「山最高ッ!!」  
半ば強制的に自分を納得させるように叫ぶ。  
真夏の山は意外に強かった。来なきゃよかった。  
 
俺が今登っている山は、古くから様々な伝承の残る雪山だ。  
・・・しかし、真夏は雪が溶け、草の生えない山肌が露出するばかりである。  
何をトチ狂ったのか忘れたが、俺はその真夏の山に挑んだ。そして負けた。  
「・・・やってられるかァァァァ!!」  
気温は30度を超えている。他に登山客もいない。なぜなら俺迷ったから。  
俺は怒り気味に石を蹴った。  
蹴り上げられた石はバウンドしながら下へ落ちていく。  
その時・・・  
「痛っ!」  
という声が聞こえたと同時に、何かが倒れるような音。  
・・・誰かに当たった!?しかも・・・声が女っぽかった・・・。  
俺は慌てて声の方へ向かった。  
 
案の定、声の主は女性だった。  
女性と呼ぶよりむしろ少女と呼ぶのがふさわしい。ていうか可愛い。  
今時珍しい和服に身を包んでいる。  
しかも、生地がまるで雪のように白く、太股が見えるくらい裾が上がっている。  
倒れているため、ちょっとでも覗けば簡単に中身が見えそうだ。  
まあそんな事を気にしてられるはずもなく、急いで駆け寄ってみた。  
石が当たったような痣が額にあったが、倒れた原因はそれではないらしい。  
「うっ・・ううっ・・・」  
まずい、脱水症状を引き起こしかけている。  
おそらく、この日差しに耐え切れずに倒れてしまったんだろう。  
・・・・もしかして、追い討ちかけたのは他でもない俺か?  
いやいや、そんなはずはない。間違いなくない。  
俺はその少女をいわゆる「お姫様だっこ」で抱え上げると、日陰を探して走り回った。  
 
走り回ってしばらくが経って、ちょうどいい岩陰を見つけた。  
俺はそこに少女を横たわらせると、タオルを取り出す。  
そいつを水で濡らせて、額の上に置いた。頭の下にクッション代わりの物も置いておく。  
脱水症状を起こしているため水を飲ませようとするが、意識がはっきりしてないのか飲まない。  
仕方なく俺は水を自分の口に含み、口移しで飲ませた。  
「んっ・・・ゴクッ・・・」  
水分を取って、こうして休ませれば直に回復するはずだ。  
・・・それにしても、なんでこの娘はこんな服装で山に居るのだろうか。  
どっかに村とかあんのか?単に遊びに来ただけか?  
俺が考えても仕方あるまい。そう結論づけて、その事は特に気にしない事にした。  
 
 
「んっ・・・」  
しばらくして、少女が目を覚ました。  
だるそうに上体を起こすと、不思議そうに周囲を見渡す。  
「あれ・・・?ここ、どこ・・・?」  
「大丈夫?」  
俺の声に反応し、こちらへ視線を向けてきた。  
なにがなんだかわからない、といった表情でぼうっとしている。  
「あなた・・・誰?」  
どう説明しようか一瞬迷う。  
素直に「石ぶつけて止め刺しちゃいましたゴメンナチャイ」とでも言おうか。  
そんな言い方する奴なんかいないな。頭のネジ飛んじゃってるわ。  
とりあえず、石をぶつけてしまった事は伏せて、「倒れていたのを見つけて、ここで休ませた」  
と説明した。  
「ほんとに?ありがとう!」  
少女はそれを聞いた途端目をキラキラさせながら言った。  
・・・ちょっと罪悪感を感じております。  
ともあれ、その少女の体調は回復したようだ。  
まさに、終わりよければ全て良し。うん、使い勝手のいい言葉。  
 
「それじゃ、俺はこれで」  
いつまでもこの娘の周りにいても仕方あるまい。  
俺はそう考え、その場を立ち去ろうとした。しかし、足を踏み出した瞬間に  
何かに服を引っ張られるような感触。  
・・・案の定、少女が俺のズボンの端を握っていた。  
「お礼・・・したいの」  
少女が俯き加減に呟く。お礼と言われても・・・俺はそんなのを求めてやったわけじゃない。  
そう口に出そうとした瞬間、少女が表情をパッと明るくして顔を上げた。  
「そうだ!私の家に連れていってあげる!」  
「いや、そこまでしてもらわなくても・・・」  
と言い終えるより早く、少女の口の方が動いていた。  
「まず、目をつむって」  
まあいいか。何故目をつぶるのかは分からなかったが、ここは少女の言葉通りにしておこう。  
俺はその場で目をつぶり、次の言葉を待った。  
 
