現われた私に目を向けるものがいても場の空気が変わることなどなく、話し掛けにくるのはもともとの顔見知りや、その家族らが関の山。  
会場にいる女性は未婚と思しき者であれ、そうでない者であれ、  
私より大人ばかり。  
綿を詰めて足りない膨らみを補っているいる貧弱な自分の胸と、  
締め上げたコルセットから溢れそうな皆の胸。  
腹を空かせたで狼すら食べなそうな骨ばった自分の腕と、  
マシュマロのように柔らかそうな皆の腕。  
どんなに着飾っても、幼い自分はせいぜい『かわいいお嬢さん』で、  
舞踏会の花となるべきはもっと大人の『美しいひと』なのだと悟った。  
 
一曲ダンスを踊る約束をしてた従兄弟は一向に私の許に来ず、  
知り合ったばかりの年の近い女の子とおしゃべりする。  
その彼女が指差す会場で一際賑わう一角。  
そこに群がるたくさんの男達。  
その中には私との約束をすっぽかした従兄弟の姿もあった。  
輪の中心に見えかくれする一人の女性。  
あれは誰?と尋ねる私に教えられた名は、  
エミリア=オーグス  
オーグス家といえば都でその名を知らぬものはない、五公家が一つ。  
その令嬢とはいえ何故あんなに男が群がるのか理由がわからなかった。  
だが、渋々ながらも男の一人の手を取り、華麗なステップでダンスを踊りはじめる彼女の姿を見て、理由を知った。  
色とりどりのドレスを着飾った女達のなす花園。  
その中にあっても彼女だけは一際目立つ花だった。  
彼女の着るエメラルドグリーンのドレスはリボンもフリルも控えめなのに、デザインのシンプルさが着る人自身の美しさをかえって引き立ていた。  
きれいに巻かれた亜麻色の髪にはえる翡翠の髪飾り。  
彼女の瞳と同じ色。  
私は少し着飾っただけの自分に何を自惚れていたんだろう。  
彼女は、いや彼女こそが、花と呼ぶにふさわしい大人のひと。  
 
はじめて彼女を見た時、  
まるで昔好きだった絵本のお姫様が抜け出したのかと思った。  
そして夢見る少女だった私は、  
今の自分は幼くともあと数年もすれば、彼女の様に光り輝くのだと信じて疑わなかった。  
 
夢見がちの少女は、結局夢を捨てきれぬままで大人の階段を上ってしまった。  
 
「嫌です。私は結婚などいたしません。」  
「でも、ノーバー様は大変いいお人なのよ…」  
泣き叫ぶ私を必死であやす母。  
「嫌です、絶対に嫌です。」  
頑なに拒否を続ける私。  
自慢の口髭をなでながら不機嫌そうにに黙り込む父。  
男兄弟の中で唯一の女として生を受けた私は多少我侭に育ってしまったところがあって、意に沿わぬ縁談にぐずっていれば父も母も折れて断ってくれるとばかり思っていた。  
だが、適齢期を迎えた私は両親、とくに父にとっては駒でしかなく、  
旬を過ぎていい縁談が消え、持参金の額があがってしまう前に嫁がせてしまおうと必死だった。  
 
結婚などしたくなかった。あの方以外とは。  
あの方に恋い焦がれた。夜も眠れぬほど。食事も喉に通らぬほど。  
いつか必ず結ばれるものと信じてた。  
けれどあの方はもう手の届かぬところに行ってしまった。  
私の思いを置き去りにして。  
いっそ死んでしまおうかとも思った。  
けれどそれは神の教えに背く行為。  
ならばいっそのこと神にすがれば救われるのだろうか?  
 
「どうしても結婚しなければいけないのなら、私は修道女になります。」  
2日間に及ぶ自室での篭城のあと、仲介役の従兄弟を通して父母に伝えてもらった言葉。  
私の決意がかたいと知り、気落ちする母と、怒ったままの父。  
だが、その行き先を告げた時、父の顔色が変わった。  
メイア修道院。  
昔の王が幼くして亡くなった愛娘を忍び建てたものと聞く。  
そこを選んだのにたいした理由はなかった。  
都にあるいくつかの修道院の中で最も由緒があるから、という位か。  
修道女の道を選んだ私をひきとめようとするものは、家族だけでなく、友人にもいた。  
特に友人の一人で噂好きのものは、メイア修道院の名を聞くと顔を曇らせ、必死な形相で考え直すようにと繰り返すのだった。  
 
そういえばあの方に恋していた頃の私は、  
流行りの作家が書く恋愛小説にどっぷりはまっていた。  
あの頃の私は愚かにも悲恋の物語の主人公にでもなったつもりだったのだろう。  
 
