さつきちゃんが我が家にやってきた翌日。  
 
「さて、とりあえず、今分かっている手がかりを整理してみよう。 レイチェル」  
「はい。探し人は日山 徹さん19歳、さつきさんが昨日話してくださった中でてがかりになりそうなのは、まず幼少時に両親と死別しているということです。  
身寄りはないと話していたそうですから、おそらく現在は一人暮らしでしょう。  
身体的特徴はなし、髪形、服装も普通の若者。さつきさんの話では、美形さんらしいですけど。  
まあ、あるとすればこれくらいでしょうか」  
自前の手帳をパタンと閉じ、レイチェルが一息つく。  
「やっぱり、それだけじゃ決定打には欠けるなぁ。街の隅から隅まで探していたら一年あったって足りやしない」  
「あ、そういえばフィーが何か…っと、ちょうど出来たみたいですね」  
向こうの部屋にいたさつきちゃんとシルフィの二人が、居間へやってきた。  
シルフィは、なんだか嬉しそうな、仕事を達成した職人のような面持ちである。  
「はい、これは自分でも改心の出来だよ!」  
「なんだこりゃあ?肖像画?」  
渡されたスケッチブックを開いてみると、なにやら一人の青年の顔が描かれている。  
使ったのは鉛筆だけのようだが、なるほどたしかに、一流の画家にも引けをとらないような巧さだ。  
特徴が仔細に描かれており、見慣れていない者であっても、これを参考にすればすぐにわかりそうなほどだ。  
「へえ、こんな特技があったのか。で、これ誰だ?」  
「決まってるでしょ?さつきお姉ちゃんの探してる人だよ」  
そうなのか?とさつきちゃんに聞いてみる。  
さつきちゃんは笑顔でうなずいた。  
「はい、あまりにも似すぎていてびっくりしてしまいました」  
「なにせフィーは、ヴァルキリー訓練学校の絵画コンテストで銀賞を取るぐらいですから」  
えっへん、と鼻高々に胸を張るシルフィ。  
「なんだその訓練学校ってのは」  
「私たちが訓練を受けた学校ですよ?…卓さん、もしかして生まれた瞬間から私たちがこんな力を持っていると思っていたんですか?」  
「違うのか」  
「神様でもないですし、そんなことありませんよぉ」  
…いや、神様だろ!?  
たしかに俺の考えが浅はかすぎたのかもしれんが……ううむ、やっぱりこいつの考えはさっぱりわからん。  
 
「とにかく、これがあればすぐに見つけ出せるな。うん、よくやったぞシルフィ。ご褒美にナデナデしてやろう」  
「え?そ、そんな、子供扱いしないでよぅ…」  
何か言いたいらしいが、もごもごとはっきり口にだそうとしない。  
「嫌か?」  
「嫌、じゃ、ないけど…どちらかといえば、して欲しい、けど…その…」  
こうやってしどろもどろになるのが楽しい。  
まったくもってかわいいやつだ。姉と違って。  
「あのぉ、今私とフィーを比べませんでした?」  
「まさか」  
なぜこういう時だけは鋭いんだ。  
「まあいいですけど。それじゃあ、今回は私とさつきさんとで捜索することにしましょう。卓さんとフィーは、今日は家で待機ということで」  
「いいのか?二手に分かれたほうが早く見つけ出せると思うが」  
と言ってみるが、レイチェルはにこりと微笑むと  
「大丈夫です、フィーが描いてくれた似顔絵だってありますし、どの方向にいるか程度なら、さつきさんが特定してくれるそうですから」  
「ふむ。んじゃ、そういうことでもいいかな?さつきちゃん」  
「はい。本当ならレイチェルさんや皆さんにもご迷惑をおかけしたくないのですが、さすがに私一人では……」  
申し訳なさそうに言うさつきちゃんに対して、いいんですよぅ、とレイチェルはにこにこしながら言った。  
 
