「やっぱ、夏と言ったら怪談よ!」  
ソラさんの(力強い)一言で、僕とソラさんとガブリエルさんの3人は怪談話大会をすることになった。  
家のリビングの照明は何故か青い行灯。  
「こうして、芯を100本入れまして、1つお話が終わる度に1本芯を抜きますの。こうすると段々暗くなっていって、雰囲気が出ますわ」  
…露骨に百物語じゃん。まぁ僕は自慢じゃないけど(したくもないけど)、実は結構霊感があるのでこの手もネタには事欠かない。  
「あの、ガブリエルさ…じゃない、ガブリエルお姉様はそんなにたくさん怖い話をできるのですか?」  
「おー、建ちゃん身についてきたジャン?」  
ソラさんがケラケラ笑う。ガブリエルさんは上機嫌だ。最近、何故かこう呼ばないとガブリエルさんは返事をしてくれない。恥ずかしいよコレ…  
「大丈夫ですわ。ソラちゃんから、建ちゃんは霊感体質と聞きましたから。怪談の100や200ご存知でしょう?」  
え?何。僕の1人語り?さらりと言うけど、それはキツイって。それに、2人ともそんな期待に満ちた眼差しで僕を見ないでよ。  
青行灯の光にぼんやりと照らされた2人のニヤつく顔は結構怖い。  
「大丈夫だって、わたしも最初の1話は話すからさ」  
「そうそう。そして今宵のフィナーレは私の降霊術ですわ。だから、それまで『しっかり』と盛り上げてくださいね」  
『しっかり』を強調するガブリエルさん。って…本当に僕任せ?  
それに降霊術なんて大丈夫なのかな。ガブリエルさんは魔法の勉強してるらしいから、本当に呼び出しそうで怖い。だって僕…見えるんだもん。  
「ぷはぁ〜、やっぱ夏と言ったら冷えたビールね!」  
「ほんと、おいしいですわ」  
そんな僕をよそにビール(とジンジャーエール。ガブリエルさんはお酒が全く駄目らしい)で盛り上がる2人。こうして怪談大会は幕を開けた。  
 
最初はソラさんから。  
「あのね、これは会社の警備員さんから聞いたんだけど、わたしの勤めている会社のトイレで、昔、女の人が自殺したんだって。  
それからというもの、夜になるとそのトイレの辺りから…」  
まぁ、ベタな話だった。しかし、ガブリエルさんは先程のはしゃぎ振りから打って変わって僕にしっかり抱きついている。  
ガブリエルさんの大きくて柔らかいおっぱいが僕の腕にむにむにと当たる。ホント柔らかい。ウヘヘ……  
「……おしまい。どう?怖かった?」  
「す、少しも怖くなんてありませんわ!」  
そう言いながらも、僕にぎゅっと抱きついているガブリエルさん。むにむに…  
「うふふ…」  
「ホント〜?その割には建ちゃんにしっかり抱きついちゃってさぁ…やっぱガブはお子様だねー」  
「そんな事ありませんわ!わ、私は可愛い建ちゃんが怖がらない様にとこうやって……」  
ぎゅ〜。  
今度は僕の顔を正面からその豊満な胸に抱きしめるガブリエルさん。柔らかいだけでは無く、弾力がある。  
ヤバイ、これはヤバ過ぎる。とりあえず、深呼吸して落ち着こう。  
すぅ〜。  
ガブリエルさんの香りも吸い込む。バラの花びらから作られるとても高価な香水らしい。形、大きさ、柔らかさ、弾力、どれも最高な上にこの芳しい香り。  
ああ、何と贅沢な事だろうか!  
「ああ、すばらしい!」  
「ちょっと、建ちゃん?」  
ソラさんが僕を揺する。  
いけない。つい声に出してしまった。ガブリエルさんのおっぱいを堪能してたなんてばれたら、ソラさんに引っ掻かれてしまう。  
 