決意の鈍らぬうちにと飛び込んだ修道院。  
あちこち案内されたあと、院長の老修道女、シスターセナに案内された寝室。紹介された同室となる先輩修道女達。  
そのうちの一人の顔を見て思わず声をあげる。  
「あなたは…エミリア!」  
名を呼ばれた彼女がゆっくりとこちらを見る。  
間違い無い。  
翡翠色の瞳に以前ほどの輝きはなく、唇も色なく渇き、頬も少しこけた気がするが、黒衣を着ていようとも隠しきれないかつて知る花の色が残る。  
「あら、お知り合いだったかしら?」  
彼女は抑揚のない声で、どうでもいい事のように返事をする。  
そういえば彼女と直接話をしたことなどなかった。  
私が一方的に知っているだけ。  
「あ、あの、すみません。あなたは私達の目標でしたから、つい…」  
ほんの数年前まで世の女性達のなかで頭一つ突き出た絶対の存在だったエミリア。  
彼女を妬み、心無い噂を流すものもいれば、  
あからさまな嫌がらせをするものもいた。  
けれど社交界にデビューしたての私や同年代の友人達にとっては、彼女の立ち居振るまい、着こなし、持って生まれた美貌、とにかく彼女の持つ全てが憧れだった。  
病を患っているらしい。  
風の噂を聞いたきり、どこの夜会でも見かける事はなく、その名さえも時の流れに忘れてかけていた。  
一体何故ここにいる?  
「エミリアを知ってるってことはあんたも貴族の出かい。てことは院長、この子は預かりかい?」  
怪訝な顔をした別の修道女がシスターセナに問う。  
「いえ、シスターエッカはれっきとした見習いですよ。」  
セナの否定の言葉に何人かが警戒の色を薄める。  
「あら。じゃあれっきとしたお仲間だね。よろしくね、シスターエッカ。」  
「よろしくお願いします。」  
「シスターエッカ、よろしくね。」  
差出された右手。  
はじめて握ったエミリアの手はどこかひんやりとしていた。  
 
修道女となって迎えたはじめての夜。  
二度と会うこともないあの方を思い、ごわごわとした薄い布団を深々とかぶり声を殺して涙した。  
 
「シスター…えっと…」  
目はあっているのに顔と名前が一致せず、続きが出てこない。  
「私はスウだよ。シスタースウ。で、なんだいエッカ?」  
シスタースウはするすると器用に芋の皮を剥きながら、  
皮と一緒にほとんど実のなくなりつつある私の剥いた芋を見る。  
「あの、聞きたいことが…」  
「エミリアのことかい?」  
スウに即座に切り返され驚くも、疑問をぶつけてみる。  
「あの方は何故ここにいるんでしょう?」  
「おまえが修道女になった理由を私が知らぬように、おまえも彼女の理由を知らない。それでいいんじゃないかい?修道女がひとの過去を根ほり葉ほり聞いていいのは懺悔室の中だけさ。」  
「そうですか…あっ、じゃあ今のことならいいんですよね、シスタースウ?」  
いよいよ実すらなくなってきた芋のかけらが床に落ちる。  
その芋を目で追って、スウはどう見ても傷んでいる芋を私に手渡す。  
「お前はしばらくこれで練習しておくれ。芋がもったいない。まだ聞きたいことがあるのかい?」  
傷んだ部分が指に触るとぬるりとして、触った私の指も腐ってしまいそうで嫌だったが、とりあえずナイフを当ててみる。  
「あの、最近気付いたんですけど、エミリアって時々夜部屋にいないことがないですか?真夜中にお祈りでもしてるんでしょうか?」  
スウはナイフを止めた拍子に芋が左手から滑り落ちる。  
そして慌てて芋を拾いながらも答える。  
「お前のいびきや歯ぎしりがうるさかったんじゃないかい?それか頻尿なんだろ。」  
スウはちゃかす様に笑う、どこかひきつった笑顔で。  
「えー、私いびきなんてかきませんよ!多分。それにエミリアが頻尿なんて、夢を壊すこと言わないでくださいよ。私昔エミリアに憧れてたんですから。って、あっ…」  
傷んでいた芋がぼろっと崩れ、形を失ってまたも床に落ちた。  
今度はスウは腹を抱えて笑った。  
 