「そのまま前に二歩進んで」  
言われるまま進む。  
「次は後ろに二歩」  
下がる。何をさせたいんだ?  
と抗議する間もなく、次の指令が飛んできた。  
「左に一歩、右に一歩を交互に一回」  
・・・あれ?このやり方、どっかで聞いた事あるような・・・  
「最後に、左足を前に出してから、右足を出すと同時に飛んで!」  
・・・上上下下左右左右BA?コナミコマンドですか?・・・じゃなくて。  
俺が記憶の中からその答えを出した時には、既に右足で踏み出していた。  
軽く跳躍する。普通なら、そこで地面に足がつくのが当たり前なのだが・・・  
「うわっ!?」  
妙なふわりとした感触。俺は、一瞬まるで宙に浮いたかのような感覚を得た。  
間違いない。この目をつぶって、指示された歩き方をする方法。  
あの有名な「陰陽師」の「源博雅、堀川橋にて妖の女と出会事」という話で  
水蛇の家から安部晴明が源博雅を出す時に行った法だ。  
 
「はい、もう目を開けていいよ」  
言われて目を開けた瞬間、目の前に信じられない光景が広がっていた。CMのあとすぐ!  
・・・冗談はおいといて。  
目の前に広がっていたのは、まさに文字通りの「銀世界」だ。  
真夏にこんな光景が見られるのは、北の方の国くらいだろう。間違ってもマンセー大国じゃない。  
足の下に、確かな雪の感触。幻覚でもなんでもない事の証明だ。  
少女の様子はと言えば・・・ってあれ!?  
俺のそばで確かに俺に指示を出していた少女は、どこにもいなかった。  
代わりに立っていたのは、さっきの幼い――13くらいだっただろうか――の少女ではなく  
17、8といった外見の「女の子」である。しかも美少女。  
服装や雪のような白い肌、そして銀という色を象徴したような髪は変わっていない。  
変わっていたのは、髪が腰ほどまで伸びているということと、背の高さが俺より少し低いくらいに  
なっているということくらいだ。つまり、背も伸びてる。  
 
女の子はそれを知ってか知らないか、ニコニコして俺を見ている。  
「ね、驚いた?」  
わくわくと期待に目を輝かせて聞いてくる女の子に、俺は冷静に反応した。  
「うん、驚いた」  
「驚いてないじゃん・・・つまんないの」  
ぷうっと頬を膨らませるその姿は、可憐というよりおてんばって感じだ。  
女の子は更なる策をひらめいたのか、口元をニヤリとさせた。  
「ねぇねぇ。私って実は、雪女なんだよ。ほら、見て見て」  
女の子が手を突き出すと、手のひらの辺りから吹雪が出ているではないか。  
「すげえ!こりゃおどろいた!」  
棒読みである。  
女の子はまたも頬を膨らませた。  
「なによぉ、全然驚かないじゃない」  
「悪い悪い、つい嬉しくてさ」  
 
俺が笑いながら言うと、女の子が逆に驚いた顔になった。  
「・・・嬉しいって?」  
「いや・・・俺、子供の頃からずっとそういうの信じてたからさ。ほんとにいたんだなって」  
こめかみの辺りをポリポリかきながら答える。  
「へ〜。意外と純粋なんだね」  
人の人生を知ったかのように言われても困る。ていうかイラつく。  
まあそこは大人の器量で流してやりながら、俺は女の子に名前を聞いてみる事にした。  
「君は、名前なんていうの?雪女でも、あるでしょ?」  
・・・ここで「どーせユキメだろ?」とか思った奴、お前は頭が足りんな。  
「・・・さつき」  
女の子・・・さつきは、少し恥ずかしがりながら答えた。  
「さつきか。女の子らしい名前だな」  
「当たり前じゃない。じゃ、貴方の名前は?」  
個人的には、ここで「さつきが女の名前で何が悪いのよ!私は女よー!」とでも・・・脱線するので  
控えときます。  
「俺は徹。ちなみに苗字は日山ね」  
「徹・・・徹ね。うん、わかった」  
その響きを確認するように何度か口に出してから、さつきは答えた。  
 