でも、ソラさんにも、これ位の胸があったらな〜。そしたら、あんな事やこんな事が…ソラさんのは全くぺったんこって訳でもないし、形は良いと思うんだけどな。  
だけどソラさんは、本人曰く『やや小さめ』な胸を気にして、毎日あれこれと頑張ってる。  
バストアップ体操、マッサージ、エステ、食品、下着…それこそ給料の半分以上をつぎ込んでいる。  
毎晩、風呂上がりにメジャーでバストを測っては溜め息をつくソラさん。恥ずかしそうに僕にバストアップのマッサージを頼むソラさん。う〜ん、可愛い!  
それに、マッサージに感じ過ぎて真っ赤な顔(しかも上目遣い)で僕に『ねぇ、えっち…しよ』って言うときのソラさんなんてもう……ウヘ…ウヘへへへへへ………  
「ふふふふふ、最高や〜!!」  
……ぁ、しまった。また、声に出してしまった。その場が静まり返る。そして、ソラさんが叫ぶ。  
「建ちゃんが悪霊に体を乗っ取られたぁ〜!!」  
「イヤぁーーーーー!!!」  
ぎゅむ〜。  
「ん〜!むぐぐ〜!!」  
悲鳴を上げながら、何故か更にきつく抱きつくガブリエルさん。離れようにも物凄い力で締め付けられて息が出来ない!しかも、窒息寸前の僕に気付かない。  
助けて!死んじゃう!!死んじゃうって!!!ソラさん!助けてぇ〜!  
「わ〜!どーしよ!!どうしよう〜!」  
「イヤぁー!嫌!嫌!嫌ぁー!!」  
「むぐむ〜!むぐぐぐ!!」  
ぎゅむむ〜。  
更に強まるおっぱいの圧力に僕は死を予感した。  
僕、このまま死ぬのかな…ガブリエルさんの巨乳で圧死、か。僕がこんな死に方をするなんて思いもしなかった。まだまだやりたい事、沢山あったのになぁ…  
これまでの人生のハイライトが浮かんでは消える。ああ、何だか体が軽いや…もう、僕は……  
 
 
 
…ちゃん…建ちゃん!  
誰か…僕を、呼んでる。目を開けばソラさんの泣きそうな顔。  
「あ、ソラさん?」  
「やったー!!建ちゃんが生き返ったぁ〜〜!!!」  
抱きつくソラさん。ああ、ソラさんが巨乳じゃなくて本当に良かった。  
「ホント、心配しましたわ。建ちゃんが悪霊に取り付かれた時はどうしようかと思いましたわ」  
…ある意味取り付かれていたかもしれない。ガブリエルさんのおっぱいに…  
「はぁ…ソラさんが貧乳で、良かった。……あ」  
しまった…つい、本音が漏れた。全身から冷や汗が吹き出る。ソラさんに向かって『貧乳』は禁句なのだ。引っ掻かれてしまう!!  
「……なんだとう」  
ソラさんのこめかみに青筋が浮かぶ。口元がヒクヒクと引きつってる。そして次の瞬間、ソラさんがその場からフッと消えた。  
…早い。  
ガリッ!!バリッ!!  
「うぎゃあ〜〜〜〜!!」  
焼け付くような痛みが僕の顔面を走る。そして、襟元をつかまれ、持ち上げられる。僕を睨むソラさんの目はまるで狩をする肉食獣のような目つきだった。  
「………君、わたしの胸のお肉になりたいの?」  
フーっと僕の首筋に息を吹きかけ、ソラさんはぼそりと言った。その余りの恐ろしさに僕は再び死を覚悟した。  
 
「ソラちゃん!ちょっとまってくださいな!」  
ガブリエルさんがソラさんの手首をつかんで引き止めた。その時、僕にはガブリエルさんが天使にみえた。  
「何をするガブ!!こーゆー奴は頭から丸かじりして、おっぱいのお肉にしてやるんだぁ〜〜!!」  
「ダメです!そんな事をしてもソラちゃんの小さなお胸は大きくなりませんわ。それに…」  
そこまで言うとガブリエルさんは瞳を潤ませ、声のトーンを落とした。  
「それに、私からたった1人の弟を奪うつもりですの?」  
ガブリエルさんの名演技にソラさんもはっと我に返る。ていうか、いつから僕がガブリエルさんの弟になったんだ?  
「ゴメンねガブ。…建ちゃんも、痛かったよね?ホント、ごめん」  
「いいえ、僕も失礼な事を言ってごめんなさい」  
ようやく丸く収まりかけたその時、ガブリエルさんがソラさんに何やら耳打ちした。  
ごにょごにょ…  
「おお〜!!」  
ぱっとソラさんの表情が明るくなる。  
「では、来週末は一緒に買い物に行きましょうね」  
「ん〜、楽しみだなぁ〜」  
顔を見合わせにこにこ笑う2人。やっぱ笑顔のソラさんが一番だ。  
「もちろん、建ちゃんも一緒ですわ」  
ガブリエルさんがニヤリと笑った。  
なんだかとても嫌な予感がするんだけど。  
 
 
そういえば、怪談大会どうなったんだろ?僕、1話も話せなかったし…  
まぁ、とにかくもう怪談なんてこりごりだ。  
 

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