結局私は二つの夢を失った。あの灰色の塔で。  
 
同室の修道女達は皆気付いているはずなのに気付かない振り。  
あきらかにおかしいと思った。  
水曜の夜にだけ、かならず部屋を抜け出すエミリア。  
木曜の朝には誰よりも早くに起きて炊事場にいるエミリア。  
今夜こそこの謎を解き明かそう、そう決意しながら床に入ってしばらく待つもうとうとと眠気が襲う。  
だが、何かの物音に遠のいていた意識を取り戻した私は、寝巻きではなく黒衣姿のエミリアが扉を開けて出ていくのを目撃した。  
私は寝巻きのまま急いで後をつける。  
もしエミリアが礼拝堂で祈っていたのなら、  
書斎で本でも読みふけっていたのなら、  
私の抱いていたちっぽけな疑問はそこでうち消せたはずだ。  
だが、彼女は母屋を抜け、井戸の前も素通りし、敷地の隅にある貯蔵庫、皆が灰色の塔と呼ぶ場所へと吸い込まれていく。  
普段から薄暗いそこに夜入るのは勇気が入り、塔の前でしばらく悩んだが一度寝室へと引き返す。  
だが、冴えてしまった頭はなかなか眠りに落ちず、  
エミリアも一向に戻らない。  
私はもう一度靴を履き、寝巻きの上にストールを巻き、  
他の者を起こさぬように、そうっと扉をしめた。  
 
寝室でごそごそと起き上がる二つの影。  
「ああ、エッカは気付いてしまったんだね?」  
「知らん方が幸せなものを…あれはもう誰にも止められないというのに。」  
その声は心から嘆いているようだった。  
『彼女』のことを。  
 
(おかしい、さっきは真っ暗だったのに。)  
再び訪れた塔は明らかに二階部分の窓から明かりが漏れていた。  
おそるおそる扉を押し、自分のたてる足音にさえも怯えながら上へと向かう。  
階段を進むにつれて、明かりも、声も、強くなる。  
「…あっ…っはん…」  
途切れ途切れ聞こえるのはエミリアの切なそうな声。  
ビタンビタンとなにかのぶつかりあう音。  
木の扉に耳をつけ、更なる音を拾う。  
「…あ、ああん…いいわ、ハンス…」  
エミリアが口にした名に一瞬心の臓がしめつけられる。  
それが男の名だったからという理由ではない。  
それが私の愛した男と同じ名だったからだ。  
扉の向こうで繰り広げられるのはおそらく男女の睦み合い。  
これがどこぞの貴族の屋敷の中ならまだいい、  
よりによってここで、この修道院の中で、  
神をも侮辱するいかがわしい行為が?  
「あん、抜かないでえ。」  
だらしないエミリアの声に、凛とした聖女であった彼女の偶像が崩れていく。  
「ひゃあっあん、あんおくぅ…いいっ」  
再びビタンビタンという音が再開し、エミリアの嬌声も一段と高くなる。  
扉の向こうにいるのはエミリアともう一人、  
荒い息使いしか聞こえぬハンスというどこにでもある名の男。  
「ああん、ハンス、いっちゃう、いっちゃう。」  
ビタビタというぶつかりあう音は早まり、  
男の荒い息とエミリアの切ない吐息が混じりあう。  
「あっ…あん、出して、濃いのを全部私に頂戴!」  
「…っく、エミリア!」  
余韻のように肉と粘液のおりなす音はしばらく続き、  
そして、静寂を迎えた。  
エミリア。そう叫んだ男の声はとても聞き覚えのあるものだった。  
 
ギィー、と音を立て、私は扉をあける。  
中にいたのはベッドの上に寝そべり全裸のからだを惜し気も無く曝したままのエミリア。  
そしてベッドの脇に座りそそくさと己のものの後処理をしていたのは同じく全裸の男。  
男は一瞬だけ私を見、ばつが悪そうに顔をそらす。  
彼の名はハンス。私の愛した男。  
「あら、エッカ。立ち聞きなんかしてないで入ってこれば良かったのに。」  
エミリアは身を起こすと恥ずかしげも無く股を広げ、  
亜麻色の陰毛と、ピンク色の恥肉に伝う白い液体をシーツの端で拭う。  
彼は私と目をあわせようとしない。下を向いたまま。  
「…どうして?」  
私が見つめる男は何も言わない。  
「どうしてって何がかしら?ここに男がいること?私が彼と寝てること?」  
エミリアは指についた白い粘液のようなものをぺろりと舐め、渋い顔をする。  
「…どうして、ハンス、あなた御結婚…」  
後が続かない。  
彼は結婚した。私とは永久に結ばれなくなった。  
なのにどうしてここで、エミリアと不貞を?  
私と同じように神に操をたてたはずの彼女と…  
「……」  
彼は無言のまま。  
エミリアは彼と私とを交互に見て、ははんとつぶやくと  
裸体のまま後ろから彼に抱き着いた。  
「ねえ、あなた、ハンスのことが好きだったんでしょ?」  
 
