英明から電話を切られてしまった智美は、思わずかけ直そうとしたがかろうじて、
思いとどまった。ここで話を続けたら、本当に英明から捨てられそうな予感がしたの
である。
――ああ……あんなこと言わなきゃよかった。
後悔してももう遅かった。英明に発した最後の一言は、まるで英明を脅したように
取られる痛恨の失言だと感じたのだった。
――愛してるわ英明さん、だから、わたしを見捨てないで、わたしを助けて!
それが智美の本音だったのだが。
とにもかくにも報道陣に見つかることなく、智美は無事隠れ家のホテルにたどり着
くことができた。ここでしばらく、まるで犯罪者のように息をひそめ、身を隠さなく
てはいけないのだ。なんという運命の暗転であろうか。つい昨日まで、人気絶頂で、
多くのファンに囲まれ、栄光ある未来が待っていたはずの自分がだ。
こうしている間にも例のハレンチ画像は、日本中に広がっているのであろう。いや
いまや海外にもファンを広げていた智美だ、おそらく世界中に配信されているに違い
なかった。そう考えるとたまらなかったが、ただただ自分の軽率さを呪うしかないの
であった。
「ああっ、いやっ!!」
自分の立場を思い出して、またしても智美は両手で顔を覆った。こんな恥ずかしい
事態にはとても耐えられない。一日署長の仕事でパンチラ写真を撮られた位でもあれ
だけ動揺するお嬢様の智美だ。想像を絶するおのれのワイセツ画像の流出で、死にた
くなるほど悶絶し苦しめられるのだった。
(パパとママ、きっと悲しんでるわね)
田舎の両親の事を考えると胸が痛んだ。一人娘の自分をこれまで何不自由なく育て
てくれた両親だ、その愛する娘が女性器を丸出しにして大股広げている写真を見せら
れたら、きっと卒倒したであろう。しばらく電話でも話をする勇気はなかった。
世話係と称してついている田口とは全く話をしなかった。自分の事が報道されてい
るのが怖くてテレビも見れない。悶々として、重苦しい時間だけが過ぎていった。夕
方になり、夕食として部屋に持ってこられた食事にも箸をつけなかった。食事をする
気になどなれない。やがて夜になり、時計は九時を過ぎていた。突然、田口の携帯が
鳴った。
「はい、あっ社長ですか。はい、はい、わかりました」
相手は事務所社長の野口らしかった。話が済むと田口が言った。
「智美ちゃん、社長がお呼びよ。今すぐ事務所に戻ってこいって」
智美はいぶかった。しばらく身を隠せとは、社長の命令だった。それなのにすぐに
戻って来いとはどういうことなのか? あまり気乗りはしなかったが、田口に連れら
れて事務所に戻る事にした。
目立たないように再び変装して事務所に入った。田口が社長室のドアをノックした。
「誰だ?」
「田口です。智美ちゃんを連れてきました」
すると、ドアが開いて野口が顔を出した。
「ごくろう、田口君はもう帰っていいぞ。智美だけ入れ」
智美だけが入室を命じられた。部屋の中には社長一人だけだった。昼間とは違う、
異様な光景が飛び込んできた。鉄パイプむき出しのベッドが置いてあったのだ。社長
は事務所に泊り込むつもりなのだろうか? などと考えていると、
「まあ座れ、智美」
とソファを勧められた。
実のところ社長と一対一で話すのはこれが初めてなのだった。一体、何の話なのだ
ろう? 悪い予感がする。心拍が速くなるのを感じていた。
「お前の例のハメ撮りだが、相手はシャイニングの赤梨英明なんだろ?」
いきなり、野口は核心をついてきた。
――どうして、社長にバレたの? わたしと英明さんしか知らないはずなのに。
心の底から驚いた智美は、答えることができなかった。
「オレの情報網を甘く見るな。お前、赤梨英明を脅したらしいな。自分を見捨てたら
秘密をばらすってな。赤梨はシャイニングの北河社長に泣きついたんだよ。どうにか
してくれって。そしたら北河はオレに相談してきたのさ。オレとアイツは昵懇の間柄
だからな」
智美はまたしても大きなショックを受けた。英明に裏切られたのだ。脅すつもりな
んて、これっぽっちもなかったのに……
野口は更に続けた
「お前のバカな行動のせいで、お前の商品価値はゼロになっちまった。だが、まだ赤
梨は無傷だ。奴はこれから大金を産む金の卵だからな。守ってやらなくちゃならん」
「そこで北河と相談して決めたんだよ。お前をどうするかをな」
わたしは一体どうなるんだろう? 社長の勢いに圧倒された智美の口からは一言も
