何もかもが快感となる。  
ほんの少し唇が触れただけで。  
ほんの少し髪が触れただけで。  
脇腹の方からこねるように乳房を揉みしだかれその頂きを交互に吸われる。  
女として赤児に与えるべき乳房に大の大人の男の湿った舌がまとわりつく。  
片方は口で、もう片方は指で、優しく、かと思えばなぶる様に与えられる愛撫。  
乳首はさらなる刺激を求めて突起する。  
膝裏から太ももにかけてゆっくりと撫でられる。  
往復していた手が段々とと尻に近付いていく。  
いつの間にか両足は大きく開かれ、あられもない格好で自分ですらろくに見た事のないところまで彼に見られていた。  
頭では否もうにも私のからだは悦んでいる。待ちわびている。  
女の本能でわかっているのだ。  
そこを触られた瞬間、今まで受けていた愛撫とはあきらかに違う感覚が頭の芯まで駆け抜ける。  
渇いた肌を触られるのとは違う。潤った粘膜に囲まれた女の聖域。  
秘唇を割りながらここかここかと何かを探し求める指が包皮に隠れていた核を弾いた。  
「あぁっっ!」  
押さえきれない声。  
何かの言葉を発しているのか、呻いているのか、喘いでいるのか、自分ではもう判断できない。  
これはさっきの薬のせいなのか?  
それともこれが女という生き物の持つ性なのか?  
時折太ももに触れるのはあくまで肉であり骨とは違うもの。  
彼の股間より生えるそれは天に向け反り立つ。  
青白い彼の肌に対して充血し赤みを帯びた肉茎は異様な色のコントラストを生む。  
私がそこを凝視しているのに気付いたのか、彼は愛液にまみれた秘部から指を抜く。  
「触ってごらん。」  
ぬるりと濡れた指で私の手をとりゆっくり自身に導いた。  
触れてみたもののどうすればいいかわからず、そっと撫でてみる。  
形を知るべく軽く握ってみたり、竿から亀頭へと指を這わせてみる。  
夜の冷気に熱を失っていた指先に熱が伝わった。  
 
秘唇への愛撫は再開されていて、  
蜜を垂らし続ける膣口に指が侵入するとわずかに痛みがあるもののそれはすぐに消え快感へと変わる。  
出入りする指は一本からニ本へと増やされ、彼のものを受け入れるべく入り口は広げられていく。  
今まで体験したことのない、からだの内側を触れられるという感覚。  
痛みは全くないわけではなかったが、それよりも快感の方がはるかに強かった。  
指だけで天に昇ってしまいそうな私を再度地に引き戻したのは、恐怖。  
足は大きく広げ、持ち上げられ、蛙のような間抜けな体勢となる。  
先程より一回り大きくなった気がする肉茎が濡れぼそった割れ目にあてがわれる。  
話に聞く破瓜の痛みへの恐怖か?  
いや、父母の望む通りの深窓の令嬢を演じ続けた穢れない自分を棄てることへの恐怖か?  
「……待って!!」  
力の入らぬ手で精一杯彼の胸を押し返す。  
だが、下腹部から伝わり始める肉壁を割る指とは全く違う感覚。  
耳たぶを甘噛みしながら彼が呟く。いつもと同じ、冷ややかな声で。  
「何を今さら。」  
侵入から逃げようとするからだをぐいと押さえ付けられると同時に一気に突き上げられた。  
「ひゃああっ!」  
彼の肩を掴んでいた手に一気に力がかかる。  
己の分身を私のからだの最奥にとどめたまま、彼が尋ねる。  
「痛い?」  
頭を横に振る。感じたのは痛みではない。  
秘唇奥深くに差し込まれた肉茎が出入りを開始する。  
引いて、また突く。  
言葉にしてしまえばなんとも単調な営み。  
だがそれと全く同じリズムで脳天がとろけるような快感が私を襲う。  
ほんの数刻前までは己の指すら知らなかった聖地はあっけなく陥落した。  
つながったそこからは愛液をしたたらせ、くちゅりと粘液質な卑猥な音を醸し出す。  
さっき手で触れていた時より明らかに硬さも大きさも増した肉茎。  
からだの内側が擦られる、突き上げられる。  
私のからだはつながってるそこだけ残して溶けてしまいそうだった。  
与え続けられた快感は初めて知るには強すぎるもので、いつことが終わったのかすらわからなかった。  
ゆっくりと自身を引き抜き、私からからだを放す。  
ごろりと横になる彼の背はうっすら汗ばんでいた。  
その汗は死に損ないと自称する彼が生きるためにもがき苦しみ出した汗では無い。  
私が破瓜の血でもって示したように、それはまた彼が私を堕とした証。  
 