エミリアは両手でゆたかな乳房を揉みまわし、わざとハンスの背に押し付ける。  
乳房を背中に押し付けたまま、  
乳首の感触を背中越しに伝えるように上へ下へと動く。  
彼は身をかたくしたまま。  
動かず、声もあげず、目もそらしたまま、私から、そして現実から。  
「ねえ、あなたも試してみる?ハンスのこれ。」  
エミリアは背中から離れ、手を彼の前にまわし、だらしなくぶらさがる男根を手に取る。  
「結構いいわよ、彼。今日も二回いかされちゃった。」  
エミリアはやんわりと手で彼の男根を包みこみ、空いた手で彼の睾丸を弄ぶ。  
「エミリア、今は…」  
ハンスがエミリアの行為に反抗の声をあげる。  
だが、男根の方はエミリアの手に反応し、むくむくと形を変えはじめていた。  
「あらー、ハンスこっちは正直じゃない。本当は彼女を抱きたいんでしょ?」  
エミリアが手を放すとすっかり硬さを取り戻し、血管の浮きでそうな位に充血したハンスの男根あらわになる。  
「さあ、エッカこっちへいらっしゃいよ。一緒に愉しみましょう?」  
エミリアが私に手を差出す。  
俯いていたハンスも顔をあげ、私を見つめる。  
ずっと憧れていた二人が私を堕とす。  
「やめてっ!エミリア、ハンスも、もう、やめて!」  
私は頭を抱え座り込み、半狂乱に頭を横に振り続けた。  
「どうして、どうして、ハンスも、エミリアも、憧れてたのに…なんでっ!」  
彼女はベッドをおり、ぺたぺたと裸足で私に近付く。  
座り込む私を見下ろし、残酷な一言を私に言い放つ。  
愚かなヒトを陥れたあとの悪魔のように。  
「憧れる?それはあなたの勝手でしょう?」  
 
黒衣に身を包む修道女たちが、質素な淡い水色のドレスを着た私を囲む。  
「短い間でしたが…」  
少ない手荷物を足下に置き、世話になった修道女達に礼を言う。  
「寂しいけどこれもあんたの決めた道。きっと神の御加護があるよ。」  
「たまには遊びにおいで。」  
「幸せにおなりよ。」  
ほんの数カ月しかいなかったのに、私を見送る修道女達は皆優しい言葉をかけてくれた。  
そしてそこには彼女も、エミリアも立っていた。  
 
私はここを去り、家に戻る。  
これが私自身が出した結論だ。  
先日父に家に戻りたいという手紙を書くと、あっさりと許しがでた。  
縁談を拒んだ挙げ句、勘当も覚悟で修道女になって、それも数カ月しかもたなかったのだからもっと厳しい返事が来るとばかり思っていた。  
前にあった縁談はとうに破談になったが、また新しい縁談が用意されている。  
母が別の手紙で教えてくれた。  
今度は断るつもりはない。  
 
じっと私を見つめるエミリア。  
あの日以来一度もしゃべることもなかった。  
目をあわせることさえしなかった。  
エミリアがつかつかと私に近付いてくる。  
私の方には彼女に話すことなんてない。荷物を手に取り、馬車の台に足をかける。  
「ちょっと。」  
エミリアが私の腕をひっぱる。  
「何か?」  
そう答えるもからだは馬車を向いたまま。  
「どうせ家に戻ったら親の決めたくだらない男とでも結婚するんでしょ?」  
耳もとでひそひそと囁かれた台詞は激励というよりは皮肉に近いもの。  
彼女はいつのまにこんな毒花になってしまったのか?  
「悪かったわね。」  
エミリアが口にしたのは詫びの言葉。思い掛けない言葉に振り返り彼女を見る。  
「えっ?」  
「あっでもハンスのことじゃないわよ。あいつすごい遊び人よ。結婚前から私の常連だし。あんたなんかすぐポイよ。教えてあげたんだから感謝して欲しいくらいよ。」  
「…じゃあ、何が悪かったんですか?」  
聞き返すと彼女は目をそらしながらぼそぼそと呟く。  
「憧れてたって言ってくれたのに、馬鹿にしたこと。」  
彼女の頬が赤く染まっていく。照れているのだろうか?  
ともかく、そんな彼女を初めて見た。  
「男はみんな言うの。でも私、女には疎まれることの方が多かったから…」  
彼女はそれ以上は何も語らず腕を放し、はぱたぱたと皆のもとに戻った。  
私は馬車に乗り込み、窓のカーテンに手をかける。  
もう見る事はないだろう。この白い建物も、あの灰色の塔も。  
「行って下さい。」  
私の合図に御者が頷く。  
私はカーテンを閉めた。  
 