いかにも時代がかった見た目である。つまり古臭い。  
「それじゃ、私の家にごあんな〜い」  
・・・やっぱりそうだよな。あれしかないもんな。  
軽い足取りで向かうさつきの後についていく。  
・・・となると、さつきはどれくらいの年齢なのだろうか。  
ふと気になったので、歩きながら聞いてみる。  
「なあ、さつきって人間でいう所の何歳なんだ?」  
その言葉に、一瞬ピタッと身体を硬直させたが、何も知らない様に再び歩き出す。  
「ご、ご想像にお任せするね」  
・・・・相当のようだな。  
とはいえ、そんなふうに隠されると余計気になる。  
 
「いくつでも気にしないからさ。教えてよ」  
何を気にしないのかは俺もわからないが、どうしても知りたい。  
さつきは観念したのか、一回だけ小声で呟いた。  
「・・・・・120歳」  
次の瞬間顔を真っ赤にして、自分で自分をフォローしだす。  
「と、とはいってもね!?全然麓に降りてないから、120歳分の知識があるわけじゃないんだよ!?  
だから、実際はピッチピチの18歳なのよ!うん、そうなのよ!ほら、見た目だってそうでしょ!?」  
・・・途中、自分に言い聞かせているように聞こえたのは気のせいだろうか。  
ていうかピッチピチとか死語じゃん。何者だよ。  
ようやく無駄であることに気づいたのか、さつきはしょげたように肩を落とした。  
「・・・気にする、よね」  
俺はそんなさつきの頭を撫でてやりながら、微笑んだ。  
「大丈夫だよ。別に気にしやしないからさ」  
さつきの表情が少しだけ明るくなった。  
 
そんなこんなのうちに、さつきの家に辿り着いた。  
玄関も昔ながらのタイプ・・・ほら、サザエさんとかのみたいな。名前ド忘れしたけど。  
ガラガラガラ、と音を立てて開かれる。  
「さ、どーぞ」  
「お邪魔します・・・っと」  
玄関口で靴を脱いで、俺は居間らしき場所まで案内された。  
中はかなり広く、一軒家というよりむしろ屋敷というのが近い。  
「ここに座ってて」  
・・・いろりですか。ここ何時代?  
ともかく、さっきまで外に居て冷えた身体に暖かい。  
軽く手を伸ばしてあったまっていると、さつきがなべを持って来た。  
「お礼に御馳走してあげるね」  
・・・女性にご飯を作ってもらうなんて何年ぶりだ・・・くぅ、泣けて来た・・・  
鍋が煮えるのを待つ間、俺はさつきと談笑(なんかおしゃれな響きだ)することに。  
 
「ねえねえ、徹っていくつなの?」  
「・・・19」  
さつきが驚いたような顔をする。まあいい、こういう反応は慣れてる。  
「若いんだねー、今日は一人で?それとも家族とかと?」  
「・・・一人だよ。一緒に来る奴なんかいないし」  
個人的に触れられたくない所に話がいったな。  
案の定、さつきは不思議そうな顔をして  
「へ?家族とか、いるじゃない。仲悪いの?」  
と聞いてきた。俺は一つため息をついて答える。・・・答えたくはないけどね。  
「・・・いない」  
「え?」  
まだよく分かっていないらしい。  
「死んでんだよ。俺の両親」  
 
分かるように率直に言う。  
それを聞いたとたん、さつきが申し訳なさそうな表情になった。いまさらされても・・・  
「・・・ごめん」  
とはいえ、ここで「謝って済むかボケェ!」なんて言うほど俺は荒んじゃいない。  
まあ最近はあまり気にならなくなってるし。  
「いいよ、さつきが気にする事じゃない」  
「・・・でも」  
「いいから」  
その言葉を遮る。  
「気にされた方が逆に嫌だからさ。もう16年も経ってるし」  
自嘲的に俺は笑った。・・・それ以降は、話は盛り上がらなかった。  
 
