「いやっ! な、何なの、この写真は!」
江橋智美は写真週刊誌を投げ出した。智美は現在17歳、人気絶頂のアイドル歌手
である。清純派そのもののノーブルなルックスに加え、モデルのようなスラリとした長
身、頭も聡明で、更に某企業の社長令嬢という育ちのよさもあって、高値の花である
お嬢様というイメージで売り出されていたのである。
「超美少女アイドル江橋智美ちゃんの初パンチラゲット!」
と、その写真週刊誌には扇情的な仰々しい見出しが打たれていた。智美が初めて撮
られてしまったパンチラ写真が掲載されていたのである。
清純派イメージの智美にはパンチラなどふさわしくない。事務所も、十分盗撮には
警戒していたのだったが、先日、都内で一日署長を務めた時にミニのタイトスカート
で椅子に座っていたところ、ついつい油断してしまい、スカートの奥の純白の三角形
をバッチリ撮られてしまったのだ。
(ああ……恥ずかしい……)
あまりの恥じらいで智美の美貌は真っ赤になった。お嬢様イメージとは裏腹に智美
は大変気が強く、負けず嫌いの女だった。それだけにこんな卑劣な盗撮写真など許す
ことはできない。
スーパーアイドル江橋智美の初めてのパンチラ写真とあって、すでにネット上では
大きな祭りになっているらしかった。ネットオタクなどに自分の恥ずかしい写真がオ
カズにされるなど智美にはたまらなかった。
「さ、智美ちゃん、こんな写真なんて気にしちゃだめだよ」
マネジャーが恐る恐る、苦り切った顔で慰めにもならない励ましの声を智美にかけ
た。だが、その言葉を聞くと智美は感情を抑えられなくなった。
「あああっ!」
美少女はデスクに突っ伏して嗚咽しはじめたのだ。普通のアイドルには当たり前の
洗礼であっても、智美にとっては大変な屈辱なのだ。無念さ、恥ずかしさ、悔しさで
涙がとめどなく溢れ出る。
「智美ちゃん……」
周囲はかけるべき言葉もなかった。
「いやっ! いやっ!」
智美は号泣し続けた。だが、この美しい超清純派アイドルには実は今回の盗撮写真
どころではない悲惨な運命が待ち構えていたのである
その日の夜遅く智美はある男に携帯電話をかけた。
「うん智美? 何だこんな時間に?」
「英明さん、今すぐ会いたいの」
相手はシャイニング事務所に所属するイケメンタレントの赤梨英明だった。22歳で
現在若手ナンバーワンのタレントと言われている。
「もう遅いだろ、明日は朝早いんだよ」
「いやっ! 今会いたい」
英明は智美のわがままな要求を断ろうとしたが、彼女の口調にただならぬものを感
じた。周囲は誰も知らなかったが二人は恋仲なのである。
「よし、今から行くから待ってろ」
英明はすぐ支度をして智美のマンションにバイクを飛ばした。
智美のマンションに着いてブザーを鳴らすと
「英明さん?」
タンクトップにジーンズという軽装の美少女が顔を出した。英明がリビングに入る
なり、智美は彼の胸に飛び込んで号泣し始めた。
「あああっ! ああっ!」
英明は、智美を抱きかかえ、一しきり泣き止むまで優しく背中をさすってやった。
「好きなだけ泣いたらいいよ。 あの写真週刊誌の事だろ?」
ようやく智美は顔を上げた。
「うん、とっても悔しいの。あんな事されて」
「ほっとけって、マスコミなんて糞野郎ばっかりだ。俺がそのカメラマン見つけたら
ぶっ飛ばしてやる」
10代前半から芸能界にいてその裏側もよく知っている英明と違い、智美はまだ歌手
デビュー一年目で周囲からチヤホヤされる経験しかなかった。
「ああっ、とっても恥ずかしいわ」
「パンツ見せるくらいファンサービスの一つって割り切ることだよ。どうせ見せパン
なんだろ?」
英明はこの話を笑い話にしようとした。
「違うわ、本物のショーツだったの。まさかスカートの中を撮られるなんて思ってな
かったから」
「ふうん、スーパーアイドル江橋智美の初パンチラは、なんと生パンツだったってわ
けか。みんな知らないだろうな」
立ったまま話し続ける二人。いつの間にか英明は自分の左手を智美の右手の指に絡
ませていた。右手は智美の腰のあたりに当てている。いつもこうして二人の繋がりを
確認するのだ。
「まあ、英明さんって、イジワル!」
智美の顔が少しふくれ面になったが、もちろん本気ではない。国民的アイドルとこ
んな際どい話ができるのは英明の特権である。
「わたしの下着を見ることが許されるのは……」
智美の美貌がほんのりと赤くなる
「英明さんだけなのに」
「フフ、見たいな。智美のパンティ」
そう言いながら英明は智美の腰に当てていた右手をソロっと下に降ろしてジーンズ
の上から、掌で超美少女のお尻を撫で始めた。更に人差し指をお尻の割れ目に差し込
んで指先でまさぐった。
「いやあん、パンティって言い方いやらしいわ。ショーツかパンツって言って」
英明にお尻を撫でられ続けても智美は顔色一つ変えず、会話を続けた。英明以外の