当時、メイア修道院が経営難に陥っていたことはあとで友人から聞いた。  
例の噂好きの友人から。  
ハンスのことも教えてくれた。  
彼には常に複数の女性の噂があり、  
彼の結婚は彼の女癖の悪さに手を焼いた両親がお灸を据えるためのものだったらしい。  
結局伴侶を持った今もその性癖は変わらぬようだが。  
友人は私が以前真剣にハンスに恋していた頃にもやんわりと忠告をくれてたのだが、  
当時の私は恋に夢中で誰かの苦言などまるで聞く耳をもたなかった。  
そしてエミリアのこと。  
彼女の名はあえて出さなかったし、友人も深くは知らないようだった。  
それは金持ちの上流貴族男性の間に流れる噂。  
メイア修道院に極上の黒衣の娼婦がいるらしい、と。  
 
夢はもう覚めた。  
私はこれから汚れた俗世を生きていく。  
夫となる人との間に愛が芽生えるか、それは重要ではなく、ただ子をなせばいい。  
それが私にあたえられた新しい道。  
 
 
水曜日  
メイア修道院内、灰色の塔。  
その二階の小部屋。  
 
「あら、随分と御無沙汰してましたわね。」  
エミリアは今夜二番目の客を出迎える。  
「本当はもっと早く来たかったんだがね、家のことでどたばたして。でもやっとこさ我が家一番のお荷物が片付きそうだよ。」  
自慢の口髭を撫でながら男はベッドにどしりと腰掛ける。  
「それにさすがに娘がここにいるのに君に逢いにくるわけにはいかなかったし。」  
エミリアはヴェールを脱ぎ捨て、黒衣の裾に手をかける。  
「おっと、今日は着たままというのもいいかな?」  
「御自由に。」  
男は裾をまくりあげ、太ももを、尻を、自由に撫で回す。  
 
「そういえば、あなたのお嬢さん、」  
男はスカートの中に潜りこみ、暗闇の中恥部に指を伝わせる。  
「ん、娘がどうした?エミリア。」  
下着の中への指の侵入に身をくねらせながらエミリアは答える。  
「あの子出入りの商人に頼んで色んなもの取り寄せてたみたいよ。ここの物は安っぽくってあわないって。お金なんか気にもせずに、シスターセナが困ってたわ。」  
エミリアの下着がはらりと足首に落ち、男はエミリアの恥肉に直に触わりだす。  
「それはすまない。他にもわがままをしただろう?なにせあれは一人娘でね、わがままに育て過ぎた。」  
男は鼻の先を彼女の柔らかな陰毛にくすぐられながら懸命に舌を伸ばす。  
「っあん。もう、隠れんぼさんは悪戯っ子ね…あんっ」  
クリトリスに吸い付かれ、エミリアは仰け反る。  
「あの子はこの部屋を見て、本当に良かったのかしら?」  
スカートの中からは返事は無く、聞こえて来るのはぺちゃぺちゃ舌が動き回る音のみ。  
エミリアは自分で乳首を摘み、乳房を揉みはじめる。  
「ばあっ」  
男がスカートからおどけた顔をのぞかせる。  
「さあて、今日は前の穴にしようか、それともエミリアが好きなのは後ろの穴かあ?」  
男はエミリアに覆いかぶさり、ふたりベッドになだれ込む。  
「娘はいつまでたっても子供っぽい愛だの恋だのうるさくてね。現実を突き付けられて少しは親の言う事を聞く気になったようだ。」  
男はエミリアを尻の穴も割れ目も全てみえるように四つん這いにさせ、  
前の穴から滲み出た透明な愛液を後ろの穴に刷り込んでいく。  
本来は排泄のためのすぼまった穴は、彼の指の挿入に少しずつ広がりをみせていく。  
「大半の客はエミリアのこっちの味は知らんだろう。くくく。」  
男はエミリアの菊門に入れる指を二本に増やす。  
エミリアはこちらの穴での交わりは実はあまり好きではない。  
男はしまっていていいというが、中で出されると腹を壊すし、  
きちんと前準備をせずに挿入された時はあまりの痛みに気を失いそうになった。  
だが今は本来の流れに逆らって侵入して来る赤黒い肉棒に健気に甘い声で反応を返しながら、  
ここを去った修道女だった娘の言葉を反芻する。  
(憧れ、ね。私にはもう使えない言葉。純粋すぎて―)  
 
 

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