「そうそう。どうせ俺らは暇なんだ、力になれるならなんでもするさ。困ってる女の子はほっておけないしな」  
「女の子だけですかぁ?」  
「そういうわけじゃねえよ」  
いやなところを突いてくるレイチェルに、苦笑いをしつつも返す。  
「ま、とりあえずはお言葉に甘えさせてもらうよ。その代わり、明日は俺たちが担当するから」  
「はい。ではさつきさん、行きましょう」  
レイチェルがベランダに向かいながらそういうと、さつきちゃんはこくりと頷いて立ち上がり、その後についていく。  
途中、こちらに振り向いて笑顔で「行ってきます」と言ったので、いってらっしゃい、と返した。  
戸を開けてベランダに出ると、二人の服装はいつのまにか変化していた。  
さつきちゃんは、出会ったときと同じ白い着物に。レイチェルは、兜や鎧を纏った戦乙女の姿に。  
レイチェルの背に白い翼が、さつきちゃんの足元に小さな吹雪が舞う。  
それぞれが地を蹴ったとき、二人ともが不自然な浮力を得、そのまま空へと飛んでいった。  
舞い散る翼と粉雪とが溶けるように光に消える様は、とても幻想的な光景だった。  
 
さて、とりあえずメシでも作るか。  
時計を見てみると、すでに正午に手が届くかという時刻だったので、昼飯を作ることにした。  
…シルフィに任せると大変なことになるからな。なんか、名状しがたいものが台所に現れる。  
手軽で腹にたまるラーメンにしようかな、それとも手の込んだ料理を二、三品作っちまうか。  
ふと、料理といえば、俺の故郷に料理人をやってる幼馴染がいたな、と思い出す。  
たしかあいつ、親父さんの店を継いだんだっけか。  
暇を見つけて帰郷するかな、などと考えつつ用意をしていると、服の袖をくいくい引っ張られる感触。  
「ん〜?」  
うらめしそうな表情で、シルフィがいた。  
「……姉さんとさつきお姉ちゃんは?」  
「さっきの話聞いてたろ?今日はあいつらが探索組で、俺たちゃ待機だ」  
「へ!?き、きき聞いてないよぉ!?もう行っちゃったの?」  
頷いてみせると、シルフィは頭を抱えながら、くらりとよろめいた。  
しかし、聞いていなかったって……まあ、さっきまで心ここにあらず、って感じだったもんな。  
「じゃ、じゃあ今日は、私とお兄ちゃん二人きり…?」  
頷く。  
「ほんとに?どっきりとかじゃない?」  
「あのなぁ」  
フライパンから手を離し、シルフィを見下ろす。  
「別にプラカードもった誰かが出てきやしねぇよ。今日は多分夜まで二人きりだ。ほれ、分かったら向こうでメシ出来るの待ってろ」  
「あ、なら手伝」  
「食材が無駄になるからダメ」  
「う…」  
シルフィはしょんぼりと肩を落とし、台所を出ていく。  
かわいそうかもしれないが、こうでもしないと、食卓が地獄絵図に陥ることになる。  
まさに阿鼻叫喚。  
正直、あれは二度と味わいたくない悪夢である。  
ともかく、さっさと作ってしまおう。  
人数が少なく済むので、いつもより手の込んだ料理を作ろうと決め、俺は準備を再開した。  
 