しばらくして、鍋の中からぐつぐつという音と、美味そうな匂い。どうやら煮えたようだ。  
「ほら、メシ食おうぜ」  
まだ暗い表情のままのさつきに、よそってもらう。  
まともな飯は本当に久しぶりである。俺は、よそわれた物を一気に食った。  
・・・・こ、これは!!  
俺の背景に電撃が走る。  
「・・美味い・・・とてつもなくッッ!!」  
もう究極の料理とか至高の料理とかめじゃない。マジで美味い。  
即効で皿を空けて、また盛ってもらって流し込む。  
「そ、そんなに、おいしかった?」  
俺の食いっぷりに軽く驚きつつ、さつきが聞いてきた。  
「ムシャムシャ・・・ゴクリ・・・・・・うん、めちゃくちゃ美味い」  
とりあえず口の中の物を全て飲み込んで答える。  
「そっか・・・それならまだまだあるから、いっぱい食べてね」  
ようやくさつきが笑ってくれた。  
それにしても美味い。人間業じゃ・・・・ないのは当たり前か。  
美味いものがあると会話も弾む。俺達は鍋を囲みながら、長い間話し続けた―――  
 
 
「〜〜〜〜〜〜〜ッッ もう食えねえ」  
鍋の中身はからっぽ。俺の腹も見た目が軽く膨れるほど食った。  
さつきはそんな俺をみながら、満足そうに笑っている。  
・・・ふと、そんなさつきが表情を曇らせた。  
「・・・ねえ」  
「ん?」  
どうかしたのだろうか。なんかまずいことでもあったのか?  
「・・・どうして、そんなに普通に接する事が出来るの?」  
「どうしてって・・・」  
うまく言葉が見つからない。何を差別するというのだろうか。  
「だって、私は雪女なんだよ?人間じゃないんだよ?さっきも言った通り、徹よりもずっと  
長く生きてるし・・・」  
「だから?」  
俺の言葉に「え?」と言ってさつきが顔を上げる。  
「雪女だからなんだ?言ったろ、俺はむしろ、さつきみたいなのが居てくれて嬉しいって」  
「本当に・・・本当に、気にしてないの?」  
さつきの不安を拭うように、俺はそっと頭を撫でた。  
そのまま頬に触れる。手のひらから、たしかにする暖かい感触。  
「本当だよ。さつきの肌は暖かい。これが人間じゃなかったら何なんだよ」  
 
頬に触れている俺の手に、さつきの手が重なる。  
その雪のように白い肌からも、暖かみが感じられる。当然のことだ、雪女とかは関係ない。  
「・・・本気に、しちゃうよ?」  
「当たり前だ」  
その言葉が最後だった。  
さつきの瞳が潤んでいって、いつのまにか俺の胸の中で泣いていた。  
背中と頭に腕を回して、その華奢な体を強く、強く抱きしめる。  
「・・・ぐすっ・・・えぐ・・・ひっく・・・」  
それに呼応するかのように、さつきの鳴咽が落ち着いていく。  
抱きしめながら、子供をあやすようにその銀髪を撫でる。  
・・・本人の言う通り、本当に子供のような印象だ。  
雪女は、古来から山に登る者を魅了し、氷漬けにして連れ去ってしまうといった、畏怖的な  
意味をもった伝承が多い。  
未知の物に対する恐怖・・・それが、そのような形の伝承を生んだのだろう。  
少なくとも俺は、今胸の中で泣きじゃくる女の子を見る限りでは、そんな非道な事を  
行う存在には思えなかった。  
 
しばらくして、さつきが顔を上げた。  
目が充血していて、どことなく痛々しい。  
「・・・私ね」  
ふっと微笑みながら、さつきは昔を思い出すような表情になった。  
「人間と会うの、40年ぶりなの」  
俺は黙ったまま、さつきの話に耳を傾ける。  
「そして、こんなに優しい人は、初めて。・・・みんな、私のことを恐れて・・・」  
「・・・そうか」  
それしか答えようがなかった。  
いや、むしろそれ以外の慰めなど、傷に塩を塗るようなものだろう。  
両親を失って以来の俺がそうなのだから。  
「・・・もう、夜だね」  
この空間が果たして俺が元いた場所と同じ時間軸なのかはわからないが、外は暗い。  
さつきが何を言いたいのかは良く分かる。  
俺は、もう言わなくていいという意味合いをこめて、もう一度抱きしめた。  
 