 あの夜、幼い頃から自ら紡いできた、いや、半ば強制的に紡がされてきた強いようで脆い糸が切れた  
 そして私は新しい糸を紡ぎはじめる  
 
彼からの呼び出しはいつも突然で、一方的だった。  
フレド様も交えて飲みかわすだけの夜もあれば、  
二人だけの夜もあった。  
この不思議な関係はいつでも終わらせることができた。  
そうしなかったのは、私に残された最後の自由のような気がしていたから。  
 
久しぶりに夜会を主催するとあって、屋敷の中は騒然としていた。  
他の五公家同様、我が家にも彼等兄弟が顔を出す事については既に知らせが来ている。  
知らせはもう一つ。フレド様が私と踊りたいらしい。  
たったそれだけのことでわざわざ王家直々の使いを通して、  
しかも私にではなく家長である父に伝えることでもない気がするが、  
それはあの気弱な弟王子なりの精一杯のアプローチなのだろう。  
兄王子と私の関係も知らずに。  
 
新調したドレスにあわせる首飾りが欲しいと義姉が呼んだ宝石商。  
あれこれすすめられたが、あまり気乗りせず適当に決めると部屋を後にした。  
「あらエミリア久しぶりね。オーギュの時以来かしら。聞いたわよ。」  
嬉しそうに声をかけてきたのはへレナ叔母様。  
東領に婚家があるこの叔母に会うのは年に数回もないことだ。  
「おめでたい話が進んでいるそうね。」  
「進んでいるなんて。まだ具体的な事は何も……」  
「あら、知らばっくれちゃって。さっきグレースに聞いたわよ。フレド王子の目にとまったそうね。素晴らしいことじゃないの!」  
叔母は満面の笑み。  
ここ数十年オーグスの家は安寧を保つだけでいい話題もなければ悪い話題もなかった。  
都では何かと話題を提供するカインフォルタやバズ同等とはいかなくても、たまには生家の自慢話を東領の片田舎に持ち帰りたいのだろう。  
 
「まあでもリヴェスタールに嫁ぐとなれば噂だけで事は進まないものね。アーサーには頑張ってもらわないと。」  
「私はお父様のお選びになる相手ならどなたでも。」  
「あら、欲の無い子ね。私にあなたくらいの美貌があればもっといい夫をつかまえたのに。」  
「叔父様も素敵な方ですわ。」  
「いいのよ、お世辞は。そうそう、ルイーズはいるかしら?パメラが来てるのよ。」  
叔母は部屋を覗き込む。  
「お母様はまだ戻られてないかと。お客様ですか?」  
「エミリア、あなたパメラを知らない?会った事ないかしら?ほら、シスターセナのことよ。」  
「シスターセナ?さあ……」  
「パメラはニールの姉さんよ。そうそうニールったらまた太ったらしいわ、嘆かわしい。ロレンス大叔父様の様に早死にするつもりかしら。」  
パメラ、ニール、ロレンス、どれも聞き慣れぬ名。  
オーグスの分家筋の人間だろうか?それならば遠縁ということになる。  
「パメラの方はがりがりに痩せて。何を食べてるのかいないのか…。全く修道女になんてなるものじゃないわね。こんなんことパメラに言ったら一時間はお説教だけど。」  
シスターセナ。へレナ叔母様や母の旧知の仲であってその名が示す様に修道女。  
恐らく元々は自分同様貴族として育ちながら何故神の道を選んだのだろう?  
「私もシスターセナにお会いしてもいいかしら?」  
「勿論よ。パメラも喜ぶと思うわ。」  
部屋の中からは私を呼び戻そうとする義姉の声。  
だが義姉が苦手とするへレナ叔母様を見ると、途端に首を引っ込めてしまった。  
 