メシを平らげ、使った食器も洗い終わり、一息つく。  
本来ならここで小休止の後に日課の特訓があるのだが、今日はない。  
「なにせ教官殿がいないからな。うけけけけ」  
毎日頑張ってるんだ、今日くらいいいだろう。  
もっとも、帰ってきたときにビシバシ鍛えられるかもしれないが。  
まあ、いい。  
「なんか、眠くなってきたな……」  
カーテンから射す陽光の暖かさと、身体を預けているソファーの柔らかさが心地良い。  
そのままうとうとして、しだいに瞼が重くなり……。  
……。  
………。  
…………もぞもぞ。  
「ん?」  
身体の上に何かがのしかかっている。  
というよりは、何かが俺の身体の上で丸まっている。  
すぅすぅ、という寝息が聞こえてくる。  
「…おい」  
「んぅ…?」  
予想通りというか、当然というか、やはり俺の身体の上で寝ていたのはシルフィだった。  
呼びかけてみると、眠たそうな目をこしこしとこすりながら、むくりと起き上がる。  
「ふぁ〜ぁ、まだ眠いよぅ……むにゃむにゃ」  
「いや、眠いじゃねーよ。何俺の上で……おい、寝るな寝るな!」  
慌てて肩を揺すって起こそうと、手を肩に当てた途端。  
「んんぅ、あったかぁい」  
シルフィが、俺の胸元に頬をすりすりと寄せてきた。  
とろけるような甘い声で嬉しそうに鳴かれると―――この視点から見るとほとんど仕草といい猫に近いので、こう表現する―――どうにも起こせなくなる。  
考えてみると、まずどかす理由がない。  
この柔らかい感触と重さも心地よいし…まあ、いいか。  
シルフィの安らかな寝息がまた聞こえてくるとともに、すっかり重くなった瞼を閉じた。  
 
「と。その前に、だ」  
重たい瞼を開き、眠りの誘惑を押し退けて上半身を起き上がらせる。  
急に動いたためか、眠りが浅かったシルフィはすぐに目を覚ました。  
といってもまだ眠たそうだが。  
「あ、れ…?お兄ちゃん、起きるの…?」  
「ああいや、ただ単に移動するだけだ。ここじゃ風邪引いちまう」  
シルフィを身体の上からどかせて、寝室へと歩いていく。  
ドアを開けると、あったかそうな羽毛布団が俺を待っていた。  
ああ待っていてくれハニバニ、今そこにいくからねー。  
「んー、ぬくいぬくい」  
ベッドにもぐりこみ、あったかい羽毛の布団の感触に酔う。  
あぁ、我慢していた眠気が一気に襲ってくる……。  
ドアが開けっ放しだがまあいいだろう。  
「おやすみ…ぐぅ」  
一気に眠りの世界へと引き込まれていく。  
開けっ放しのドアから流れてくる微弱な冷気が、顔を冷やしてとても気持ちよく  
……ない。というか冷気が入ってきていない。  
おかしいな、ドアが開いてれば、確実に冷気が入ってくるはずなんだが。  
シルフィが気を効かせて閉めてくれたのか?  
いや待て待て。そもそもシルフィがここまでついてきているわけ  
「すぅ、すぅ…」  
あった。  
というか寝ていた。ぐっすりと、完璧なまでに寝入っていた。  
俺のすぐ隣で、だ。  
「…おい、起きろ」  
ゆさゆさと身体を揺するが、起きる気配はない。  
それどころか、さらにこちらにすり寄ってくる。  
「起きてるな?起きてるなら早く出てくれ」  
むにゃむにゃ、なんてわざとらしい声で返されてしまった。  
まったくこいつは、何を考えているんだか。  
そういうところだけは、どこぞの天然戦乙女と瓜二つだ。  
 