必然だったのかもしれない。  
互いの傷を慰めあうかのように抱きしめあっていた俺達が、事に及ぶのは。  
さつきが意味ありげに俺の顔を見つめ、・・・いつしか、口付けていた。  
「んっ・・ふっん・・・」  
悩ましげな声を出しながら、舌を絡めあう。  
どことなくぎこちないさつきの舌の動きは、彼女が「初めて」であることを表していた。  
唾液の糸を伸ばしながら、どちらからともなく離す。  
名残惜しそうに、何度も細かく口付けた。ちょうど、小鳥のついばみに近い。  
「・・・・続けよ・・・?」  
寂しさからか、はたまた思い出された傷の痛みからなのか。  
さつきは自分から快感を、愛撫をねだっている。  
それに抗うはずもなく、言われた通りに着物の襟をずらす。  
小ぶりなサイズだが、均整の取れた乳房と、白い肌の中で特に目立つ乳首が空気に触れる。  
「揉むほどないけど・・・ふぁぁっ」  
既に勃ちかけている乳首を指で転がすと、敏感に反応して声をだした。  
たしかに小さいが、その分感度は良好のようだ。  
 
人差し指と親指でつまみ、コリコリする。  
舌先で舐めたり、歯で甘噛みしたりする。  
「あっ・・・あ、ひあっ!んぅ・・・んっ!」  
その度に軽い嬌声をあげて、ピクッと細かく身体を震わせる姿が可愛らしい。  
左腕で頭を支えてやりながら、右手で胸を愛撫する。  
時折口付けを求められ、その度に舌を絡めあう。  
ただただ情欲を貪るように、さつきは快楽に身を任せていた。  
「さつき・・・」  
その姿が切なくて、一層強く抱き寄せながら、愛撫を続けた。  
「ねえ、お願い・・・もぉ・・・」  
意識のはっきりしていないかのような声で、俺を誘う。  
言われるまま、俺は着物の帯に手をかけた。  
シュルリという軽い音とともに簡単に外れる。  
抑制の役割を持っていたそれを失った着物が、ふわりと広がる。  
スタイルは幼いながらに本当に綺麗で、一瞬言葉を失った。  
さつきは下着を履いているだけで、それ以外は一糸纏わぬ姿だ。ちなみに、下着も白い。  
 
俺に見られたのが影響してか、さつきの肌にほんのり朱がかかっている。  
身体を保護、もしくは恥部を隠すための服を失い、自分の手で胸を押さえ  
足を引き気味に閉じて恥ずかしがるその姿。それが、いやに扇情的だった。  
覆い被さるようにして口付けると、俺は右手を下着へと移していった。  
胸から腹へ、腹から下着へ、指をなぞらせる。  
「やだっ、くすぐったいよ・・・」  
その言葉通り、くすぐったそうに身をよじらせる。  
同じように下着の上から、直線的に割目のあたりをなぞると、今度は違う反応を見せた。  
「ひゃっ!」  
鼻にかかったような甘ったるい声、ようは気持ちよくなっているということだ。  
「脱がすぞ」  
「・・・うん」  
下着をつけているのももどかしそうなので、さっさと脱がせてやる事にした。  
まさに生まれたままの姿になったさつきは、さらに頬を染めた。  
「あ、あんまり、見ないで・・・」  
頭からつまさきまで、じっくり鑑賞する。  
俺が今まで出会ったどんな女性よりも、綺麗な姿だ。  
 
秘裂はきれいなピンク色で、毛は一切生えていない。  
先までの愛撫のおかげか、陰核が己の存在を主張するように硬くなっている。  
そして・・・濡れていた。  
俺が指で少し触れただけで、さつきは身を震わせる。  
「んっ・・・ひっ、はぁぁ・・・」  
ゆっくりと、中指を秘裂へと埋めていく。  
「ふぁっ、あ、あぁ!!」  
指の先を軽く曲げて前後に動かしてやり、細かい快感を与える。  
まるでスイッチのように、動かすたびにさつきの身体が反応していく。  
それに呼応し、秘部からは愛液という蜜が溢れてきた。  
「すごい敏感だな・・・」  
「やっ、言わな・・・あんっ!」  
硬くなった陰核を撫でると、さらに大きく跳ねる。  
その様子から、軽い愛撫でもすぐに達してしまいそうなのが手に取るようにわかった。  
「そこ、いいよぉ・・・ひあっ!あっ、ん・・・」  
さつき自身が快楽を求めるように、腰が艶やかな動きをする。  
加えて乳首を弄ってみると、本人は我慢できない様だ。  
「もう、駄目・・・駄目なのぉ・・・」  
俺は顔を秘部の前へ持っていくと、秘裂を舐め上げた。  
 
