綾香には知的美人という言葉が似合う。  
肩までの艶やかな黒髪、全体にすらりとしつつもメリハリのある長身。  
涼しげな眼はどこか男を蔑んでいるような所があった。  
一流の経歴を持つ彼女は、若年女優・日比谷エリのマネージャーとして  
芸能界に関わっている。  
エリは天性の愛くるしさを持つ少女だ。  
昨年は準主演のドラマが当たり、将来性を買われる女優の1人である。  
そのエリが会見などに赴く際、綾香も時おり衆目にその姿を晒す。  
ファンの目は決まって釘付けになった。  
「すっげえ美人……別の女優か?」  
綾香の清冽な美貌は、見た者に新鮮な驚きをもたらした。  
 
しかし、彼女自身は表舞台に微塵の興味もない。  
「ねぇ、綾香さんも女優しませんか?きっと大人気ですよ」  
エリがたまにそう持ちかけるが、首を縦には振らない。  
「あなたが皆に愛されるなら、それで十分よ」  
綾香はそういってエリの頭を撫でる。  
 
綾香はエリの姉代わりだった。  
年少のころ事故で失くした実妹の代わりに、エリを厳しく、  
あらん限りの愛情をもって躾けた。  
エリの為となれば、彼女は何であろうと厭わない。  
その身を売ることですら。  
 
エリの実力を疑いはしないが、芸能界は複雑である。  
誰かが機嫌取りをしなければ、活躍は望めない。  
ゆえに、綾香は慰み者となることを選んだ。  
生来の男嫌いである自分だが、すべては妹のため。  
今は映画界の重鎮から寵愛を受けている。  
相当に変態じみた男だが、名を売るのに外せない足がかりだ。  
 
「綾香さん、どこへ?」  
玄関で靴を履く綾香に、エリが心配そうに尋ねた。  
最近、洞察力が増してきている。  
綾香は少女の小さな肩を抱き寄せ、頬に口づけした。  
「仕事の交渉よ。あと少しだからね、待ってなさい」  
「あ…ありがとうございます!」  
エリが俯いて頬を染める。  
綾香はそれを愛しそうに眺めた後、背を向けて歩き出した。  
 
周防は綾香のスーツ姿にいやらしく目を細めた。  
「そんな所に立っていないで、来なさい」  
彼は高級そうなソファを叩いて手招きする。  
綾香は艶やかに微笑んでそれに応じた。  
「まずは先週撮ったフィルムだ。一緒に鑑賞しようじゃないか」  
周防の言葉に、綾香の静かな目が一瞬だけ戸惑いを見せる。  
62インチの巨大なTVに一本のテープがセットされた。  
『はっ…、はぁっ……!うぅ、あ、はぁ、はっ……!!』  
すぐにTVから生々しい息遣いが漏れる。  
疑う余地もなく、それは綾香自身のものだった。  
綾香は顔色ひとつ変えぬまま静かに眺める。  
しかし、膝に置かれた手は強く握り込まれていた。  
   
       ※         ※  
 
ビデオの中の綾香は上半身に縄を打たれ、手を拘束されたまま騎上位で高々と突き上げられている。  
髪から胸から汗を滴らせ、海から上がったばかりといった様相を呈していた。  
薄い茂みに覆われたラヴィアには黒人の剛直が出入りしている。  
 
「これは黒人共とまぐわいを始めて2時間といった所か。  
 君の清楚な所もぐちゃぐちゃとなんとも大層な音をさせる事だな」  
ビデオを眺め、周防が茶化すように囁く。  
 
その日は幸か不幸か綾香の安全日であったため、縛められたまま朝まで  
数人の黒人に輪姦され、その様を周防に晒していた。  
勤勉な綾香はマネージャーを始めるにあたり、房中術の基礎を学んでいる。  
フェラチオは勿論、男を悦ばせる八の字筋の締めも心得ていた。  
持久走に倣った呼吸法により、体力の消耗も抑えられた。  
しかし、あくまでそれは個人間で臥所を共にする場合の話。  
身動きの取れない状態で黒人に犯され続け、あの日の綾香は辟易していた。  
 
ずぐっ、と後背位で突かれた時、綾香は本能的な危機感を覚えた。  
2人目の黒人の怒張は長さが桁違いで、臍までが一息に貫かれたからだ。  
外に見せる綾香の表情は小憎らしいほど涼やかだろう。  
しかし黒人が綾香の腰を掴んでストロークを始めたとき、後ろで縛られた  
彼女の腕は震えていた。  
 
後背位という体位は黒人の長大な怒張を深々と受け入れてしまう。  
ごんごんと骨盤に叩きつけられるような荒々しい抽迭。  
彼女の身体が防衛本能を刺激したのか、次々と愛液が溢れてくる。  
細い身体ごと黒人の腰へ叩きつけられるような性交が続いた。  
 