「私姉さんみたいに天然じゃないもん」  
「ぬお!?」  
寝ていたはずのシルフィが、いつのまにか目をぱちりと開け、頬を膨らませている。  
いきなりのことでびっくりしてしまった。  
「何言ってんだよ、誰もお前とあのボケボケ戦乙女なんざ一緒にしてないって」  
慌てて取り繕う。口に出した覚えはないんだが。  
が、シルフィは意地悪い笑みを浮かべた。  
「お兄ちゃんの考えなんてお見通しだもんね〜」  
「マジか!?」  
「落ちつけ〜」  
くそぅ、さっきからからかわれっぱなしじゃないか。  
その表情、その言動、まさに小悪魔!!  
……戦乙女だよな、こいつ?  
「失礼なこと言わないでよっ」  
「また読まれた!? ……それはともかく」  
「なぁに?」  
「どけ」  
気がついたら、しっかり抱きつかれていた。  
言ってもきかなそうなので、ベッドの外に放り出そうと襟首を掴む。  
とたんに、眉をハの字にし、目にこぼれんばかりの涙を溜め、今にも泣き出しそうな表情になった。  
「くっついちゃダメなの?お兄ちゃん私のこと嫌い?」  
「いや、別に嫌いなわけではない。ただ俺は寝たいだけであってだな…」  
「だったら一緒に寝ようよぉ。それでいいでしょ〜?」  
と、らしくもない甘えた声で、柔らかい頬を俺の胸へすり寄せてきた。  
普段とのギャップにドキリとさせられたが、俺はそれを顔に出さないように努めて  
「お・れ・は・ね・た・い・の。バカ言ってないで離れてくれ。あいつが居ないときくらいしかこんな贅沢できないんだからよ」  
ほとんど愚痴だ。ああそうさ愚痴さ。だってあいつがいるといつもキツ〜〜〜〜い特訓させられるんだもん。  
当のシルフィはというと、どうやら俺の言葉が気に入らなかったらしく、むっつりとした表情になった。  
唇を尖らせているその顔を見ていると、なんだか見た目よりも幼く見えてしまう。  
そんなことを思っていたとき。  
「私だって……そうだもん」  
シルフィが漏らした言葉は、俺にとってはまったく不可解だった。  
 
何が不可解かって、あのシルフィがこんなことをいう事が、だ。  
というよりは、こんな風にすり寄ってくること自体ありえない。ほんとありえない。  
今でこそ普通に会話したりするが、こいつらが俺の元にきてすぐの頃はひどかった。  
近づこうとすれば一瞬で5mは遠のかれるわ、気がつけば物陰から睨まれているわ…。  
あの時は会話を試みても、全てレイチェル経由でなければ意思伝達すらできなかったほどだ。  
目を合わせた瞬間に顔を背けられるし……ふとした拍子に手が触れたときなど、大惨事だった。  
とまあ、シルフィは俺に対して、とことん敵対心のようなものを抱いていたらしかった。  
今は打ち解けている(と考えているのは俺だけかもしれないが)んだが……本当、辛かった。  
なので、今この状況や、先刻のシルフィの言葉はまったく信じられないわけで。  
「…姉さんがいたら、恥ずかしくてこんなことできないもん」  
「恥ずかしいも何も、お前こういうことするタイプじゃ」  
「違うもんっ!!」  
シルフィが突然大きな声を出したので、俺は言葉を途切らせてしまう。  
「……私だって、お兄ちゃんにいっぱい甘えたいもん…楽しくお話したり、一緒の布団で眠ったり、頭撫でてもらったりしたいもん……」  
「いや、それは別にレイチェルにやった記憶もないんだが。最初のを除いて」  
「私はしてほしいのっ!」  
こうも言い切られてしまうと、返す言葉が無くなる。  
というか、あまりにも意外すぎる告白に、唖然としてしまっていた。  
しかし、シルフィがどんな思いを抱えていたにしろ、今のこいつは我を忘れているようだ。  
こっちのことなどお構いなしに、聞いているだけで奥歯がガタガタ浮くような甘々ワードを連発している。  
「おい、シルフィ」  
肩をちょんちょんと突付く。  
キッ、とこちらを睨んでくるシルフィ。  
怖いというよりは、駄々をこねた子供が自分のわがままを聞いてくれない親に対して向ける視線のようだ。  
「なによ、この鈍感お兄ちゃん」  
「……お前、状況分かってるか?ほら、今言ってることとか、言ってる相手とか」  
いくらなんでもちょいとぶっちゃけすぎでないかい?と(俺としては)やんわりと伝えてみる。  
しばらくそのままの表情で考え込んだ後  
「……あっ!」  
ようやく我に返ったらしかった。  
 