「ひあっ!?」  
指とは違った感触に驚き、さつきが身体を硬直させる。  
そのまま舌先を、秘裂へとうずめていく。  
独特の暖かみを持ち、かつ柔軟に舌は動く。  
唾液と、愛液の淫靡な液体音を響かせながら、俺は舌で愛撫をする。  
「あっ・・・ひゃっ・・んぁっ!」  
自らの耳に届く液体音と膣内で動く舌の感覚に、甘い喘ぎ声をあげて反応する。  
「舌・・あっ・気持ちいいの・・・んあぁ!もっと・・・来てぇ・・」  
さらに舌を埋めると、さつきの声に歓喜の色が強くなった。  
「ふぁっ・・・駄目、我慢できないよぉ・・・」  
俺は舌を抜き取り、指で陰核を刺激しながら微笑んだ。  
「イキたいならイッていいぜ」  
「ああっ、でも・・・やっ!んひぃ!」  
陰核を弄りながら、舌を挿入すると、さつきの身体が少しずつ震えてきた。  
「駄目・・・そんな、イッちゃうよ・・・ふぁ!」  
さつきの方も、限界のようだ。  
駄目押しとばかりに、陰核を強くつねる。その瞬間・・・  
 
「イッちゃ・・・んんっ!あ、ふぁああああ!!」  
さつきの身体が大きく跳ね、絶頂を示す嬌声を上げる。  
それと同時に、秘所から大量の愛液が吹き出る。当然、俺の顔にもかかった。  
「あんっ、あ・・・んぅ」  
ピクンピクン、と震える身体を抱き寄せながら、求められるままに口付ける。  
すると、さつきは俺の顔に付いた愛液を、猫のように舐め回してとってくれた。  
ぐったりとしたまま、時折余韻の残ったように身体を震わせるその姿が、たまらなく可愛らしい。  
 
「徹も・・・気持ちよく・・・なろ?」  
体力がある程度回復したときに、さつきが艶やかな笑みを浮かべて言った。  
そんな事を言われるまでもなく、俺のモノは既にはちきれんばかりに勃起している。  
さつきの手が俺のズボンに伸び、布の上からさすられると、言いようのない感覚が俺を襲う。  
「くっ・・・」  
その感覚に、うめき声を上げてしまう。  
「ね?しよ・・・?」  
さつきの手を止める。  
「・・・いいのか?」  
俺の言葉に、少し寂しげな表情をして、「いいよ」と答えた。  
「私、初めてじゃないから・・・」  
 
え?俺は思わずそんな言葉を出していた。  
今までの反応や舌の絡め方、多少知識はあっても経験がないとしか感じれなかったのに・・・  
「・・・40年前ね」  
さつきの表情が、さらに暗くなっていく。  
「・・・私の元へ来たのは、一人の男の人だったの」  
・・・まさか。  
「その人に、上手く言いくるめられて・・・連れて行かれて・・・そのまま・・・」  
瞳に涙が浮かんでいた。  
今にも壊れてしまいそうなさつきを、俺は護るように抱き締める。  
「もう言わなくていい・・・思い出さなくていい」  
さつきにも、辛い過去があった・・・。いや、当たり前のことだ。  
さつきは120年もずっとここにいるんだ。悲しい事や、辛い事は、どんな人より体験している・・・  
そして、その40年が、彼女にとってどれだけ辛かっただろうか。  
あまつさえ、傷つけられた心を人間によって踏みにじられる屈辱・・・苦しみ・・・  
何も考えていなかったのは俺のほうだった。  
「俺が・・・」  
「・・・え?」  
さつきが顔を上げる。  
「俺が・・・守る」  
自然と腕に力が入り、さらに強く抱き締めた。  
「さつきのそばに・・・いたいんだ」  
「徹・・・んっ・・・」  
言葉を遮るように口付けた。  
 