男には、お尻を触らせるなどありえなかった。
「パンティはパンティだよ。それでいいじゃん」
「まあ、男ってみんなスケベなんだから」
智美も泣きやんでいつものペースになってきた。清純派イメージの智美も英明と二
人だけの時はこんな下ネタ系の話も平気でするのだった。
智美は上気した美貌で、英明を見つめた。すべての男をとろけさせてしまう魅力的
な大きな瞳だった。
「フフ、智美の前ではみんなスケベな事考えてるさ」
若い男女が夜遅くマンションの一室に二人。行き着く先は一つである。英明は智美
の尻をまさぐり続けていたが、これは前戯の一種でもあるのだった。
いきなり英明が智美の身体を引き寄せ、唇を奪った。智美はまだ英明にしか唇を
許していなかった。智美の処女を奪ったのも英明だ。
「抱いて。いやな事忘れさせて!」
智美の方から英明を求めた。そして若くて美しい二人は、そのままベッドになだれ
込んだ。二人とも全裸になり愛し合う。
「アッ! アアッ!」
丹念な前戯で、英明は智美の身体を燃え上がらせた。ベッドの中でスーパーアイ
ドルの悶え声を聞けるのは英明だけだった。
二人の肉体は一つになり、やがて絶頂に達した。
「ああっ……イ、イイ!」
全裸の二人は果てた。セックスが終わっても、智美は余韻を楽しんでいた。
「ねえ英明さん、わたしがアイドルじゃなくなっても、わたしの事守ってくれる?」
「ああ、オレが智美のことを一生守ってやる」
「うれしい!」
超美少女は、イケメンアイドルにもう一度抱きついた。
やがて智美のパンチラ騒動も収束したある日の事、ここは都内のあるパソコンシ
ョップ。店員の尾上は暇をかこっていた。チビ、デブ、メガネ、一見してモテなさそう
なオタク風の外見で、一生女には縁がなさそうだった。
そのショップに帽子を目深にかぶり、サングラスをした若い背の高い男が訪れた。
「ちょっと、いいかな?」
「はい、なんでしょう?」
気のない口調で尾上は答えた。
「パソコンがちょっと調子悪いんだけどさ、修理してほしいんだよ」
「修理できるかどうか、わかりませんけど。お預かりはしてみましょう」
「ああ、頼む」
長身の男はノートパソコンを尾上に渡した。
「中身は大丈夫ですか?」
「大丈夫だ、全部データはもう消去してるから」
「一週間後、また来てください」
ショップを去る若い男を尾上は冷ややかな目で見送った。
(なんだ、あの男。顔がわからんように、芸能人きどりかよ。でも、モテそうだな、
こちとら、とんと女には縁がないってのに)
その夜、尾上はそのノートパソコンを自宅に持って帰ることにした。修理するのが
目的ではない。
(素人って怖いもの知らずだよな、データ消去したら無事だと思ってるんだから)
尾上にとってはハードディスクから一旦消されたデータや画像を復元するのは何で
もない事だった。この男の密かな趣味は、ショップに修理や中古販売で持ち込まれる
パソコンのハードディスクから復元したエロ画像を収集することである。
立派な社会的地位を持っている者や、とりすました紳士がとんでもないエロ画像を
パソコンに隠し持っていることなど、全く珍しくもなかった。
(昼間のあんちゃんは、結構カッコよさそうだったからな。ハメ撮り画像とか入ってたり
してな)
ニヤニヤしながら、入っていた画像の復元に成功した。
「さてと、拝見するとするか」
その画像を見た尾上の顔色が変わった。
「こ、これは!!」
そして運命の日の朝が来た。智美のマネージャーが自宅でまだ寝ていた時である。
事務所の同僚からの電話で叩き起こされた。
「おい、のんきに寝てる場合じゃないぞ! パソコンつけて8チャンネル見てみろ!」
8チャンネルとは匿名で書き込める巨大掲示板で、世の中のあるゆる情報が集まる
とされ、邪悪な目的に使われる事も多いサイトだった。
「8チャンネル? またニューヨークジャンキースの松木が妙な発言でもしたのか?」
「馬鹿! 智美ちゃんだよ、智美ちゃんが大変な事になってる!」
「ええっ!」
慌ててマネジャーは飛び起きて、パソコンを立ち上げた。待つ時間ももどかしく、
8チャンネルにアクセスする。
「な、何なんだこれは!」
マネジャーは驚愕した。いたるところで智美の話題で持ち切りだった。いわゆる、
「祭り」の状態である。
震える手で、あるスレッドを開いた。マネージャーは現れた内容に愕然とする。
「う、嘘だろ! どういうことなんだ、これは!」
「俺がわかるわけがない。ただみな本物らしいぞ」
「智美ちゃんは? 智美ちゃんはどうしてるんだ?」
「今日のスケジュールは全部キャンセルだ。社長のところに呼び出されてるらしい」
「……」
「おい、どうした? しっかりしろ!」
智美のマネージャーは呆然と立ち尽くした。破滅という言葉が脳裏に去来していた。
なす術なくオロオロするだけである。
(一体どうなるんだ、これから?)