3人目は異様に太さのある剛直の持ち主だった。  
彼は綾香の美しい顔を覗き込む性交を望み、正常位で貫いた。  
腰骨が軋むかのような太さに綾香は怖れたが、顔は笑っていた。  
『あ、すごい…』  
彼女は涼しげな表情で微笑みながら、もはや感覚のない八の字筋に  
鞭打って、秘所で男の物を咀嚼した。  
黒人はうめき声をあげ、ろくに腰を使わず精を迸らせる。  
その黒人が秘芯から怒張を抜き去ると、黄色く濁ったぬるい液が  
どろどろと綾香の門渡りを流れていく。  
しかし、3人を続けざまに相手にしてもまだまだ終わりはない。  
彼女は窓の外が白むまで、男たちの欲望を受け止めつづけた。  
全ては遠くで眺める周防を満足させるためだ。  
 
         ※       ※  
 
ビデオの中の綾香は犯されている間、つねに何食わぬ顔を続けていた。  
エリのマネージャーとしてのプライドか。  
自分は快楽に屈する事も、溺れる事もない高潔な存在だ。  
そう言わんばかりに、彼女はどれほど犯されても凛とした瞳で男に対した。  
並の男ならば怖れを抱くだろう。  
早めに手を引かねば、どんな報復があるやもしれない…と。  
 
しかし、周防は違う。  
彼は綾香がそうした目を見せるたび、疼くように胸を掻いた。  
獣が狩りにそなえ、爪を研ぐかのように。  
 
「どんな物だ、自分が犯されている映像を見る気分は」  
周防は杯を煽りながら尋ねた。  
彼に付き合って杯を傾ける綾香は、照れたように目を細める。  
(随分ときつい酒ね)  
内心、彼女はそう舌打ちしていた。  
すでに頭の中がスポンジ状になったような感覚がある。  
自分はけして酒に強い方ではないと、彼女は自覚していた。  
 
ただ、周防の飲むペースもかなりの物だ。  
あるいは今日は、彼の晩酌に付き合うだけで帰れるのではないか。  
そんな甘い考えが頭をよぎり、すぐに気を引き締め直す。  
男の傍で油断してはならない。  
周防は先ほどから、空いた手で綾香のすべらかな太腿を撫で回している。  
そのくすぐったさが酔いで妙にいやらしく感じられた。  
 
周防が見せるテープは次の物に変わっていた。  
今度は2週間前、ドレスを着て周防と高級レストランで食事をした時の映像だ。  
この時は秘所にバイブレーターを仕込んだまま、陰核を紐で縛り上げてある。  
 
(これもつらかった)  
綾香はとろんとした頭で思い出す。  
本当に高級なレストランは雰囲気が異様だ。  
ビルの最上階で夜景を見渡す部屋には、一切の物音がしない。  
会話はおろか、ナイフが皿を擦る音、咳払いでさえ目立ってしまう。  
その中においてのバイブ責めはたまらなかった。  
羽音が聞こえはしないか。それが気になった。  
剥きだしにされた陰核をバイブの舌が捉え、微小な振動を与え続ける。  
極限まで気を張り詰めるレストランでの食事のなか、その振動は酷だった。  
ビデオの中の綾香は優雅に食事をしているが、明らかにスピードが遅い。  
 
『どうかしたのかい』  
周防が気遣うフリをしてバイブの振動を強めると、彼女の脚はテーブルを鳴らしてしまう。  
周囲の視線を一心に浴び、その羞恥で半端に達して悶える綾香…。  
 
「ふん、濡れているな」  
周防の声で、綾香はふと我に返った。  
いつの間にかスーツのスカートから下着が抜かれている。  
それにすら気付かないとは、ずいぶん酔いが回っているらしい。  
男の言う通り、ショーツの股布と茂みを白い粘糸が繋いでいる。  
「はしたないことだ」  
周防は指でくちゃくちゃと割れ目を弄りまわした。  
(当たり前じゃない!!あんなにいやらしいビデオを見せて、  
 これだけ酔わせて、体中触って、濡れるのも仕方ないでしょ!)  
綾香は内心で激昂したが、それを顔には出さない。  
彼女はやはり凛とした目で周防を見つめ返していた。  
しかし、その瞳の中には明らかな動揺がある。  
女を濡らしたからというだけではない。  
 
これほどに酔い乱れた今、この男の欲望の的となっては、  
果たしてどこまで耐えられるものか…。  
 
綾香はスーツからピンク色の肌を覗かせ、頬を染めたまま静かに歯を鳴らした。  
 
                    つづく  
 

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