自分勝手な言葉だったかもしれない。  
同情から来る念だったのかもしれない。  
それでも、その俺の気持ちに偽りはなかった。  
さつきを覆うように身体を動かし、秘部に己のモノを当てる。  
「来て・・・」  
痛みを感じさせない様、ゆっくりと挿入していく。  
「ふぁ、あ・・・あっ!」  
半分ほど入った所でも、膣内の締め付けはかなりきつい。  
同時に、さつきの言う通りに処女膜は存在しなかった。  
その事実に改めて胸が刺されるような痛みを覚えつつ、さらに腰を深く進める。  
「徹の・・・あんっ、おっきいね・・・」  
恍惚とした表情になりながら言われると、それだけで興奮してしまう。  
「・・・動くぞ」  
「うん・・・んぁあ!!」  
進めていた腰を引き、また進める。  
両手をさつきの頭の横あたりにつき、体重をかけないようにしながら抽送を始めた。  
じゅぷ、じゅぷという音が、静かな部屋に響く。  
それと合わさるかのように響く、さつきの嬌声。  
「あっあんっ・・・はぁっ、ふぁ・・・ああっ!」  
一突き一突きするたびに愛液が溢れ、程よく締め付けられる。  
もっと動かしたいという衝動を抑えながら、色々に突き方を変えていく。  
 
「さつきの中、凄く気持ち良いよ・・・」  
「私も・・ひぁっ、あっああっ・・徹のが・・んっ・・・気持ち良い・・んぁ!」  
互いが互いの性器で刺激され、興奮と快感を増幅させる。  
「もっと、深く・・・あっ!奥までぇ・・・はあぁ」  
その言葉に押され、最奥まで一気に突き上げた。  
「あ、はああぁっ!」  
腰の動きを大振にして、一回一回の快楽を強めるように突く。  
腕を曲げて顔を近づけて、貪るままに口付けた。  
「んっ、ふぅ・・・あっあっあん!徹のがっ、奥まで来てるよぉ!ふぁぁ!」  
汗が額を伝うが、気にならない。いや、むしろそんな感覚を忘れるほど快感に酔っていた。  
そのうち、俺にも軽い射精感が沸き上がってきた。  
なんとかそれを抑えながら、しゃくりあげるように膣内を突く。  
「徹・・・とおるぅ!」  
「さつき・・・」  
もはや相手の名を呼ぶのもままならないほど、意識が「そっち」にいっているようだ。  
俺も、いよいよ腰の動きが激しくなってしまう。  
「やっ、あんっ!激し、いっよっ・・・んんっ!」  
限界が近い。  
 
「とおっ、る・・・あんっ、あっ、はぁ!」  
何かを言いたそうに口を開くが、嬌声によって阻まれる。  
「わたっ・・・あっ!しぃ、もう、駄目ぇ・・・な、のぉ!」  
さつきの白い肌に珠のように汗が出て、それが艶やかに美しい。  
瞳がとろんとしていて、快楽に飲み込まれそうなのが良く分かる。  
「イッちゃう、のぉ・・・あっん!ああっ・・・!」  
「俺も、限界だ・・・」  
もうこれ以上我慢できそうにはない。  
「中で・・・ふぁ、いい、からぁ!」  
頭がじんわりと麻痺して、何も考えられなかった。  
痺れるような強い射精感が下半身を襲う。さつきの言う通り、中に・・・!  
「くっ・・・さつき、さつき・・・!」  
腰の動きが最高潮に達する。  
「あっ!あああっ・・・んはぁ!イッちゃう、イッちゃうの!やっ、変に、なっちゃ・・・!!」  
さつきは快感の涙を流しながら、絶頂へ達そうとしていた。  
無論、俺も果てそうだ。  
 
さつきが、俺の身体を強く抱きしめた。  
俺も、さつきの身体を抱きしめる。  
離れたくない、そんな思いを込めて。  
「徹っ、ん、ふぁっ・・・あああぁぁっ!!」  
「くはっ・・!!」  
さつきの身体が、先ほどとは比べ物にならないほど跳ね、それを合図に俺も果てた。  
膣内で大きく震えながら、モノが大量の精液を吐き出す。  
実際には感じないその精の感触に呼応するように、二、三度さらにさつきが跳ねた。  
「んあっ!あっ・・・あんっ・・・」  
いまだに震えるさつきに口付け、舌を絡めながら、余韻に浸った。  
「んっ・・・ちゅ、ぴちゃ・・・」  
二人の荒い息と、男と女が交わった時の独特の匂いが漂う。  
それが俺達の交わっていたという事実を示す物であり、不思議と心地よかった。  
そして・・・たしかな暖かみのある、腕の中の大事なヒト。  
この世の誰よりも、幸せな気がした。  
 