ぞっとした。  
まだ日の高い昼間だというのに、幽霊でも見たかと思った。  
部屋の一角にぽつりと真っ黒な闇。  
その正体は頭からつま先まで黒の衣装を身に纏った女性だった。  
母やへレナ叔母様と十も変わらぬはずのその人の頬は落ち、ヴェールから垣間見える艶の無い髪には白髪が混じり、カップを持つ右手の爪はひび割れ指は枯れ枝のようだった。  
神に仕える尊い人間と言うよりは悪魔に生気を吸い取られた哀れな人間と言いたくなる。  
誰もが老いて醜くなる、それは当然のこと。  
貴族であることを、つまり恵まれた人間であることをやめてしまえばこうも差がでてしまうのだ。  
(あの人が生きていられるのも王子だからであって、ただの人間ならとっくに死んでいるのかもしれない。)  
黒衣を着ていてもその身の細さがわかってしまうシスターセナを見ながら、ふと病弱なアレド様のことを思う。  
「パメラ、この子がエミリアよ。さっき話したアーサーの三番目の。」  
「まあ!なんて可愛らしい。さすが本家のお嬢様は美人ですこと。ルイーズに目がそっくり。」  
シスターセナの瞳には優しい光が灯る。  
曇りのない純粋な慈愛の目。  
「初めまして、エミリア。私はシスターセナというのよ。」  
部屋に入った時感じた負の感情はきれいに吹き飛ばされていた。  
 
おしゃべりなヘレナ叔母様がいたせいか、初対面のシスターセナとの会話に困ることはほとんどなく、母が加わってからは一段と思い出話に花が咲いていた。  
やはり母や叔母に比べると老け込んで見えるし、貧相な印象も否めない。  
でも、シスターセナはそんなこと微塵も気にしていない様だった。  
もし私が同じ立場なら見劣りする自分を恥じてしまうだろう。  
結局、私は貴族である自分以外知らない。  
シスターセナは私より少し若い頃に大病を患い、療養がてら修道院に入ったのだそうだ。  
「病気が落ち着いてきて、父がじゃあそろそろ結婚をって話になるとまた悪くなるのよね。おかげでお医者様にも全快ですと言われる頃にはすっかりいき遅れてしまって。」  
「パメラは結婚するのが嫌で病気になっていたようなものね。」  
「本当は仮病だったんじゃないの?」  
シスターセナは叔母達の冗談にころころと笑う。  
修道院での苦労や、家を継いだ弟のニールへの愚痴など話したあと、  
シスターセナは母から修道院への援助を取り付け屋敷をあとにした。  
「エミリア、パメラの真似して修道女になるなんて言い出さないで頂戴ね。」  
冗談めいた叔母の言葉だが、母は不安気な表情で私を見る。  
「私は大丈夫よ、お母様。」  
「エミリア、お父様も私も貴女には期待してるんです。フレド王子とのお話が駄目だったとしても、お父様のところにはたくさんお話が届いてるのよ。」  
私は叔母に言ったのと同じ台詞を繰り返す。  
「私はお父様のお選びになるお相手ならどなたでも。」  
これは本心。  
結婚。本人同士の気持ちなどどうでもいい。  
大切なのは家と家とを結ぶ事。  
当時の私には、オーグスの娘である以上全うすべきこの運命から逃げる術はなかったのだから。  
 
久しぶりに届いた誘いの手紙。  
呼び出された部屋に入るのにノックなどいらない。  
かすかに漏れる嬌声に混じり、彼の声が聞こえたから。  
「ふふふ……あんっ!お上手ね。」  
「君のほうこそ。」  
「ねえ、私にも……」  
蝋燭の灯に照らされていたのは彼、と見知らぬ女達。  
「あらぁ、新入りさんの到着よ。」  
女が髪をかきあげながらくすくすと笑う。  
「なんだか随分育ちの良さそうな子じゃない?大丈夫なの?」  
別の女が品定めする様に私を見る。  
「……色々教えてあげようと思ってね。彼女に。」  
枕に頭を半分沈めたままのアレド様が私に向かって手を伸ばす。  
「さあ、おいで。エミリア。」  
くすくすと女達の笑いが響く。  
 
この不思議な関係はいつでも終わらせることができた。  
そうしなかったのは、私に残された最後の自由のような気がしていたから。  
 

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