智美にこれから訪れるであろう悲惨な運命に思いを馳せた。現役超美少女アイドル
の大量の全裸ハメ撮り画像がネット上に流出していたのである。
この種の画像が一旦ネット上に流出したら最後である。日本中に、いや世界中に広
がっていく。止めようがないのだ。
「嘘だろ、江橋智美の裸が見れるなんて」
パソコンの前で日本中のスケベな男どもが勃起しながらハアハアと息を荒くして興
奮していた。なにしろ、あのスーパーアイドル江橋智美の全裸写真である。ハメ撮り
写真である。
「コラじゃねえの?」
流出の最初のころ当然の疑問が出された。だが写真はあまりにも生々しく、合成さ
れた形跡は見当たらなかった。そしてあまりにも枚数が多かった。
――智美ちゃんは処女だ、こんな写真はコラに決まっている。
智美の熱心なファンたちは、こう擁護して反論に回っていたが、ネットでは邪悪な
意思の方が圧倒的に優勢だった。
どうしてこんな写真が流出したのかをいぶかる声もあったが、そんなことは二の次
だった。大事なのは、本来なら手の届かない超美少女の素っ裸の写真が出回っている
という事実だけなのだ。
しかもただの裸ではなく、俄かには信じられないような羞恥ポーズ、卑猥な恥態の
数々が並んでいたのだった。プラジャーとパンティだけ穿いている写真から、結合部
がアップされているハメ撮りまで100枚以上の多彩な恥ずかしすぎる智美のエロ画像が
流れ出していた。
その中でも
「これが一番スゲエ!」
衆目一致する一枚があった。全裸の智美がカメラに向かってM字で大股開きをして
いる写真だ。当然女にとって最も恥ずかしい部分が完全に開帳している。予想外に大
きめの乳房も丸見えであった。
更にこれだけの恥ずかしい写真でありながら、智美はファンから、智美スマイルと
言われるさわやかな笑顔を浮かべ両手でXサインをしていたのだ。
淫靡過ぎるポーズとさわやかスマイルとの大きなギャップがこの写真を印象深いも
のにしていた。数年前同じような写真が騒ぎになった事があるが、インパクトはその
時の比ではない。
犬のように四つんばいになって、取れたての桃のようにきれいな白いお尻をこちら
に向けて突き出している写真もある。わざわざ見てくださいとばかりに、下半身の二
つの穴が無防備に曝け出されている。そして、まるで智美であることを確認して下さ
いとでも言わんばかりに、またしても笑顔でカメラを振り返っていた。SM好き向け
には、智美が全裸で大の字の格好でベッドに磔にされている画像があった。
世の中には、女の裸よりパンチラの方がソソられると主張する男も結構いるが、そ
れらの下着フェチを大喜びさせる画像も多く入っていた。超ミニの高校の制服で、わ
ざとパンティが見えるように体育座りしている写真から、パンツ一枚になった智美が
まんぐり返しのポーズを取っている写真、普通のサイズのパンティをあたかもTバッ
クのようにお尻に食い込ませた写真まである。
これらに比べたら、かえってハメ撮り写真の方が印象は薄かった。智美のアソコに
肉棒が挿入されている写真は何枚もあったが、なぜか男の方の顔は一切画像には映っ
ていなかったのだ。当然のように、男の正体への詮索が始まっていた。芸能人を中心
にスポーツ選手、若手実業家まであらゆる可能性のありそうな人間の名前が挙がって
いた。
流出直後の衝撃がやや治まってくると、こんどは智美自身への誹謗中傷が始まるの
は匿名掲示板の常であった。世間知らずのお嬢様で処女説も根強い智美だったから、
誰ともわからぬ男と関係を持っていたり、こんな大胆な写真を撮らせていたことは想
像を絶する出来事であった。
智美の過激画像は、あっという間に広がっていったが、この事件の主要人物の中で
一人だけまだ何も知らされていない者がいた。他ならぬ人気絶頂のスーパーアイドル
江橋智美である。