出なかった。
「まず、明日マスコミに、江橋智美は体調不良でしばらく休養する、と声明を出す。
その後、お前はそれっきり表社会から姿を消す。そして江橋智美は闇の高級売春組
織に売られるんだよ」
野口は智美に衝撃的で恐るべき内容の話を一気に告げたのだった。
「ええっ!」
野口から恐るべき話を聞かされた智美は絶句した。表社会から姿を消す、裏の高
級売春組織、そしてそこに売られる――
あまりにも現実離れし過ぎていて、すぐには、これがどういうことなのか理解する
事ができなかった。
社長は話を続けた
「売れなくなったアイドル歌手やB級グラビアアイドルが突然消息を絶つ話は、お前
も聞いた事があるはずだ。そいつらの内、少なからぬ数が所属事務所によって、そ
の闇の組織に売られているのさ。しかし、江橋智美クラスのトップアイドルとなると、
これは異例だよ。
客は政治家や、大物財界人、有名弁護士などの名士ばかりらしいな。名前が外に
漏れては困る連中ばかりが相手だから、ガードは厳重だ。組織から逃げようとする
ものは、文字通り抹殺される。お前を置いとくには格好の組織だ。
ま、正直お前を裏BVDに出して、コツコツ稼ぐ方が金にはなるんだが、緊急事態
だから、仕方がないな」
社長は、残酷きわまりない内容の話を、まるで将棋の駒でも扱うかのように平然と
言ってのけた。
「いやあっ! そんなのいやよ! お断りだわ!」
自分を待つ非情な行く末を聞かされた智美は、絶叫した。そして立ち上がって逃げ
出そうとした。
「待てっ!」
社長は手を伸ばして、智美のスカートの裾を掴んだ。智美は駆け出そうとしたので、
その勢いで薄手のロングスカートはビリッと引き裂かれてしまった。
「きゃあああっ!」
智美の下半身は清楚な白いパンティだけになり、悲鳴を上げてその場に立ち尽くし
てしまった。
パンティ丸出しになっても逃げ出すべきであった。これが智美にとっては自由への
最後のチャンスだったのだ。
「手を焼かせるヤツだ」
野口に捕まった智美は、みぞおちに強烈なパンチを食らわされた。華奢なボディの
智美は、うっとうずくまった。
抵抗できなくなった智美を、ガッチリした体格の野口は例の鉄パイプのベッドに連れ
て行った。
「組織に渡す前に、まずオレが味見してやる」
智美の純白パンティに性欲を刺激された社長の股間はすでに猛り立っていた。ベッ
ドは、智美を犯すために用意されていたのだ。
野口は智美の身体を仰向けにして、両腕を万歳の格好にさせると、用意していた
紐で、両手首をベッドの鉄パイプにくくり付けた。これで智美は抵抗の手段を奪われ
てしまったのだ。
「ううっ、や、やめてっ、人を呼ぶわよ……」
さきほど腹に強烈なパンチをもらった智美の抗議の声は弱々しかった。
「フッ、ムダだ、事務所には誰も残っておらんよ」
用意周到な野口が、そんなヘマをやらかすはずもない。智美は唇を噛みしめて顔
をそむけるしかなかった。
智美の胴体に馬乗りになった社長によって、上着のブラウスが引き裂かれていった。
「いやああっ!」
叫びも空しく智美はブラジャーとパンティしか身に着けていない姿にされる。
「おめえが悪いんだぜ、智美。あんな写真を流出させたりするから、売春組織に売ら
れたりするんだ。何もなければ、トップアイドルのままおれたものを」
野口の言い草は、自らの蛮行を糊塗する弁解に過ぎなかったが、智美の傷ついた
心にはグサリと突き刺さった。
(ああ……わたし、もう終わりなのね。闇の売春組織に売り飛ばされ、脂ぎった狒々
じじいどもに肉体を差し出さなくてはならないんだわ)
楽しかった日々が走馬灯のように蘇ってくる。ファンからの応援のメッセージ、緊
張しながらも充実感溢れていたコンサート、お笑い芸人との面白かった番組収録、
それらはすべて過去のものとなっていくのだ。
下着も全部剥ぎ取られ、智美は全裸にされた。そして、これまで英明としか交わっ
たことのない美少女の肉体に、野口の肉棒が力づくで挿入された。
「アアッ!!」
智美は喘ぎ声を上げた。ピストン運動が開始される。
「最高の締りをしてるぜ、智美!」
野口は興奮していた。
「ア、アアアッ! アアッ!」
もう抵抗する気力も失せていた。智美は官能の波に晒されるまま、喜悦の喘ぎを
上げさせられるのであった。
運命の悪戯により堕ちてしまった美少女アイドル智美。これから彼女には、更なる
非情かつ過酷な道が待っていた。
――終