この時のシルフィの表情の変わりっぷりといったらない。  
まず、俺を睨んでくる表情のまましばし硬直。  
次に愕然とした表情になり、さらに少ししてから、その表情が固定されたまま首まで肌を真っ赤にした。  
見ていていたたまれないくらいの赤面っぷりだ。  
最後には、唇をわなわなと震わせ、「なんで私こんなことをお兄ちゃん本人に言っちゃってるの!?」とでも言わんばかりの  
絶望と諦観と悲しみと口を滑らせた自分への怒りが入り混じったなんとも形容しがたい表情になり、最終的には  
「ふ…ふぇええええええええええええん!!!」  
泣き出した。  
 
 
「…忙しいなあ、こいつ」  
シルフィはいまだ激しい嗚咽を漏らしながら、俺の胸に目一杯顔を押し当てて泣いている。  
そっと抱き締めてみる。その身体の感触は、見た目よりもほんの少し小さい気がした。  
幼い、という言い方が正しいんだろうか。  
その身体には力が入っていなくて、それが儚くて、その小柄な身体は頼りなくて……。  
むしろ、守ってあげたい、そんな情が心の奥から、ふつふつと湧いてくる。  
多分、今こうして大泣きしているのと、その理由が理由なだけに、なんだろう。  
そんな幼い戦乙女の、宝石のような煌きを持ったその髪を、指でそっとすいてみる。  
さらさらと、一本一本が最高級の絹の糸であるかのように、指からこぼれていく。  
「フィーの髪、綺麗だな」  
フィーの肩が、ぴくりと震えた。  
「いつもどういう風に手入れしてるんだ?こんな綺麗な髪で街歩いたら、そこら中の女から嫉妬の嵐だぜ」  
嗚咽が止まった。  
鼻をすする音と、ひっく、ひっく、という声だけは未だ聞こえる。  
「……どうしてそんなこと、聞くの?」  
鼻声だった。  
「聞きたいから」  
指ですくのを止め、髪を掌で撫でてやる。  
段々と位置を上げていき、小さな頭を、髪の上から優しく撫でる。  
「…別に、何もしてないよ」  
「へえ、そんなことを言ったら女共に刺されるね、間違いなく」  
 
「…余計なお世話、だよ」  
少しだけ不満そうな声。  
「そうか?でも、この髪はほんと綺麗だよ……触ってて飽きない」  
鼻を近づけて、くんくんと匂いを嗅いでみる。  
「っ!?なっ、何するのよぅ。お兄ちゃんの変態っ」  
「んー、いい香り」  
なんかの花みたいな、やわらかーい匂いがした。  
女の子の匂い、ってやつだろうか。  
「いい匂いっていうのは嬉しいけど、匂いを嗅ぐのはやめてよぅ!」  
「なんで?」  
「変態みたいじゃない!」  
「んじゃ俺は変態でいいよ」  
くんくん、もう一度匂いを嗅ぐ。  
思いっきり深呼吸をして、肺の隅々まで、やわらかーい香りを行き渡らせる。  
うん、やっぱりいい匂い。  
触っているわけでもないのに、フィーは身体をごぞごぞと動かして、いやいやの意を伝えてくる。  
動くことができないように、しっかりと抱きしめる。  
フィーの顔が、俺の目の前に来た。目と鼻の先どころか、鼻の先がほんの少し触れているくらい目の前。  
「な、なに?」  
瞳をじっと見る。  
充血して目元がはれぼったくなってはいるが、涙は既に止まっていた。  
「よし、泣き止んだな」  
「……あ…」  
本人も今気づいたようだ。  
「作戦大成功、だな」  
「…作戦って、さっきのこと?」  
「半分作戦、半分俺の願望」  
「……やっぱり変態」  
うるさい、と笑って、今度は髪がくしゃくしゃになるくらい乱暴に頭を撫でてやった。  
 