子供が母親に甘えるように、さつきは俺の胸の中にいた。  
背中を丸めて顔を寄せてくる姿に、抱きしめたい衝動に駆られ、俺からも身体を寄せる。  
「・・・徹」  
「ん?」  
「ほんとに・・・私のそばにいてくれる?」  
さつきの髪を撫でてやる。  
「もちろん」  
「・・・駄目」  
意外な言葉だった。  
否、不適切な言葉だった。  
「私は、雪女だもん。仮にも、山の精だから・・・人間がそばにいちゃ駄目なの」  
「・・・分かった」  
さつきの言っている事が正しいのだろう。語調から、それがわかる。  
「それじゃ、またここに来るってのは、駄目か?」  
さつきが微笑んだ。  
「・・・大歓迎、だよ。・・・んっ」  
互いが触れ合える時間は、今しかないかもしれない。  
そんな不安からか、それともただその時間を大切にしたい思いからなのか。  
時の流れを忘れて、俺達は口付け、そして互いの温かさを確かめ合った――――  
 
 
翌日。  
朝になってすぐ俺達は目覚め、風呂に入った。  
あの美味い朝飯に舌鼓を打ちながら、他愛もないことを話す。  
それが何よりも楽しくて、いつまでもそうしていたい、そんな思いも当然生まれる。  
だが、それは・・・叶わない。俺がもう一度聞いても、さつきはただ首を振るばかりだったから。  
昼になって、いよいよ山を下りることにした。  
「眼を、閉じて」  
すぅっ、と息を吸い、眼を閉じる。  
昨日ここに来た時のように指示され、眼を開けた時には麓の近くだった。  
「・・・お別れだね」  
それ以上は何も言わず、その場で抱きしめ合った。  
「またここに来る」  
「いつごろ?」  
ふっ、と俺は思い、自分の手首に付けている時計を外した。  
さつきの手を出させると、それを着けてやる。  
「これ・・・何?」  
不思議そうに腕時計を見つめるさつき。  
「腕時計って言うんだ。時間が分かるだろ?」  
「あ、ほんとだ・・・すごーい」  
今度は嬉しそうに手を掲げ、デジタルの文字を見つめている。  
 
「これが、日付。・・・11/20、ここに来るよ。この腕時計は、それまでさつきが持ってて」  
「どうして?」  
「俺がまたここに必ず来るよ、っていう証。11/20は、俺にとって大切な日だから。  
大切にしといてくれよ?」  
冗談交じりに言うと、さつきがぷうっと頬を膨らませた。  
「当たり前じゃない、もう」  
微かな笑いが、二人の間に生まれる。  
「・・・待ってるからね」  
「絶対に、来るからさ。もっと色んな話とか集めて」  
さつきが、名残惜しそうに俺の胸に顔を埋めた。  
「約束だよ?」  
「・・・ああ」  
そっと、口付けた。  
別れの意味を、そして再会の意味を込めて。  
俺が歩きだして姿が見えなくなるまで、さつきはずっと手を振ってくれていた。  
また・・数ヶ月もしたら来れるんだ。さつきはもっと辛い。俺が我慢できなくてどうする。  
自分に言い聞かせて、胸を張って歩き出す。  
・・・と。  
 
道の横に、一人の老人が立っていた。  
左手を腰に当て、右手には古臭い杖を持って、それをついている。  
俺の姿に気づいた老人は、こちらに顔を向けて来た。  
温厚そうな顔だが、どこか、何か異質の物が感じられる。  
「・・・何か?」  
見た事もない人物だが、何故か既視感が感じられ、俺が先に口を開く。  
「ここの山は、お好きかな?」  
「・・・ええ」  
少なくとも、この老人只者ではない。  
いや、達人とかそういう意味合いではなく、もっと、根本的な物で。  
「何故でしょうかな?」  
妙な事を聞く。  
俺の感じる疑問はそれだけではなかったが。  
「・・・大切な人がいるから、ですかね」  
不思議と、自分の思った事がサラサラ口にでる。  
俺の言葉に、老人は柔和な笑みを浮かべた。  
「そうですか、それはそれは・・・いやいや、失礼しました。どうぞ」  
老人がどこかへ歩いていった。  
不思議には思ったがあまり気にせず、俺は山を下りていった。  
・・・必ず、また来ると誓って。  
 
 
 
               『Let`s Snow Paint Me』  
 
 
 
 
             ―第一部  完―  
                                To be Contined・・・  
 
 
 
 
 

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