ひとしきり髪をくしゃくしゃにして。  
「さて、次は何をする?」  
「次って?」  
理解していないらしい。  
「楽しくおしゃべり、一緒におねんね、頭をなでなで……ここまではこなしたんだが、他になんかしてほしいことってないか?」  
ぽかん、とした表情で固まっていたフィーだったが、次第に理解したような表情に変わっていき  
「それって……甘えていい、ってこと?」  
俺はしっかりはっきりくっきりと頷いた。  
とたんに、フィーの表情がぱあっ、と表情を明るくなった。  
「そ、それじゃあ……それ、じゃあ……」  
もごもご、もごもごと、何か言うのを躊躇しているようだった。  
それでは埒があかない。  
「何でも言ってくれ。でも物買うのは勘弁な」  
俺の軽快なジョークにフィーはそんなこと言わないよぅ、とくすりと笑って、意を決したように顔を上げた。  
若干頬を赤らめてはいるが、しっかりと俺の瞳を見つめている。  
まったく、そんな風にいちいち力んでいたら疲れちまうだろう。もっとリラックスすればいいのに。  
心の中で苦笑いをする。  
「キッ……キスッ、してっ」  
「おう」  
ちゅっ、と軽いキスを交わす。  
唇を離してどうだ?と聞こうとすると  
「あ、あぅあぅ……心の準備が済んでないよぅ〜……」  
と、困った表情で顔を真っ赤にしてフィーが言った。  
「別に初めてじゃないだろう、俺とお前」  
「うぅ〜〜……そうだけどぉ〜」  
「お前とキスしたのは唇だけじゃないしな」  
男の宝物を指で差し示す。  
あ、すっげえ顔になったこいつ。  
「〜〜〜〜〜〜!!バ、バカなこと…」  
「でも事実だろ?あの時レイチェルと一緒に俺のを舐め」  
「バカ〜〜〜〜!!」  
叩かれた。  
 
おかえしに、頬をこれでもかと引っ張ってやる。  
「ひ、ひひゃいひひゃいひひゃいひょぉ〜!」  
「あぁん?聞こえんなぁ〜〜」  
伸び〜る伸び〜る……限界まで伸ば〜す。  
そしていきなり離す!!  
引っ張られる力を失った頬が、ものすごい勢いで元に戻る。  
「うぅ〜〜…ほっぺたがじんじんするよぅ」  
すっかり腫れあがった頬をすりすりしている。見てるこっちも痛そうなくらいなので、相当痛いんだろう、涙目だ。  
「フィーの頬はよく伸びるなあ」  
「よく伸びるとかそうじゃなくてぇ…」  
「すまんすまん」  
頬をさすってあげながら謝る。  
「謝ったって許さないもんね」  
ふんっ、と鼻息荒く寝返りを打って、そっぽを向いてしまった。  
まあ、本気で怒っているわけではないというのは一目で分かるのだが。  
「困ったなぁ、俺フィーに嫌われたら生きていけないよー」  
わざとらしく、オーバーなリアクションをとる。  
もちろん台詞は棒読みだ。  
「そんなに許して欲しいの?」  
こちらをちらりと見て、戦乙女のくせに、小悪魔的な笑みを浮かべている。  
「あぁ、俺はフィーがいなければだめなんだぁー」  
なんかもう聞いててむかむかするくらいわざとらしく、を心がける。  
こういう、他愛も無いやりとりが、何かとてつもなく楽しい。  
「仕方ないなぁ……じゃあ、私の願いを聞いてくれたら、許してあげる」  
「本当かいトニー?それじゃあなんでも言ってくれよ〜」  
さて、どんなわがままが飛び出してくるのか、などと思っていると  
寝返りをうちなおし、やけに色っぽい上目遣いで  
「そ・れ・じゃ・あ…」  
俺の胸元に指を這わせて  
「抱・い・て♪」  
とんでもないことをいいやがったんだこのロリは。  
 

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